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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻6号

2018年06月発行

文献概要

特集 聴覚障害の早期発見と支援体制

職域における騒音対策の現状と,今後の展望

著者: 和田哲郎12

所属機関: 1筑波大学医学医療系耳鼻咽喉科 2茨城産業保健総合支援センター

ページ範囲:P.454 - P.458

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はじめに
 騒音が難聴の原因になることは紀元前の昔から知られていた.ある程度以上の大きさの音を長い期間,繰り返し聞いていると,やがて難聴が生じる.これを「騒音性難聴」という.
 騒音性難聴は,慢性の音響曝露が原因で蝸牛の外有毛細胞が障害されて起こる難聴であり,初期には純音聴力検査で4,000Hzを中心としたdip型(ある特定の周波数だけが悪くなる)の聴力像を示すことが特徴である.さらに進行していくと,両側性に高音域から徐々に難聴が増悪していく経過を示す.騒音性難聴を起こす音のレベルはおおよそ85dB(A)以上と考えられている.これは,おおよその目安として,大声でないと隣の人と会話が不自由な騒音レベルである.短時間であれば特に聴力に変化はみられないが,1日8時間勤務で5〜15年以上の長期間繰り返し曝露されていく中で,やがて難聴が出現・進行していく危険がある.
 騒音性難聴は有効な治療法が確立されていない.一度起こってしまったら,その難聴は回復しない.発症後も同じ騒音環境に曝露され続けると,一層進行していく危険がある.ただし,騒音を低いレベルに管理することができれば予防することが可能である.発症後の騒音性難聴であっても,その後に有害なレベルの騒音を避けることができれば進行(加齢変化を超えた聴力悪化)を食い止めることができる.
 製造業などを中心とした職場において,騒音の発生は決して珍しいことではない.騒音性難聴は今日でもなお難聴の原因として大きな比重を占めている.その予防のためには医療の視点のみではなく,職域における安全衛生対策の一環として,行政,産業保健センター,産業医や産業看護職などの産業保健関係者,事業所,個人がそれぞれのレベルで適切な対策をとっていく必要がある.

参考文献

1)Bertsche PK, et al:Complying with a corporate global noise health surveillance procedure-do the benefits outweigh the costs? AAOHN J 54:369-378, 2006
2)Daniell WE, et al:Occupational hearing loss in Washington state, 1984-1991:I. Statewide and industry-specific incidence. Am J Ind Med 33:519-528, 1998
3)厚生労働省:労働安全衛生に関する調査 平成26年労働環境調査 結果の概要.http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h26-46-50_kekka-gaiyo.pdf
4)厚生労働省労働基準局:平成27年労働基準監督年報(第68回) 24.特殊健康診断実施状況(対象作業別).http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/kantoku01/dl/27.pdf
5)労働省:騒音障害防止のためのガイドラインの策定について.基発第546号 平成4年10月.https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-33/hor1-33-17-1-0.htm
6)和田哲郎,他:職場騒音と騒音性難聴の実態について 特に従業員数50人未満の小規模事業所における騒音の現状と難聴の実態調査.Audiol Jpn 51:83-89, 2008
7)武石容子:埼玉県における騒音職場の管理の実態 騒音性難聴をめぐる労働衛生の問題と対策.日耳鼻会報112:480-486, 2009
8)日本耳鼻咽喉科学会:騒音性難聴担当医.http://www.jibika.or.jp/members/nintei/souon/index.html
9)和田哲郎,他:耳鼻咽喉科医と産業保健総合支援センターの連携について.日耳鼻会報119:1511-1515, 2016

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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