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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻3号

2019年03月発行

文献概要

特集 公衆衛生の実践倫理

アディクションと公衆衛生の倫理

著者: 森田展彰1

所属機関: 1筑波大学医学医療系

ページ範囲:P.214 - P.220

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はじめに
 飲酒や薬物などの嗜好品,ギャンブルなどの趣味・習慣は,本来は自由に楽しめるものである.しかし,その程度や頻度が過剰な場合には深刻な健康障害や心理社会的障害を引き起こす.以前は「酒乱」や「ジャンキー」など意志薄弱などの人格的な問題として扱われていたが,近年は「依存症」というコントール障害であると考えられるようになり,治療・相談が行われるようになってきた.しかし,まだ十分といえない状況である.
 例えば,アルコール依存症の場合,厚労省の研究班による調査1)によれば,患者は113万人であるのに対して,治療を受けている人は約4万人であり2),大きなギャップがある.薬物に関しては,覚せい剤や大麻はその所持や使用を犯罪として取り締まる方法で社会的にコントールしようとしてきたが,収監された受刑者の6割以上が再犯をしており,あらためて,処罰よりも治療や回復支援が必要であることが指摘されている3).ギャンブルについては,わが国はカジノの導入を進めており,ギャンブルを良いレクリエーションとして用いようとする人々と,ギャンブルへの依存症が増えることへの懸念から反対する人々の間で議論が生じている.なお,カジノが話題となっている一方,実はパチンコの依存症がすでに大きな問題になりながらも治療や相談体制が十分でなかったことも明らかになっている.
 現在は多様な楽しみを求める時代であり,個人の嗜好にあった飲食や趣味を楽しむ権利を保障しつつ,それがもたらすリスクについて,どのように対応していくかが,あらためて問われている.上述のように依存症対策は進められているが,十分な支援にたどり着いている事例は一部にすぎないため,公衆衛生的な対策や,依存症になる前の予防啓発が重要であると思われる4)
 本稿では,あらためてアディクション(addiction. 嗜癖)の基本的な理解を確認したうえで,その予防・治療を進めるために,いかにこの問題に対する社会的な認識を高めていくべきかを論じた.

参考文献

1)樋口進(主任研究者):平成25(2013)年度厚生労働科学研究 WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害仕様対策に関する総合的研究.https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201315050A
2)厚生労働省:平成26年 患者調査(傷病分類編).https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/
3)法務省:平成29年版犯罪白書〜更生を支援する地域のネットワーク〜.法務総合研究所,2017 http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html
4)公衆衛生審議会精神保健部会 アルコール関連問題専門委員会:今後におけるアルコール関連問題予防対策について.https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/alcohol/siryo/h5teigen.html
5)National Institute on Drug Abuse:Drugs, Brains, and Behavior:The Science of Addiction Drug Misuse and Addiction. https://www.drugabuse.gov/publications/drugs-brains-behavior-science-addiction/drug-misuse-addiction#footnote
6)日本精神神経学会:DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン.https://www.jspn.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=75
7)Barnett AI, et al:The Clinical Impact of the Brain Disease Model of Alcohol and Drug Addiction:Exploring the Attitudes of Community-Based AOD Clinicians in Australia. Neuroethics 8:271-282, 2015
8)Lewis M:Addiction and the Brain:Development, Not Disease. Neuroethics 10:7-18, 2017
9)Matthews S:Chronic Automaticity in Addiction:Why Extreme Addiction is a Disorder. Neuroethics 10:199-209, 2017
10)Racine E, et al:Free Will and the Brain Disease Model of Addiction:The Not So Seductive Allure of Neuroscience and Its Modest Impact on the Attribution of Free Will to People with an Addiction. Front Psychol 8:1850, 2017
11)Snoek A:How to Recover from a Brain Disease:Is Addiction a Disease, or Is there a Disease-like Stage in Addiction?. Neuroethics 10:185-194, 2017
12)Williamson L:Destigmatizing alcohol dependence:the requirement for an ethical(not only medical)remedy. Am J Public Health 102:e5-8, 2012
13)松本俊彦,他:物質使用障害患者における自殺念慮と自殺企図の経験.精神医51:109-117, 2009
14)田中克俊:いわゆるギャンブル依存症の実態と地域ケアの促進,厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業 平成19〜21年度総合分担研究報告書.2010
15)成瀬暢也,他:アルコール 薬物問題をもつ人の家族の実態とニーズに関する研究.樋口進(主任研究者)平成20年度障害者保健福祉推進事業 依存症者の社会生活に対する支援のための包括的な地域生活支援事業分担研究報告書.2009
16)森田展彰,他:厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)「ギャンブル障害のある者の家族に対する支援ツールの開発」分担研究報告書.2018
17)van der Eijk Y, et al:Towards a ‘Sociorelational’ Approach to Conceptualizing and Managing Addiction. Public Health Ethics 9:198-207, 2016
18)上岡陽江,他:その後の不自由 「嵐」のあとを生きる人たち.医学書院,2010
19)Kang S, et al:Adverse effect of child abuse victimization among substance-using women intreatment. Journal of Interpersonal Violence 14:657-670, 1999
20)梅野 充,他:薬物依存症回復支援施設利用者からみた薬物乱用と心的外傷との関連.日アルコール・薬物医会誌44:623-635, 2009
21)Specker SM, et al:Psychopathology in pathological gamblers seeking treatment. J Gambl Stud 12:67-81, 1996
22)松本俊彦,他:ハームリダクションとは何か 薬物問題に対する,ある一つの社会的選択.中外医薬社,2017
23)Global Commission on Drug Policy:Taking Control:Pathways to Drug Policies That Work. http://www.globalcommissionondrugs.org/reports/taking-control-pathways-to-drug-policies-that-work/
24)アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク:アル法ネットによる基本法の構想.http://alhonet.jp/law.html

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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