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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生83巻7号

2019年07月発行

雑誌目次

特集 SDGsと地域の公衆衛生活動

フリーアクセス

著者: 中村桂子

ページ範囲:P.495 - P.495

 「持続可能な開発のためのアジェンダ2030」は,2015年9月の国際連合総会において決議されました.2030年までの間の,先進国,開発途上国を問わない世界共通の目標とされています.その中核となる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)には17の目標と,その下に169のターゲットが掲げられています.
 目標の3番目には「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し,福祉を推進する」があります.それ以外の,貧困,食料,教育,ジェンダー,水・衛生,エネルギー,経済成長と雇用・働きがい,産業と技術革新,不平等の是正,持続可能な都市,責任ある生産と消費,気候変動,海洋資源,陸上資源,平和と公正,パートナーシップの16の目標も広義の公衆衛生に関係したものとなっています.SDGsの目標は国際機関や各国政府の取り組みだけでは達成は難しくなっています.経済産業界,公共団体,非政府機関,学術界の取り組みも不可欠です.国(政府)やその機関の取り組みだけでなく,地方自治体,地域単位における取り組みの推進も図られています.2018年には「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」が始まり,地域主体のSDGsの推進にさらに力が注がれるようになりました.

SDGsを地域の公衆衛生活動の推進に活かす

著者: 中村桂子

ページ範囲:P.496 - P.498

 本稿では,地域の公衆衛生活動において,「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」1)(以下,アジェンダ2030)に掲げられた目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に取り組むことによって,どのような価値を生み出すことが期待されるか,また,地域の活動の推進にどのように活かしたらよいのかについて紹介します.

WHOのSDGsへの取り組み—保健を通じた「誰一人取り残さない」社会の実現

著者: 山本尚子 ,   谷村忠幸

ページ範囲:P.499 - P.503

はじめに
 2015年9月の国連総会において採択された「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)には17の目標と169のターゲットが掲げられている1).保健分野の目標(SDG3)は「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し,福祉を推進する」である.その他にも,世界保健機関(World Health Organization:WHO)に信任された事項に直接的に関わる保健関連SDGsとして,貧困,食料,ジェンダー,水・衛生,エネルギー,都市・居住,平和で包摂的な社会といった目標が含まれ,さらに,教育,雇用,産業,生産消費,気候変動,パートナーシップの分野など,合計14の目標と50以上のターゲットが直接的・間接的に保健に関連している.
 本稿では,WHOが保健関連SDGsをどのように事業計画に位置付け,その達成に向けて取り組んでいるか,また,SDGsと保健関係者の日々の取り組みがどのように関連しているかを紹介する.

持続可能な開発目標(SDGs)への地域的アプローチ—OECDプログラムとその参加都市・地域による取り組み

著者: 松本忠

ページ範囲:P.504 - P.509

はじめに
 2015年9月に米国・ニューヨークの国際連合(以下,国連)本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催された.サミットには150を超える国の首脳が参加し,その成果文書として「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development)が採択された1).この文書には,2030年に向けて,地球規模での持続可能な開発に関する17の目標と169のターゲット項目が定められている.これが「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)である.
 SDGsの前身に当たる国連の「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals:MDGs)が発展途上国向けの開発目標であったのに対し,SDGsは先進国,発展途上国を問わず,全ての国連加盟国が取り組むべき目標である.またMDGsは貧困と飢餓の撲滅に重点を置いた8つの目標であったが,SDGsは持続可能な開発を目指す17のより包括的な目標となっている1)
 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)ではSDGsの実現に向けた取り組みを支援するため,2016年に「SDGsに関するOECD行動計画」を策定した2).その一環として,SDGsの実現には,国レベルだけでなく都市・地域レベルの取り組みが重要な役割を果たすべきという認識に基づいて,2018年7月の国連ハイレベル政策フォーラムにおいて,OECDプログラム「SDGsへの地域的アプローチ」3)(以下,地域的アプローチ)を立ち上げた.
 本稿では,地域的アプローチの必要性と意義について論じた後,その参加都市・地域による取り組みを紹介する.本稿が地域の公衆衛生の推進に向けた示唆となれば幸いである.

SDGsの達成に向けた地域の成長戦略

著者: 袖野玲子

ページ範囲:P.510 - P.514

はじめに
 2015年9月の「国際連合(国連)持続可能な開発サミット」において,150を超える加盟国首脳の参加の下,「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」1)(以下,アジェンダ2030)が採択された.このアジェンダ(行動計画)では,持続可能な社会の実現に向けた2030年までの具体的な目標として,貧困や飢餓の撲滅,クリーンエネルギーの普及,気候変動対策,平和的社会の構築など17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)が掲げられている.SDGsは,開発援助における2015年までの国際目標であった「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals:MDGs)2)の後継として議論されてきた.SDGsの対象はMDGsより広く,持続可能な社会の重要な要素としてPeople(人間),Planet(地球),Prosperity(繁栄),Peace(平和),Partnership(パートナーシップ)の5Pが掲げられ,その目標は環境,経済,社会の幅広い分野にわたっている.
 「持続可能な開発」(sustainable development)の理念は資源の有限性を前提にしている.1987年に「環境と開発に関する世界委員会」(World Commission on Environment and Development:WCED)によって提唱され,1992年の地球サミット以降,世界的に広く共有されるようになった.持続可能な開発は「将来世代のニーズを損なうことなく,現在の世代のニーズを満たすこと」と定義されており3),当初は経済と環境の両立を目指すことが強調されていたが,現在では,環境制約や社会的課題を解決しながら発展することとの考え方が一般的になっている.特にアジェンダ2030には基本理念として「誰一人取り残さない」(no one will be left behind)という包摂性が示されており,アジェンダ全体を通してその理念が貫かれている点が重要である.
 SDGsの特色の一つに普遍性がある4).アジェンダ2030では,国際社会,地域,国,地方など,あらゆるレベルにおいて各主体が取り組むことが求められる一方で,各国の国情,能力,開発水準を考慮に入れ,国内の政策と優先課題を尊重するとしている.つまり,SDGsは普遍的な性格を有するものの,その達成に向けては,各地域の事情や優先課題に応じたテーラーメードの目標設定や政策を実施することができるのである.
 2019年でSDGsの採択から3年以上がたち,わが国においてもSDGs達成に向けた取り組みが官民で加速している.日本は急速な人口減少・少子高齢化を迎えており,地方の過疎化や活力低下,都市への一極集中,財政悪化などの問題を抱えている.この中で,限られた資源をどう配分・活用して,持続的に発展していくかが課題である.その解決のために,一つの課題のみを対象に対策を検討しても,限界や他の課題への副作用がある.経済,社会および環境の三側面を不可分のものとして調和させる統合的取り組みが求められる.こうした包括的なアプローチは,まさにSDGsの基本的な考え方であり,SDGsは分野横断的な取り組みを進めるツールとしての性格を有している.SDGsの本質は成長戦略ともいわれる.
 本稿では,SDGsを活用した地域創生,持続的なまちづくりについて,その動向を概観するとともに,SDGs達成に向けた鍵となる要素を示す.

2025年国際博覧会とSDGs—いのち輝く未来社会のデザイン

著者: 橋爪紳也

ページ範囲:P.515 - P.519

2025年国際博覧会の大阪誘致
 2025年国際博覧会の大阪開催が決まった.2018年11月23日の午後(現地時間),パリで開催された博覧会国際事務局(International Exhibitions Bureau:BIE)総会において加盟国による投票が行われた.候補となったのは日本,ロシア,アゼルバイジャンの3カ国である.第1回投票で日本が85票と過半数を獲得し,48票のロシア,23票のアゼルバイジャンに差を付けた.上位2カ国による決選投票では日本が92票を集め,ロシアが61票にとどまった.
 国際博覧会はオリンピックのように「都市」が主催するものではなく,国際条約に基づいて政府が主催者となる国家プロジェクトである.国際博覧会(universal exposition)を日本では「万国博覧会」,略して「万国博」「万博」などと呼ぶ.

尾張旭市のまちづくりと健康都市プログラム

著者: 川本英貴

ページ範囲:P.520 - P.525

はじめに
 愛知県尾張旭市(以下,本市)は,2004年6月にWHOが提唱する健康都市の国際ネットワークである健康都市連合1)に加盟した.同年8月には健康都市宣言を行い,体の健康だけでなく,心の健康・まちの健康に総合的に取り組むこととした.2005年に「尾張旭市健康都市プログラム」2)を策定し,その後,健康都市としてさまざまな施策を展開している.2016年には健康都市連合1)の理事に就任し,連合加盟都市のけん引役を担いながら,市民と協働で,持続可能な市民参加型のまちづくりを推進している.
 本市では,2018年度から健康都市の取り組みをSDGs(Sustainable Development Goals.持続可能な開発目標)3)の目標達成と関連付け,市民への周知活動などを本格的に始めた.本稿では,本市が進めている健康都市のまちづくりの取り組みとSDGsについて述べる.
 なお,文中意見にわたる部分は私見であることをお断りしておく.

岡山市SDGs未来都市計画—誰もが健康で学び合い生涯活躍するまち,おかやまの推進

著者: 松岡克朗 ,   宮地千登世 ,   山吹美紀

ページ範囲:P.526 - P.531

はじめに
 「SDGs未来都市」はSDGs1)(Sustainable Development Goals.持続可能な開発目標)の達成に向けた優れた取り組みを内閣府が認定する制度である.制度の初年度である2018(平成30)年度は全国で29都市が選定され,岡山市(以下,本市)はその1都市に選定された2).SDGsには17の目標があるが,健康をメインテーマに掲げて未来都市に選定されたのは2018年度時点では本市のみである3)
 SDGsは,地方自治体からすれば決して新しい取り組みではない.そもそも地方自治体は持続可能なまちづくりを目標としており,それがSDGsという言葉に置き換わったという声もある.確かにそういった部分はあるが,重要なのは,SDGsをきっかけに,現状の課題を見つめ直し,2030年というゴールに向けて新たなアクションを起こすことができるかどうか,ということである.そのアクションを起こす上で重要となるキーワードが2つある.「新たな協働」と「成果とエビデンスの明確化」である.
 本稿では,本市がなぜ健康をメインテーマに掲げたのか,現状の課題は何か,それを踏まえ,何をしようとしているのか,について述べる.本市の取り組みが他の自治体の健康づくり施策の参考になれば幸いである.

ヘルスプロモーションからSDGsへの展望—熊本市の事例から

著者: 髙本佳代子

ページ範囲:P.532 - P.538

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization:WHO)が新たな健康戦略として1986年にオタワ憲章として「ヘルスプロモーション」(health promotion)を提唱して33年となる1).個々人の健康教育にとどまらず,「地域活動の強化」や,「健康支援のための環境づくり」などを推奨している.わが国においても2000年に「21世紀における国民健康づくり運動」,いわゆる「健康日本21」1)の総論にその理念が示されている.2012年には,「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」〔健康日本21(第二次)〕が発出された.健康寿命の延伸と健康格差の縮小とともに,健康を支え,守るための社会環境を整備するなどの基本的な方向を示し,ヘルスプロモーションを推奨している.
 国は2012年に「地域保健対策の推進に関する基本的な指針の一部改正について」,2013年に「地域における保健師の保健活動に関する指針」を示し,ライフサイクルを通じた健康づくりを支援するため,ソーシャルキャピタルを醸成し,学校や企業などの関係機関との幅広い連携を図りつつ社会環境の改善に取り組むなど,地域の特性を生かした健康なまちづくりを推進している2)
 一方,福祉分野では,超高齢社会の進展に伴い,高齢者を地域ぐるみで支え合う仕組みづくりである「地域包括ケアシステムの深化・推進」や,地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで,住民一人一人の暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会づくりである「地域共生社会」が進められている3)
 2015年に国際連合(国連)のサミットにおいて,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」4)においてSDGs(sustainable development goals:持続可能な開発目標)が採択され,開発目標の17項目のうち3項目に健康福祉の分野が組み入れられた.わが国においてもSDGsの対策本部が立ち上げられ,2016年12月に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が決定された5)
 上記の①健康なまちづくり,②地域包括ケアシステム,③地域共生社会づくり,④SDGsの推進の4つの施策はいずれも多様な主体が地域の特性や特徴に応じて,地域の人材や資源などを生かして課題解決をしていく「まちづくり」である.地域での具体的な実効性のある展開に当たっては,地域それぞれが地域把握・地区診断から計画・実行・評価まで同様のプロセスを踏むことになる.また,地域リーダーや担い手などの人材の育成についても重なり合うことが多い.これらを部局横断的に統合して進めることが肝要であるが,なかなか戦略的に行われていない.
 推進方法は二つのアプローチから成り立っていると考えられる.一つ目は,多様な主体が得意とする,あるいは関連する分野を進めていくテーマ型アプローチである.二つ目は,地域内の共通する課題を地域内の多様な関係者間で解決していくエリア型アプローチである.
 熊本市は,市町村レベルの取り組みとして全国に先駆けて慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)対策6)を多様な関係者間で展開した.本稿では,新規人工透析患者数の減少などの成果を上げたテーマ型アプローチの事例と,まちづくり部門など多部局と連携して展開しているエリア型アプローチの小学校区単位の健康まちづくりの事例を紹介する.また,SDGs達成に向けた推進のあり方を考察する.

SDGsの推進における行政,市民団体,NPO,企業のパートナーシップ

著者: 千葉光行

ページ範囲:P.540 - P.545

健康都市とSDGs
 認定NPO法人健康都市活動支援機構(以下,当機構.URL:http://www.ngo-hcso.org)の設立目的は,世界保健機関(World Health Organization:WHO)が提唱する「健康都市」1)を行政や市民団体,企業,NPO(nonprofit organization),研究機関との協働で推進することである.2010年の発足以来,健康都市連合2)および同日本支部3)と連携しながら国内外でさまざまな事業を推進している.
 健康都市を取り巻く環境は,2016年に上海で開催されたヘルスプロモーション国際会議(WHO主催)の「上海宣言」4)によって大きく変化した.健康推進がSDGs(sustainable dvelopment goals:持続可能な開発目標)の中心に位置付けられると同時に,「上海コンセンサス2016」5)において,100人を超す市長によって,それらを政策として着実に実行することが決まったのである.これからの健康都市はSDGsの達成と共に推進することになる.特に関連するのが目標3「人々に保健と福祉を」,同11「住み続けられるまちづくりを」,同17「パートナーシップで目標を達成しよう」である6)

視点

公衆衛生ならではのキャリアモデルはつくれるか?

著者: 梅澤光政

ページ範囲:P.492 - P.493

はじめに
 2018年も半ばを過ぎた時分,本稿の執筆を編集室から依頼いただいた.これまでにさまざまな先生方が本欄に寄稿されているが,自分が指名を受けることになるとは思ってもいなかった.しかし,せっかくの機会であるので,今後,公衆衛生分野に興味を持つ者のために必要になると筆者が考えている,公衆衛生分野のキャリアプラン,キャリアモデル作成について述べていきたい.

連載 衛生行政キーワード・132

保健関連のSDGsの進捗

著者: 松村漠志

ページ範囲:P.546 - P.549

はじめに
 「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)1)とは,全ての人にとってより良い持続可能な未来を実現するための道標として設定された2030年までの国際目標である.SDGsには,貧困,飢餓,健康,教育,不平等,経済発展,気候変動,環境,平和など相互につながりのある17目標が含まれており,それぞれの目標の下に169のターゲットが設定されている.
 本稿では,SDGsの中で保健に関連するSDG3「あらゆる年齢の全ての人の健康的な生活を確保し,福祉を推進する:Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages」の現在までの進捗と今後の展望について記載する.

ヘルスコミュニケーションと健康な社会づくりを考える Dr.エビーナの激レア欧州体験より・11

孤独と社会的孤立のエビデンス—英国での「孤独担当大臣」新設と取り組み事例

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.550 - P.553

 2018年1月に英国のメイ首相が,新しい大臣のポジションを新設しました.その名も「Minister for loneliness」(孤独担当大臣).公衆衛生分野では,世界保健機関ヨーロッパ支局が2003年に孤独や社会的孤立が及ぼすリスクを取り上げた1)ことを機に注目されてきたものの,こうした問題への対応に大臣職が設けられるのは世界史上初のことです.
 孤独や社会的孤立の問題は,日本にとっても他人事ではありません.むしろ,日本の方が英国より深刻な状況にあり,「15歳の子どもも成人男性も,孤独を感じている割合は日本が第1位」「女性も孤独を感じる割合はメキシコに続いて日本が第2位」ということが明らかになっているのです2)3).この状況を踏まえて,私たち日本の公衆衛生関係者も孤立死の防止対策や自殺予防対策などの取り組みを行っていますが,それ以上に,何かできることはないのでしょうか? そこで今回は,孤独対策について,効果的な戦略を練る上で役立ちそうな研究や英国の取り組みから考えたいと思います.

リレー連載・列島ランナー・124

身体活動と公衆衛生—神奈川県藤沢市での活動から得られた知見

著者: 齋藤義信

ページ範囲:P.555 - P.559

はじめに
 身体活動の健康上の効果には強固なエビデンスがあるが,世界や国家レベルによる身体活動不足への対策は十分な結果を得ていない状況が続いている1)
 2012年に「Lancet」誌において,身体活動不足は大流行(パンデミック:pandemic)の状態であり,健康上の悪影響は肥満や喫煙に匹敵することや,全世界の死亡の9.4%は身体活動不足が原因であるという衝撃的な報告がなされた2).日本においても,2011年の『「健康日本21」最終評価』3)において,一人当たりの1日の歩数がおよそ1,000歩減少し,「悪化している」という厳しい結果が示されている.
 2011年当時,筆者は健康運動指導士として神奈川県藤沢市にある藤沢市保健医療財団(以下,同財団)に勤務していた.業務の中心は,特定健診・特定保健指導にも準拠した個別運動プログラムの作成・支援であり,身体活動を支援する職種として個人への効果を感じていた.しかし,藤沢市民全体の身体活動・運動習慣は上記の二つの報告と同じような状況にあり,地域や国家レベルではほとんど貢献できていないことも痛感していていた.この時期,筆者は同財団の理解の下,慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の後期博士課程に在籍しており,現在も活動を共にする小熊祐子先生に指導を受けて,藤沢市民の身体活動に関連する要因の調査を行っていた.ここでポピュレーション介入の重要性を再認識し,まずは,藤沢市において身体活動促進の取り組みを進めていきたいと強く感じ,その計画を立案した.
 本稿では,藤沢市で実施中である身体活動促進プロジェクト「ふじさわプラス・テン」の概要を説明し,また,その実践活動を通して得られた知見を紹介する.

投稿・活動レポート

福島県の原子力発電所事故避難地域に対するふたば救急総合医療支援センターの医療支援活動

著者: 風間咲美 ,   谷川攻一 ,   田勢長一郎

ページ範囲:P.560 - P.567

はじめに
 双葉郡は福島県東部沿岸部およびその周辺に位置する8つの町村から構成されており,福島第一原子力発電所事故(以下,事故)では多くの住民が避難を余儀なくされるなど大きな被害を受けた地域である(図1)1)
 双葉郡の事故前の人口は72,822人であったが2),事故によって,発電所から半径20km以内の町村,北西部に延びる浪江町の一部,葛尾村が避難指示区域と指定され,その地域に住む全ての住民が避難することとなった.
 環境除染が進む中で避難指示は順次解除され,2015年には双葉郡の居住者数は7,333人(事故前のおよそ10%)となり3),2017年3月には福島第一原子力発電所が位置する2町(双葉町と大熊町)と,一部を除き全ての町村で避難指示が解除されることとなった(図1)1).住民の帰還に呼応して,徐々にではあるが,診療所の診療再開や開設があった.しかし,双葉郡内の医療ニーズに対応する医療体制の整備は遅れている.その背景には,原発事故の影響のために医療スタッフを確保することが極めて困難であることや,医業収益のみでは採算が取れないこと,将来の医療ニーズが不透明なため診療再開がちゅうちょされることなどが挙げられている4)
 上記のような状況を踏まえ,双葉地域(「双葉郡等避難地域」という意味で,双葉郡8町村に加えて,南相馬市小高区,飯舘村など避難指示が出された地域を指す)の医療体制整備を急ぐべく,2016年4月に福島県立医科大学は福島県からの委託を受けて,「福島県立医科大学附属病院」(以下,医大附属病院)に「ふたば救急総合医療支援センター」(以下,当センター)を設置した.当センターの役割は,当面の双葉地域の二次救急医療の確保と双葉地域の広域的な総合医療支援,そして後述する双葉郡の新病院開設へ向けた準備と開設後の支援である.本稿では,当センターのこれまでの活動と,今後の課題を報告する.なお,当センターは,福島市にある福島県立医科大学附属病院に属する施設である.一方,後述する新病院である「福島県ふたば医療センター附属病院」は2018年4月に双葉郡富岡町に開設された病院である.両者は名称が類似しているため混同されやすいが,別の組織である.

予防と臨床のはざまで

第23回ヘルスプロモーション・健康教育国際会議ダイジェスト(その1)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.568 - P.568

 2019年4月7日〜11日に第23回ヘルスプロモーション・健康教育国際会議(IUHPE)が開催されました.3年に一度開催されるヘルスプロモーション・健康教育分野で唯一の国際学会です.前回のブラジル・クリチバ市に続いて,先住民であるマオリの文化や広大な地熱地帯,温泉で知られるニュージーランドのロトルア市に,世界中から研究者,実践家,政策決定者を含むヘルスプロモーションの専門家約1,200人が集まりました(http://www.iuhpe2019.com).
 テーマは「WAIORA:Promoting Planetary Health and Sustainable Development for All」.地球規模の健康と持続可能な発展について考察するという,とてつもなく大きなテーマです.健康経営の分野でも国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs)を目にすることが多くなりましたが,今回の会議はSDGsそのものをしっかり議論しようという姿勢のようでした.SDGsの健康に関する目標はただ一つですが,この健康は地球規模の健康を考えるべきで,その視点に立つと,多くの他の目標(水,気候変動,海洋資源,陸上資源など)との関連が見えてきます.テーマに冠されたWAIORAは,マオリ語で「命の水」を表し,健康と持続可能な開発に関する先住民の視点を示しているとのこと.つまり,そのような限りある「自然の恵み」を次世代の地球と人類の健康のためにどう生かし,継承していくのかという問いに感じられました.

映画の時間

—男たちの銃後を守る女たちの戦い,その胸に渦巻く思い,そして戦争の不条理を静謐な田園風景の中に鮮やかに描き出す傑作—田園の守り人たち

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.569 - P.569

 第一次世界大戦は1914年に始まり,1918年に終わりました.本作品は1914年の開戦から終戦後の1920年までを描いています.
 1914年のフランスの田園地帯,戦火の炎は国内には到達していないものの,農園の女主人であるオルタンス(ナタリー・バイ)は二人の息子を戦場に取られ,手伝いを雇おうにも若い男手が得られず苦労しています.近所に住む娘ソランジュ(ローラ・スメット)の夫も出征していて,労働力が足りない中,女性と老人で農園を守っている様子が美しい田園風景を背景に描かれていきます.

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ページ範囲:P.491 - P.491

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ページ範囲:P.539 - P.539

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ページ範囲:P.554 - P.554

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.571 - P.571

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.572 - P.572

 近年,欧米から学ぶだけでは,日本はその直面する社会問題に対応することができなくなってきています.社会システムの大転換が必要です.2025年にSDGsをキーワードの一つとして2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催されます.大阪湾岸は,1400年前には大陸の文化・技術を公式に取り入れる玄関口でした.そのため,近くに仁徳天皇陵や日本最古の仏教寺院の四天王寺が築かれています.湾岸からは日本最古の官道(道幅30mの竹内街道)も整備されていました.この街道はシルクロード東端の最終地とされています.推古天皇や聖徳太子,小野妹子らの遣隋使,遣唐使,大陸からの使者がここを通って大陸の文化,技術が取り入れられました.
 2019年5月に元号が「令和」となりました.最初の元号である「大化」の時代の都は大阪湾岸の難波宮に置かれていました.関西に都が置かれていた時代はアジアから学ぶ時代でした.東京に遷都されてからは,欧米に学ぶ時代に大転換しています(脱亜入欧).いずれにせよ,東西の先進地に学ぶことで日本の社会はつくられています.しかし,上述したとおり,今や,欧米に学ぶことだけでは社会のさまざまな問題に対応できなくなっています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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