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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻10号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 社会につながれない 隠されたひきこもり—8050問題

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.639 - P.639

 高齢の親(80歳代)と中高年(50歳代)のひきこもりから成る同居世帯が生活に行き詰まる「8050(ハチ・マル・ゴー・マル)問題」が近年,顕在化しています.将来を悲観した高齢の親がひきこもりの子を殺害する事件や,子が親の遺体を放置した死体遺棄事件も発生しています.
 中高年のひきこもりの場合,当事者本人はさまざまな経過の中で深く傷つき,自己肯定が低く,働いていないことを責められたり,働くことを求められたりするのではないかという不安を持つ傾向にあり,生活保護の申請をためらう人もいます.また,当事者の家族がひきこもりは自分たちに原因があると自分を責めたり,家庭内の問題を外部に相談することを恥と捉えて,親自身が介護サービスなど公的支援を忌避する傾向にあるとされています.

「ひきこもり問題」に対する支援のこれまでとこれから

著者: 近藤直司

ページ範囲:P.640 - P.644

【ポイント】
◆ひきこもり問題が保健・福祉問題として位置付けられるまでの経緯をふり返る.
◆ひきこもり問題に対する近年の支援施策と区市町村に求められる役割と課題について述べる.
◆事例性概念の重要性と暴力を伴うケースに対する危機支援について述べる.

中高年ひきこもりに対する精神医学的支援—対話を中心に

著者: 斎藤環

ページ範囲:P.645 - P.649

【ポイント】
◆ひきこもりは近年,著しい高齢化が進んでいる.ひきこもりは疾患概念ではなく「社会参加をしていない」状態として定義される.
◆精神医学的支援としては,①鑑別診断,②二次症状の治療,③コーディネーター,④精神療法,⑤家族相談がある.
◆支援においては「対話」が重要である.説得でも議論でもアドバイスでもない対話によって,本人は主体性を回復していく.

精神保健現場からみた中高年ひきこもりの現状と課題—8050問題の背景にあるもの

著者: 原田豊

ページ範囲:P.650 - P.654

【ポイント】
◆8050問題の家庭には,親への介護支援と子へのひきこもり支援の2つの支援が入ることになるため,支援機関同士の連携が重要とされる.
◆ひきこもり相談では,今後,各市区町村に,重層的支援体制整備事業のようなワンストップ型相談窓口の設置が求められる.
◆介入が困難な長期ひきこもりの当時者は,著しい対人恐怖等を有するものが多く,支援に当たっては症状への理解が必要とされる.

長期化するひきこもり本人と共に生きる家族の相談支援

著者: 境泉洋

ページ範囲:P.655 - P.660

【ポイント】
◆ひきこもりの長期・高齢化が進む現在,従来の「やる気を引き出す」ではなく「共に生きる」視点が重要となる.
◆長期・高齢化が進んだ事例においては,家庭全体が社会から孤立することを防ぐことが最も重要である.
◆ひきこもり本人と家族,地域資源の三者の関係が良好な状態を保つことで,共に生きるひきこもり支援が実現できる.

ひきこもりと家庭内暴力

著者: 塚本千秋

ページ範囲:P.661 - P.667

【ポイント】
◆ひきこもり当事者の大半は穏やかで,粗暴な行動とは無縁だが,暴力や威嚇で家族を支配する事例もある.悲惨な結末を防ぐために,緊急性を見立てることが重要である.
◆深刻な暴力の背後に3つの孤立がある.小中学生時代の当事者の学校内での孤立,当事者がひきこもってからの家庭内での母親の孤立,それらの背景にあるその家族全体の地域社会からの孤立である.
◆支援者は万一に備えて警察などと連携しながら,当事者や家族の孤立の歴史を理解し,適切な社会資源や人材を家族に紹介する機会が得られるように準備する.

ためこみ症と社会的孤立—ゴミ屋敷問題の処方箋

著者: 中尾智博

ページ範囲:P.668 - P.673

【ポイント】
◆社会的孤立を呈しやすい“ためこみ”を主症状とする疾患として,2013年に新たに定義された,ためこみ症がある.
◆ためこみ症状は器質的な疾患や強迫症,発達障害にも見られることがあり,鑑別診断が重要である.
◆ためこみ症は長期の自然経過で重症化しゴミ屋敷状態に至る可能性があり,早期の介入が望ましい.

ひきこもりに対する地域支援

著者: 辻本哲士

ページ範囲:P.674 - P.679

【ポイント】
◆ひきこもりは社会問題として心に傷を負い,対人交流を避け,身を守っている状態である.ひきこもりそれ自体より,ひきこもりによって生じる生活困難が課題になる.
◆ひきこもり支援は公的制度によって衣食住を保障し,当事者が動きだせる環境を整備することである.多機関・多職種による多様性・継続性のある地域体制が必要になる.
◆ひきこもりからの回復は就学・就労ではなく,社会と接触しながら孤立せずに生活することである.「ひとり生活も楽しい,社会生活も楽しい」を目指す.

ひきこもり女性への働き掛け方と居場所づくり—民間支援団体の立場から

著者: 後藤美穂

ページ範囲:P.680 - P.685

【ポイント】
◆ひきこもりの居場所支援で目指すところは,「就労」ではなく「家族以外で自分が辛くない対人関係を持つこと」.
◆二者関係が築けた後に,三者関係の構築を目指す.居場所は第三者と関係を構築していくトレーニングの場所.
◆支援目標の主語は「私(ひきこもり当事者)」.本人(当事者)の困り事に焦点を当てた目標設定で,当事者,家族,支援者をつなぐ.

新・視点

私が考える公衆衛生の流儀—調査研究と行政実務を経験して

著者: 小野塚大介

ページ範囲:P.636 - P.637

はじめに
 筆者の専門は,環境保健学である.特に,気候変動や化学物質の曝露による健康影響に着目して研究を行ってきた.今回,「私が考える公衆衛生の流儀」というテーマをいただいたことから,これまでの経験を振り返りながら考えてみたい.

投稿・資料

新型コロナワクチンを公平に分配するための世界的取り組み

著者: 若林真美 ,   江副聡 ,   米田麻希子 ,   磯博康

ページ範囲:P.697 - P.701

はじめに
 2020年,新型コロナウイルス感染症の世界的大流行が始まった.この世界的な大流行を受け,製薬会社によるワクチン開発が始まった早い段階から,先進国等による新型コロナウイルス感染症のワクチン候補の事前購入交渉が過熱していった.しかしながら,国家における経済力に関わらず,全ての人が新型コロナウイルス感染症のワクチンに公平にアクセスできるようにすることは,このグローバルな社会において世界中の人々の命を守ることにつながる.国際連合は「No one is safe, until everyone is.(誰もが安全になるまで誰も安全ではない)」を合言葉に,新型コロナウイルス感染症の収束のために,グローバルな協力と連帯を呼びかけた1)

連載 リレー連載・列島ランナー・148

福島県相馬市の「相馬井戸端長屋」の取り組み—東日本大震災後の孤独死対策から,これからの地域の高齢者の暮らし方を考える

著者: 伊東尚美

ページ範囲:P.687 - P.690

はじめに
 筆者は2021年3月まで福島県相馬市役所で保健師として勤務していた.現在は福島県立医科大学に所属する傍ら,相馬市からの委託で「相馬井戸端長屋(以下,長屋)」の健康支援と介護予防の研究に関わっている.2011年3月の東日本大震災(以下,震災)後の独居高齢者・障害者向け災害公営住宅として始まった「長屋」だが,震災前より相馬市が力を入れている孤独死対策を兼ねた,これからの超高齢社会にも提案できるユニークな施策である.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・8

リスク認知と認知のパターン別コミュニケーション

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.691 - P.696

 先月号では,緊急事態下の時系列ごとに求められるコミュニケーションのポイントについて解説した.データが積み上がり,分かってきたことも多くなる維持期には,丁寧なリスクについての対話が欠かせない1)
 ただし,リスクについての対話は難しい.リスクアセスメントに基づく科学的に正確な情報を丁寧に伝えているにもかかわらず,うまく伝わらないという経験をしたことはないだろうか? なぜこうしたことが起こるのだろう?

予防と臨床のはざまで

東京オリンピック2020

著者: 福田洋

ページ範囲:P.702 - P.702

 7月23日から8月8日まで,東京オリンピック2020(新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期)が開催されました.前回の東京オリンピックは1964年と私が生まれる前の開催なので,もしかしたら最初で最後になるかもしれない自国開催のオリンピックについて,このコラムでも考察してみたいと思います.
 のちに体育の日として制定される10月10日は,1964年のオリンピックの開会式が行われた日でした.実はこの日は両親の結婚記念日です.当時は録画もインターネットもない時代ですので,「開会式の日に結婚式に出席させるなんて,テレビが観られないじゃないか!」と来賓には大いに恨まれたようですが(笑),1964年のオリンピックは戦後の復興や高度成長の証で,紛れもないメモリアルだったのは確かだと思います.一方で,2021年の東京オリンピックはどうでしょうか.招致活動の「お・も・て・な・し」は盛り上がったものの,エンブレムやスタジアムなど種々の問題が噴出し,加えてコロナ禍の大打撃もあり,1年の延期が決まりました.「オリンピックかコロナか」との大論争の中,感染拡大・医療逼迫の状況とぶつかり,直近の世論調査でも7割が開催に反対し,国立競技場前では反対デモが起きるほどの異常な状況下で決行されました.

映画の時間

—耳の聞こえない目撃者,新たなターゲットに——.—殺人鬼から逃げる夜

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.703 - P.703

 仕事帰りでしょうか.タクシーをつかまえ損ね,暗い夜道をひとりで歩いていた女性が事件に巻き込まれる場面から映画は始まります.殺害シーンは出てきませんが,女性は殺され,加害者は第一発見者を装って通報します.猟奇的殺人が疑われる,緊迫する導入場面です.
 主人公ギョンミ(チン・ギジュ)は,企業のお客様相談センターで手話による相談を担当しており,自らも聴覚に障害がある女性.相談センターに業務を委託している会社の幹部を接待することになります.

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ページ範囲:P.635 - P.635

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.707 - P.707

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.708 - P.708

 今月号は,「社会とつながれない 隠されたひきこもり—8050問題」を特集のタイトルにし,社会問題となっている「8050問題」について,各分野の専門家からひきこもり当事者である本人とその家族への支援の在り方について解説していただきました.ひきこもりは周囲から気付かれにくく,長期化することで親も高齢化し深刻な困窮家庭を増加させています.こうした家庭では病気や障害,貧困など複合的な問題を抱えやすく,早急な対策が求められています.
 近藤直司先生から,保健・福祉問題としてひきこもり問題が位置付けられた経緯や区市町村に求められる役割について,斎藤 環先生から,精神医学的支援や支援における「対話」の重要性について,原田 豊先生から,区市町村による重層的支援体制や支援機関の相互連携の重要性について,境 泉洋先生からは「やる気を引き出す」から「共に生きる」を意識した家族の役割について,それぞれ解説いただきました.塚本千秋先生から家庭内暴力の問題,中尾智博先生からゴミ屋敷問題の解決手法を紹介いただきました.そして辻本哲士先生から多機関・多職種による地域支援を,後藤美穂先生からNPOの立場からひきこもり女性の居場所支援について事例を交え紹介いただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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