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雑誌文献

公衆衛生82巻9号

2018年09月発行

雑誌目次

特集 日本におけるWHO協力センター

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.661 - P.661

 世界保健機関(WHO)は,世界の全ての人々の健康に関わる問題を扱う公衆衛生の専門機関です.1948年にWHOが設立されて,本年で70年目となりました.WHOには6つの地域事務局,国際がん研究機関(IARC,リヨン),WHO健康開発総合研究センター(WKC,神戸)の付属機関があります.これとは別にWHO研究協力センター(以下,WCC)が指定されています.
 WHOに求められる公衆衛生課題は多岐にわたっており,しかも拡大の一途を辿っています.それを支えているのが世界に827カ所存在しているWCCです.WCCは西太平洋地域には194カ所あり,そのうち35カ所は日本にあります.国内のWCCには,感染症に関わるものの他,近年は災害看護に関わる兵庫県立大学地域ケア開発研究所や自殺対策に関わる自殺総合対策推進センターなど,新たな健康課題分野の研究機関が加えられてきています.

世界保健機関(WHO)研究協力センターと,その役割

著者: 牧野友彦 ,   葛西健

ページ範囲:P.662 - P.665

WHOと研究協力センター
 世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,世界の194カ国が加盟する,国際連合の保健医療に関する専門機関である.本部と6つの地域事務局,そして154の国事務所から構成されている.WHOには,研究開発に始まり,診断や医薬品などの基準づくり,各国政府の政策立案への支援,サーベイランスや感染症が発生した場合の緊急対応など,保健医療の幅広い分野で多岐にわたる活動が期待されている.しかし,これら全ての分野に対応できる機能を事務局内に保有するのは現実的ではない.このため,世界各地で高い評価と実績のある機関と協力関係を結び,「WHO研究協力センター」として指定することで世界中の要請に応える体制をとっている.現在,80カ国に827の研究協力センターがあり,日本も所属する西太平洋地域には10カ国に194のセンターが活動している(図1).
 研究協力センターは,WHO本部あるいは地域事務局の関係部門の申請によって,2〜4年のWHOとの協力活動の実績を基に審査され,通常は4年の単位で承認・再認定される.技術分野別では,一番多いのが生活習慣病や母子保健,環境保健といった非感染症分野であり,次いで保健人材や医療保険,伝統医学などの保健医療制度分野,そして結核やマラリアなどの感染症分野と続く(図2).

日本国内におけるWHO協力センターの相互連携体制づくり—その現状と課題

著者: 船戸真史 ,   明石秀親 ,   杉浦康夫 ,   野田信一郎

ページ範囲:P.666 - P.669

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization:WHO)は1948年に設立された,国際連合のシステムの中にあって保健について指示を与え,調整する機関である.WHOはグローバルな保健問題についてリーダーシップを発揮し,健康に関する研究課題を作成し,規範や基準を設定する役割を担っているが1),元々,自前の研究組織を持っていないため,外部の専門機関から学術的なインプットを直接入れてもらうべく,それぞれの専門領域に対してWHO協力センター(WHO collaborating centre:WCC)を指定し,協力を仰いできた.
 現在,80以上の加盟国から800を超える機関がWCCに指定されているが2),施設によっては実質的な活動成果を上げず形骸化したものがあるのも事実であった.2000年代に入り,WCCは次第に明確なWHOへの貢献を求められるようになった.わが国が所属する西太平洋地域ではWHO西太平洋地域事務局(World Health Organization Regional Office for the Western Pacific:WPRO)が域内の190余りのWCCに呼びかけ,2014年に「第1回WHO協力センターフォーラム」を開催し,WCCの相互の連携強化および活性化を図ってきた.
 上記のフォーラムの翌(2015)年,わが国では,WPROより委託を受けた国立保健医療科学院が主催する,ラオス,カンボジア,モンゴル,ベトナムを対象とした「病院の質と患者安全管理研修」を国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine:NCGM)国際医療協力局を含む4つのWCC(聖路加国際大学研究センター,群馬大学多職種連携教育研究研修センター,北里大学東洋医学総合研究所)が協力して実施した.
 2016年11月にフィリピン・マニラで開催された「第2回WHO協力センターフォーラム」においてNCGMが「病院の質と患者安全管理研修」について発表したところ,国内のWCCが連携した好事例として他のWCCのみならずWHOの職員からも反響が得られた.これを機にして,WPROからNCGMは日本国内で相互連携体制をさらに進めるように期待されることとなった.そこでNCGMは関係機関へ呼びかけ,2017年4月23日に東京で「第1回WHO協力センター連携会議」を開催した.このような国内のWCC相互連携体制構築事業は,西太平洋地域においては韓国,オーストラリアに次いで3番目の取り組みとなる.
 本稿においては,日本におけるWCCの連携の実情と連携強化に関する取り組みを紹介するとともに,今後の方向性について若干の考察を行う.

結核研究所が世界の結核対策において果たしている役割と展望

著者: 加藤誠也

ページ範囲:P.670 - P.673

はじめに
 財団法人結核予防会は,1939年当時,国民病と呼ばれ恐れられていた結核の制圧のために,香淳皇后陛下から「官民協力して結核の予防と治療に当たるように」という令旨と御下賜金を賜り,それらを基にして設立された.結核研究所(以下,当研究所)は設立以来これまで,結核に関する基礎・臨床・疫学の調査・研究,研修などによって人材育成を行い,また,国・自治体・医療機関などへの技術支援を通して国内の結核対策の中心的な役割を担ってきた.
 国際協力に関しては,1963年に開始された国際研修をはじめとして,WHO(World Health Organization)協力センターとして調査・研究を行い,政府開発援助(official development assistance:ODA)などの資金による対策や調査への技術協力や,国際的な連携に基づく基礎・疫学研究など多岐にわたる活動を実施してきた.
 本稿では,最近の5年間のWHOの関係する活動実績を基にして,当研究所の世界の結核対策における役割を述べる.

久里浜医療センターの依存症の治療と予防における国際的な活動と役割

著者: 湯本洋介 ,   樋口進

ページ範囲:P.674 - P.679

はじめに—久里浜医療センターの歴史
 独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(以下,当センター.図1)はアディクション(依存症,嗜癖)分野において研究,治療,人材育成などの中心的な役割を担っている.はじめに,当センターの歴史を俯瞰するところから,その役割を眺めてみたい.
 当センターは,1963年に日本で初めてアルコール依存症専門病床を設立した(当時は国立療養所久里浜病院.以下,当院).現在でも,国内でおよそ150施設あるアルコール症治療施設の中で最大の規模である.1970年代に,わが国のアルコール依存症の入院治療のモデルとなる「久里浜方式」を確立し,それまでの閉鎖病棟への閉じ込め型の治療から患者主体の治療へと大きく方向展開する契機をつくったことは,わが国のアルコール症治療における画期的な出来事である.以降,1975年から当院において,厚生省(現 厚生労働省)の委託を受けて,医療機関職員向けに国の唯一の公的なアルコール依存症研修が行われるようになった.この研修などを通して,久里浜方式が日本におけるアルコール依存症治療のスタンダードとして広がっていった.

大阪母子医療センターのWHO指定研究協力センター(母子保健分野)活動—総合周産期母子医療センターとしての強みを生かして

著者: 植田紀美子

ページ範囲:P.680 - P.685

はじめに
 地方独立大阪府立病院機構大阪母子医療センター(以下,当センター)は1991年にWHO(World Health Organization)の母子保健分野における指定研究協力センター〔WHO Collaborating Centre (WHOCC) for maternal and child health〕に指定され,現在に至っている.当センターは総合周産期母子医療センターであると同時に小児専門医療機関として,もっぱら日本の母と子の医療を支えてきた.本稿では,その延長線上として国際母子保健分野において貢献してきた内容を紹介する.

東京医科歯科大学の健康都市の国際協力研究活動における取り組み

著者: 中村桂子

ページ範囲:P.686 - P.689

はじめに
 東京医科歯科大学(以下,当大学)は都市環境と健康に関する研究・教育に重点的に取り組んできた.1997年7月にはWHO(World Health Organization)Collaborating Centre for Healthy Cities and Urban Policy Research(健康都市・都市政策研究協力センター)に指定され,活動を開始した.健康都市の評価指標に関する研究,都市の健康決定要因に関する研究,健康格差に関する研究などの一連の研究活動,大都市東京における健康都市政策や活動展開の支援,人材育成の実績を踏まえて,20年以上にわたってWHOと連携した活動を行っている1)〜4)
 当大学は,WHO西太平洋地域事務局が企画した専門家会議の勧告に基づいて2004年に創設されたThe Alliance for Healthy Cities(AFHC:健康都市連合)のネットワークについて,WHO協力センターとしてその準備段階から関わっている.設立後は,ネットワーク加盟都市からの要請を受けて事務局を務めており,研究,人材育成,技術支援などを行っている.

日本大学経済学部グローバル社会文化研究センターの人口問題研究への国際的な取り組みと課題

著者: 松倉力也

ページ範囲:P.690 - P.696

はじめに
 日本大学人口研究所は2007年にWHO(World Health Organization)から世界で初めて人口,リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康),開発の3分野でWHOコラボレーティング・センターとして認定された.2015年に日本大学経済学部中国・アジア研究センターがその活動を受け継いだが,2018年の名称変更に伴い,日本大学経済学部グローバル社会文化研究センター(以下,当センター)が研究を進めている.
 日本大学(以下,当大学)がWHOコラボレーティング・センターとなった背景には,日本大学人口研究所がわが国で唯一の人口問題を扱う大学の附置研究所として1979年に創設されて以来,調査・研究や各種の国際会議の開催などによって学術貢献をしてきたことが評価されてきたことがある.創設者である故 黒田俊夫名誉所長は国連人口賞を獲得し,国際的な人口問題の研究に大きく貢献した.また,専門委員として小川直宏元所長がWHOの「低出生に関する政策パネル」の委員となり,安藤博文元所長がUNDP(United Nations Development Programme:国際連合開発計画),UNFPA(United Nations Population Fund:国際連合人口基金),UNICEF(United Nations Children's Fund:国際連合児童基金),WHO,World Bank(世界銀行)が共同で組織する人類のリプロダクションの研究・開発およびトレーニング関する科学技術諮問グループ〔Scientific and Technical Advisory Group(STAG)〕を歴任するなど,WHOをはじめとする国際機関に大きな貢献をしてきたことが評価されたからである.
 かつて,国際的な人口問題は人口爆発が大きな問題であり,貧困とも関係していた.一方,近年の出生率の低下は経済の活力の欠乏を招き,人口構造の変化と人口高齢化を招き,人口爆発と同じような世界的な大問題となりつつある.開発途上国,先進国ともに出生率は低下しており,親子の関係や,10代の妊娠や性行動など,リプロダクティブ・ヘルスの問題を考えなければいけない状況が急務となってきた.人口高齢化は先進諸国のみならず,多くの開発途上国でも深刻な経済・社会的な問題を次々に引き起こしている.このような状況の下,2000年前後からWolfgang Lutzを始めとする世界で著名な人口学者らによって,20世紀は「人口爆発の世紀」であったが,21世紀は「人口高齢化の世紀」になるであろうと言われるようなっている.
 上記のような状況において当大学は,これまで人口問題に関して国際的な研究プロジェクトを実施してきた.本稿では,当センターで現在,研究を行っている中で代表的なテーマである出生率低下と,出生率低下による国際的な高齢化に対応する最先端の研究プロジェクトについて述べる.

兵庫県立大学地域ケア開発研究所の災害看護学領域における国際的な取り組み

著者: 増野園惠

ページ範囲:P.698 - P.703

研究所の概要
 公立大学法人兵庫県立大学地域ケア開発研究所(以下,当研究所)は2004年に国内初の看護学の実践研究所として開設された.地域の特性に合わせた看護ケアシステムなどの構築・開発に向けた研究を進め,その成果を広く社会に提案し,人々の命と暮らしをサポートすると共に.看護学の発展に寄与することを目的に設立された.健康教育および健康情報の発信基地として,また国内外の災害や国際援助に関わる研究やネットワークの拠点として活動している.
 組織は,「地域ケア実践研究部門」「広域ケア開発研究部門」「周産期ケア開発研究部門」の3部門から成る.地域ケア実践研究部門では,看護職による健康相談などの実践活動「まちの保健室」を基盤にして,地域住民の健康の維持増進を図る持続可能なシステム構築に関する研究や,看護学部教員も参画しての地域住民への看護ケア方略に関する実践研究を行っている.広域ケア開発部門では,災害看護分野および国際看護分野の研究を行っており,災害時の要配慮者への看護ケアに関する研究,災害看護教育に関する研究,地域の災害レジリエンスに関する研究などを行っている.2017年に新たに加わった「周産期ケア開発研究部門」は兵庫県立尼崎総合医療センター内に当研究所の施設として周産期ケア研究センターを開設した.同医療センターと連携して,安心安全な出産育児を支える助産・看護技術の開発などに関する研究に取り組んでいる.

自殺総合対策推進センターの国際的な役割と取り組み

著者: 本橋豊

ページ範囲:P.704 - P.707

はじめに—アジアにおける自殺対策の唯一のWHO協力センター
 2016年4月1日に改正自殺対策基本法が施行されたと同時に,自殺総合対策推進センター(Japan Support Center for Suicide Countermeasures:JSSC.以下,当センター)は新たに発足しました.当センターは国の自殺対策の推進においてシンクタンク的機能を担う組織であり,自殺対策の実務と研究の双方の機能を兼ね備えたセンターとして自殺対策推進の役割を果たすことが期待されています1)
 2016年3月に閉鎖された自殺予防総合対策センターが精神保健研究を主眼に据えていたのと対照的に,当センターは地域自殺対策の推進に関わる地域支援の実務を重視しています.研究面では,自殺総合対策の学際的な政策科学的研究を推進することでevidence-based policy makingに寄与することが求められています.したがって,WHO(World Health Organization)協力センターとしての役割についても,2016年以後は,わが国の優れた自殺対策の取り組みをどのようにして世界に公共輸出していくかという方向にシフトしました.

視点

鳥取大学における公衆衛生の人材育成

著者: 尾﨑米厚

ページ範囲:P.658 - P.659

 筆者は,鳥取大学(以下,当大学)における教育経験から,現場主義,学生への継続的な関わり,学生と同じ体験を共有すること,卒後のキャリア形成への関わりの重要性を感じてきた.本稿では,当大学における公衆衛生の人材育成を,実践例を基にして紹介する.

連載 衛生行政キーワード・128

WHOにおける近年のトピックスと日本の取り組み

著者: 石橋七生

ページ範囲:P.708 - P.711

はじめに
 日本におけるWHO協力センター(World Health Organization Collaborating Centre)についての理解を深める一助となるように,本稿では,WHOにおける近年のトピックスと,それらに対するわが国の取り組みについて述べる.

ヘルスコミュニケーションと健康な社会づくりを考える Dr.エビーナの激レア欧州体験より・1【新連載】

欧州のヘルスリテラシーの取り組み—テロの危険も顧みずオランダの王女が出席した国際学会からの学び

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.712 - P.715

ヘルスコミュニケーションとは?
 こんにちは.保健学博士でヘルスコミュニケーションスペシャリストの蝦名玲子(Dr.エビーナ)です.もともとは国公立の研究所の研究員だった私ですが,「官・民・学といった組織形態に関係なく,自由に,効果的に,元気な社会づくりに貢献したい」という思いから,2002年にヘルスコミュニケーションと健康社会学の研究と教育のための会社を立ち上げました.現在は,全国の企業や官公庁のコンサルティングをしたり,大学で教鞭をとったり,保健医療従事者の教育を行ったりするというかたちの,ちょっとユニークな働き方をしています.
 私が専門としているヘルスコミュニケーションは,「人々に,健康上の関心事についての情報を提供し,重要な健康問題を公的な議題に取り上げ続けるための主要戦略のこと」と定義付けられています1).ヒトの認知プロセスや行動パターンを,科学的に根拠があることが証明されている心理学や行動科学,社会科学といった分野における「理論」を基にして理解し,そのうえで,アプローチ方法を検討,創造して,対象となる個人や集団とコミュニケーションをとり,その効果を評価する,という一連の流れを研究します.ヘルスコミュニケーションを駆使することで,健康のメッセージが強化され,健康の話題が取り上げられたり,さらなる情報が求められたり,健康的な生活習慣がもたらされたりしやすくなることが確認されています2)

Coda de Musica 心に響く音楽療法・9

死別ケア—愛する人の想いを受け継げますか?

著者: 三道ひかり

ページ範囲:P.716 - P.719

想い出に浸る
「想い出に浸る」
 この言葉から連想される感情はどのようなものであろうか.過去の栄光,負の遺産,幼き日の思い出.過去を振り返る言葉が多様であるように,私たちと過去との関係性もさまざまである.そして,思い出を振り返るために,日記をつけたり,写真を撮ってアルバムに入れたりする.旅行先,学校の入学式や卒業式,結婚式,出産時.撮った写真を見ながら,「懐かしいね〜あの時は若かった」と振り返ることがある.逆に,過去の傷が今の自分を苦しめ,あの時こうしておけばよかったと後悔したり,悔い改めることもある.

リレー連載・列島ランナー・114

青森県における地域診断の試み

著者: 大西基喜

ページ範囲:P.721 - P.725

はじめに
 青森県(以下,当県)には健康課題が多くあり,その実態を把握し,原因を探ることは重要なテーマとなっています.地域ごとにきめ細かにそれらを把握していく,いわゆる「地域診断」を充実させることは,保健対策を立て,その評価を考えるうえで肝要です.本稿では,当県の担当課が中心となって行ってきた,健康・疾病に関する地域診断の事業を紹介したいと思います.
 健康・疾病に関する地域診断上の数字に表されたデータといえば,死亡率,健診データ,介護保険データ,社会的決定因(social determinants of health:SDH)関連の医療・介護・福祉資源,経済,文化,教育などの種々の社会的指標が代表的ですが,事業を企画した2006(平成18)年ごろは,ごく基礎的な基本健診データ(老人保健事業)も紙で入手し,積んでおくだけという処理をしている市町村もあるという状況でした.これを全県的にデジタルデータで入手し,分析していくということ自体が解決すべき課題でした.
 一方,数字で測れないデータも多く,健康・疾病にも関連の深いソーシャルキャピタルや人々の考え方,文化や素養,風土,伝統,県民性など,質的データはなかなか蓄積・分析されがたい対象でした.身近なところでは,保健従事者の体験で把握される地域のさまざまな情報,保健活動で生じる面談・会議録など,種々の質的データはまとめ方が難しいこともあり,多くは保健師の退職,あるいは個別パソコンの廃棄などとともにほぼ消失していっていました(今もそう事情は変わりませんが).これらを何らかのデータベースに構築するということは保健上の大きな課題に思えました.上記のような量的・質的データについての課題が,本稿で紹介する当県の事業につながっていきました.

予防と臨床のはざまで

第32回国際産業衛生学会参加ダイジェスト(その2)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.726 - P.726

 前回に続き,ダブリンで行われた第32回国際産業衛生学会(ICOH. http://icoh2018.org/2018/)の報告です.今回は私自身の発表や,印象に残った他の基調講演,科学分科会のリポートを中心とします.
 初日にポスター貼付が始まると,私と同じ研究室に属する北島文子氏と共に,日本の企業の健康経営とヘルスリテラシーについての報告である「Health literacy in Japanese workplace:Association with lifestyle and NCD's」と「Health literacy in Japanese workplace(2nd Report):Impact of workplace health promotion, lessons learned from the practice」を発表しました.「Total Worker Health」(労働者の健康を守るための安全衛生と健康増進の統合)の流れがあり,ICOHでは健康経営そのものについては基調講演などの報告がみられる一方,IUHPE(ヘルスプロモーション健康教育国際会議)と比べると,ヘルスリテラシーについての報告は極めて少ない状況です.前者では職域のヘルスリテラシーと生活習慣・生活習慣病の関連について,後者では15年以上に及ぶ設計コンサルタント企業における職域ヘルスプロモーションの実践と,ヘルスリテラシー向上に与える予備的な評価について報告しました.フィンランド,インドネシア,イランの先生方から質問を受け,用意した40部のハンドアウトも完売御礼となりました.

映画の時間

—ジョージアの巨匠テンギズ・アブラゼ監督,渾身のトリロジー—祈り 三部作

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.727 - P.727

 かつてはグルジアと呼ばれていたジョージアで1967年に制作されたテンギズ・アブラゼ監督の「祈り」は長らく日本では公開の機会がありませんでした.同監督による「希望の樹」(1976年),「懺悔」(1984年)と合わせて三部作とされていますが,今回,3作品が上映されるとのことです.本稿では未公開であった「祈り」を中心にご紹介したいと思います.
 白と黒のコントラストが強調された象徴的な場面から映画は始まります.大天使ミカエルあるいは聖母マリアを連想させるような白いコスチュームの女性.悪魔をイメージしたような黒い毛皮をまとった男性.モノクロームの映像が大変,印象的です.

書籍紹介

医療プロフェッショナルの経験学習—松尾 睦(編著) A5判・上製/328頁/2018年 定価3,300円+税 同文舘出版 刊 フリーアクセス

ページ範囲:P.725 - P.725

 本書は,「各分野の医療人は,どのような仕事経験を通してプロフェッショナルへと成長しているのか?」という問題提起を軸に,看護師・保健師・薬剤師・診療放射線技師・救急救命士・病院事務職員・救急救命医師・公衆衛生医師の成長プロセスを「経験学習」という切り口から明らかにしたものです.
 複数の専門家が協働している医療組織にあって,自身が関わる分野のみならず,他分野における「人の育ち方」を理解することは,より質の高いチーム医療を提供するうえで重要だと思われます.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.657 - P.657

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.729 - P.729

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.730 - P.730

 ジュネーブのWHOの本部やマニラの西太平洋事務局を知らない人はいないと思います.しかし,WHO協力センター(WCC)のことについては知らない方々も多いと思われることから,本特集で取り上げさせていただきました.
 WHOには6つの地域事務局,国際がん研究機関(IARC),WHO健康開発総合研究センター(WKC)などの付属機関があります.牧野友彦氏の玉稿で,世界各国に800カ所以上のWHO協力センターがあり,WHOの活動を支えている重要な存在であることを深く認識することができました.船戸真史氏の玉稿からは,WCC相互の横の連携体制づくりが現在の大きな課題として取り組まれていることを知りました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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