icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻11号

2018年11月発行

文献概要

特集 「放射線リテラシー」をめぐる課題

低線量放射線被曝と発がん・遺伝影響

著者: 稲葉俊哉1

所属機関: 1広島大学原爆放射線医科学研究所がん分子病態研究分野

ページ範囲:P.836 - P.841

文献購入ページに移動
はじめに
 わが国で問題となった主な低線量放射線被曝には,①診断放射線,②環境汚染による外部被曝(福島第一原子力発電所の周辺地域など),③放射性物質による汚染食品の摂取などによる内部被曝がある.低線量放射線被曝で懸念される健康影響は,後日,出るかもしれないがんと遺伝影響,それに胎内被曝時の新生児への影響である.
 まず,上記の①と②で被曝する放射線の性質が全く違うことを理解されたい.診断放射線の被曝時間はごく短く,単純X線写真で1秒以下,造影X線やCT(computed tomography)でも分単位以下なので,被曝時間当たりの線量(線量率)は高い.一方,環境からの被曝は,ごく低い線量率の放射線を月,年単位で被曝する(図1).したがって,①は高線量率低線量被曝,②は低線量率低線量被曝であるが,この呼称は紛らわしいので,便宜的に前者を瞬間的被曝,後者を持続被曝と言い換える.
 瞬間的被曝と持続被曝は生物に与える影響が大きく異なる(後述する).また,一般人の瞬間的被曝は医療被曝にほぼ限られるが,持続被曝は空からの宇宙線,地面からの放射線に加え,あらゆる食物に含まれる放射性物質を摂取した結果としての内部被曝など,誰もが避けられない「自然放射線」を年間累積で1〜2ミリシーベルト程度,被曝する.
 議論の土台となるデータも別である.瞬間的被曝は原子爆弾(以下,原爆)被爆者の疫学調査が重要であるが,持続被曝の議論には高自然放射線地域の疫学調査やマウスの大規模実験結果が有用である.

参考文献

1)放射線影響研究所:研究の概要.http://www.rerf.jp/programs/index.html
2)Ozasa K, et al:Studies of the mortality of atomic bomb survivors, Report 14, 1950-2003:an overview of cancer and noncancer diseases. Radiat Res 177:229-243, 2012
3)がん情報サービス:がんの発生原因と予防.https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/index.html
4)体質研究会:高自然放射線住民の健康調査.http://www.taishitsu.or.jp/HBG/index.html
5)環境科学技術研究所ホームページ.http://www.ies.or.jp
6)環境科学技術研究所:低線量放射線の生物影響—寿命への影響.http://www.iips.co.jp/rah/spotlight/kassei/ies.html
7)Green DM, et al:Ovarian failure and reproductive outcomes after childhood cancer treatment:results from the Childhood Cancer Survivor Study. J Clin Oncol 27:2374-2381, 2009
8)Hall EJ, et al(eds):Radiobiology for the Radiologist. 8th ed. Wolters Kluwer, 2018

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら