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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生82巻8号

2018年08月発行

文献概要

特集 アレルギー疾患対策

環境化学物質によるアレルギー疾患に関する行政施策

著者: 奥村二郎1 東賢一1 水越厚史1

所属機関: 1近畿大学医学部環境医学・行動科学教室

ページ範囲:P.626 - P.630

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はじめに
 気管支喘息,アトピー性皮膚炎,花粉症,食物アレルギーなどのアレルギー疾患の患者は増加しており,今や国民の約2人に1人が罹患していると言われ,さらに増加傾向にある1)
 環境化学物質(金属を含む)を要因とするアレルギー疾患に対する行政施索を立案し施行する政府内の担当は,①水や大気の環境およびその健康影響は環境省,②疾病に対する診療や,室内環境,特定の施設のプールおよび露天風呂,食品,労働災害は厚生労働省,③農産品は農林水産省,④食品の健康リスクの評価や政府内の調整は内閣府,などと分かれている2)
 環境中の化学物質については,大気や水質,土壌,廃棄物および地球環境の保全の観点から,環境基本法に基づいて環境基準や環境基本計画が定められている.大気汚染防止法などの排出規制を目的とする法律の他に,化学物質の評価や管理を目的として,「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下,PRTR法)や,「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化学物質審査規制法.以下,化審法),事業者には,化学物質の自主的な管理を促すためのいわゆるSDS(安全データシート)制度があり,感作性化学物質はこれらの化学物質対策の枠組みの中で取り扱われている.
 近年,アレルギー疾患の診療については,「アレルギー疾患対策基本法」によって政府の行う対策の基本理念や指針が定められ,国,地方公共団体,医療保険者,国民,医師・医療関係者および学校の責務が明らかにされている.また,労働者に気管支喘息や鼻炎,皮膚炎などを起こす職業上のアレルギーについては,労働災害としての補償や労働衛生上の管理が法律に基づいて行われている.
 近代の経済活動の発展に伴う環境や,生活様式,食生活の変化などに特有な何らかの刺激がアレルギー疾患の増加に関与している可能性を探るため,約10万組の親子を対象とした出生コホートであるエコチル調査も開始されている3).また,化学物質や金属,混合物による健康リスクに関する行政施策立案の根拠については,環境研究総合推進費の枠組みで研究が推進されている4)

参考文献

1)高野裕久:環境汚染とアレルギー.京府医大誌119:867-876, 2010
2)奥村二郎,他:環境アレルギーと日本の行政施策.職業・環境アレルギー誌24:11-15, 2017
3)Michikawa T, et al:The Japan Environment and Children's Study(JECS):A Preliminary Report on Selected Characteristics of Approximately 10 000 Pregnant Women Recruited During the First Year of the Study. J Epidemiol 25:452-458, 2015
4)中央環境審議会:環境研究・環境技術開発の推進戦略について(答申).pp5-22.平成27年8月20日 https://www.env.go.jp/policy/tech/kaihatsu/t02_h2702a.pdf
5)National Research Council(US)Committee on the Institutional Means for Assessment of Risks to Public Health:Risk Assessment in the Federal Government Managing the Process. pp20-28, National Academies Press, Washington D.C., 1983
6)環境省:化学物質の環境リスク初期評価(第16次とりまとめ)の結果について.http://www.env.go.jp/press/104975.html
7)労働省:労働基準法施行規則の規定に基づき労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物に係る労働衛生対策について.基発第182号.平成8年3月29日 厚生労働省法令等データベースサービス(http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/)で検索いただきたい.
8)化学物質審議会:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく第一種指定化学物質及び第二種指定化学物質の指定の見直しについて(答申).別表1,参考資料.p4, 2008
9)日本産業衛生学会:許容濃度等の勧告(2017年).産衛誌59:153-185.2017
10)厚生労働省:アレルギー疾患対策基本法の施行について(施行通知).健発第9号.平成27年12月2日 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111496.pdf
11)労働省:労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について.基発第186号.昭和53年3月30日 厚生労働省法令等データベースサービス(http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/)で検索いただきたい.
12)Nicholson PJ, et al:Evidence based guidelines for the prevention, identification, and management of occupational asthma. Occup Environ Med 62:290-299, 2005
13)Dobashi K, et al:Japanese Guideline for Occupational Allergic Diseases 2014. Allergol Int 63:421-442, 2014
14)Tarlo SM, et al:Occupational asthma. N Engl J Med 370:640-649, 2014
15)奥村二郎:職業性アレルギー疾患における気管支喘息について.日職災医誌61:別141, 2013
16)相澤好治:労働衛生,労災の視点からの職業アレルギー.職業・環境アレルギー誌21:22, 2013
17)日本職業・環境アレルギー学会(監修),「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」作成委員会:職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016.協和企画,2016

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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