特集 公衆衛生の実践倫理
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著者:
瀧澤利行1
所属機関:
1茨城大学教育学部教育保健教室
ページ範囲:P.171 - P.171
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近年の公衆衛生学では,個人情報保護や疫学研究に関する倫理指針の制定・改定など,プライバシーや人権保護に関する基準の厳格化が進んでいる.一方で,健康の社会的格差の是正についての国際的動向の中で,社会経済的な要因などを背景とした「健康格差」が公衆衛生上の大きな課題となっている.健康格差には,その拡大要因としての倫理的課題(倫理的にみて不公正な要因による格差など)があり,また,その是正に向けた政策推進においても実践的な倫理的課題が多い.学校保健や環境保健,産業保健の領域においても,健康診断の項目のあり方,ヒトとヒト以外の生物の生態系保護の課題,長時間労働やこれに対する「働き方改革」など,これまで明確に意識されていなかった健康に関する実践倫理的課題が提起されている.公衆衛生実践をより人間本位の活動として成熟させていくためにも,そうした課題について,可及的速やかに理論的・実践的な検討を行う必要が生じている.
本特集は,公衆衛生の各領域において今日新たに対応が求められている実践倫理的な問題を解説することを目的にして企画した.公衆衛生活動において配慮を要するべき実践的倫理的諸課題について,第一線に立つ研究者が論点を整理し,対応を論じることによって公衆衛生活動における関心の喚起を図っている.本特集で扱われる諸課題は,即座に解決ができるようなシンプルな構造のものではない.ステークホルダーが長期にわたってそれぞれの立場と相反する立場の意見を理解しながら,その時点での最適解を求めて議論すべき課題といえる.