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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生84巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

特集 ゲノム革命—予防・医療のイノベーション

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.213 - P.213

 21世紀における医療の技術革新に最も大きな影響を与えている科学として,ゲノミクス(genomics)が注目されています.生物の全遺伝情報(ゲノム)の読み取り速度を飛躍的に向上させた次世代シーケンサーの登場と,その後の技術進展により,最近では,感染症の原因となる病原微生物のゲノム解析だけでなく,人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解析も短時間に低コストで実施できるようになりました.
 こうしたゲノミクスの進歩によって,ゲノム解析を活用した疾病予防や医療関連のサービスが増加しています.例えば,個人のDNAを調べることで,特定の病気へのかかりやすさや薬の副作用などを予測する遺伝子検査サービスです.また,遺伝子多型など体質に関わる情報の治療や予防の個別化(オーダーメイド医療)への活用など,研究から臨床応用への展開が急速に進められています.まさに「ゲノム革命」によって予防と医療は大きく変わろうとしているのです.

ゲノム革命の足跡と予防・医療の近未来

著者: 宮野悟

ページ範囲:P.214 - P.219

【ポイント】
◆次世代シーケンサーの発展によって,個々人のゲノム情報に基づく医療が現実となった.
◆がんゲノム研究によって,がんの複雑さが一層,明らかになりつつある.
◆人工知能(AI)の支援によって,がんの臨床シーケンス解析にスピードが出るようになった.しかし,現時点では専門医から置き換わるものとはなっていない.

オーダーメイド医療の現状と将来展望

著者: 松田浩一

ページ範囲:P.220 - P.225

【ポイント】
◆バイオバンク・ジャパンでは世界最大規模の疾患バイオバンクが構築され,51疾患,27万人の生体試料・臨床情報・ゲノム情報が蓄積されている.
◆これらの基盤を利用して,病気のリスクや薬剤応答性に関わる多くの遺伝因子が同定されてきた
◆ゲノム解析コストの低下と各遺伝子の機能解析が進むことで,今後10年以内にオーダーメイト医療が推進されると期待される

ゲノム医療の提供体制構築と人材育成

著者: 花房宏昭 ,   古庄知己

ページ範囲:P.226 - P.231

【ポイント】
◆遺伝・ゲノム医療は,がん遺伝子パネル検査の実施などをきっかけに大きく発展しようとしている.
◆生殖細胞系の遺伝・ゲノム情報を扱うには,その特殊性を考慮した繊細な対応が必要である.
◆遺伝・ゲノム医療に主に携わる専門的人材として,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー®などがある.

ゲノム医療の推進に向けた法的・倫理的課題と対策

著者: 中田はる佳

ページ範囲:P.232 - P.238

【ポイント】
◆日本のゲノム医療はがん領域を足がかりとして急速に進んでおり,2019年6月に「がん遺伝子パネル検査」が保険収載された.
◆がんの診療データベースの法的基盤の整備と,患者・市民参画,遺伝情報取り扱いに対する懸念への対応が喫緊の課題である.
◆ゲノム医療に関する法的・倫理的課題について,患者・医療者をはじめ,政策立案者や関連事業者を交えた継続的議論が必要である.

メンデルランダム化法—遺伝子型を用いて因果関係に迫る

著者: 西山毅

ページ範囲:P.239 - P.243

【ポイント】
◆メンデルランダム化法は操作変数に遺伝子型を用いる操作変数法の一亜型であり,因果推論を行う手法である.
◆メンデルランダム化法は遺伝子型情報を用いるが,あくまで曝露変数がアウトカムに及ぼす因果関係を明らかにするものであり,遺伝情報そのものを研究対象にするものではない.
◆メンデルランダム化法は,①操作変数と曝露変数の関連が強く,②操作変数は曝露変数を介してのみアウトカムに影響するという2つの前提条件を満たす必要がある.

未来型医療を目指すゲノムコホート研究—東北メディカル・メガバンク計画の取り組み

著者: 寳澤篤 ,   山本雅之

ページ範囲:P.244 - P.249

【ポイント】
◆東北メディカル・メガバンク計画は東日本大震災後の住民の長期健康支援と次世代型医療構築を目標として実施されている.
◆東北メディカル・メガバンク計画は地域住民コホートと三世代コホートの二つのコホートからなる.
◆東北メディカル・メガバンクは複合バイオバンクであり,ゲノム・メタボローム情報を併せて分譲に供している.

微生物ゲノム解析の進化—感染症の診断や疫学研究などへの応用

著者: 黒田誠

ページ範囲:P.250 - P.255

【ポイント】
◆NGSによって起因病原体の正確な特定と,効果的な治療選択(薬剤感受性の推定)が可能である.
◆メタゲノム解読法によって原因不明疾患の起因病原体が同定できる.
◆病原体ゲノム情報を基盤にした欧米・アジア先進国との感染症対策ネットワークをつくり,データ・シェアリングを行っていく必要がある.

ゲノム革命がもたらす結核対策の将来展望

著者: 村瀬良朗 ,   御手洗聡

ページ範囲:P.256 - P.261

【ポイント】
◆結核菌ゲノム解析の分解能は高く,すでに一部の分子疫学解析に利用されている.
◆結核菌のゲノム変異を解析することで多くの抗結核薬の耐性を迅速に推定できる.
◆結核菌ゲノム情報から未知の感染経路や耐性変異を特定し,結核対策を進化させることができる.

視点

タバコが奪う人権・環境・平和

著者: 来馬明規

ページ範囲:P.210 - P.211

「受動」喫煙防止はおかしな標語
 東京オリンピックに向けてタバコ規制強化が始まった.しかし,その目的は「受動喫煙防止」であって,世界保健機関(WHO)が目指すタバコ製品の非正規化や製造販売・広告の制限強化1)ではない.本来の目的は,タバコ製品の課税を「罰則」として強化し,新型タバコを含めたニコチン製品の補給具,補給所,宣伝行為をなくして喫煙者を卒煙に導くことである.
 読者諸兄は以上の論点をすでにご存じと思うので,本稿では視点を変えて,タバコ製品の生産から廃棄までの経過に焦点を当てる.すると,タバコが人種差別や地球規模の環境破壊も顧みずに利益追求を企てていることが見えてくる.

連載 衛生行政キーワード・137

全ゲノム解析等実行計画(第1版)の成立と今後

著者: 市村崇

ページ範囲:P.262 - P.265

はじめに
 2019年12月20日,厚生科学審議会科学技術部会で「全ゲノム解析等実行計画(第1版)」(以下,本計画,表1)が報告され,同日,厚生労働省のホームページで公表された1).本計画は,「経済財政運営と改革の基本方針2019〜『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦〜」2)(骨太方針2019.以下,骨太方針.2019年6月21日閣議決定)に基づいて策定された.第1版とあるように,今後,改版されることが想定されている.これは,現時点では確定できない要素が多々あることと,また,技術の進歩によって実行計画の柔軟な変更が必要となることが予想されるためである.

世界に届け! Boshi-Techo・4

中国におけるBoshi-Techo—母子手帳の導入による利便性の向上

著者: 汪婉 ,   神馬征峰

ページ範囲:P.266 - P.272

はじめに
 「グローバルヘルス」(global health)とは,地球規模で健康格差の改善に取り組む諸活動のことである.2016年に始まった「持続可能な開発目標」(sustainable development goals:SDGs)では「誰一人取り残さない」というキーフレーズが用いられており,そのためにも健康格差の改善は重要な課題である.
 数あるグローバルヘルス課題の中で,「Lancet」誌の編集長リチャード・ホートン氏は,21世紀の課題を二つに絞りこんでいる1).第一は気候変動による健康影響(climate emergencies)であり,世界的に注目を集めている.第二はジェンダー不平等(gender inequality)であるが,まだ深い関心は寄せられていない.この課題に向けた取り組みを推進させるためには,女性の強いリーダーシップが必要である.SDGsが始まって5年,第4回世界女性会議における「北京宣言及び行動綱領」が採択されてから25年を経た2020年は,ジェンダー不平等を克服するために重要な年である2)
 女性のリーダーシップという点において,ファーストレディー時代から福田貴代子氏が進めてきた母子手帳推進の活動は注目に値する(83巻11号の本連載第1回を参照).アフリカでは,37カ国のファーストレディー(大統領夫人)からなるOrganisation of African First Ladies against HIV/AIDS(OAFLA. 2002年に成立)の活躍が知られている3).一方,アジアではそのような活動はいまだ一般的ではない.
 本稿では,福田貴代子氏が顧問を務める一般社団法人親子健康手帳普及協会(URL:http://oyako-kenkotecho.com/)によってなされた中国における母子手帳推進のプロセスを紹介する.

リレー連載・列島ランナー・133

健康design studio—「健康実務家」が“領域”を超え“協働”で目指す未来

著者: 戒田信賢

ページ範囲:P.273 - P.276

健康実務家に共通の悩み
 私たち「健康をつくる実務家=健康実務家」は,私たちが向き合う患者さんや生活者を,本当に健康にいざなうことができているのだろうか.この連載に目をとどめてくださった方は,医療や保健,福祉,介護,子育て支援などのさまざまな領域の中で,そのターゲットとなる生活者や患者の方々を「健康」にするための実務に日々尽力されている方々,あるいはそうした実務家になるために勉強をされている方々だと思います.
 臨床家の皆さんは日々,患者さんやサービス利用者の方々と向き合い,その病状や症状が少しでも改善すること,あるいは現在の状況を維持し,より健やかな暮らしを実現できるようさまざまな実務に取り組まれているかと思います.NPO(nonprofit organization)や行政の皆さんも,より多くの生活者の方々が健康な生活や暮らしを実現できるように,地域を一つの拠点としながら,生活者の暮らしに思いをはせながら地道な努力をされています.企業の皆さんも,自社の商品やサービスを生かして,どうしたらもっと健康的な生活を実現できるかという問いの下,チャレンジをし続けていらっしゃると思います.こうした実務家の御尽力で多くの「健康」が実現できていることは紛れもない事実です.その一方で,多くの実務家の方々からこんなお話を聞く機会が増えてきています.

予防と臨床のはざまで

予防医療医の冬2019(前編)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.278 - P.278

 2019年11月9・10日に第67回日本職業・災害医学会学術大会が開催されました.谷川武学会長(順天堂大学)の下,私も企画実行委員会の一員として,1年以上前から準備してきました.私に与えられたミッションはシンポジウム「健康経営の光と陰」の運営とランチョンセミナーの招聘です.シンポジウムでは,種々の企業規模・職種から広い視点で話題提供をいただきました.小島玲子氏(株式会社丸井グループ)からは「産業医の立場から これからの産業医と健康経営」,海野賀央氏(株式会社CSIソリューションズ)からは「人事・労務の立場から 健康経営への取り組み〜大手企業と中小企業の比較」,白田千佳子氏(株式会社リンケージ)からは「中小企業,小粒でもピリリと光る!健康経営」,藤田善三氏(東京商工会議所)からは「中小企業に普及が進む健康経営〜その現状と課題」と,それぞれのお立場から健康経営の光と陰を語っていただきました.議論も含めて,健康経営の推進のヒントに気付かされる機会になりました.
 ランチョンセミナーは2つ企画することができました.1題は「健康経営時代の生活習慣病とヘルスリテラシー」の演題で私自身が,もう1題は「最新の糖尿病治療〜低血糖のない良好な血糖応答を」と題して,河盛隆造氏(順天堂大学)にお話しいただくことができました.河盛氏は私が大学院で指導を受けた恩師です.糖尿病患者教育の研究の中で,インスリン抵抗性の指標について厳しくご指導を受けた日々を思い出します.最新の知見・治療から,ご自身が留学されたトロント大学での種々のインスリン発見チームの恩師とのエピソードや,2021年に開催予定の「インスリン発見100周年シンポジウム」の準備秘話など,いつまでも色褪せない豊富な話題に圧倒されました.座長を務めさせていただき,大変うれしかったです.

映画の時間

—少しだけ孤独で,少しだけ幸福な11歳の僕の,人生のめざめの冒険がいま始まる!—恐竜が教えてくれたこと

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.279 - P.279

 大人になると,子どもの時分にどんなことを考えていたか,普段はあまり思い起こすことはありません.しかし,記憶をたどってみると,結構,難しいことにも思いをはせていたようにも思います.本作の主人公のサム(ソンニ・ファンウッテレン)は11歳ですが,死や孤独について思いをめぐらせている繊細な男の子です.バカンスで家族と共に観光地のテルスヘリング島へ来ています.サムが砂浜に掘った穴に彼の兄が落ちて足を骨折し,父親は兄を本土の医療機関へ連れていくことになります.サムの母親は頭痛でコテージで休んでおり,島に残ったサムはぶらぶら島を歩いていて,ちょっと変わった女の子テス(ヨセフィーン・アレンセン)に巡り合います.
 テスはシングルマザーの母親と二人で暮らしており,彼女の父親は火山の噴火で死んでしまったといいます.母親は島の診療所で働きながら,観光シーズンには観光客にコテージを貸して生計を立てているようです.サムはテスの突飛な行動に振り回されながらも,だんだんとテスの魅力に引き込まれていきます.

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ページ範囲:P.209 - P.209

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.277 - P.277

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.281 - P.281

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.282 - P.282

 昨年あたりから,新聞の健康・医療情報サイトで「ゲノム」や「がん遺伝子」といった用語を頻繁に見かけるようになりました.政府の「第3期がん対策推進基本計画」〔2018(平成30)年3月閣議決定〕でも,がん医療の充実策のトップにゲノム医療の推進を掲げており,その実現に向けた拠点病院の整備や人材育成が始まっています.ゲノム医療に対する国民の期待や関心も高まっているので,本誌では初めてですが「ゲノム革命」という特集を企画しました.
 企画当初は「予防と医療のイノベーション」という副題とともに,題名が誇大表示にならないかと心配でした.しかし,蓋を開けてみれば,劇的なゲノム解析技術の進歩に伴うゲノム研究の進化に驚かされ,倫理的課題などは多いものの,5〜10年以内に疾病の予防や医療に革命をもたらすのは間違いないと思ったところです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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