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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生84巻11号

2020年11月発行

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特集 日本型MPH教育の軌跡と展望—公衆衛生専門職を目指す!生かす!

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著者: 川上憲人 ,   「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.697 - P.697

 Master of Public Health(MPH)の学位を授与するわが国初の公衆衛生専門職大学院が,2000年に京都大学に設立されてから20周年となりました.少子高齢化やグローバリゼーションのもと,人々の健康,医療,環境に関わる課題は多様化,複雑化しており,俯瞰的・システム的な思考が求められる社会情勢などを背景として,その後も九州大学や東京大学などに公衆衛生専門職大学院が設置されました.国内にはこれらの専門職大学院のほか,MPHの学位を授与する一般大学院も相次いで設置されています.
 MPH教育においては,MPHに求められるコンピテンシー(高い能力を発揮する人が持っている資質や行動特性)を定め,これを育成するコンピテンシー基盤型教育が求められています.海外のMPH教育機関ではこれが進んでおり,わが国でも日本型MPHコンピテンシーの確立と,これを目標としたMPH教育をどう実施するかが喫緊の課題となっています.

わが国のMPH教育校における教育の現状と課題

著者: 川上憲人

ページ範囲:P.698 - P.706

【ポイント】
◆公衆衛生大学院プログラム校連絡会議はMPH教育を行う大学院の協議体であり,MPH教育の水準向上のために活動している.
◆MPH教育の現在の主要課題は教育の質保証と新しいコンピテンシーの確立である.
◆公衆衛生大学院プログラム校連絡会議は,MPH教育の修了生の活躍の場を広げること,MPHの遠隔教育,公衆衛生の重要課題に関する意見の表明などにも取り組んでいる.

大学基準協会からみたSPHの認証評価と教育の質の改善

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.707 - P.712

【ポイント】
◆公衆衛生系専門職大学院は認証評価を5年以内の周期で受けるように義務付けられている.
◆「公衆衛生専門職大学院基準」は8つの大項目から構成されている.
◆認証評価は教育内容を改善する仕組みを備えている.

日本のMPHに求められるコンピテンシー

著者: 井上まり子

ページ範囲:P.713 - P.717

【ポイント】
◆複雑化する公衆衛生の課題を解決しうる高度専門職の必要性や,国際的水準の教育実践のため,コンピテンシーの育成を目指す教育の導入が,日本のMPH教育に望まれる.
◆公衆衛生大学院プログラム校連絡会議によって作成し,公開された日本版MPHコンピテンシーを紹介する.
◆今後の課題は,MPHコンピテンシー教育の実践・評価方法の確立,そして普及である.

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻の人材育成の一考察

著者: 今中雄一

ページ範囲:P.718 - P.725

【ポイント】
◆わが国初の公衆衛生大学院が2000年に京大に設立され,今や約20の大学院で公衆衛生修士(MPH)を授与するようになっている.
◆博士課程含め,多様な立場や職種との豊富な研修機会で,コミュニケーション,プレゼンテーション,チームワーク,リーダーシップの力が磨かれる.
◆課題研究発表会にて成果発表し,全専攻挙げての厳しい討議,改善要求への対応という大きな山を越えてようやくMPHホルダーとなる.

東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻におけるMPH教育

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.726 - P.729

【ポイント】
◆本専攻は,専門職大学院という新たな形の公衆衛生学領域の大学院組織である.
◆本専攻の特徴として,一定の実務経験を有する人を対象とした1年コースが用意され,2年コースの学生とともに学ぶという点が挙げられる.
◆修了者の進路は,医療機関,行政,国際機関,民間企業,進学(博士課程)など多様である.

帝京大学大学院公衆衛生学研究科—国際標準による国内トップランナーとして

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.730 - P.735

【ポイント】
◆わが国で初の私立大学,かつ独立した研究科として,専門職学位課程(MPH)と博士後期課程(DrPH)を設置した.
◆問題解決のできる人材,すなわち,世の中や社会あるいは組織を変えることのできるチェンジ・エージェントの育成を目的とする.
◆国際標準を準じて,基本5領域,問題解決型アプローチ,コンピテンシーをキーワードにした教育を行っている.

長崎大学大学院(熱帯医学・グローバルヘルス研究科)のMPH教育

著者: 松井三明 ,   井本敦子 ,   佐藤美穂 ,   神谷保彦 ,   門司和彦 ,   北潔

ページ範囲:P.736 - P.742

【ポイント】
◆長崎大学のMPH教育は,世界の健康問題に対応できる高度専門職業人の育成を念頭に行っている.
◆国内外の機関,特にロンドン大学衛生・熱帯医学大学院と連携し,全ての教育を英語で実施.留学生と日本人がほぼ同数である.
◆2年次には8カ月間の長期海外研修を必修としている.修了生の3分の2はグローバルヘルス分野で活躍している.

国内でMPHを取得した者の活躍状況

著者: 小熊祐子

ページ範囲:P.743 - P.748

【ポイント】
◆修了生は医療系のバックグラウンドを持つものが8割近かった.
◆修了後の仕事先は医療施設と教育・研究機関が約3割ずつと多いものの,多様な領域で活躍している.
◆MPHで学ぶ者は新卒者も一定数いるが,実務経験を経て入学する者が多い特徴があった.

視点

公衆衛生分野で薬剤師ができることは何か—新たな分野への挑戦

著者: 高岡由美

ページ範囲:P.694 - P.695

はじめに
 公衆衛生を担う保健所には,医師をはじめ多職種の専門職がいます.本来ならば,それぞれが得意分野を生かし,さまざまな問題や課題に対して迅速かつ的確に対処できるはずですが,現実はなかなかうまくいきません.各専門職はそれぞれ最大限の努力,活動を行いますが,その全てが無駄なく,効率的に連携することは極めて難しいと感じます.筆者は自分自身の経験を通して,薬剤師が各専門職のつなぎ役になり,円滑な組織をつくる役割を果たせるのではないかと考えています.

連載 リレー連載・列島ランナー・140

つながり続けること—ひきこもり相談のコツ

著者: 藤井早希子

ページ範囲:P.749 - P.752

はじめに
 2019年3月に内閣府から40〜64歳までのひきこもりの数が推計61.3万人1)という調査結果が発表された.2015年9月に実施した調査では15〜39歳までのひきこもりの数が推計54.1万人2)と発表されているので,調査年度が異なるため単純な合計はできないにしても,推計約100万人以上がひきこもっているということになる.100万人以上というのはインパクトのある数値であり,「ひきこもり」がより社会的に注目されることになった.
 島根県では,2015(平成27)年にひきこもり支援の中核を担う「島根県ひきこもり支援センター」(以下,当センター)を開設した.徐々に相談件数は増え,今では年間延べ500件前後の相談を受けている.
 当センターでは,ひきこもりの支援は,厚生労働省3)が示している「ひきこもり支援の諸段階」(図1)に沿って施行しているが,第1段階である家族相談のケースが半数以上である.「ひきこもり」の相談なので,なかなか本人が登場する第2段階に上がることができないのが現状である.
 ただ,長年勤務していると,「来ないだろう」と思っていた本人が突然来所してくれることがある.また,急に医療機関等の他機関に足を運ぶことがある.そこに至るには,何年も家族面接を続ける必要があった.継続面接をしている過程で,家族が「あまり意味がない」と感じ面接を中断したり,支援員としても「今日は何を話したらいいのだろう」と行き詰まる場面があった.それでも,さまざまな工夫を凝らし家族相談を継続していくことで,成果が上がっていることを実感している.以下は,「つながり続けること」に焦点を当てて,当センターの取り組みについてお伝えしたい.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・6

医療・介護のビッグデータ

著者: 村松圭司

ページ範囲:P.753 - P.758

はじめに
 医療・介護領域に限らず,大量かつさまざまな種類のデータを処理・分析し洞察を導き出すことが求められるようになっている.近年,こうした業務を行うデータサイエンティストの需要は急激に高まっており,例えば米国では収入も高く人気の職業となっている.本稿では,厚生労働省が整備する公的データベースを中心に,筆者らが独自に取り組んできた分析例を紹介する.

予防と臨床のはざまで

コロナで変わる健康教育・ヘルスプロモーション

著者: 福田洋

ページ範囲:P.760 - P.760

 9月13日(日)に「第28回さんぽ会夏季セミナー2020」をオンラインで開催しました.多職種産業保健スタッフの研究会であるさんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の活動の中で,夏季セミナーは月例会では時間的に扱えないテーマを年に1回じっくりと議論するのが目的です.今年の第28回夏季セミナーは,さんぽ会として初めて基調講演に外国人講師を招聘しました.Myo Nyein Aung氏(順天堂大学国際教養学部)は,約10年前に公衆衛生学講座(丸井英二教授,湯浅資之准教授,当時)との国際共同研究で,タイのチェンライ市やランパン市で減塩や禁煙の介入研究でご一緒して以来の知己です.6月21日(日)には新型コロナ対応に関する国際オンラインシンポジウムを主催し,アジア各国の良好実践についてまとめられていたのが印象的でした.今回は,国際的・大局的な視点からコロナの影響について学び,その上でウィズコロナの職域の健康教育・ヘルスプロモーションについて考えるというのが狙いです.
 第Ⅰ部の基調講演では,「新型コロナウイルスが世界をどう変えたか? 健康教育・ヘルスプロモーションはどう変わったか?」をテーマにお話いただきました.Myo氏は,新型コロナは医療だけでなく,政治経済へのインパクトが大きかったと述べ,その影響として多くの業種で経済活動が低下し,前例のない経済危機や失業の増加がみられること,学校閉鎖により教育の混乱が生じたこと,貧困レベルが悪化し,健康格差が拡大したことが示されました.またロックダウン等による大幅な移動制限は運動不足や生活習慣病の増大につながり,不安やストレスの増大はメンタルヘルスへの悪影響をもたらしました.COVID-19時代の健康教育・ヘルスプロモーションでは,ソーシャルディスタンスやマスク・手指衛生などの感染予防行動に加えて,身体活動,健康的な食事,禁煙などの従来同様の健康的な生活習慣がターゲットになります.行動理論の基本には多くの類似点がある反面,ソーシャルディスタンスについての公衆衛生的介入には,各国の文化(日本における花見やタイ・ミャンマーにおける水祭り,イスラム圏のラマダンなど)との対立の可能性もあり,介入が難しいこともあります.一方で第1波の封じ込めにはアジア各国で種々の工夫がみられ,タイ(地域のヘルスボランティアの活躍),ベトナム(4,500万人にリーチしたYouTube健康教育),ミャンマー(数十万人の帰国労働者の受け入れと脆弱なヘルスシステムを守るための地域隔離)などの良好実践についても話されました.自粛下で多くの健康教育・ヘルスプロモーションがオンライン化したこと,貧困地区でも携帯電話が活用されている例を挙げ,デジタルヘルスプロモーションとeリテラシーが非常に重要になると述べられました.最後に“Every dark cloud has a silver lining. Let's see the positive of the negative.”と締めくくり,困難な状況下でも変化の良い面に注目することの重要性を話していただきました.北島文子氏(順天堂大学)による翻訳スライドも配布しつつも,講義や質疑は全て英語で行ったので,参加者も大いに刺激を受けてくれたようです.

映画の時間

—彼女の心はなぜ壊れてしまったのか.共感と絶望から希望が生まれた———ベストセラー小説,待望の映画化—82年生まれ,キム・ジヨン

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.761 - P.761

 マンションの一室でしょうか,家事と子育てに追われる主婦がベランダから夕日を眺めてもの思いにふけっているようです.幼い娘の声にふとわれに返る主婦が,本作品の主人公キム・ジヨン(チョン・ユミ)です.舞台は変わって精神科の診察室で,男性が妻のことで相談に来ています.「ご本人が来なければ」という医師に家族の写真を見せる優しそうな男性が,主人公ジヨンの夫デヒョン(コン・ユ)です.細かな説明がなくても,この2つの場面で,一見平凡な家族が何か問題を抱えていることを想起させる鮮やかな導入だと思います.
 ジヨンは,お正月に夫の実家へ戻った際に,突然ジヨンの母が憑依したような状態になります.しかしジヨンはそのことを覚えていません.以前にも同様の症状が出現したこともあるのでしょう.夫のデヒョンは妻のジヨンを心配して精神科を訪れたのですが,憑依した状態になることを自覚していないジヨンを傷つけることを恐れて,真実を伝えることはできません.

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ページ範囲:P.693 - P.693

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.763 - P.763

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.764 - P.764

 京都大学の公衆衛生専門職大学院が設立20周年を迎えた2020年現在,MPHを取得できる大学院が20校に増えていることを,本特集の企画段階で初めて知りました.20校全てのMPH教育の現状などを詳しく紹介することはできませんでしたが,今回の特集で玉稿をいただいた先生方のご苦労とMPH教育への深い情熱を感じました.
 大学院は20校に増えましたが,川上憲人先生は「現在の主要課題は教育の質保証と新しいコンピテンシーの確立である」と要約しています.MPH教育では,公衆衛生に関する専門知識を習得するだけでなく,公衆衛生の実践に必要なリーダーシップやコミュニケーション能力,パートナーシップ構築などの能力や特性を磨くことも必須ということで,教育校共通の日本版MPHコンピテンシーが公開された経緯についても知ることができました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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