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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻2号

2019年02月発行

文献概要

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

エビデンスに基づく感染症対策—国際移住機関(IOM)によるエボラ対応

著者: 三宅紗知子1

所属機関: 1国際移住機関(IOM)本部 Migration Health Division

ページ範囲:P.139 - P.142

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はじめに
 国際移住機関(International Organization for Migration:IOM)は,世界的な人の移動に関する課題を専門に扱う国連機関である.今日の「移民」1)は,国境を越える者と国内移住する者を合わせて,有史以来,最も多い約10億人である.すなわち,世界の7人に1人が移民と推計されている2).その背景には,災害,紛争,経済的不均衡など,さまざまな要因がある.IOMは「正規のルートを通して,人としての権利と尊厳を保障する形で行われる人の移動は,移民と社会の双方に利益をもたらす」という基本理念に基づき,直接支援や技術協力などを通じて,移住にまつわる課題の解決に努めている.保健医療分野における人道・開発支援もIOMの役割の一つである.
 人の移動は健康の社会的決定要因の一つであり3),国境を越えた移動の拡大を背景にして,感染症対策についても国際的な取り組みが強化されている.公衆保健上の安全を確保することを目的として世界保健総会で1969年に採択された「国際保健規則」(International Health Regulations:IHR)についても,人口移動の増加に伴う感染症の拡大に対する懸念などから,各加盟国がアウトブレイク対応に関して最低限備えておくべき能力(コア・キャパシティ,core capacity)を規定した改訂版が2005年に採択されている4)
 IOMは,人の移動や国境管理に関する専門性を生かして,コア・キャパシティのうち,国境地帯などにおけるサーベイランス強化や入域地点(point of entry)の能力強化などを支援している.
 入域地点とは,旅行者,輸送機関,物品などの国境を越えた入出国のための通過点(空港,港,陸上越境地点),および,それらに対して入出国手続き業務を提供する機関ならびに区域をいう5).IHRでは,各国は自国内の指定した入域地域において衛生措置を監督し,公衆衛生上のリスクを阻止することが求められている6)
 IOMが活動する国々(特に本稿で例示するアフリカ諸国)では,陸続きの国境線の至る所が長大な陸上越境地点となり得るため,入出国管理施設が必ずしも整備されていない越境地点もある.IOMはそうした面の能力強化にも取り組んでいる.

参考文献

1)IOM駐日事務所:「移民」の定義.http://www.iomjapan.org/information/migrant_definition.html IOMは,「移民」を「当人の①法的地位,②移動が自発的か非自発的か,③移動の理由,④滞在期間にかかわらず,本来の居住地を離れて,国境を越えるか,一国内で移動している,または移動したあらゆる人」と定義しており,国境を越えるもののみならず,国内移住した人々も含まれる.
2)IOM駐日事務所:IOMの活動.http://www.iomjapan.org/information/index.html
3)IOM:Social Determinants of Migrant Health. https://www.iom.int/social-determinants-migrant-health
4)WHO:International Health Regulations(IHR). http://www.who.int/topics/international_health_regulations/en/
5)厚生労働省:国際保健規則(2005)(仮訳).https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf
6)WHO:Points of entry:IHR, Annex 1b and relevant articles. http://www.euro.who.int/en/health-topics/emergencies/international-health-regulations/points-of-entry
7)国立感染症研究所:エボラ出血熱とは.https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/342-ebola-intro.html エボラ出血熱はエボラウイルスによる急性熱性疾患であり,ウイルス性出血熱の一疾患である.本疾患が必ずしも出血症状を伴うわけではないことなどから,近年ではエボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)と呼称されることが多い.
8)WHO:Situation Report Ebola Virus Disease, 10 June 2016. http://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/208883/ebolasitrep_10Jun2016_eng.pdf;jsessionid=C30F2929737DF08A409417723C61709F?sequence=1
9)Centers for Disease Control and Prevention:Years of Ebola Virus Disease Outbreaks 40 Years of Ebola Virus Disease around the World. https://www.cdc.gov/vhf/ebola/history/chronology.html
10)WHO:Ebola situation reports:Democratic Republic of the Congo. http://www.who.int/ebola/situation-reports/drc-2018/en/
11)IOM:IOM DR Congo Migration Health Division Ebola Response-North Kivu 01-15 September 2018-Situation Report 3. https://www.iom.int/sites/default/files/situation_reports/file/congo_sr_20180901-15.pdf
12)IOM:Displacement Tracking Matrix(DTM). https://www.globaldtm.info/

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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