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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生84巻6号

2020年06月発行

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特集 次代の公衆衛生を展望する

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.355 - P.355

 わが国の公衆衛生は母子保健と結核対策によって形づくられてきました.保健所を基盤として,対人業務は保健師が担うという仕組みです.近年は主要な健康課題が生活習慣病となり,公衆衛生の機関には虐待,暴力,依存症などの社会的な問題への対応も求められています.
 人口動態的は,多産多死型から少産少子型の社会となり,また,人口減少社会となっています.そのため,一人一人の人間の価値が高まり,全ての人々が健康で文化的な生活を享受できる社会とすることが目指されています.人間社会は急速に国際化,グローバル化してきています.国境の壁が低くなり,感染症対策や食品安全や環境保護などは一つの国で対応できないものとなってきています.全ての人々の健康と安寧を保証する社会を実現するには,国の役割だけでなく地方自治体の機能強化と役割が高められてきています.1995年に中核市が発足し,2020年3月現在,58市に増えてきていることもそれを反映しています.中核市は保健所設置を義務付けられた自治体であり,今後の日本の公衆衛生の基本的な体制に影響を与える存在と考えています.一方で,企業や事業者の役割,影響力も大きなものとなっています.

公衆衛生の国際化,グローバル化への課題と展望

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.356 - P.362

【ポイント】
◆21世紀の世界は,総体として見れば,より健康に,また,より豊かになりつつある.国内外の保健課題は近似している.
◆日本の経験や保健技術は,遅れて高齢化の津波(Silver Tsunami)に立ち向かう国にとっては極めて有用である.
◆「Think globally, plan nationally and work individually」を実践すれば,個人にとっても,社会にとっても,世界にとっても「三方良し」が実現できる.

公衆衛生における大学と学会の役割—教育に注目して

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.363 - P.367

【ポイント】
◆大学における公衆衛生教育は総じて時間不足であるため,近年の複雑化する健康問題に対応するには十分でない.
◆公衆衛生教育のグローバルスタンダードに対応し,社会人に門戸を開いた公衆衛生大学院の拡充が求められる.
◆公衆衛生専門家には,現任教育やOJT,リカレント教育,学会などによる生涯教育,さまざまな媒体による情報収集など,自分に適した方法を見つけて自己研鑽を行うことが求められる.

健康格差に対する日本の公衆衛生の取り組み—その到達点と今後の課題

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.368 - P.374

【ポイント】
◆「健康日本21(第2次)」の中間評価において「健康格差の縮小」や「社会環境の整備」では前進がみられた.
◆今後は,「ゼロ次予防」を目指し,市町村や社会階層間の健康格差,ライフコース,建造環境,「health in all policies」に着目すべきである.
◆evidence based policy making(EBPM)の推進のため,健康影響予測評価とプログラム評価,ロジックモデル,評価計画などが課題となる.

健康価値創造を志向するJapan-CDC創設への提言

著者: 森本兼曩

ページ範囲:P.375 - P.381

【ポイント】
◆Japan-CDC(日本版CDC)を創設し,疾病災害予防と健康増進,環境健康リスクコミュニケーションを行って,東洋的な健康価値意識を社会に敷衍する.
◆幸福・安寧を含む,包括的で美しい多次元構造を持つ「national health index」(NHI)を設計し,健康価値創造力を「見える化」する.
◆伝統と景観が残る京都・金沢などの多くの地域において,温泉・森林などの自然資源を活用し,学術・芸術志向の健康保養都市を構築していく.

多文化共生と外国人の健康福祉

著者: 丹野清人

ページ範囲:P.382 - P.386

【ポイント】
◆2019年の「出入国管理及び難民認定法」の改正に伴う「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応政策」の開始をどのように評価するのかについて述べる.
◆外国人の文化的差異を理解しつつ,医療・福祉問題にアプローチすることの難しさを理解すべきである.
◆多文化共生支援者を専門職としてキャリア形成することのできる正規職員ポストの創設が必要になっている.

中核市保健所における公衆衛生ことはじめ—八尾市保健所の挑戦

著者: 髙山佳洋

ページ範囲:P.388 - P.393

【ポイント】
◆中核市保健所のメリット,デメリットを示す.医療との調整力の向上によって福祉と医療の協議が進展することや,健康危機管理の取り組みを進捗させることが期待されている.
◆保健師数は増えるが,育成プログラムの作成による専門性強化と地域活動の組織的戦略的推進,エビデンスに基づく課題設定と評価が早急に求められる.
◆今後,保健所の司令塔としての機能の強化と,市長をトップにした全市的な部局横断型の健康まちづくりプロジェクトが不可欠である.構想の具体化を進める八尾市の挑戦に期待する.

公衆衛生活動における開業保健師の可能性と展望

著者: 村田陽子 ,   押栗泰代 ,   渡邉玲子 ,   川添高志 ,   井倉一政 ,   德永京子

ページ範囲:P.394 - P.399

【ポイント】
◆公衆衛生の中でイノベーションを起こしている開業保健師の活動を紹介する.
◆行政や既存組織にとらわれない開業保健師という働き方の特徴を紹介する.
◆保健師を対象にしたアンケート調査結果から,開業という働き方について示唆する.

国民の健康づくりと栄養政策における食品企業の社会的役割

著者: 阿部圭一

ページ範囲:P.400 - P.405

【ポイント】
◆栄養政策の歴史の中で,食品企業は健全な健康市場の確立や適切な情報発信による国民の健康意識醸成に貢献してきた.
◆海外における代表的な健康への取り組みとして,減塩や砂糖税,分かりやすい表示などの取り組み事例がある.
◆栄養政策の歴史と海外事例を参考にして,これからの健康課題解決に向けた食品企業による貢献について展望する.

視点

援助職が受ける暴言・暴力とバーンアウト

著者: 中板育美

ページ範囲:P.352 - P.353

 保健・医療・福祉の立場で対人支援に関わる私たちは,住民・患者の人権を尊重し,権利を擁護することを心掛けています.一方で,権利をはき違えた主張や,住民からの理不尽な訴えが暴言や暴力という形で現れる場面に出くわすことも少なくはありません.感染症発生時や災害時,虐待対応時など,恐怖体験や窮地に追い込まれたときに,怒りのはけ口が行政に向けられることは,経験上理解できます.しかし,相談動機を自覚しない住民でも,私たちが健康支援のニーズが極めて高いと判断すれば,情報が少ないまま家庭訪問せざるを得ない状況も少なくなく,このような場面で暴力被害に遭うことがあります.海外に目を向けても,命に別状はない程度の暴力,脅しやストーカー行為などの心理的暴力に該当する被害が多いことも示されています〔国際労働機関(ILO),米国労働安全衛生局による〕.
 援助職が受ける暴言・暴力(workplace violence:WPV)は,援助者としての身体のみならず自尊心を傷付け,役割継続に影響を与え,燃え尽き症候群(burnout syndrome:BOS)や離職を助長するという点で着目したい課題です.本稿では,援助職の確保策が困難になる中,援助者が受けるWPVへの対応とBOSの予防策について考えます.

連載 リレー連載・列島ランナー・135

看護師・保健師教育における「動機づけ面接」導入の試み

著者: 荒木善光

ページ範囲:P.407 - P.410

 はじめに
 2019年12月に厚生労働省の医道審議会保健師助産師看護師分科会において,「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」などの改正案が了承された1).これによって,2022年度のカリキュラムより看護師教育は97単位から102単位に,保健師教育は28単位から31単位に総単位数が増加する.
 この見直しのポイントとして看護師教育では,情報通信技術(information and communication technology:ICT)の活用および倫理的判断などに必要な基礎的能力,コミュニケーション能力,臨床判断能力を強化することが挙げられている.また,保健師教育では,疫学データおよび保健統計などを用いて地域をアセスメントし,健康課題への継続的な支援と社会資源の活用などの実践能力,施策化能力,産業保健・学校保健における活動の展開や健康危機管理などで求められる能力を強化することが示されている1)
 これまでの看護基礎教育でも専門分野の学習を深める他,職業に必要な倫理観や責任感,豊かな人間性や人権を尊重する意識を育成していくことが求められていた2).上記のコミュニケーション能力は,看護系人材として求められる基本的な資質・能力の一つであり3),その能力の向上に向けた教育の工夫が必要であると考える.
 本稿ではまず「動機づけ面接」(motivational interviewing:MI)4)5)の特徴について紹介する.その上で,看護師・保健師教育にMIを導入するに至った筆者自身の経験について報告する.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・1【新連載】

科学技術イノベーション概論

著者: 山縣然太朗

ページ範囲:P.411 - P.415

はじめに
 ゲノム研究,iPS細胞研究,生殖医療技術などのバイオ研究・技術の飛躍的な進歩は,それらが社会実装されるとともに,公衆衛生の領域にも大きな影響をもたらすことは論をまたない.一方で,ICT(information and communication technology.情報通信技術)が情報革命をもたらしつつあり,さまざまな恩恵をもたらすとともに課題も出てきている.さらに,AI(artificial intelligence.人工知能)技術などの科学技術が急速に社会実装されており,人間社会が果たしてこれらに追いつけているのか,疑問さえわいている.
 本連載企画は,先端の科学技術の基本知識を得ることを一義的に,公衆衛生活動への影響を恩恵とともに,倫理的,法的,社会的課題について予測することを目的として企画した.公衆衛生の専門家が地域の住民に対して最先端の科学技術を簡潔に説明できるように,社会との接点も含めて分かりやすく説明する.また,科学技術イノベーションが公衆衛生活動に果たす役割や,新たな連携の在り方についても解説していく.
 今回は科学技術イノベーション政策に関連する用語を取り上げ,科学技術イノベーション政策が公衆衛生にどのように関連するのかについて概説する.

予防と臨床のはざまで

予防と臨床のはざまから見るコロナ(その1)

著者: 福田洋

ページ範囲:P.416 - P.416

 1月後半になり,産業医先の各企業からコロナ関連の質問が増えてきました.メールでは1月22日に最初の相談が入っており,中国との行き来がある企業から,渡航中の社員の対応や今後の渡航についてどう対応すべきかという内容でした.日本での最初の感染者が1月16日ですから,翌週にはもう相談があったことになります.まだ報道が過熱していなかった頃ですが,やはり企業は情報が早いと感じました.
 1月27日には,大学の安全衛生関連の会合があり,今ではテレビで引っ張りだことなっている感染症専門医の先生と話す機会がありました.「今回の新型肺炎を先生ならどう説明しますか?」と質問すると,「それなりの風邪がすごく流行る感じ」と教えていただきました.さすがに分かりやすい,と感心しましたが,致死率や感染力についてインフルエンザとの比較から,その後「ひどいインフルがすごく流行る感じ」と危機感を上方修正しました.

映画の時間

—報奨金を掛けられた警官殺しの逃亡犯.妻の代わりに現れた謎の美女.二人が絡み合い辿り着く,湖畔の終着地には—鵞鳥湖の夜

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.417 - P.417

 2012年,中国南部の地方都市でしょうか,雨の降りしきる夜の暗闇の中で,誰かを待っているような,いわくありげな男がいます.そこに赤いブラウスを着た,これも怪しげな若い女が近づいてきます.男は本作品の主人公であるチョウ・ザーノン,女は彼の妻に頼まれてチョウに会いに来たというリウ・アイアイです.チョウは妻を待っていた逃亡犯のようですが,お互いの素性を探り合いながら,彼はなぜ警察に追われているかを語りはじめます.黒い暗闇と怪しげなリウの赤い服の対比が印象的で,ノワール・サスペンスの旗手であるディアオ・イーナン監督による鮮やかな冒頭のシーンです.
 主人公のチョウは刑務所から出所したばかりで,バイク窃盗団同士の抗争のあおりで,対立するグループから追われる途中で誤って警察官を射殺してしまいます.警察はその威信にかけて,警官殺しの容疑者であるチョウに30万元の懸賞金をかけて追い詰めていきます.観光地である「鵞鳥湖」の周辺に逃げ込んだチョウですが,逃げ切れないと思った彼は,自分の逮捕と引き換えに,懸賞金が妻シュージュンの手に渡る方法を模索します.警察も当然,妻のシュージュンをマークします.果たしてチョウの計画は成功するのか,警察はチョウを逮捕できるのか,対立グループも絡んで映画は複雑な展開を見せていきます…….

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ページ範囲:P.351 - P.351

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.406 - P.406

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.419 - P.419

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.420 - P.420

 国連は2030年までを目標とした「持続可能な開発目標」(SDGs)の取り組みを世界的に進めています.2025年には「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとした大阪・関西万博が予定されています.この10年が公衆衛生の転換期となると思い,本号の特集を企画いたしました.
 本号の編集中に新型コロナウイルス感染症の流行が始まり,パンデミックになるに至っています.歴史をたどってみると,19世紀のコレラのパンデミックが公衆衛生制度の生みの親とされています.その頃はコレラ菌が発見されておらず,治療薬もなく,検疫でも流行を制御できませんでした.そのため,衛生当局と国民が力を合わせた衛生対策に取り組む体制をつくる必要が生じて近代の公衆衛生が誕生したとされています.現在,新型コロナウイルス感染症に対してのワクチンや治療薬剤はありません.病院医療だけでは対応できず,まさに,かつてのコレラパンデミックと同じ状況に立たされています.コレラのパンデミックには,19世紀に蒸気船が登場し,国際化・グローバル化が革命的に進展したことが影響しています.新型コロナウイルスは,格安航空会社(LCC)を含めた航空機の大衆化・高速化によって多数の人々が短時間に国境を超えて移動する21世紀の社会の特徴から広がったものといえます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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