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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻12号

2018年12月発行

文献概要

特集 公衆衛生活動と疫学

日本における疫学教育の現状と今後の展望

著者: 村木功1 磯博康1

所属機関: 1大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室

ページ範囲:P.890 - P.895

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疫学の歴史
 疫学は「要因と疾病との関連を明らかにする,人の集団を対象とした評価手法の学問」であり,19世紀の英国に起源を持つ.1854年8月に,ロンドンのブロード街でコレラが流行し,感染者の地理的分布から原因となっている井戸をジョン・スノウ(John Snow)が特定したことは,疫学の有名な史実である1).日本では,海軍の脚気の予防のため,当時の海軍軍医であり,英国医学を学んだ高木兼寛が「洋食+麦食」と「白米食」による介入比較試験を1884年に実施したことが疫学の先駆けとなった2).いずれの場合も,およそ30年後にようやく疾病の原因物質が特定されたが,原因物質が明確にならずとも,疫学によって健康を守ることができることが示された事例である.
 しかしながら,日本では1869年にドイツ医学の採用が決まった.当時,英国医学が臨床に重きを置いていた一方,ドイツ医学が基礎研究を重視していたことや,原因物質がまだ明らかではなかったこともあって,疫学的関係性から予防に成功した高木兼寛の介入比較試験の成果については,日本の医学界に受け入れられるまでには長い時間がかかった.このような歴史的背景も,日本における疫学教育が欧米より大きく遅れることとなった一因として挙げられる.

参考文献

1)スティーヴン・ジョンソン(著),矢野真千子(訳):感染地図—歴史を変えた未知の病原体.河出書房新社,2007
2)松田誠:高木兼寛伝—脚気をなくした男.講談社,1990
3)Evans D:The role of schools of public health:learning from history, looking to the future. J Public Health(Oxf)31:446-450, 2009
4)国立公衆衛生院五十周年記念事業出版企画編集委員会:国立公衆衛生院創立五十周年記念誌.pp37-44,国立公衆衛生院,1988
5)文部科学省:医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版),歯学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)の公表について.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/033-2/toushin/1383962.htm
6)文部科学省:看護学教育モデル・コア・カリキュラム〜「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標〜の策定について.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/078/gaiyou/1397885.htm
7)Evidence-Based Medicine Working Group:Evidence-based medicine. A new approach to teaching the practice of medicine. JAMA 268:2420-2425, 1992
8)文部科学省:21世紀の命と健康を守る医療人の育成を目指して(21世紀医学・医療懇談会第4次報告).http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/009/toushin/990401.htm
9)Council on Education for Public Health:List of Accredited Schools and Programs. https://ceph.org/about/org-info/who-we-accredit/accredited/
10)The Institute of Education Sciences:Table 318.30. Bachelor's, master's, and doctor's degrees conferred by postsecondary institutions, by sex of student and discipline division:2015-16. https://nces.ed.gov/programs/digest/d17/tables/dt17_318.40.asp?current=yes
11)Frenk J, et al:Health professionals for a new century:transforming education to strengthen health systems in an interdependent world. The Lancet 376:1923-1958, 2010
12)Kerry VB, et al:Managing the demand for global health education. PLoS Med 8:e1001118, 2011
13)厚生労働省:平成29年簡易生命表の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/dl/life17-15.pdf

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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