公衆衛生82巻5号

2018年05月発行

特集 発達障害者支援の到達点—新しい支援の枠組みを考える

子どもの心の発達支援—子どもの心の診療ネットワーク構築

著者： 奥山眞紀子¹

所属機関： ¹国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部

ページ範囲：P.364 - P.369

子どもの心の診療ネットワーク事業の成り立ち
1．子どもの心の診療拠点病院事業(モデル事業)の背景
　子どもの心の問題は1980年代から徐々に増加し，1990年代には医療機関に受診を希望する子どもが急増した．その背景には，①発達障害の概念の変化とそれへの注目，②発達障害と診断される子どもの増加，③子ども虐待による精神的な問題の増加，④うつなどの治療可能な精神障害に対する認識の増加などが挙げられるであろう．しかし，それに対応することのできる医療者の不足も顕著になり，その解決に向けて，2005(平成17)年3月から「子どもの心の診療医」の養成に関する検討会(座長：柳澤正義．以下，本検討会)が厚生労働省母子保健課の下で開催され，12回の議論を経て，2007(平成19)年3月に報告書が編纂された¹⁾．検討会には関連する学会や医会の代表者などが集まり，本音で議論がなされた．最初は精神科と小児科の考え方の違いなどが論争になることもあったが，最後は子どもの心の診療を構築する方向性で一致できたことが大きな収穫の一つとなった．
　本検討会では，まず，対応できる医師を増やすべく，①一般小児科医や一般精神科医も子どもの心の問題に対応してもらえるようにし，そのサブスペシャリティーとして，②子どもの心の診療を定期的に行っている小児科医や精神科医，③もっぱら子どもの心の診療に携わる専門的な医師，の3層を考え(図1)¹⁾，それぞれの教育に関する到達目標を明確にした．これを基にしてテキストを編纂し，それぞれに対する研修会などを企画し，これを継続した．

参考文献

1)厚生労働省：「子どもの心の診療医の養成に関する検討会」報告書について．http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/gyousei-02.html

2)厚生労働省：子どもの心の診療拠点病院の整備に関する有識者会議報告書．http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001glho-att/2r9852000001gm74.pdf

3)藤原武男：患者ニーズに合った子どもの心の診療体制の在り方およびその効果判定の方法に関する研究．奥山眞紀子(研究代表者)：厚生労働科学研究費補助金　子ども家庭総合研究事業　子どもの心の診療に関する診療体制確保，専門的人材育成に関する研究．平成20〜22年度　総合研究報告書．　https://www.ncchd.go.jp/kokoro/medical_report.html

4)植田紀美子：子どもの心の診療およびその拠点病院システムの費用と効果に関する研究．奥山眞紀子(研究代表者)：厚生労働科学研究費補助金　成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業　子どもの心の診療拠点病院における診療とそのシステムの効果的あり方，および多職種人材育成に関する研究　平成23年度総括・分担研究報告書．pp43-66　https://www.ncchd.go.jp/kokoro/medical/pdf/05_h23.pdf

5)厚生労働省　雇用均等・児童家庭局事業：子どもの心の診療ネットワーク事業　事業概要集　平成23〜27年度．https://www.ncchd.go.jp/kokoro/medical/pdf/gaiyoushuu_allh28_protect.pdf

6)国立成育医療研究センター：子どもの心の診療ネットワーク事業．https://www.ncchd.go.jp/kokoro/

7)国立成育医療研究センター：こころとからだのケア〜こころが傷ついたときのために．https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_protected.pdf

8)国立成育医療研究センター：子どものトラウマ診療ガイドライン．https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_torauma.pdf

9)五十嵐隆(研究代表者)：平成26年度厚生労働科学研究費補助金 地域医療基盤開発推進研究事業「被災後の子どものこころの支援に関する研究」子どものメンタルヘルスリスク 軽減のための災害マネージメント．https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_mentalhealth.pdf