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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生84巻5号

2020年05月発行

雑誌目次

特集 徹底解説 東京2020対策—今こそ!マスギャザリングへの備え

東京2020における競技会場所在自治体の取り組み—墨田区は国技館でボクシング!

著者: 西塚至

ページ範囲:P.305 - P.311

【ポイント】
◆競技会場所在自治体,東京都,大会組織委員会,国は,東京2020の準備と運営に責務を負っている.
◆墨田区はインフラ整備など年間24億円を投じ,大会を契機としたスポーツ・文化・教育などの振興を図った.
◆東京2020での取り組みを一過性とせず,大会のレガシーとして継続することで,健康長寿社会や共生社会の実現を目指す.

東京2020に向けての健康増進法の改正—タバコフリー社会の実現に向けて

著者: 吉見逸郎

ページ範囲:P.312 - P.317

【ポイント】
◆改正健康増進法が2020年4月に完全施行されます.単にそれを周知させるのみならず,受動喫煙の健康への影響を含めた啓発が一層重要となります.
◆タバコ対策には受動喫煙防止だけでなく,未成年喫煙の防止や禁煙支援の推進があります.
◆直接の禁煙支援でなくても,情報共有や地域職域連携など禁煙支援環境の整備につながることを企画しましょう.

東京2020の生物テロ対策を考える

著者: 齋藤智也

ページ範囲:P.318 - P.322

【ポイント】
◆予防的手段から平時のさまざまな感染症対策までが一体となって,生物テロに対する社会のリスク管理が実現する.
◆公衆衛生機関と警察の連携は生物テロ対策として意識的に取り組むべき課題の一つである.
◆多機関連携が重要である.演習などを通じて既存の枠組みとコミュニケーションルートの再確認を行うべきである.

東京2020に向けた性感染症(STD)・HIV対策

著者: 田沼順子

ページ範囲:P.324 - P.329

【ポイント】
◆近年,梅毒の感染が拡大している.東京2020における感染症対策には性感染症(STD)対策も含めるべきである.
◆国際的マスギャザリングへの準備として特に,サーベイランスやモニタリングの仕組みづくり,緊急予防措置としてのHIV曝露後予防(PEP),訪日した外国人HIV感染者に対するケア,多言語対応に取り組む必要がある.
◆オリンピック憲章は性の多様性を尊重している.オリンピック・パラリンピックはSTD対策を推進する好機である.

地域におけるマスギャザリング災害への備え—東京2020の経験を災害医療の進化に生かす

著者: 宮国泰彦 ,   山口芳裕

ページ範囲:P.330 - P.334

【ポイント】
◆大規模イベントでは,イベント関係者だけでなく地域全体で対応する体制を準備することが重要である.地域に根付いている医療者の協力が不可欠である.
◆二次医療圏の診療所や病院に,「自分たちの診療所・病院でもイベントに関係する傷病者を診療するかもしれない」という意識を持ってもらうことが大切である.
◆マスギャザリング対応セミナーは,オリンピック後にも,さまざまな大規模イベントの開催が予定されている東京において,地域の連携や関係性を深める上で極めて重要な意味を持つ.

東京2020に向けた感染症対策

感染症サーベイランス情報を対応に活かす

著者: 神谷元 ,   島田智恵 ,   松井珠乃 ,   柿本健作

ページ範囲:P.293 - P.297

【ポイント】
◆東京2020は,国内および国際的なサーベイランスと対応の仕組みが整ってきた現状で迎える56年ぶりの夏季オリンピック・パラリンピックである.
◆2016年以降に国内で開催された二度のサミットとラグビーワールドカップ2019を通じてマスギャザリングにおけるサーベイランスと対応の体制が整備されてきた.
◆東京2020におけるサーベイランスと対応についての取り組みは,今後のわが国のグローバル化の進展に対応するための貴重なレガシーとなる.

東京都の取り組み

著者: 赤木孝暢 ,   中坪直樹

ページ範囲:P.298 - P.304

【ポイント】
◆東京2020に向けて,各種事態への対応方針や活動の内容を定めた「東京2020大会の安全・安心の確保のための対処要領」を策定した.
◆感染症のリスク評価を実施し,検査体制の整備,感染症対策アドバイザーの設置,保健所支援を行っている.
◆訪日外国人,渡航日本人,宿泊施設に向けた感染症予防の啓発資材の作成を行っている.

視点

ヘルスケアへのempathyとpassionを最大化する

著者: 筒井孝子

ページ範囲:P.284 - P.285

公衆衛生におけるヘルスケアシステムの評価
 最適なヘルスケアシステムの構築は,公衆衛生が掲げてきた目標である.この達成に当たっては,わが国を含む多くの国々で集団のニーズを特定するとともに,その効果を測定し,これらの評価結果を基にシステムの改善を提案するといった研究が実施されてきた1)〜3)
 これまでの研究では,医療や保健福祉,介護サービスなどが評価され,それらがヘルスケアシステムの目的を満たしているか,最も適切な介入は何か,あるいは,提示された介入の資源に対する影響は何かなどが分析され,その費用対効果に関わる成果も発表されてきた4)

連載 リレー連載・列島ランナー・134

死別の困難に応じられる地域社会をつくる試み

著者: 山崎浩司

ページ範囲:P.335 - P.338

はじめに
 筆者は,自分が暮らす信州地方を,死別の困難に対して少しでも共感的で支援的な地域社会にしたいと願い,有志市民や学生とともに,2012年からさまざまな活動に取り組んできた.断っておくと,死別の困難に直面する人々に対して,信州が特に冷たいわけではない.日本社会全体が,死別の苦しみに対して十分に支援的であるとは言い難いのである.これは,例えば英国スコットランドのように,死別ケアについて明確な指針が公的に示され1),政府とNHS(National Health Service)と民間の支援団体が協働して,死別の困難に対する支援を要する全ての国民に国を挙げて対応しようとしている社会と比べたときの筆者の実感である.
 本稿では,筆者がメンバーである市民団体「ケア集団ハートビート」(以下,ハートビート,筆者ら.URL:https://www.hbshinshu.com)の取り組みを中心に,死別の困難に応じられる地域社会をつくる試みについて述べる.なお,その取り組みを単に紹介するのではなく,それぞれから行政や医療専門職が市民との協働を模索する際のヒントを少しでも提供できるように論述したい.

世界に届け! Boshi-Techo【最終回】

Boshi-Techo—ロシアへ,そして世界へ

著者: 坂本ジェニファー理沙 ,   柴沼晃 ,   神馬征峰

ページ範囲:P.340 - P.345

はじめに
 ロシア連邦(以下,ロシア)と聞くと,極寒の気候,色とりどりのマトリョーシカやウォッカを想像されるかもしれない.ロシアは日本の約45倍,米国の約2倍の国土面積を誇る世界で最も広い国である.現在の人口は約1億4,700万人とされ,世界銀行の一人当たり国民総所得(GNI)に基づく分類によるとロシアは高中所得国に分類される.
 1991年にソビエト連邦(以下,ソ連)が崩壊した後,ロシアでは大幅に人口が減少し,保健医療の状況も大きく変化した.しかし,2008年以降,人口減少幅は縮小し,2013年には出生率が死亡率を上回って人口の自然増加が回復した1).一方で,ソ連時代から低水準であったロシア国民の平均寿命は,まだ十分には解消されていない.世界保健機関(WHO)によると,2016年のロシア国民の平均寿命は女性77.2歳,男性66.4歳であり,男性の平均寿命が極めて短い.同年の経済協力開発機構(OECD)諸国平均と比べると,女性は6.1年,男性は11.5年短く,男女差もはるかに大きい2)

予防と臨床のはざまで

予防医療医の冬2019(後編)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.346 - P.346

 2020年12月3日は大阪で全国労働衛生団体連合会の保健指導の研修会.いつもは新幹線ですが,今回は初めて高速バス「ドリームスリーパー」で向かうことに.全室完全個室で,トイレ・パウダールームまで付いた夜行バスで,夜11時池袋発,翌朝7時に大阪梅田着でそのまま講演会場に向かいました.新幹線のグリーン席と同じ料金なので,好みは分かれるでしょう.
 12月5日は産業医先のライオン平井地区で,管理職向けのメンタルヘルス研修.「最新のメンタルケースの困難さ」と題して,発達障害やパーソナリティ障害など,従来のうつ病のような教科書どおりの対応が通用しないケースの病理と実際の対応例を紹介し,組織のメンタルヘルスリテラシー向上の鍵について言及しました.アンケートでは「リアルな話」「従来と違った視点」「組織を守るという考え方が斬新」などの良い評価をいただき,ホッと一安心しました.

映画の時間

—時を越えて輝き続ける世界屈指の美の殿堂へようこそ—プラド美術館 驚異のコレクション

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.347 - P.347

 今月は,スペインの首都マドリードにあるプラド美術館に密着したドキュメンタリー映画,「プラド美術館 驚異のコレクション」を紹介します.美術館のドキュメンタリーと言うと,収蔵作品の紹介映像の記録映画を想像しがちですが,本作品は作品の紹介にとどまらず,美の殿堂の生い立ちから苦難の歴史,絵画や作家の背景などをドラマチックに紹介しています.
 ナビゲーターを担当するのは,英国出身で舞台や映画で活躍する俳優ジェレミー・アイアンズです.シェイクスピア劇の舞台を彷彿とさせるような解説で,時代は一気に5世紀前の,神聖ローマ皇帝でスペイン国王も兼ねたカール5世(スペインではカルロス1世)の治世にさかのぼります.ティツィアーノが描いた悲壮な肖像画を紹介しながら,16世紀にスペインを世界に冠たる帝国に発展させたカール5世の晩年と歴史的背景に迫ります.プラド美術館の開館は後年ですが,その源流はカール5世の時代の王室コレクションであることが分かります.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.283 - P.283

書籍紹介 フリーアクセス

ページ範囲:P.304 - P.304

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.339 - P.339

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.349 - P.349

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.350 - P.350

 残念ながら,2020年3月24日に東京2020は1年程度,延期されることとなりました.しかし,あえて本号の特集では「徹底解説 東京2020対策—今こそ! マスギャザリングへの備え」を取り上げました.
 和田耕治先生には,世界保健機関のマスギャザリングに関するガイドを踏まえ,東京2020を想定したリスクを評価し,感染症や熱中症など健康影響に備える取り組みについて執筆いただきました.神谷元先生には,改正国際保健規則(IHR)の下で,国内および国際的な感染症情報サーベイランス情報をイベント開催の影響評価にどのように活用するか,また,G20サミットやラグビーW杯2019での経験を踏まえた取り組みについて解説していただきました.赤木孝暢先生は,開催都市の立場から,感染症のリスク評価について大会期間の検査体制や保健所機能の強化,多言語対応などについて述べられました.私からは,競技会場所在自治体の立場から,地域のセキュリティーの確保,大会関連事業としての健康増進事業の位置付けなどについて紹介しました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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