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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生83巻9号

2019年09月発行

文献概要

特集 ヘルスサービスリサーチ—サービスの効率と質の向上へ

介護サービスの質の評価におけるビッグデータの活用

著者: 金雪瑩1

所属機関: 1筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野

ページ範囲:P.670 - P.675

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はじめに
 現在の日本では高齢化に伴って重度介護者,認知症の高齢者が増えており,介護問題は高齢者の生活に関わる大きな不安要因となっている.介護保険制度の施行によって介護サービスへの民間業者の参入は急増しており,介護サービスの供給は充実してきたものの1),一方で,サービスの質の保障が重要な課題となってきている.
 介護サービスの質の確保のための取り組みとしては,これまでも政府を中心に「介護サービスの情報公表」「福祉サービスの第三者評価」などさまざまな取り組みが行われているが,以下のような問題も指摘されている.
①全ての介護サービス事業所の介護サービス情報を公表しているものの,80.8%の介護サービス利用者および家族はそれらを利用したことがなく,実効性が非常に低い2)
②評価内容は人員配置などのストラクチャー中心であり,利用者のアウトカム評価(利用したサービスにより,どのような変化が生じたかを評価する)はほとんどない.
③福祉サービスの第三者評価の受審費用が高く,また,頻繁に行われるため受審率が非常に低い3)
 上記のような問題の解決の一助となるのが,ビッグデータ(big data)を活用したヘルスサービスリサーチ(health services research:HSR)である.HSRは,人々に健康・幸福をもたらす技術を,必要な人に,いかに効果的に届けるかを追求する,ヘルスケアを中心とした包括的学問分野である.前述のとおり,介護サービスの質の確保が重大な政策課題となっているため,質の高い介護の実現に資するHSRの実践は喫緊の課題となっている.
 そもそも,ビッグデータとは何であり,また,なぜ,その利活用が期待されているのであろうか.現在広く浸透しているビッグデータの定義は,Laney4)によって提唱された,多様で膨大なデータを高頻度で高速に処理することである.ビッグデータの意義は,①ICT(information and communication technology)の進展に伴って,多種多量なデータの生成・収集・蓄積などがリアルタイムで行うことを可能とする,②そのようなデータを分析することで未来の予測や異変の察知などを行い,利用者個々のニーズに即したサービスを提供し,業務運営の効率化や新産業の創出などを可能とする点にある5).介護領域で最近注目を浴びているのが介護のビッグデータである「介護保険総合データベース」(以下,介護DB)である6).介護DBは介護保険制度の運営業務において発生する記録であり,全ての利用者が対象となる.また,それぞれの事業所にとってもデータ収集への負担がないメリットがある.
 本稿では,海外やわが国におけるビッグデータを活用した介護サービスの質の評価への取り組みと,今後の課題を述べる.

参考文献

1)厚生労働省老健局:公的介護保険制度の現状と今後の役割.https://www.mhlw.go.jp/content/0000213177.pdf
2)公正取引委員会:介護分野に関する調査報告書.https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160905_1_files/03.pdf
3)野田 秀:福祉サービス第三者評価事業の現状と課題.とやま発達福年報6:13-20, 2015
4)Laney D:3D data management:Controlling data volume, velocity, and variety. META Group, 2001
5)総務省:平成25年版情報通信白書(PDF版).http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/index.html
6)厚生労働省:介護保険総合データベースの活用について.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000126417.pdf
7)Nakrem S, et al:Nursing sensitive quality indicators for nursing home care:international review of literature, policy and practice. Int J Nurs Stud 46:848-857, 2009
8)Medicare. gov:Nursing Home Compare. https://www.medicare.gov/nursinghomecompare/search.html
9)澤田 如,他:アメリカのナーシングホームにおけるケアの質マネジメントシステム1) 現場経験と文献レビューをもとに.病院管理43Suppl:132, 2006
10)厚生労働省老健局老人保健課:要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供について.https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000331608.pdf
11)Olivares-Tirado P, et al:Effect of in-home and community-based services on the functional status of elderly in the long-term care insurance system in Japan. BMC Health Serv Res 12:239, 2012
12)Kato G, et al:Relationship between home care service use and changes in the care needs level of Japanese elderly. BMC Geriatr 9:58, 2009
13)Jin X, et al:Resident and facility characteristics associated with care-need level deterioration in long-term care welfare facilities in Japan. Geriatr Gerontol Int 18:758-766, 2018
14)内閣府:平成30年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況 第2節 高齢期の暮らしの動向.https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/zenbun/pdf/1s2s_02_01.pdf
15)厚生労働省:地域包括ケアシステム.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
16)植嶋大晃,他:地域包括ケアシステムの評価指標としての在宅期間8年間の全国介護レセプトデータによる検討.厚生の指標64:8-18, 2017
17)野口晴子(研究分担者),他:日本における行政データの活用を模索する—『介護給付費実態調査』・『人口動態調査(死亡票)』のLinkage(照合)による生涯介護費用の推計—.田宮菜奈子(研究代表者):厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)地域包括ケア実現のためのヘルスサービスリサーチ—二次データ活用システム構築による多角的エビデンス創出拠点—.https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201603002A

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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