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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻11号

2021年11月発行

雑誌目次

特集 感染症対策の変化と進化—コロナがもたらしたもの

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.713 - P.713

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年の中国・武漢市でのアウトブレイクから間もなく2年となる現在でもパンデミックの終息が見通せず,医療や公衆衛生などへの影響はもちろん,その社会・経済的なマイナス面の影響(negative impacts)が甚大です.
 このような中,COVID-19は,インフルエンザをはじめとするほかの感染症の流行にも大きな影響を及ぼしています.例えば,COVID-19のパンデミックに伴い季節性インフルエンザは,先行して冬季を迎えた南半球だけなく,北半球の国々でも記録的な低流行で終わりました.わが国でも,毎年夏に大きな流行を見せる手足口病やヘルパンギーナ等の報告例が激減するなど,COVID-19が他の感染症の流行に大きな影響を及ぼしたとされています.その要因としては,COVID-19対策としてのマスク着用の徹底や身体的距離の確保,旅行制限などの公衆衛生的介入(非薬理学的介入)が,他の感染症の予防にも効果的に作用したほか,いわゆるウイルス干渉などの可能性も指摘されています.

新型コロナウイルスから振り返る新興ウイルス感染症の温故知新

著者: 古瀬祐気

ページ範囲:P.714 - P.720

【ポイント】
◆多くの新興ウイルス感染症は動物からの伝播を契機として発生しており,新型インフルエンザ,エボラウイルス感染症,エイズ(HIV),SARS,MERS,新型コロナウイルス感染症などがある.
◆終息を目指すことのできる感染症は特徴的な性質を有するが,新型コロナウイルス感染症に関してはまだ不明な点が多い.
◆感染者の検出・隔離・接触者調査は,常に新興感染症対策の基本であり,要である.

新興感染症に対する医療体制の課題と展望—二つのパンデミックで見えてきたもの

著者: 藤井睦子

ページ範囲:P.721 - P.727

【ポイント】
◆「大阪府新型インフルエンザ等対策行動計画」では,保健所を感染症医療体制の整備の中心と位置付けた.
◆新型コロナパンデミックでは,広域的に大阪府が医療療養体制整備を担い,対応した.
◆新型コロナの教訓を踏まえ,法整備,役割分担,拠点整備,人材育成等の議論が必要である.

COVID-19流行下におけるその他の感染症の発生動向と対策

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.728 - P.733

【ポイント】
◆2020年は,COVID-19パンデミックの発生により,他の感染症の発生動向においても大きな影響があった.
◆呼吸器感染症や腸管感染症の全般においては,一部の年齢層で発生の減少という形で顕著に表れた.一方でCOVID-19に対して広く強化された感染対策は,年齢の低い乳幼児や性感染症においての影響は表れなかった可能性が高い.
◆RSウイルス感染症の流行はいったん低減したが,年代によって,免疫学的な影響の可能性も含めて複雑に推移した.

空気感染を中心とした感染経路研究の進化—COVID-19に連なる歴史の道

著者: 西村秀一 ,   樋口昇

ページ範囲:P.734 - P.739

【ポイント】
◆現在に至る歴史的観点を知ることは重要.空気感染を認めさせるための長い闘いがあって今がある.
◆いかにして空気感染が証明されてきたかを知れば,現在のCOVID-19での証明レベルの妥当性が見える.
◆やっと勝ちとった空気感染の概念も,今度は固定的イメージが定着し,アップデートができないでいる.

クラスター対策の意義と成果—COVID-19対策で得たもの

著者: 黒澤克樹 ,   山岸拓也

ページ範囲:P.740 - P.745

【ポイント】
◆クラスター対策は感染症の流行を早期終息させることに役立っている.
◆大規模クラスターでは,保健所とクラスター発生施設が共同で現地対策本部を運営することで,迅速な対応が可能となる.
◆クラスター発生時の迅速かつ正確な症例情報の共有と分子疫学解析結果の公衆衛生上の活用は今後の課題である.

新興感染症検査技術の進化—CRISPRを用いたCOVID-19迅速診断法

著者: 吉見一人

ページ範囲:P.746 - P.750

【ポイント】
◆新興感染症の感染拡大を抑えるためには,迅速かつ正確な検査技術が重要である.
◆COVID-19迅速診断法において,PCR検査法や抗原検査法だけでなく,ゲノム編集技術CRISPRを活用した方法が注目されている.
◆CRISPR診断は特異性の高さと簡便かつ迅速に検査できることから臨床現場即時検査への実用化が期待されている.

保健所の感染症危機管理体制の強化—COVID-19対策の課題を含めて

著者: 内田勝彦

ページ範囲:P.751 - P.756

【ポイント】
◆新興感染症であるCOVID-19対応では保健所に質的・量的に過大な負荷が掛かることが経験され,多くの課題が明らかになった.
◆解決すべき課題には,医療計画・地域医療構想での新興感染症の位置付け,ACPの浸透なども含まれる.
◆新興感染症に対する保健所対応能力と地域医療対応能力から対応可能な流行規模を想定しておくことは重要である.

COVID-19パンデミックと災害医療の戦い

著者: 赤星昂己 ,   近藤久禎

ページ範囲:P.757 - P.761

【ポイント】
◆COVID-19のパンデミックを乗り越えるにはCSCATTTに基づいた災害時としての包括的な対応が必須であった.
◆DMATを中心とした災害医療チームはダイヤモンド・プリンセス号以降,全国のクラスターや入院待機ステーション,入院搬送調整と多岐にわたり活動している.
◆今後の日本では感染症対応をも包含したAll-Hazard対応のできる,より強固な災害医療の在り方が期待される.

新・視点

行政学から見た保健「と」公衆衛生

著者: 曽我謙悟

ページ範囲:P.710 - P.711

保健と公衆衛生は異なるか
 保健と衛生はしばしば類似のものとして扱われる.「保健・衛生」や「保健衛生」と表記されることも多い.言葉の作りからしても,どちらも人々の健康を目指す点では共通する.そして「公衆衛生」となると,「衛生」に限定をかけているので,「保健」や「衛生」という集合の一部分として公衆衛生が存在すると理解される.
 他方,具体的な施策レベルで見れば,食品衛生や環境衛生,感染症対応といった公衆衛生分野に対し,狭義の「保健」は,母子保健や老人保健といった形で区分される.行政組織でいえば,こうした区分は保健所が担う業務と市町村保健センターが担う業務の区分ともおおむね合致する.

投稿・活動レポート

減災体力向上のためのウォーキング講座を開催して

著者: 福田昌平 ,   北村満美 ,   久保田晃生

ページ範囲:P.777 - P.780

はじめに
 日本では毎年多くの自然災害が起こっている.これまでも各地を襲った大規模災害やこれから起こると予測されている災害を考えると,災害に対する意識を高めることは意義がある.この意識の一つに「防災」がある.防災は災害の被害を未然に防ぐために備えをする考え方で,「防災教育」や「防災グッズ」といった言葉が浸透している.
 一方で,近年「減災」という言葉も意識され始めている.「減災」とは災害後の対応よりも事前の対応を重視し,できることから計画的に取り組み,少しでも被害の軽減を図ることである1).例えば,災害が起こった際,自身に避難する体力がなければ避難所に安全にたどり着くことができない.特に高齢者における初動対処時の身体活動能力は,最大の目標である「生存」に重要な影響を及ぼす2).体力の衰えた高齢者は避難に必要な歩行に支障をきたすことが考えられる.避難所までの道のりを歩ききるための体力を付けることも,減災の一環であると考えることができる.
 そこで著者らは,歩行など減災に必要な体力を「減災体力」と捉え,災害の被害軽減を図るため,その向上を提案している.
 一方,神奈川県秦野市では第4期「健康はだの21」の重点施策に運動習慣の確立を掲げており,将来的な要介護状態を遅らせるために,生活の中で意識的に体を動かし,日常生活の活動量を増やすことを目標としている.その中でも歩行は,多くの人が毎日実施している日常生活動作であり,避難時の移動にも欠かせない動作である.また,歩行の実践を継続することは,運動器症候群(locomotive syndrome)や生活習慣病などの予防につながることが期待できる.
 そこで,2020年3月19日に,秦野市と東海大学体育学部との連携協働事業として「減災体力向上のためのウォーキング講座」を実施した(図1).本稿では,本講座の内容を中心に報告するとともに,新たな健康づくり,介護予防として,減災体力の向上を掲げることが可能か報告したい.

連載 衛生行政キーワード・140

新型コロナウイルスに関連する国際動向

著者: 野口千彰

ページ範囲:P.763 - P.766

はじめに
 新型コロナウイルス感染症の世界的流行により,国際保健分野において,ダイナミックな動きが起きている.2020年より複数の団体が,世界保健機関(world health organization:WHO)を含む国際機関や各国,国際社会における新型コロナウイルスへの対応状況の分析を行い,提言を公表した他,国際的なハイレベル(高官)会合でも,感染症を始めとする健康危機への対応が中心的な議題となっている.国境を越えた感染症の流行は,歴史をひもとけば今回が初めてではないが,ここまで急速に世界中に広まり,人々の生活に影響し,あらゆる国の経済活動に打撃を与えたものはいまだかつてなかったのではないか.同時に,新型コロナウイルスに対するワクチンが,前例のない早さで実用化されたことは,医薬品の研究開発の主流が非感染性疾患となった今日においても,感染症分野への研究開発投資が重要であることを明らかにした.
 今回は,新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年から現在に至るまでの間に活動している,今般のコロナ対応に関連する国際的な団体,また,開催された主要な保健に関連する国際的な会合の中でコロナ対応が中心的な議題となったものを紹介し,今後の展望について述べる.なお,本稿の内容は厚生労働省の見解ではなく,筆者個人の見解である.

リレー連載・列島ランナー・149

地域の居場所「さっちゃんち」—暮らしたい場所で最期まで暮らせる地域へ

著者: 櫻井純子

ページ範囲:P.767 - P.770

はじめに
 こんにちは.大学院の友人である福島県の伊東尚美さんよりバトンを受け取りました.筆者からは,行政保健師を辞めて大学院生だった2016年に始めた「さっちゃんち」という地域の居場所作りの活動について紹介します.
 手探りで始めた活動ですが,いまでは人を介した情報の交換拠点,医療・福祉専門職の顔合わせの場,地域のお店との交流,公衆衛生の研究の場,などとして機能しています.さらに,「支援者-被支援者という関係に固定化されずに,市民としてできる人ができる時にできる事をやればいい」という価値観をスタッフの間で持てるようになりました.
 工夫次第で地域の居場所となり得る空間はどこにでも存在します.それぞれの人に合った居場所が選択できるように,同じような取り組みが各地で増えるよう願いを込めて報告します.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・9

コロナ慣れや脳が疲れている人へは「ナッジ」で対応

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.772 - P.776

はじめに
 先月号では,専門家と市民とはリスクアセスメントが異なることや,リスク認知によって反応が変わることをお伝えした.今回の新型コロナパンデミックは,その長期化から,いわゆる「コロナ慣れ」が起きてしまい,市民が脅威に対して警戒心を持たなくなってしまった.そのような状況でリスクを伝えたところで,なかなか聞く耳を持ってもらえない.さらに,危機下では脳が疲れやすく,注意も散漫になりがちになる1)
 そこで,今月号では,そうしたコロナ慣れした人や脳が疲れている人に予防行動を取ってもらうために役立ちそうな,注意を喚起させたり,気付かせたり,控えめに警告したりし,人々の行動をより良いものにするように誘導する「ナッジ(nudge)」について紹介しよう.

予防と臨床のはざまで

第44回健康教育・ヘルスプロモーション研究会

著者: 福田洋

ページ範囲:P.782 - P.782

 日本産業衛生学会の研究会である健康教育・ヘルスプロモーション研究会は,41年の歴史を誇る古い研究会です.今回は学術大会以外の独自開催ということで,8月20日にオンラインで特別セミナーを開催しました.テーマは「職域の健康教育と教材・メディア」.健康経営優良法人の認定要件にも,組織のヘルスリテラシー向上を目指した健康教育機会の提供が明示されており,多くの企業で日常的に健康教育が行われています.健康教育では,その理論やプロセスも重要ですが,媒体となる「教材」にフォーカスされた議論の場は少ないと思われます.今回は,教材の中でも特に多用される「漫画」を用いた健康教育から,職域における健康教育の教材・メディアの可能性を探りました.
 最初に私からイントロダクションとして,研究会の歴史と今回の趣旨について説明しました.糖尿病患者教育用のテキストの表紙に「たばこをプカーッとふかす憎たらしい表情のおじさん(長谷川さん)」の漫画を描いてから,もう25年以上がたちました.その後,教育の対象は特定保健指導や職域健康教育に広がりましたが,有効で感謝される健康教育を模索する中で,ずっと漫画の有用性を感じてきました.保健医療分野では,Evidence Based Presentationはもちろん重要ですが,視覚優位性やペルソナ/ストーリー型マーケティングを加味した漫画はすでに多くの領域で実績を挙げつつあります.見落とされがちな「健康教育の教材」の重要性にフォーカスし,漫画を用いた職域健康教育について3つの良好実践の共有と議論を行いたいとお話しました.

映画の時間

—絶望をこえ,過去と未来を見据え,どう生きるべきか,私たちの「今」を問う.—夢のアンデス

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.783 - P.783

 「9・11」というと,2001年のニューヨーク貿易センタービル爆破テロを思い出しますが,もう一つの「9・11」,1973年9月11日に起こった,チリの軍事クーデターをテーマにしたドキュメンタリー「夢のアンデス」をご紹介します.
 1970年に選出されたサルバドール・アジェンデ大統領のもとで,社会主義的政策を進めていたチリですが,1973年に軍によるクーデターが起こり,アウグスト・ピノチェト大統領による軍事政権が誕生します.このクーデターを描いた『サンチャゴに雨が降る』(1975・フランス,ブルガリア)という作品も記憶に残ります.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.709 - P.709

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.787 - P.787

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.788 - P.788

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下において,日本では2020年4月をピークとする第1波以降,2021年9月までに5回にわたる感染拡大(surge)がありました.当初は,surgeを繰り返すうちに流行が徐々に終息に向かうことを期待する論調もありました.しかし,懸念される変異株の続発などにより,第4波〜第5波へと回を追うごとにsurgeの波が想定以上に高くうねり,診断・治療を最前線で支える医療機関はもとより,感染症対策に関する地域の中核機関である保健所には質的・量的に過大な負担を強いる結果となりました.保健所は大災害級の危機管理業務を経験し,これまでの感染症対策の枠組みや方法論では対応できない課題に数多く直面する中で,課題解決のためには専門的な立場から指導・助言を得たい場面が多かったと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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