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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻10号

2019年10月発行

文献概要

特集 摂食障害の理解と対応

社交不安障害(社交不安症)と摂食障害

著者: 永田利彦1

所属機関: 1医療法人壱燈会なんば・ながたメンタルクリニック

ページ範囲:P.756 - P.761

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はじめに
 摂食障害の病因は,いまだ未解明である.生物学的仮説(遺伝的側面,セロトニン仮説-強迫スペクトラム障害仮説,ノルアドレナリン・ドーパミン・サイトカイン・アディポサイトカイン仮説などを含む神経伝達物質仮説,認知機能仮説),症候論的仮説(気分障害,強迫スペクトラム仮説など),心理社会的仮説(痩せ礼賛文化,力動的理解など)など種々の仮説が出されてきた1).しかし,どれも決定打ではなく,治療に直結するものでもない.例えば,症候論的仮説,併存症研究から生まれた気分障害スペクトラム仮説や強迫スペクトラム障害仮説の最も大きな弱点は,大うつ病性障害や強迫性障害の第一選択であるSSRI(selective serotonin reuptake inhibitors.わが国で上市されているのはフルボキサミン,パロキセチン,セルトラリン,エスシタロプラムの4種)の摂食障害に対する効果が限定的であり,FDA(Food and Drug Administration)が承認しているのは,神経性過食症に対するフルオキセチンだけである.事実,欧米の摂食障害ガイドラインでは,薬物療法は精神療法ができない特殊な状況でのみ許されている.精神科以外の医療関係者には理解しにくいであろうが,現在の精神科診断は病因論を排した操作的診断基準であり,治療に直結しない.そこで,より治療的な視点が必要とされるのである.
 摂食障害に相当の割合で社交不安障害の併存が認められ,さらに社交不安障害発症が先行していることが分かっており,社交不安障害からの視点による摂食障害治療の有効性が示されている2).摂食障害全体をカバーする病因論ではなく,治療的視点から摂食障害の一部を理解しようとするものである.

参考文献

1)永田利彦:病理と病態.日本摂食障害学会(監修),「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会(編):摂食障害治療ガイドライン.pp15-18,医学書院,2012
2)永田利彦,他:摂食障害における社会不安障害.精神医49:129-135, 2007
3)永田利彦:神経症圏の再構築.精神科診断11:11-18, 2018
4)新美妙美,他:発達障害診療における小児科から精神科へのトランジション.精神科治療32:1573-1578, 2017
5)Lock J, et al:Treatment Manual for Anorexia Nervosa:A Family-Based Approach, 2nd ed. New York, Guilford Press, 2012 永田利彦(監訳)「神経性やせ症治療マニュアル」が金剛出版より近く発行予定である.
6)Thompson-Brenner H, et al:Personality subtypes in eating disorders:validation of a classification in a naturalistic sample. Br J Psychiatry 186:516-524, 2005
7)Nagata T, et al:Generalized social anxiety disorder:A still-neglected anxiety disorder 3 decades since Liebowitz's review. Psychiatry Clin Neurosci 69:724-740, 2015
8)Marks IM, et al:Different ages of onset in varieties of phobia. Am J Psychiatry 123:218-221, 1966
9)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 3rd ed. American Psychiatric Press, Washington, DC, 1980
10)Liebowitz MR, et al:Social phobia. Review of a neglected anxiety disorder. Arch Gen Psychiatry 42:729-736, 1985
11)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, New ed of 3 Revised ed. American Psychiatric Press, Washington, DC, 1987
12)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5. American Psychiatric Publishing, Washington, DC, 2013
13)Kagan J:The Human Spark:The Science of Human Development. NY, Basic Books, 2013
14)高橋徹:対人恐怖—相互伝達の分析.医学書院,1976

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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