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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生82巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

特集 地域保健法20年

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著者: 武村真治

ページ範囲:P.187 - P.187

 1997(平成9)年に地域保健法が完全施行されて約20年が経過しました.地域保健法は保健所法〔1947(昭和22)年制定〕の改正法であり,地域保健に関わる対策を総合的に推進するために国,都道府県,市町村が講ずべき施策を規定する法律です.保健所のみならず,地域保健全体の制度,システム,実践を支える法的な基盤となっています.
 本特集は,成立から20年が経過した地域保健法の下で,地域住民の健康の保持・増進のために,どのように地域保健体制が構築され,どのように地域保健活動が実践され,そしてどのような成果が得られたかを総括するとともに,今後,地域保健をどのように発展させていくべきかを議論することを目的として企画しました.

保健所法から地域保健法へ—戦前・戦中・戦後のわが国の公衆衛生の発展

著者: 逢見憲一

ページ範囲:P.188 - P.194

はじめに
 「保健所法」は,第二次世界大戦前の1937(昭和12)年に制定された〔以下,(旧)保健所法〕.大戦後の1947(昭和22)年に大きく改正され,今日われわれが思い浮かべる保健所法となった〔以下,(新)保健所法〕.本稿では,(旧)保健所法の制定にいたるまでの経緯,(旧)保健所法の制定,(新)保健所法への改正,(新)保健所法下の保健所再編構想について述べ,地域保健法に至るまでの約60年間の公衆衛生の歩みを概観する.

地域保健法の制定—地域保健法が目指した保健所のあり方

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.196 - P.201

はじめに
 1997(平成9)年の地域保健法の完全施行から20年強が経過した.国は,少子高齢化や疾病構造の変化など,地域保健を取り巻く状況の著しい変化を理由にして保健所法を改正したとしているが,なぜ,保健所法を抜本改正して地域保健法を制定することが必要だったのか.本稿では,当時の社会情勢の変化を俯瞰的に整理しながら考察する.そのうえで,地域保健法施行後の成果と課題についても私見を交えながら総括する.

地域保健法施行後の地域保健の発展—「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の改正にみるこれまで,そしてこれからの地域保健の方向性

著者: 武村真治

ページ範囲:P.203 - P.208

はじめに
 地域保健法は「母子保健法その他の地域保健対策に関する法律による対策が地域において総合的に推進されることを確保し,もつて地域住民の健康の保持及び増進に寄与すること」(第一条)を目的として,市町村,都道府県,国の責務などを定めたものである.そして,地域保健対策の円滑な実施および総合的な推進を図るため「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(以下,基本指針)を定めることが同法第四条に明記されている.地域保健の方向性を示す基本指針は地域保健に関わるさまざまな状況の変化に対応して何度か改正されている.
 本稿では,地域保健法施行後の基本指針の改正の経緯とその内容を概観し,この20年間で地域保健がどのように構築されてきたか,そして今後どのように発展させるべきかについて述べる.

地域保健法と保健所—これまでとこれから

著者: 宇田英典

ページ範囲:P.210 - P.215

はじめに
 2017(平成29)年は,1937(昭和12)年の「保健所法」制定から80年目であり,1997(平成9)年に施行された「地域保健法」から20年目の節目の年であった.保健所は,戦後のさまざまな健康課題に対し,地域における公衆衛生の第一線機関として,多岐にわたる公衆衛生活動を地域密着型で積極的に展開し,わが国の公衆衛生の改善に大きな成果を上げてきた.
 しかしながら,20世紀後半から急速に進んだ少子高齢化,疾病構造の変化,国民のニーズの多様化,地方分権や行財政改革の推進といった社会環境の変化を踏まえて,1994(平成6)年に保健所法が地域保健法に改正され,その3年後に全面施行された.保健所法に基づいて全国一律に行われていた公衆衛生活動から,市町村と保健所の重層的地域保健体制へと切り替わることになった.
 本稿では,地域保健法の施行後,保健所がどのような活動を行い,どのような成果を上げてきたのか,また,これからの保健所のあるべき姿,機能強化すべき分野,それを支える公衆衛生医師の将来像について述べる.

地域保健法施行後の都道府県が設置する保健所の発展

著者: 山中朋子

ページ範囲:P.216 - P.222

はじめに
 少子高齢化の急激な進行や疾病構造の変化,国民のニーズの多様化,食品の安全性や生活環境に対する住民意識の高まりなど,地域保健対策をめぐる状況が著しく変化している.また,地方分権の流れの中で,1994年に保健所法が全面改正され,地域保健法が制定された.都道府県が設置する保健所(以下,県型保健所)はおおむね,二次保健医療福祉圏を所管する,より広域的・専門的な公衆衛生行政を担う機関として位置付けられるとともに,その機能強化が求められた.一方,市町村との役割分担が明確化され,住民に身近なサービスは市町村が主体となり,都道府県からの権限委譲も進んだ.
 本稿では,地域保健法施行後の20年間の県型保健所の組織や機能の変遷を振り返るとともに,県型保健所の担ってきた機能や役割を総括し,今後の県型保健所の発展について述べる.

地域保健法施行後の市・特別区保健所の発展

著者: 中西好子

ページ範囲:P.224 - P.231

はじめに
 1994(平成6)年の地域保健法の施行後,市・特別区の保健所は設置数,組織体制,業務内容などの面で大きく変貌してきた.都道府県,政令指定都市,特別区の保健所は同法の施行から統合が進み,大幅に減少している,一方,中核市保健所は,中核市制度の発足と,その設置基準の緩和による中核市の増加に伴い,増加している.
 市・特別区の保健所は,自治体ごとに組織は多様であるが,①保健所固有の感染症業務,②食品,医事薬事などの生活衛生関連業務,③市町村業務である保健サービスの母子保健や予防接種,特定保健指導,高齢者保健対策,健康づくり対策などを同一の自治体内で実施できることと,福祉や教育などの市の部局と連携して上記への対策ができることが大きな強みとなっている.広域的ないし重大な感染症や食中毒などの健康危機の発生時には,国や県との綿密な連携が必要である.
 保健所の全体数は,ピーク時の1991(平成3)年度の852カ所から2017(平成29)年度の418カ所となり,ほぼ半減した(表1)1).特に県型保健所の多くが二次医療圏ごとに1カ所に集約され,政令指定都市および特別区の保健所も統合によって大きく減少している.
 1989(平成元)年当時,10の政令指定都市では行政区に1つずつ保健所があったが,その後,福岡市と名古屋市を除いて1市・1保健所となった.1997(平成9)年度に札幌市で9→1,広島市で8→1,北九州市で7→1となり,1998(平成10)年度には神戸市で9→1に,2000(平成12)年度には大阪市で24→1カ所に順次統合された.
 人口が360万人を超える横浜市も,2007(平成19)年度に,それまで18あった保健所が1カ所となった.2010(平成22)年度には京都市で11→1に,2015(平成27)年度には仙台市で5→1に,2016(平成28)年度には川崎市で7→1カ所に統合された.1992(平成4)年度に政令指定都市に移行した千葉市を皮切りにして政令指定都市に移行した市は1市・1保健所体制である.
 現在,政令指定都市で複数の保健所を設置しているのは,福岡市の7カ所,名古屋市の16カ所である.東京都の特別区は,地域保健法の施行前から荒川区と渋谷区が1カ所であったのを除き,各特別区に戦前の行政区ごとに2〜4カ所の保健所があったが,1997(平成9)〜2002(同14)年度に順次,1区・1保健所に集約され,元の保健所は保健センター(福祉部門や子育て部門との統合が行われるなど,機能がさまざまで,名称も保健相談所,健康福祉センター,保健福祉センター,健康サポートセンターなどがある)となった.
 一方,中核市制度が1995(平成7)年に発足し,また,その法定人口が30万以上から20万人以上とされるなど,その設置基準が緩和されたため,保健所の設置市は増加してきた.その他の政令市の設置保健所は中核市への移行で減少している.

高知県における市町村と保健所の連携と協働

著者: 川村尚美

ページ範囲:P.232 - P.237

はじめに
 1994年に制定された地域保健法は1997年に全面施行された.同年,高知県(以下,当県)では「地域保健充実強化計画」を策定して,「県は総合的広域的な行政機関として機能強化し専門技術的なサービスを提供すること,市町村は住民の生涯を通じた身近な保健福祉サービスを提供すること」と,それぞれの役割を整理した.これによって,1948年から続いてきた「県保健婦駐在制度」は廃止され,また,駐在制においては,「県・市町村保健師の区別なく地区分担し,そこに活動拠点を置き,担当地区に責任をもった活動をする」とされてきた県保健師は,専門技術サービスを効果的に提供する多くの職種で編成されるチームの一員として新たに位置付けられた.
 地域保健法の施行から20年以上が経過した.本稿では,少子高齢化の進展,住民ニーズの高度化・多様化,法制度の整備などによって拡大してきた地域保健活動領域において,当県の市町村や保健所の活動体制はどう変わったか,そして,地域ケアシステムの構築に向けてどのような協働体制を築いてきたのか,また,その中で目指すべき方向性について,保健所保健師の立場から私見を述べたい.

地域保健法と地方衛生研究所

著者: 調恒明

ページ範囲:P.238 - P.243

はじめに
 地方衛生研究所(以下,地衛研)は第二次世界大戦後,GHQ(General Headquarters)の占領下において,わが国における公衆衛生の向上を目的として自治体に設置されたことに始まる.保健所については1937年に最初の保健所法が制定されていたが,日本国憲法下において新たな保健所法が1947年に制定されたものの,地衛研については法制化されていなかった.1948年4月に最初の「地方衛生研究所設置要綱」が国によって発出され,その後,約10年で全ての都道府県に設置された.現在,地衛研は全国の都道府県,政令市に設置されており,一部の特別区,中核市の検査施設も地方衛生研究所全国協議会(以下,地全協)に加盟しているため,地全協の登録機関は83となっている.
 直近では,厚生省(当時)は1997年3月14日に厚生省発健政第26号「地方衛生研究所の機能強化について」1)(事務次官通知)によって設置要綱を規定しており,地衛研は「地域保健対策を効果的に推進し,公衆衛生の向上及び増進を図るため,都道府県又は指定都市における科学的かつ技術的中核として,関係行政部局,保健所等と緊密な連携の下に,調査研究,試験検査,研修指導及び公衆衛生情報等の収集・解析・提供を行う」としている.その主な業務は,①調査研究,②試験検査,③研修指導,④公衆衛生情報などの収集・解析・提供である.地衛研の骨格をなす業務は多くの自治体において共通である一方,法律による位置付けがないことから,予算,人員,研究の位置付け,組織体系はさまざまである.地衛研の法的基盤,役割などの詳細については,すでに地域保健法成立20年を記念して本誌において企画された2016年の特集に述べた2)
 近年,公衆衛生行政においては科学的根拠が強く求められており,地衛研が提出する科学的データの重要性はますます高まっている.地衛研は地域保健法などの法律で位置付けられることなく今日まで続いているが,「感染症法に基づく検査を都道府県知事が行う」とした2016年4月の感染症法の一部改正は事実上,地衛研の感染症検査業務を法制化したものであり,地衛研の機能強化が図られている.
 本稿では,近年,急速に進歩しつつある病原体の遺伝子解析を取り入れた地衛研の新たな役割などについて述べ,また,今後のあり方などについて考察する.

視点

北海道大学大学院における公衆衛生人材の育成

著者: 玉腰暁子

ページ範囲:P.184 - P.185

公衆衛生とは
 本稿を執筆するため,過去の「公衆衛生」誌をめくってみました.81巻(2017年)1〜12号の特集だけを見ても,「歯科口腔保健の推進」「人に死を招く動物—人・昆虫・寄生虫」「がん対策の加速化」「原子力災害と公衆衛生—避難指示解除後の地域復興に向けて」「眼の健康とQOL」「食中毒の新たな課題」「予防接種政策」「衛生監視・指導行政の現状と課題」「アルコール健康障害対策の推進」「薬剤耐性(AMR)対策」「薬局・薬剤師の地域展開—コミュニティ・ファーマシー」「地球温暖化対策—2020年以降の新たな国際枠組み」とテーマは多岐にわたっています.そもそも,公衆衛生は英語で「Public Health」.言うまでもなく,publicは人々(集団)を,healthは健康,保健を意味することから,胎児・新生児から高齢者まで,健康な人も病気を抱えている人も,社会で生活する全ての人々を対象として,身体的・精神的健康を守り増進するための実践であり学問分野ですので,上記のような広い守備範囲となるのは当然かもしれません.
 一方で,これだけ広範囲な内容を,大学という閉じた空間の中で教育するのは難しいともいえます.学部レベルで公衆衛生に特化した大学はなく,医学部,保健学部などの医療系の学部や,食べること(栄養学部)・身体を動かすこと(体育学部)などの生活習慣に関わる学部などで一部が扱われている程度ではないかと思います.しかし,わが国で加速する少子高齢化,うつ病・自殺者の増加,原発事故による放射能汚染,数年に1回起きる災害,温暖化に代表される地域環境の変化,食の安全など,現在の健康・医療問題への喫緊の対応が求められています.

連載 衛生行政キーワード・125

地域保健対策の推進に当たって

著者: 知念希和

ページ範囲:P.244 - P.247

はじめに—地域保健法成立までの背景
 戦前に,結核や性感染症などの慢性伝染病のまん延や,国民体位の低下などに対して,新しい視点に立った予防医学の実践が必要となったことを背景にして,1937(昭和12)年に保健所法が制定された(昭和12年4月5日法律第42号).また,国民の体位の向上を図るため,都会と田舎を通じて保健所を創設し,あまねく衛生思想の啓発を図った.保健所は衣食住その他,日常生活において衛生の規範となり,また,疾病予防のための健康相談を行うなど,保健上,適切なさまざまな指導を行うことが規定された.
 戦後,日本国憲法が制定され,国民の生存権の確立と,その生活の進歩向上が国家義務とされ,公衆衛生は大きく展開することとなった.1947(昭和22)年には,新たに保健所法が制定された(昭和22年9月5日法律第101号).政令市制の採用,指導事業の増加,特定疾病の治療追加などの強化・拡充を図った.また,保健所が健康相談,保健指導のほか,医事,薬事,食品衛生,環境衛生などに関する行政機能を併せ持つこととなり,公衆衛生の第一線機関として強化され,国,都道府県を通じて衛生行政組織と制度の強化が図られた.

リレー連載・列島ランナー・108

保健所長の視点から見た地域医療

著者: 木村雅芳

ページ範囲:P.249 - P.252

はじめに
 浜松医科大学医学部健康社会医学講座教授の尾島俊之先生からバトンを渡していただきました.日頃,情報発信する機会がなく,うまく表現できませんが,私の視点から見た地域医療について書きたいと思います.
 現在,全国では2018年度の医療保険・介護保険の同時改定を前にして,地域医療計画の改訂作業が行われています.また,公立病院および公的医療機関で作成された「公的医療機関等改革プラン」1)について,各二次医療圏で議論されていることと思います.

Coda de Musica 心に響く音楽療法・3

最後まで“自分らしく”生きるためには?—エミリーが見た光

著者: 三道ひかり

ページ範囲:P.253 - P.255

終末期に出会う,新たな自分
 前回は,ニューヨークで最初に出会った2名の患者さんとのやりとりを通じて,彼らの光となり伴走者となる音楽療法の役割を説明した.
 当時,在宅ホスピスでは週に1回,他職種との会合ミーティングが行われていた.よく話題となったのは,終末期の疾患であると診断されたのち,ホスピスチームと初めて接触する患者さんの反応であった.ホスピスという言葉で終末期や死という言葉を連想し,サービスを拒否してしまう患者さんが数多くいたからである.病院治療からホスピス・ケアへ移行する.それによって,かつて自分の中に全く存在してなかった,「人生の終わり」という現実を突きつけられる.自分がそれまでに構築してきた“自己”が脅かされる.そのことへの恐怖反応が生じていたに違いない.

予防と臨床のはざまで

ラジオの収録

著者: 福田洋

ページ範囲:P.256 - P.256

 2017年12月に,薬剤師の堀美智子さんがパーソナリティーを務める,ラジオNIKKEIの「健康ネットワーク」でお話をさせていただきました.ラジオNIKKEIでお話しするのは二度目です.前回は3年前で,開局60周年記念特別番組「健康力を高めよう!〜40代からの健康Q&A」において,働く男女別の健康課題と対処法について,管理栄養士の篠原絵里佳さんからインタビューを受けるかたちでお世話になりました.その時に,プロデューサーの土肥さんから言っていただいて,とてもうれしかったことは「声がよい」でした(笑).
 今回の「健康ネットワーク」では,「カゼの基礎知識と対策」というお題で,職場での感染症予防という視点も加味しつつお話をしました〔「カゼの基礎知識と対策」(1)〜(4).http://www.radionikkei.jp/kenkounet/で視聴できます〕.堀さんに「お久しぶりです!」と言われてびっくりしましたが,実は,堀さんには以前,武田薬報という主にOTC(over the counter drug:一般用医薬品)に関わる薬剤師向けの冊子の「症状ナビゲーション」というコンテンツで,禁煙サポートについての記事をまとめていただいたことがあります.あらためて,縁というか,世界の狭さを感じました.

映画の時間

—昔々,馬は人の翼だった—馬を放つ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.257 - P.257

 夜,厩舎の番をしている警備員がトイレに入ると,不審な男が外から鍵をかけ,彼を閉じ込めます.騒ぎに気付いた他の警備員も家に閉じ込められ,男は厩舎から一頭の馬を連れ出します.男は鞍も付けずに馬に跨り,両手を天に向かって広げ荒野に向かいます…….なんとも奇妙なファーストシーンに驚きますが,物語が進行するにつれ,この場面がこの映画の主題にも関わる象徴的なシーンであることが分かってきます.
 翌朝,この厩舎のオーナーであるカラバイは,高価な競走馬が盗まれたことに怒りを爆発させます.警察は窃盗の前科のあるサディルの身柄を確保して,なぜかカラバイの家に連行し,カラバイ自らがサディルを問い詰めます.舞台であるキルギスの司法制度はよく分かりませんが,カラバイは集落の有力者であるようです.

「公衆衛生」書評

—泉 孝英(編) 八幡三喜男,長井苑子,伊藤 穣,Simon Johnson(編集協力)—ICT時代にこそ必要な医学英和辞典—『ポケット医学英和辞典(第3版)』 フリーアクセス

著者: 冨岡洋海

ページ範囲:P.248 - P.248

 泉孝英先生による『ポケット医学英和辞典』第3版が出版された.辞典に「書評」というのも,おかしな企画と思われるかもしれないが,これは単なる辞典ではない.それは,故・渡辺良孝博士による1967年の初版以来,脈々と受け継がれてきた崇高で,そして謙虚な学びの精神「欧米から最新の医学を学ぶ」が宿っているからである.この「第3版序」には,第2版出版(2002年)からの医学・医療の変動が解説されており,この辞典に「現代性を与える(故・渡辺博士)」ことが理念とされていることがわかる.その流れの中で,医薬品,医療機器の開発のほとんどは米国を中心に行われている現状を嘆きつつも,急速な変貌・進展を遂げる米国医学・医療の的確な把握こそが,わが国の医学・医療の向上につながる,と結んでいる.この辞書の価値は,この泉先生の信念にある,と言っても過言ではない.
 収録語数は7万語と膨大なものになっているが,驚くほどコンパクトで,まさに“持ち歩ける”辞典となっている.収録語については,“Dorland's Illustrated Medical Dictionary”や“Current Medical Diagnosis & Treatment”などを参照し,また,八幡三喜男博士による“The New England Journal of Medicine”からの緻密な情報も取り入れて,用語の刷新,削除,追加が的確に行われている.うれしいことは,略語の収録が充実していること,薬剤名も充実し,薬剤用語集としても活用できること,さらに,医学研究者とその業績までもが収録されており,世界医学人名事典としても活用できることである.この膨大な人名の収録は,「日本近現代医学人名事典【1868-2011】」(医学書院,2012)という大著も出版されている泉先生の真骨頂である.「欧米から最新の医学を学ぶ」とともに,「過去から学ぶ」姿勢も大切にしてほしい,とのメッセージである.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.259 - P.259

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 石原美千代

ページ範囲:P.260 - P.260

 本号の特集「地域保健法20年」は国立保健医療科学院の武村真治先生に企画をしていただきました.本特集は,この20年間,保健所等で働いてきた私にとって,とても意義深いものとなりました.
 地域保健法が完全施行される前の1年間,私は東京都の保健所で仕事をしていました.都から市に母子保健,栄養改善などの事務が一括移譲されるに当たって,市と打ち合わせを行ったり,翌年度に統合される予定の保健所を訪ねたりしていたことを思い出しました.あの当時,「地域保健法が目指した保健所のあり方」も考えないまま,「住民に身近なサービスは基礎自治体で」と唱えながら,心の中では「本当に市町村に母子保健ができるのだろうか?」と考えていました.今となっては「身近な市町村の役割重視」には異論がありませんし,20年という歳月の長さを実感します.ただ,田上豊資先生が指摘されている「国民の健康課題が変容したとしても,保健所と市町村が,公衆衛生という共通の専門性を発揮して連携・協働することの基本は変わらない」ことを実践できているのか,と疑問に感じているのも事実です.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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