icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻2号

2018年02月発行

文献概要

特集 「早期発見」をめぐる課題

予防対策は医療費を削減できない

著者: 康永秀生1

所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学

ページ範囲:P.100 - P.104

文献購入ページに移動
はじめに
 筆者は2017年1月4日から2017年1月13日まで,日本経済新聞の「やさしい経済学」欄に「予防医療で医療費は減らせるか?」という8回にわたるコラムを寄稿した.その中で筆者は,国民の健康寿命を延伸するために各種の予防対策を推進することの重要性を繰り返し強調した.それとともに,予防医療によって個人の生涯にかかる医療費を削減することは困難であり,長期的に見れば,予防対策は国民医療費を抑制するどころか,むしろ増加させる可能性があることを説いた.上記のコラムへの反響はなかなか大きかったようである.今回,大変ありがたいことに,「公衆衛生」誌の本特集への原稿執筆の依頼を受けた.これも,その反響の一つであろう.
 本特集の企画書には,「都道府県の医療費適正化計画では,特定健診(いわゆるメタボ健診)の受診率向上の目標値が設定されるなど,健診による医療費抑制効果があることを前提とした計画策定が行われています.これに対して,医療経済学などの専門家からは批判的な意見も出ており,都道府県や市町村などの公衆衛生事業者には混乱があります」と書かれてある.日本経済新聞における拙論が,ひょっとすると,公的医療保険の実務に携わっておられる方や,公衆衛生の現場で予防対策の実務に尽力されている方には,いささか耳障りの良くない話であったかもしれない.現場の方々を混乱させているとすれば,大変申し訳ないことである.
 本稿の依頼によって,筆者は,「予防対策は医療費を削減できない」とするところの論拠について,再度,丁寧な説明をさせていただける機会を得られたと考えている.まず冒頭に,筆者の立場を明らかにする.筆者は,特定健診もがん検診も無用,などと無責任な言辞を弄するつもりは毛頭ない.国民の健康寿命の延伸にとって予防対策は不可欠である.「特定健診の受診率の目標値が設定される」ことは受診率の向上に重要である.受診率を上げるべく,現場で実務に努められている方々には心から敬意を表したい.
 しかし,「健康寿命の延伸」と「医療費適正化」は分けて考える必要がある.予防対策で医療費削減は実現できない.医療費を削減したければ,他の方策を講じたほうがよい.

参考文献

1)村上正泰:医療崩壊の真犯人.PHP研究所,2009
2)Cohen JT, et al:Does preventive care save money? Health economics and the presidential candidates. N Engl J Med 358:661-663, 2008
3)Barendregt J J, et al:The health care costs of smoking. N Engl J Med 337:1052-1057, 1997
4)Yang W, et al:Simulation of quitting smoking in the military shows higher lifetime medical spending more than offset by productivity gains. Health Aff(Millwood)31:2717-2726, 2012
5)Hayashida K, et al:Difference in lifetime medical expenditures between male smokers and non-smokers. Health Policy 94:84-89, 2010
6)特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ:特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ 中間取りまとめ.http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000045733.pdf
7)Heijnsdijk EA, et al:Overdetection, overtreatment and costs in prostate-specific antigen screening for prostate cancer. Br J Cancer 101:1833-1838, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら