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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生83巻6号

2019年06月発行

雑誌目次

特集 学校における子どもの健康課題

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.415 - P.415

 教育基本法では,教育の目的の一つに「心身ともに健康な国民の育成」を掲げています.戦後の学校保健は,1958年に学校保健法が制定され発展してきました.しかしながら,社会状況などの変化に伴って,学校保健,食育・学校給食,学校安全にさまざまな課題が生じたことから,中央教育審議会は「子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」諮問を受け,2008年に答申を行いました.これらの状況を受けて,2009年に「学校保健安全法」が施行されました.学校保健は健康を担保する憲法25条に基づいて行われる文部科学省管轄の活動です.公衆衛生活動との連携の必要性は以前から提起されていますが,現在も連携が進展しているとは言えない状況です.
 しかし,家庭,地域,学校などを取り巻く環境が急速に変化していく中で,子どもの健康・生活・安全面において,自閉症・学習障害児の増加,飲酒・喫煙・肥満などの生活習慣の問題,性行動の問題,気候変動による熱中症事故,給食における異物混入・食中毒,集団風邪・季節性インフルエンザなどの感染症などが問題として挙げられています.これらの問題には学校保健安全法のみでは対応が困難であり,これまで以上に食品衛生法,感染症法などを管轄する保健所や他の関係機関との連携が重要と思われます.

日本における学校保健の変遷と今後の展望

著者: 瀧澤利行

ページ範囲:P.416 - P.422

学校保健の基本的な考え方
 学校保健とは,幼児,児童生徒,学生および学校に勤務する教職員の健康を保持・増進し,健康を通じて豊かな人間形成を図るために主として学校でなされる活動の総体をいう.学校保健を主に子どもや青年の健康と,発達に関わる営みとして考えると,大きく分けて二つの機能を有している1).一つは,日本国憲法で定めた国民の「健康で文化的な」生活を営む権利を保障する上で国に課せられた責務である「公衆衛生の向上および増進」の一環として,幼児,児童生徒,学生の心身の健康を保持増進する機能(公衆衛生的機能)である.もう一つは,その学校において集団の健康を保持増進する過程を通じて,自己あるいは集団が自立的存在として主体形成・集団形成していく機能(教育保健的機能)である.
 本稿では,日本における学校保健の変遷と今後の展望について,上記の二つの機能がどのように関連してきたのか,また,学校保健が子ども・青年の健康をどのように支えてきたかを中心にして述べる.

児童生徒の安全確保に向けた防災教育

著者: 宮﨑賢哉

ページ範囲:P.424 - P.427

はじめに
 一般社団法人防災教育普及協会(以下,本協会)は防災教育の普及啓発を目的とした社団法人である.内閣府(防災担当)が進める防災教育支援事業「防災教育チャレンジプラン」1)の実行委員会メンバーを中心とする防災教育・安全教育の有識者らによって2014年3月に設立された.平田直教授(東京大学地震研究所)を会長とし,首都圏を中心に学校・自治体・企業などの防災教育訓練への講師・アドバイザー派遣,各種セミナーやイベントなどに取り組んでいる.
 本稿では,筆者の実践経験や事例を中心にして,児童生徒の安全確保に向けた防災教育について述べる.

学校における食物アレルギー対応の課題と展望

著者: 吾妻大輔 ,   海老澤元宏

ページ範囲:P.428 - P.434

はじめに
 食物アレルギーとは,医学的には「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して,生体にとって不利益な症状が惹起される現象」1)である.
 学童期において食物アレルギーは食事が関係する活動に大きく影響する.誤食によってアナフィラキシーを含む症状を起こし,ショックを起こしたり,まれに命に関わったりすることもある.全ての児童・生徒が“安心・安全”に学校生活を送ることができるようにするためには,関係者が正しい知識を持ち,適切に対応する必要がある.

児童・生徒のこころの健康問題

著者: 山下俊幸

ページ範囲:P.435 - P.441

はじめに
 厚生労働省の患者調査1)によれば,精神疾患で受療している人は増加傾向にある.2014(平成26)年には約392.4万人となり,おおむね国民の30人に1人が受療していることになる.疾患別では,気分障害,神経症性障害,認知症などの増加が目立っている.認知症を除いて,精神疾患の多くは青年期の発症が特徴的であり,早期に適切な支援や治療がなされないならば,学業面だけでなく,その後の就業や社会生活にもさまざまな影響を及ぼすことになる.このため,児童・生徒のこころの健康の保持や,こころの健康問題への早期対応は重要である.
 児童・生徒のこころの健康問題としては,従来から課題となっている不登校,いじめ,被虐待,発達障害などがある.近年は,これらに加えて,ネット依存,大麻などの薬物乱用,自死,性別違和など,今日的な課題も少なくない.児童・生徒のこころの健康問題が学校における健康問題の重要な課題の一つとなっていることは論をまたないであろう.これらの課題に対応するためには,学校におけるさまざまな取り組みが重要である.一方で,児童・生徒のこころの健康問題は子ども自身の問題だけではなく,周囲の環境から子どもが受けるストレスにより生じていることが多いので,家庭や学校だけで完結するものではなく,多くの関係機関と連携・協働しながら取り組む必要があると考える.とりわけ精神保健関係機関との連携が不可欠と考えるが,必ずしも十分な連携が行われていないのが現状であり,今後の取り組みが求められている.

学校・園における食育推進活動

著者: 児玉浩子 ,   岡山和代

ページ範囲:P.442 - P.447

食育基本法
その背景と公布後の経過
 食育基本法1)は2005年6月に公布され,同年7月に施行された.2015年に一部改定されたが,食育基本法が公布されてから2019年は14年目となる.その間,自治体,学校・園,企業などで,さまざまな取り組みがなされてきた.本稿では,まず原点に立ち返って,食育基本法が制定された背景や食育基本法の基本理念の概要を改めて再確認する.食育という言葉については,すでに明治時代に石塚左玄が「体育も知育も才育も全て食育にあると認識すべき」と述べている.
 食育基本法の前文には,食育について『生きる上での基本であって,知育,徳育及び体育の基礎となるべきものと位置づけるとともに,様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し,健全な食生活を実践することが出来る人間を育てる』と記載されている.また,本法が設定された経由と,その背景が記載されている.背景として,表1のような食に関する問題が深刻になっていると述べている.

児童生徒の喫煙・飲酒防止教育

著者: 尾﨑米厚

ページ範囲:P.448 - P.453

喫煙・飲酒防止教育の根拠
 文部省(当時)による「喫煙防止教育等の推進について」1)という体育局学校健康教育課長通知(1995年)では,「学校における喫煙防止教育等の推進」を求めている.これは,厚生省(当時)から文部省に対してなされた要請を受けたものであり,公衆衛生審議会から意見具申された「たばこ行動計画検討会報告書」において,①未成年者の喫煙を防止するための教育を学校,地域,家庭において積極的に推進すべきこと,②学校などの公共の場においては,利用者に対する教育上の格段の配慮が必要とされることから,禁煙原則に立脚した対策を確立すべきこと,などが指摘されていることによる.
 未成年者の薬物乱用の中で最も重要なものに喫煙と飲酒がある.未成年のうちからの喫煙開始は生涯喫煙年数および喫煙量を多くするため,成人になってからの健康影響も大きい.未成年で喫煙を開始した者は,より重症のニコチン依存に陥りやすく,その後,喫煙中止することも少なく,喫煙をやめようとしても成功率が低いことが報告されている2).未成年者に対する喫煙防止教育の医学的根拠はこれである.

学校における感染症への対応

著者: 小林沙織

ページ範囲:P.454 - P.459

はじめに
 学校は児童生徒等が集団生活を営む場である.感染症が発生した場合,感染が拡大しやすく,教育活動に大きな影響を及ぼすこととなる.感染症の流行を予防することは,教育の場・集団生活の場として望ましい学校環境を維持するとともに,児童生徒等が健康な状態で教育を受けるためにも重要である.

学校における歯科保健対策

著者: 有田憲司

ページ範囲:P.460 - P.465

はじめに
 わが国では,かつて人類が経験したことがない超少子高齢・人口減少社会が進行中であり,現在の小学生の半数は100歳以上生きるという推定さえある1).そのような未来に向けて,「健康日本21(第二次)」2)では第一の目標として「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を掲げている.最近の研究では,口腔の健康は全身の健康に関与していることが多数報告されている3)〜5).2011年には「歯科口腔保健の推進に関係する法律」6)も施行され,口腔の健康づくり対策が重要視されてきた.
 生涯にわたる健康づくりにおいて,保護者などによって管理される「他律的健康づくり」から,自らの意志や行動による「自律的健康づくり」へと移行していく大切な転換期に当たるのが学齢期である.したがって,学校における口腔の健康づくりを含む健康教育が一生の健康づくりを決定するといっても過言ではない.
 近年の社会環境の変化に伴い,子どもの日常生活習慣にも変化がみられる.学校歯科保健には,従来の歯や歯科疾患に対する局所的対応ではなく,子どもの健康そのものを広く考え,生活習慣や家庭環境あるいは保健教育などに対する積極的な支援が要求されるようになってきた.その流れにおいて,2015年に日本学校歯科医会の「学校歯科医の活動指針」7)が改訂された.学校歯科保健の目標は,子どもが自律的に口腔の健康を考え,その意義を理解し,卒業後も自己管理と定期的な専門的管理を自発的に行える児童生徒を育成することであるといえる.また,口腔の健全な発育は,う蝕,歯周疾患,歯列不正・咬合異常など疾病・異常があると障害されるため,学校における歯科健康診断(以下,学校健診)は,これら疾病・異常の早期発見を主な目的としている.
 公衆衛生の分野においても,口腔の健康は「健康日本21(第二次)」2)に加え,「健やか親子21」でも取り上げられている重要な課題の一つである.本稿では公衆衛生関係者の知っておくべき「歯および口腔の健康」について概説する.

特別支援教育の推進—特別な支援を必要とする児童・生徒の就学とその支援

著者: 和田慎也

ページ範囲:P.466 - P.473

特別支援教育とは
 「特別支援教育」とは,障害のある幼児・児童・生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点に立ち,幼児・児童・生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善または克服するため,適切な指導および必要な支援を行うものである1).2007(平成19)年4月,これまでの「特殊教育」から「特別支援教育」へと転換が図られた.同年の学校教育法の改正によって特別支援教育は,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,知的な遅れのない発達障害も含めた,特別な支援を必要とする幼児・児童・生徒が在籍する全ての学校において実施されるものと位置付けられた.

視点

今,研究者として考えていること

著者: 後藤温

ページ範囲:P.412 - P.413

はじめに
 「公衆衛生」の諸問題を把握し対処するために,私たちはデータを収集し,分析し,結果を解釈し,活用している.現在,かつて想像できなかったくらい膨大なデータにアクセスすることが可能な状況となっている.深層学習(ディープラーニング)を含む機械学習技術の飛躍的な発展によってデータ分析の変革期にもあり,将来は,夢のような分析が可能となるのではないかという期待も膨らんでいる.しかし,現実には課題も多い.本稿では,私が研究者として取り組みたいと考えていることを紹介する.

連載 衛生行政キーワード・131

「保育所における感染症対策ガイドライン」の改訂

著者: 梅木和宣

ページ範囲:P.474 - P.476

はじめに
 「保育所における感染症対策ガイドライン」1)(以下,本ガイドライン)は乳幼児期の特性を踏まえた保育所における感染症対策の基本を示すものとして2009年8月に策定された.その後,2012年11月に改訂され,各保育所において活用されてきた.2017年の「保育所保育指針」2)の改定,関係法令などの改正,最新の知見などを踏まえ,有識者による検討会3)を経て,2018年3月に再度,改訂が行われた.今回の改訂では,新たに「関係機関との連携」に関する項目が設けられ,保育所と医療・保健機関,行政機関との連携の重要性などが明記された.
 本稿では,2018年に改訂された本ガイドライン1)について説明する.

リレー連載・列島ランナー・123

大阪泉南地域の連携を生かした動脈硬化性疾患の予防—ガイドラインによる評価と家族性高コレステロール血症の発見

著者: 増田大作

ページ範囲:P.477 - P.481

はじめに
 皆さん初めまして,りんくう総合医療センター(以下,当センター)の増田大作です.私はずっと大阪大学大学院医学研究科で循環器内科医として,動脈硬化性疾患(虚血性心疾患・脳卒中・末梢動脈疾患)の強いリスク因子である脂質代謝異常,特に高トリグリセライド血症や耐糖能異常の基礎研究・臨床研究を進めてきました.多くの論文発表や学会発表を行いましたが,それだけでは実際の疾患発症率の低下が実感できませんでした.
 自らの知見を生かして地域の予防医療に関与したいと考え,2018年4月に大阪府南部にある当センターへ移り,そして,臨床研究センターとして「りんくうウェルネスケア研究センター」を立ち上げました.公衆衛生や地域医療に関しては全くの素人ですが,専門分野である動脈硬化性疾患のリスク評価や治療に関してはお役に立てることも多いと考えています.

ヘルスコミュニケーションと健康な社会づくりを考える Dr.エビーナの激レア欧州体験より・10

—外国人患者家族としてのスコットランド体験と学び・その7—海外旅行保険—サービスと重要性

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.482 - P.485

 前回まで,2017年にスコットランドの首都であるエディンバラで私の母が転倒し,大腿骨を骨折したため,①現地の病院で人工股関節全置換術の手術をしたこと,②術後に肺血栓塞栓症を発症したこと,③フライトリスクを考慮して,退院後もホテルで3週間近く療養生活を送ったことなどについてリポートしてきました.今回は,いよいよ帰国についてです.

予防と臨床のはざまで

日本成人病学会シンポジウム

著者: 福田洋

ページ範囲:P.486 - P.486

 ある日の昼下がり,医学部長(当時)から一本の依頼の電話がかかってきました.循環器内科学の教授でもある代田浩之先生は,第53回日本成人病(生活習慣病)学会学術集会(2019年1月12日・13日.http://jsad53.umin.jp/greeting.html)の会長です.日本医師会認定産業医の単位にもなる,産業保健寄りのセッションを2つ企画せよ,という指示でした.内科医や開業医の先生方も多く出席する学会ということで,重責にビビりつつも,臨床の先生方に「産業保健をアピールする重大なチャンス!」と,気合を入れて演者の選定を行いました.
 初日のシンポジウムは「健康経営時代の生活習慣病対策」.高橋英孝氏(東海大学医学部基盤診療学系健康管理学),滝川一氏(帝京大学医療技術学部)を座長に迎え,筆頭演者の森晃爾氏(産業医科大学産業生態科学研究所)に「健康経営の目指すもの」と題して,基本的な概念やそのメリット,大企業から中小企業に広がりつつあるムーブメントやゴールについてお話をいただきました.現場の視点では,坂本宣明氏(ヘルスデザイン社)から「産業医による働き盛り世代への生活習慣病対策」を,三輪真也氏(医療法人社団同友会)から「保健指導機関や健保の顧問医,産業医活動を通じて感じている事」をそれぞれお話しいただきました.健診事後措置や重症化予防などの地道な取り組みの紹介があり,嘱託産業医をされている先生方には,非常に身近に感じていただけたのではないかと思います.

映画の時間

—生きることは踊ること.踊ることは生きること.—ホワイト・クロウ 伝説のダンサー

ページ範囲:P.487 - P.487

 「ホワイト・クロウ」とは,直訳すれば「白いカラス」です.カラスの集団の中では目立つことから,類いまれなる傑出した人物を意味する場合と,集団のはぐれ者を指す場合とがあります.今月ご紹介する「ホワイト・クロウ」の主人公ヌレエフは実在した天才的バレエダンサーで,ある意味,傑出した人物ですが,はぐれ者的な側面もあり,まさに映画の題名がぴったり当てはまる人物です.
 時代は1961年,東西冷戦の真っただ中です.ソビエト連邦時代のKGBでしょうか,ヌレエフが亡命することを知っていたのかと,バレエ教師のプーシキン(レイフ・ファインズ)が厳しく追求されているシーンから映画は始まります.観客は,すでにヌレエフの亡命が成功していることを知ってから,時をさかのぼって彼の半生を追うことになります.一種の倒叙法で,なぜヌレエフは亡命しなければならなかったのかを常に観客は意識することになる,優れた展開だと思います.

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ページ範囲:P.411 - P.411

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.422 - P.422

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.489 - P.489

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 石原美千代

ページ範囲:P.490 - P.490

 国民健康づくり対策は1978年に開始され,現在は第4次として「健康日本21(第二次)」が展開されています.子どもに関しては「健やか親子21」がその一翼を担っています.
 「健やか親子21(第2次)」では基盤課題Bとして「学童期・思春期から 成人期に向けた保健対策」が行われています.その取り組みの内容は,性,身体活動,歯科,こころの健康,食育,喫煙飲酒,肥満・痩せとなっています.その年代の子どもたちの活動の場は学校であるため,保健行政では十分な保健活動ができているとは言えない状況です.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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