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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 病気の治療と仕事の両立支援—キャリアをあきらめないために

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著者: 森晃爾

ページ範囲:P.5 - P.5

 医学や公衆衛生の進歩によってがんをはじめとする多くの慢性疾患の予後が良くなっていること,少子高齢化が進む日本では可能な限り多くの国民の社会参加が求められることなどを背景とし,病気を持ちながらも働くことを望む人たちに対して,治療と仕事の両立を支援していくことが重要になってきています.そこで政府は,働き方改革実行計画の一環として「病気の治療と仕事の両立支援」を政策テーマとして掲げ,その推進を図っています.具体的には,厚生労働省が中心となり,「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表するとともに,財政面での支援,人材育成やモデルづくりを行うなどの取り組みです.
 しかし,「病気の状態」×「仕事の内容」の組み合わせは無数に存在するため,細かい基準を決めても現実に応用することはできません.そこで,病気の治療と仕事の両立支援においては,本人の働く意欲と意思を尊重し,企業等の組織および仕事の実態に合わせて,病気や治療などの医療情報を参考に,個別的な支援が必要となります.また,両立支援の対象となる病気の治療をしながら働く人は,職場では労働者であり,医療機関では患者であり,家庭や地域では家族や住民であるといったように,各場面において異なる立場があり,職場,医療機関,家庭・地域のそれぞれの場面において支援するだけでは十分ではなく,その連携が必要となります.そこで,それぞれの場面の資源を充実させるとともに,各場面において支援を行う場合には,他の場面の取り組みや資源の理解を促進しなければなりません.ここ数年の取り組みによって,治療と仕事の両立支援について,徐々に支援のための資源が充実し,多くの好事例も生み出されていますが,職場や地域のよって支援の実態には格差が存在します.

「病気の治療と仕事の両立支援」の背景と展開

著者: 森晃爾

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】
◆「病気の治療と仕事の両立」は,「働き方改革実行計画」の項目の一つとして取り上げられ,政策として推進されている.
◆両立支援のためには,支援を必要とする働く人に対して,医療機関,職場,地域などのさまざまな立場から関わる人が連携することが必要である.
◆両立支援の推進のための課題解決のために,情報提供,人材育成,財政的支援等の取り組みが進められている.

国による治療と仕事の両立支援の推進

著者: 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 治療と仕事の両立支援室

ページ範囲:P.12 - P.16

【ポイント】
◆治療と仕事の両立支援は,「ニッポン一億総活躍プラン」,「働き方改革実行計画」,「労働施策基本方針」に今後取り組むべき重要な施策として位置付けられており,継続的かつ重点的な対策が求められている.
◆厚生労働省では「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を策定し,周知を図っている.
◆両立支援の推進のため,広報事業をはじめ地域両立支援推進チームの設置,両立支援コーディネーターの養成等に取り組んでいる.

治療と仕事の両立支援—事業者に期待される役割と実際:産業医の視点から

著者: 上原正道

ページ範囲:P.17 - P.21

【ポイント】
◆事業者は,厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のガイドライン」に基づいて環境整備を図る必要がある.
◆産業医等の産業保健スタッフは,社内の相談窓口,コーディネーターとなって両立支援の取り組みを推進する.
◆事業者や産業医は,より良い両立支援の実現のために主治医・医療機関と積極的に連携を図るべきである.

中小企業における治療と仕事の両立支援の取り組み

著者: 吉川悦子

ページ範囲:P.22 - P.27

【ポイント】
◆人的・物的資源に制約のある中小企業における両立支援の取り組みとして良好事例を紹介しながら,在り方について検討する.
◆中小企業は,個別のニーズに合わせた柔軟な両立支援の運用が可能であり,経営者の姿勢が社員同士助け合う雰囲気づくりにもつながる.
◆中小企業の両立支援を後押しする簡便なツールが必要である.

がん治療と仕事の両立支援—医療機関に期待される役割と実際

著者: 高橋都

ページ範囲:P.28 - P.32

【ポイント】
◆医療機関への受診や入院は,治療と仕事の両立に関する情報や支援を提供する好機である.
◆がんの疑いが出た時点からの離職予防の呼び掛けと,院内相談窓口場所の伝達が必要である.
◆医療機関での両立支援を進めるには,全職種に共通するアクション,職種の専門性を生かしたアクション,そして組織ぐるみで取り組む姿勢が重要である.

治療と仕事の両立支援における医育機関の役割

著者: 立石清一郎

ページ範囲:P.33 - P.37

【ポイント】
◆両立支援は第2期がん対策推進基本計画によりスタートし,医学教育では高いレベルの到達目標が掲げられており,診療・教育についても高い期待が集まっている.
◆支援の実践のためには,情報収集,評価,支援の方策の決定,という流れを意識することが必要である.
◆学生教育のコンテンツとしては,総論,両立支援の流れ,意見書の作成方法,多職種連携などが必要である.

治療と仕事の両立支援における地域資源とその活用

著者: 松本陽子 ,   宮内美奈子

ページ範囲:P.38 - P.42

【ポイント】
◆両立支援には,心の回復への継続的なサポートが必要.
◆当事者団体としての共感や寄り添いをベースに,地域資源の一つとなり得るよう活動している.
◆地域の実情に応じて,関係機関が顔の見える関係を築いて支援することが求められる.

両立支援を支える人材養成の取り組み—治療就労両立支援事業の現状と課題

著者: 本田優子 ,   大西洋英

ページ範囲:P.43 - P.47

【ポイント】
◆治療就労両立支援事業において確立された「トライアングル型支援」は,当事者・職場・病院の三角形の関係性を支援し,両立を促進する支援スタイルである.
◆両立支援コーディネーター研修は現場で支援を担う人材を養成するとともに社会全体の両立支援風土の醸成もねらいとしている.
◆両立支援コーディネーター研修の多数の修了者が支援現場で機能できるようなフォローアップ体制の構築が課題である.

新・視点

公衆衛生は地域活動の方向を決める羅針盤

著者: 柳尚夫

ページ範囲:P.2 - P.3

はじめに—学生時代と職歴
 筆者は,学生時代に公衆衛生サークルに所属し,卒業と同時に大阪府に公衆衛生医として採用され11年前に兵庫県に転職したが,府立病院での臨床と本庁勤務と海外派遣研修の計6年間以外は,保健所長の19年を含む通算33年,府県の保健所で公衆衛生の現場活動に従事してきた.

連載 リレー連載・列島ランナー・142

精神疾患を抱える患者さんと家族が自分らしく過ごすためのオンライン支援

著者: 加藤美和子

ページ範囲:P.49 - P.52

はじめに
 「うつ病」という言葉の普及に伴い,気分障害をはじめとした精神疾患は,身近に起きる疾患として認識されるようになってきた.多くの人がまず思い浮かべるのは,患者さんのことだろう.実は家族など周囲で心配する人々にとっても大きなライフイベントとなり,支援が必要となるケースもある.
 筆者自身は,長い間家族の立場で精神疾患に関わってきた.家族として何とかしてあげたいと必死になればなるほど衝突は増え,かえって事態を悪くしてしまう.負担感が増してくると,自分ばかりが我慢や苦労を強いられているように感じてしまい,苦しんでいる本人を目にしながらそんな捉え方をする自分に嫌悪する.限界を感じた時に初めて,適度な距離感を保ち,患者さん主体の生活ではなく自分自身の人生と向き合っていく必要があることを痛感した.この経験が,筆者が精神疾患を抱える患者さんと家族が自分らしく過ごすための支援に取り組むきっかけとなった.本稿ではその取り組みを紹介する.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・8

ICT(情報通信技術)が変える公衆衛生

著者: 松原史朗

ページ範囲:P.53 - P.57

はじめに
 近年,ICT(情報通信技術)の発展は目覚ましく,社会を大きく変えつつある.ICTは公衆衛生や医療の分野でも活用が始まっており,今後大きく発展することが期待される.本稿ではAI(人工知能)やビッグデータなど公衆衛生分野で活用が始まっているICTに関する知識を概説するとともに,その活用事例を紹介する.

予防と臨床のはざまで

はざまの連載200回を振り返って

著者: 福田洋

ページ範囲:P.58 - P.58

 医学書院さんのご好意でこの連載を開始してから今回で200回! ほぼ毎月休みなく書いてきましたので,足掛け16年ほどになります.今回はその連載そのものを振り返ります.
 最初のアイデアは,大学院生時代(1995年)までさかのぼります.公衆衛生学講座の大学院生だった当時,私は糖尿病患者教育の評価を研究テーマにしていました.研修医時代の北海道の病院で,患者さん向けの教材を全編漫画入りで作るほど,「面白くてためになる健康情報を患者さんに伝える」ことに夢中でした.今風に言えば,ヘルスリテラシーに興味があったのですが,中でも媒体としての漫画に大きな可能性を感じていました.当時,教室に来ていた医学書院の編集の方に,「雑誌に漫画入りでエッセーを連載したい」と提案したところ,「医学書院では漫画はちょっと…(苦笑)」とけんもほろろに却下されたことを覚えています.今思えば漫画が問題というより,業績のない院生が連載すること自体が無理な話なのですが,当時はいつか漫画を掲載して見返してやる!と勝手に闘志を燃やしたのでした(笑).

映画の時間

—笑って泣いて,幸せがやってくる.—ハッピー・バースデー 家族のいる時間

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.59 - P.59

 フランス南西部の明るい日差しの中,大邸宅とまではいかないものの,立派な門のある広い家に,夫とともに住んでいるアンドレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)の誕生日を祝うために,子どもや孫たちが集まってきます.
 高級なステーションワゴンで現れたのは,しっかり者の長男ヴァンサン(セドリック・カーン).妻マリー(レティシア・コロンバニ)は医師で,双子の子どもたちと一緒です.次男ロマン(ヴァンサン・マケーニュ)はちょっと怪しげな映画監督?のようで,恋人のロジータと一緒に来ています.アンドレア夫妻と同居している孫のエマは来年大学受験ですが,ピアノの上手なボーイフレンドも加わって祖母アンドレアの誕生日パーティーの準備にいそしんでいます.

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ページ範囲:P.1 - P.1

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.48 - P.48

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.61 - P.61

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.62 - P.62

 特集「病気の治療と仕事の両立支援—キャリアをあきらめないために」はいかがだったでしょうか.森先生には両立に必要な三原則,医療機関,職場,家庭・地域の連携の在り方を,厚生労働省には「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」についてご紹介いただきました.上原先生には産業医の立場から事業所での支援や産業保健スタッフの役割について,吉川先生には中小企業における好事例と両立支援ツールについて,高橋先生には医療機関での組織ぐるみの取り組みの必要性について,立石先生には医学教育での取り組みの重要性についてご教示いただきました.松本先生,宮内先生からは,ご自身の経験も交えて地域のNPOの活動を,本田先生,大西先生からは,両立支援コーディネーター養成の取り組みを詳しく紹介していただきました.これら両立支援の取り組みは,これまで病気の治療のために仕事を断念せざるを得なかった多くの方々の無念の涙とそれを決して無駄にしないという思いの上に積み重ねられています.ぜひわが事としてお読みいただければ幸いです.
 列島ランナーでは,精神疾患を持つ患者さんの家族支援のためにスマホで使える相談サイトを立ち上げた加藤先生に,家族が安心して相談できる場づくりについてご紹介いただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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