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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻5号

2019年05月発行

文献概要

特集 循環器疾患を予防する

循環器疾患と医療費—危険因子からの考察

著者: 中村幸志1

所属機関: 1北海道大学大学院医学研究院社会医学分野公衆衛生学教室

ページ範囲:P.362 - P.366

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はじめに
 高齢化,現代人の生活環境に起因する疾病構造の変化,医療の高度化などによって,わが国の国民医療費は年々増加している.2016年度の国民医療費は42兆1,381億円,人口一人当たりの医療費は332,000円であった1).循環器疾患(心疾患,脳卒中など)は国民医療費(ただし,医科診療医療費30兆1,853億円)の第一位の傷病として,その19.7%を占めていた.循環器疾患は,日本人の死因としてがんに次ぐ位置である重篤さのみならず,国民医療費への影響の大きさも考慮して取り組むべき公衆衛生の課題といえる.
 循環器疾患もがんも「生活習慣病」と称される疾病であり,さまざまな生活習慣がこれらの発生に寄与している.したがって,発生を防ぐ一次予防では生活習慣の修正が重視される.しかし,循環器疾患とがんの一次予防戦略で異なる点は,循環器疾患では血圧,血糖,血清脂質などの身体指標に着目することである.健康診査(以下,健診)でこれらを測定し,適正範囲から外れる値を呈する者(危険因子保有者=ハイリスク者)に対して個別に介入することが循環器疾患予防では一般的である.しかも,そのハイリスク者に対して生活習慣の修正を促すのみならず,長年にわたって薬物療法で管理していくことが珍しくない.このため,国民医療費低減を視野に入れて循環器疾患と医療費について論じる際,危険因子と医療費の観点から論じることが循環器疾患予防戦略と合致する.この基礎資料となるエビデンスは健診と診療報酬明細書(レセプト)のデータを活用することで得られるが,日本にこの類いのエビデンスはあまりない.
 本稿では,健診・レセプトデータ活用の先駆事例である「滋賀国保コホート研究」2)〜6)と「厚生労働科学研究」(特定健診・特定保健指導と医療費に関する研究班)7)の知見を概観し,循環器疾患危険因子と医療費について論じる.

参考文献

1)厚生労働省:平成28年度 国民医療費の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/16/dl/data.pdf
2)Nakamura K, et al:Impact of hypertension on medical economics:A 10-year follow-up study of national health insurance in Shiga, Japan. Hypertens Res 28:859-864, 2005
3)Nakamura K, et al:Medical costs of patients with hypertension and/or diabetes:A 10-year follow-up study of National Health Insurance in Shiga, Japan. J Hypertens 24:2305-2309, 2006
4)Nakamura K, et al:Medical expenditures of men with hypertension and/or a smoking habit:a 10-year follow-up study of National Health Insurance in Shiga, Japan. Hypertens Res 33:802-807, 2010
5)Okamura T, et al:Effect of combined cardiovascular risk factors on individual and population medical expenditures:a 10-year cohort study of national health insurance in a Japanese population. Circ J 71:807-813, 2007
6)循環器疫学サイト:滋賀国保コホート研究.http://www.epi-c.jp/e020_1_0001.html
7)Nakamura K, et al:Treated and untreated hypertension, hospitalization, and medical expenditure:an epidemiological study in 314622 beneficiaries of the medical insurance system in Japan. J Hypertens 31:1032-1042, 2013
8)Moturu ST, et al:Predictive risk modelling for forecasting high-cost patients:a real-world application using Medicaid data. Int J Biomed Eng Technol 3:114-132, 2010
9)Rose G:Sick individuals and sick populations. Int J Epidemiol 14:32-38, 1985

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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