icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生84巻10号

2020年10月発行

雑誌目次

特集 SNSで防ぐ災害関連死—「Society 5.0」時代のリーダーになる!

フリーアクセス

著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.633 - P.633

 近年,自然災害が激甚化,頻発化しており,2019(令和元)年は3件の激甚災害が発生しました.2020(令和2)年は,新型コロナウイルスの全国的な感染拡大によって都道府県域を越えた災害時の保健師等の応援派遣が困難になることが予測されるため,各自治体は災害時の避難所の運営・支援体制を確保しておく必要があります.
 観測史上最大級の令和元年台風第15号(令和元年房総半島台風.955hPa,風速45m/s)が上陸した千葉県では,暴風で広域な停電,断水が発生し,対応に追われた市町村から防災システムによる被害情報が集まらず県による被害把握と初動に支障が生じました.また,同年の台風第19号(令和元年東日本台風.915hPa,風速55m/s)では観測史上1位の記録的大雨で避難勧告や指示を発令した都内42区市町村のうち,28自治体でホームページがつながらず15自治体で避難所に収容できず,情報の収集や共有に課題が残りました.被災者はSNSで災害に関するさまざまな情報を発信しており,SNS上の災害情報は,災害現場や被災者が置かれた状況,避難所の不足物資など,被災者それぞれの視点から見た有益な情報源となるとされますが,災害時,自治体職員は救護や避難所支援などで多忙を極め,SNS情報を十分活用できませんでした.

「Society 5.0」社会実装による公共サービスの効率化—災害対応を中心に

著者: 坂村健

ページ範囲:P.634 - P.639

【ポイント】
◆Society 5.0とは社会全体のDXであり,最新の情報通信技術に合わせ「やり方」レベルから社会を構造改革することを目指している.
◆医療のDXには課題が多いが,特に技術面以上に制度面——さらには変革への抵抗といった体制的な抵抗があり変革は容易ではない.
◆災害対応ではDXによる効率化が救える命に直結するので,医療のDXの突破口になりうるが,特にマイナンバーの利用が基本となる.

人工知能(AI)を活用した災害時のSNS情報分析

著者: 山口真吾

ページ範囲:P.640 - P.644

【ポイント】
◆災害時の被災者支援や公衆衛生の取り組みにおいては「情報」(ビッグデータ)が鍵を握る.
◆災害時の情報の伝達・収集・分析・整理・共有・利用は地方公共団体が行うべき重要な業務である.それには迅速性・正確性が要求される.SNSやAIを用いることで,そうした業務の自動化・省力化に取り組むべきである.
◆災害時のSNS情報分析システムはすでに実用化されており,地方公共団体による積極的な導入が期待される.導入後は,住民参加型の防災訓練に活用することができる.

令和元年房総半島台風の教訓—正常性バイアスにとらわれる人間はAIを使いこなすことができるのか

著者: 佐藤眞一

ページ範囲:P.645 - P.649

【ポイント】
◆急な災害では正常性バイアスにより「想定外」が生み出される.
◆「最悪事態を想定」「空振りは許されるが見逃しは許されない」「疑わしい時は行動せよ」を旨として,災害に備えなければならない.
◆AIチャットボットの定型の質疑応答に限った利活用については,行政との親和性が高く,一気に導入が進む.

令和元年東日本台風災害における長野市保健所の主な取り組み

著者: 小林良清

ページ範囲:P.650 - P.654

【ポイント】
◆中核市として市町村業務と保健所業務を一体的に実施した.
◆保健医療福祉活動の調整会議を県保健所と共同設置し,連携体制を構築した.
◆情報収集・共有におけるICTの活用が今後の課題だが,対面による情報交換も重要.

「LINE」を活用した被災者の生活支援を行うAIチャットボットの開発とメンタルケアを行う無料相談

著者: 江口清貴

ページ範囲:P.655 - P.661

【ポイント】
◆なぜコミュニケーションアプリ「LINE」のようなサービスが防災に使えると考えたか.
◆災害時SNSなどICTをきちんと使えば情報は集められるし,情報の配布も楽になる.
◆システムを提供するだけでなく,必要な手段を組み合わせて提供することの需要性.

災害が起きたときのSNSとの「付き合い(付き合わない)方」

著者: 佐藤翔輔

ページ範囲:P.662 - P.668

【ポイント】
◆「災害とSNS」に関連する議論・活動・研究開発はこの10年目まぐるしく,その変化のスピードは早い.
◆10年間で災害時に実際起きたことを踏まえて.災害時のSNSの付き合い方(付き合わない方)を提案した.
◆災害時,SNSはあくまで情報収集・発信の手段の一つとして捉えることが重要.

災害時における保健医療福祉活動と情報支援システム

著者: 市川学

ページ範囲:P.669 - P.675

【ポイント】
◆災害時における情報収集・共有の仕組みは整いつつある.
◆災害時の保健医療福祉活動を支援する情報支援システムについて現状を説明する.
◆収集・共有された情報を,どのように分析・加工し支援活動につなげるかが今後の課題である.

視点

人と人がつなぐ医療のかたち—グローバルの医療者・患者さんとの共働を通じて

著者: 廣瀬園子

ページ範囲:P.630 - P.631

はじめに—起業10年の節目に
 学術研究と社会起業の両面で,人と社会の健康の課題に取り組むようになり10年を迎えた.大学卒業後の14年間は,国内・外資の金融機関のコンサルタントとして勤務していた.
 公衆衛生の道に進むことになったきっかけは,20代からの10年間,仕事を続けながら5度の手術を受けた原体験があり,医療の専門職と一般の人々との情報の非対称性の課題と,疾病予防と低侵襲の医療の大切さを痛感したこと.ガーナの地方都市やタイの山間部で出会った女性たちの「富裕層だけではなく,額に汗して働く普通の人々も皆,健康と病気に関する情報をいつでも得ることができ,健診と治療が受けられるようであってほしい」という言葉,そして困難な状況でも患者さんのために粉骨砕身する医療者の姿に突き動かされたからだ.

連載 リレー連載・列島ランナー・139

一生懸命が人を変える

著者: 大前和美

ページ範囲:P.677 - P.679

非行少年から不登校・ニート・ひきこもりの子ども若者への変遷
 戦後の少年非行の第3のピークと第4の波ってご存じですか?
 戦後第一のピークが1951(昭和26)年で,生きるため・食べるための非行でした.そのために児童福祉法が1947(昭和22)年に,生活保護法が1950(昭和25)年に制定されています.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・5

再生医療の基礎知識

著者: 八代嘉美

ページ範囲:P.681 - P.686

はじめに
 本誌の読者諸賢は,「再生医療」という言葉にどういうイメージをお持ちだろうか.表1は,現在薬価承認を受けている再生医療等製品の一覧である(遺伝子治療を除く).
 日本で「再生医療等製品」と呼ばれるカテゴリーの製品は,世界的にも開発競争が加速しており,世界では約260件の治験が進行している.だが,それらは一般的に想像される「再生医療」とどの程度一致するものだろうか.本稿では再生医療について基礎的な知識を解説しつつ,現状と展望について解説する.

予防と臨床のはざまで

予防と臨床のはざまから見るコロナ(その5)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.688 - P.688

 7月に入り,東京都のPCR陽性者数が連日200人を超え,報道は一気に加熱しました.歌舞伎町や池袋などのいわゆる夜の街クラスターから,徐々に家庭内,会食,職場内にも陽性者が増え,感染者数は「第2波」と言ってよい山を形成するに至りました.順天堂医院でも一度解散したCOVID-19専従の入院チームを再結成し,1病棟に減らしていた専用病棟もまた増やす方針となりました.世の中の感染者の内訳をみると20歳代,30歳代の若年者が多く,重症者は少なく,有症者のみならず濃厚接触者を含む積極的なPCR検査も行われるようになっていました.報道により不安に駆られる企業の皆さまには,「疫学的にどんな集団を捉えているのか注意が必要」とお話しました.
 7月9日には日本貿易会で「企業の新型コロナ対応とwithコロナの職場の健康管理」についてお話しました.当日はオンラインを含めて日本のそうそうたる商社の方が20社ほど集まり,人事・総務担当の方へコロナの最新状況,臨床現場の検査・治療の様子,さんぽ会の調査から見える企業の新型コロナ対応の現状,在宅勤務の健康への影響等についてお話しました.やはり商社ということで,この状況下でも海外との人の行き来は必要不可欠で,国によって渡航前の陰性証明が必要になり苦慮されているとのことでした.順天堂医院でも7月からビジネス渡航前のPCR検査を開始しました.

映画の時間

—また,見つけてな.—ソワレ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.689 - P.689

 オレオレ詐欺の受け子でしょうか,若い男性が高齢の女性からお金を受け取るシーンから映画は始まります.バイト代をもらった彼は劇団のリハーサルに加わります.演出家からダメ出しをされる主人公翔太を村上虹郎が好演する鮮やかな導入シーンです.
 場面は和歌山に移ります.特別養護老人ホームで認知症傾向のある高齢者を対象として劇団員が演劇指導を行っています.この施設は翔太の故郷に近い場所にあるようです.翔太はその施設で介護士として働く若い女性タカラ(芋生悠)と出会います.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.629 - P.629

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.676 - P.676

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.680 - P.680

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.691 - P.691

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.692 - P.692

 本号の特集では,「SNSで防ぐ災害関連死—「Society 5.0」時代のリーダーになる!」を取り上げました.昨年は,観測史上最大級で千葉県に広域な停電と断水を引き起こした台風15号や,長野県で観測史上1位の記録的大雨をもたらした台風19号など激甚災害が頻発しました.本年は,その時の教訓を生かすだけでなく,コロナ禍で社会実装の遅れが露呈された「Society5.0」を実現し,レジリエントな保健医療体制へ構造転換する元年としなければなりません.
 坂村 健先生には,「Society5.0」社会実装による公共サービスの効率化への展望について総説していただくとともに,国主導で進められている先進的取り組みについて紹介していただきました.山口真吾先生には,人工知能を活用した災害時における自治体のSNS情報分析について,佐藤眞一先生には,令和元年台風15号(房総半島台風)の県対策本部での経験について,小林良清先生には,令和元年台風19号による大雨で千曲川が決壊した長野市での避難所支援と情報収集の重要性について,解説していただきました.そして江口清貴先生には,人工知能(Ai)によるチャットボットやLINE相談など最先端の情報通信技術を活用した行政の課題解決への展望について,佐藤翔輔先生には,ツイッター情報のビッグデータの解析結果などにも触れて「災害とSNS」の実態について解説いただきました.そして市川 学先生には,被災地自治体による避難所や在宅避難者の情報収集や優先度の決定などにおけるスマートフォンやSNSの活用などについてご提言をいただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら