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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻1号

2018年01月発行

文献概要

特集 感染症に関するサーベイランス

食品由来感染症のアクティブサーベイランスの試み

著者: 窪田邦宏1 田村克1 天沼宏1

所属機関: 1国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第二室

ページ範囲:P.50 - P.57

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はじめに
 近年,テレビ,新聞,インターネットニュースなどで食品の微生物汚染による食中毒のニュースが毎日のように報道されている.中でも,①2014年に花火大会において露天で販売された冷やしきゅうりの喫食によって500人以上が感染した腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)O157のアウトブレイク1),②同年に,学校給食で提供された食パンで1,300人近くが感染したノロウイルスのアウトブレイク2),③2012年に高齢者施設において浅漬けの喫食によって169人が感染し8人が亡くなったEHEC O157のアウトブレイク3)など,大規模食中毒事例が毎年のように発生している.さらに特に記憶に残るものとして,2011年に,汚染された牛肉をユッケとして生で喫食することによってEHEC O111に181人が感染し,小児を含む5人が亡くなるというアウトブレイク4)が発生し,その結果,厚生労働省による牛肉の生食(ユッケなど)の基準設定や牛レバーの生食の規制へとつながった事例が挙げられる.
 海外でも,①2011年に欧州各国で4,000人以上の感染者と46人の死亡者を出したエジプト産スプラウト種子を原因食品とする大腸菌O104:H4のアウトブレイク5),②2011年に米国で146人が罹患し,うち30人が死亡,1人が流産したカンタロープメロンによるリステリアのアウトブレイク6),③2008年にカナダで23人が死亡した“そのまま喫食可能な”(ready-to-eat:RTE)食肉製品によるリステリアのアウトブレイク7)などが発生している.
 患者数の拡大を防ぐには,まず,患者発生の迅速な把握と,被害実態の把握が重要となる.わが国をはじめ,世界各国では各種感染症サーベイランスシステムによって患者の発生を迅速に探知することで対応速度を速め,さらなる患者の発生を防ぐような努力を行っている.それらは医師などからの報告を待つかたちとなる「パッシブ(受動的)サーベイランスシステム」(passive surveillance system)であり,アウトブレイクなどの大規模事例探知には大変,効果的であるが,平常時における,散発事例を含めた被害実態の全体把握には最適とはいえない部分がある.それを補うために,各国では既存のパッシブサーベイランスシステムの不得意な部分を補完することが可能な「アクティブ(積極的)サーベイランスシステム」(active surveillance system)を活用し,これらを組み合わせることで,より精度の高い被害実態把握を試みている.
 本稿では,食中毒被害の実態把握のために各国で行われているアクティブサーベイランスについて概要を紹介するとともに,筆者らの日本における同様の試み8)9)について紹介する.

参考文献

1)国立感染症研究所:花火大会関連腸管出血性大腸菌O157 VT1 & 2集団発生事例—静岡市.IASR 36:80-81, 2015 http://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2307-iasr/related-articles/related-articles-423/5678-dj4236.html
2)国立感染症研究所:浜松市内におけるノロウイルス集団食中毒事例.IASR 35:164-165, 2014 http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2297-related-articles/related-articles-413/4798-dj4131.html
3)国立感染症研究所:白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事例について—札幌市.IASR 34:126, 2013 http://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2251-iasr/related-articles/related-articles-399/3520-dj3992.html
4)国立感染症研究所:腸管出血性大腸菌O111集団食中毒事例疫学調査の概要.IASR 33:118, 2012 http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/2118-surveillance/iasr/related-articles/related-articles-387/2013-dj3872.html
5)窪田邦宏,他:ドイツなどで発生した志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O104:H4感染アウトブレイク.食衛研62:21-32, 2012
6)国立医薬品食品衛生研究所安全情報部:Jensen Farms社のまるごとのカンタロープに関連して複数州で発生したリステリア症アウトブレイク.食品安全情報(微生物)25, 2011 http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/2011/foodinfo201125m.pdf
7)窪田邦宏,他:“そのまま喫食可能な(Ready-To-Eat)”食肉製品によるListeria monocytogenesアウトブレイク(カナダ,2008年).食衛研61:23-29, 2011
by using population-based telephone survey data, Miyagi Prefecture, Japan, 2005 to 2006. J Food Prot 74:1592-1598, 2011
in Miyagi Prefecture, Japan. Foodborne Pathog Dis 5:641-648, 2008
10)Centers for Disease Control and Prevention:Foodborne Diseases Active Surveillance Network(FoodNet). http://www.cdc.gov/foodnet/
11)Scallan E, et al:Foodborne illness acquired in the United States--major pathogens. Emerg Infect Dis 17:7-15, 2011
12)Scallan E, et al:Foodborne illness acquired in the United States--unspecified agents. Emerg Infect Dis 17:16-22, 2011
13)Wheeler JG, et al:Study of infectious intestinal disease in England:rates in the community, presenting to general practice, and reported to national surveillance. BMJ 318:1046-1050, 1999
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15)Government of Canada:Food-borne illness in Canada. https://www.canada.ca/en/public-health/services/food-borne-illness-canada.html
16)Van Cauteren D, et al:Estimated Annual Numbers of Foodborne Pathogen-Associated Illnesses, Hospitalizations, and Deaths, France, 2008-2013. Emerg Infect Dis 23:1486-1492, 2017
17)Kirk M, et al:Foodborne Illness, Australia, Circa 2000 and Circa 2010. Emerg Infect Dis 20:1857-1864, 2014
18)厚生労働省:食中毒統計資料.http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html
19)森川馨(主任研究者):厚生労働科学研究費補助金 食品の安心・安全確保推進研究事業(食品衛生関連情報の効率的な活用に関する研究(H19-食品-一般-001):宮城県における積極的食品由来感染症病原体サーベイランスならびに急性下痢症疾患の実被害者数推定)平成19年度報告書.
20)Mead PS, et al:Food-related illness and death in the United States. Emerg Infect Dis 5:607-625, 1999
21)砂川富正(研究代表者):厚生労働科学研究費補助金「食品安全確保推進研究事業(食中毒調査の精度向上のための手法等に関する調査研究(H23-食品-一般-009):宮城県および全国における積極的食品由来感染症病原体サーベイランス並びに下痢症疾患の実態把握(食品媒介感染症被害実態の推定)平成28年度報告書.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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