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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻3号

2019年03月発行

文献概要

特集 公衆衛生の実践倫理

健康格差の是正—公衆衛生倫理の視点で考える

著者: 井上まり子1

所属機関: 1帝京大学大学院公衆衛生学研究科

ページ範囲:P.184 - P.189

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はじめに—健康格差とは
 人々の健康度には差がある.地域や社会経済状況の違いによる集団の健康状態の差を「健康格差」という.社会疫学の研究から,所得階層,教育,職位などが高水準にあるほど疾病罹患率や死亡率が低いことなどが知られている1).日本では近藤2)らによる日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)が代表的な研究であり,これによると,高齢者のうつ発症や主観的健康感の悪さ,健診の低受診率などが低所得者層でみられる.今日では英国や米国はもとより,日本でも健康格差の存在は疑う余地がない.
 健康格差の存在が明確になるにしたがって,それに対する介入が考え始められている.「健康日本21(第二次)」3)の目標として「都道府県別の平均寿命の差にみられる地域の差の是正」が採用された.健康格差とその是正は公衆衛生の一般的話題になり始めている.

参考文献

1)リサ・F・バークマン他(著),高尾総司,他(監訳):第2章 社会経済的状況と健康.社会疫学 上.pp25-91,大修館書店,2017
2)近藤克則:健康格差社会への処方箋.医学書院,2017
3)厚生労働省:健康日本21(第二次).https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html
4)World Health Organization:The Helsinki Statement on Health in All Policies. http://www.who.int/healthpromotion/conferences/8gchp/8gchp_helsinki_statement.pdf
5)ノーマン・ダニエルズ,他(著),児玉聡(監訳):Ⅰ.正義はわれわれの健康によい.健康格差と正義 公衆衛生に挑むロールズ哲学.勁草書房,2008
6)児玉聡:第1章倫理学の基礎.赤林朗(編):入門・医療倫理Ⅰ.pp15-27,勁草書房,2005年
7)近藤尚己:健康格差対策の進め方 効果をもたらす5つの視点.医学書院,2016
8)NHKスペシャル取材班:第5章 白熱討論!「健康格差」は自己責任か.健康格差 あなたの寿命は社会が決める.pp148-166,講談社,2017
9)グレッグ・ボグナー,他(著),児玉聡(監訳):第6章 健康に対する責任.誰の健康が優先されるのか 医療資源の倫理学.pp236-276,岩波書店,2017
10)阿部彩:子供期の貧困が成人後の生活困難(デプリベーション)に与える影響の分析.季刊・社会保障研究46:354-367, 2011
11)Inoue M, et al:Full-time workers with precarious employment face lower protection for receiving annual health check-ups. Am J Ind Med 55:884-892, 2012
12)Dahlgren G, et al:Policies and Strategies to Promote Social Equality in Health. Institute of Future Studies. Stockholm, 1991
13)Christakis NA, et al:The spread of obesity in a large social network over 32 years. N Engl J Med 357:370-379, 2007
14)Nishikitani M, et al:Effect of unequal employment status on workers' health:results from a Japanese national survey. Soc Sci Med 75:439-451, 2012
15)浦川邦夫,他:第12章 健康の公平性と倫理.川上憲人,他(編):社会と健康 健康格差解消に向けた統合科学的アプローチ.pp233-252,東京大学出版会,2015
16)島内明文:第8章 政治哲学の諸理論Ⅱ.赤林朗,他(編):入門・医療倫理Ⅲ 公衆衛生倫理.pp145-175,勁草書房2015
17)井上まり子:第11章 健康増進.赤林朗,他(編):入門・医療倫理Ⅲ 公衆衛生倫理.pp243-263,勁草書房2015
18)公益財団法人医療科学研究所「健康の社会的決定要因(SDH)」プロジェクト:健康格差対策の7原則.http://www.iken.org/project/sdh/pdf/17SDHpj_ver1_1_20170803.pdf
19)厚生労働省研究(地球規模保健課題推進研究事業)健康の社会的決定要因に関する研究班:公平な社会,健康な生涯 マーモット・レビュー(The Marmot Review)エグゼクティブ・サマリー.http://sdh.umin.jp/translated/2010_marmot.pdf

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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