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特集 公衆衛生の実践倫理
感染症対策における防除と環境倫理
著者: 梅﨑昌裕1 苅田香苗2
所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類生態学分野 2杏林大学医学部衛生学公衆衛生学教室
ページ範囲:P.202 - P.207
文献購入ページに移動1.生態系の構造
感染症対策におけるペスト・コントロール(pest control.媒介生物の駆除事業)に関わる倫理的な問題を考えるに当たって,まずは生態系の成り立ちについての基本的な話から始めたい.地球上の生物の中で,有機物を生産する役割は主に植物が担っている.植物は太陽エネルギーを使って水と大気中の二酸化炭素から炭水化物を合成し,その過程で生じた酸素を大気中に放出する.植物は植食動物の餌となり,植食動物は肉食動物の餌となる.したがって,生態学では植物を生産者,動物を消費者と分類する.一方,植物や動物の遺体を分解して無機物に戻す役割を担うのが細菌・菌類などであり,分解者と呼ばれる.生産者によって固定された太陽エネルギーは捕食-被食関係によって生態系の中を流れ,物質は捕食-被食関係を通じて生態系の中を循環する(図1).
一般的に生態系の中では,膨大な種数の生物が捕食-被食関係によって網の目のようにつながっており(食物網という),同じような餌および生存環境をめぐって複数の生物種が競合関係にある.生物多様性の高い生態系,言い換えれば多くの生物種が含まれる生態系には,外的な圧力あるいは変化に対する強いレジリエンス(resilience.自然回復力)が備わっているのが普通である.
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