icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻2号

2021年02月発行

雑誌目次

特集 飲料水の安全と安心の確保

フリーアクセス

著者: 秋葉道宏 ,   「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.65 - P.65

 わが国の水道の普及率は,現在98%に達し,ほとんどの国民が水道による水の供給を受けることができるようになりました.しかしながら,2%,およそ250万人の未普及人口が存在します.未普及人口の多くは,採算面から配水管を布設することができない中山間地域等に点在して居住しており,給水人口100人以下の小規模な集落水道や飲用井戸などによる給水がなされています.これらの施設は,水道法の規制適用対象外であり,地方公共団体の条例又は要綱等によって衛生確保がなされていますが,一般に水質面や維持管理上の問題を抱えています.また,寄宿舎,社宅,療養所など自家用に水を供給する専用水道やビル,マンション等の貯水槽水道は,設置者に管理責任がありますが,管理の不徹底は利用者の水質面での不安感の大きな原因となっています.
 飲料水の健康危機事案には,風水害,地震等の自然災害,水質事故,テロ等が挙げられます.1997(平成9)年3月に制定された飲料水健康危機管理実施要領に基づき,厚生労働省水道課に地方公共団体から報告された健康危険情報を見ると,健康への影響を発現した事案の多くは,水道法の規制適用対象外の小規模の施設,専用水道,貯水槽水道で発生しています.水道にとって最も根幹的な課題の一つは,全ての国民が安全で,安心して飲用できる水の供給を受けるようにすることであり,そのためには,これらの施設の維持管理水準の向上に向け,施策を展開する必要があります.

飲料水の安全,安心

著者: 秋葉道宏

ページ範囲:P.66 - P.71

【ポイント】
◆水道の使命は,全ての国民が,安全で,安心して飲用できる水の確保と均衡のとれた負担で,格差のない給水サービスを受けられることである.
◆水道法の規制適用対象外の水道は,地域の実情に通じた地方公共団体が必要に応じて条例や要綱等を制定し,規制措置を講ずる.
◆飲料水健康危機管理実施要領には,国立保健医療科学院の役割が明文化されている.

自家用水道・給水装置等における衛生確保

著者: 島﨑大

ページ範囲:P.72 - P.77

【ポイント】
◆わが国の医療施設等では,地下水を水源とする自家用水道への転換例(公共水道との併用も含む)が増加傾向にある.
◆過去の飲料水を通じた健康被害には,自家用水道や貯水槽など小規模施設における不適切な衛生確保が原因となった事例が多い.
◆安全な水道水を常時供給し利用するため,水道の原水から末端に至るまでの適正な衛生確保を行うことが重要である.

地下水の微生物汚染とリスク管理

著者: 三浦尚之

ページ範囲:P.78 - P.82

【ポイント】
◆近年国内で発生した感染事故の半数は,地下水が水源であり,適切に消毒されなかったことが原因だった.
◆国外では,大雨や豪雨などによる洪水によって,井戸が糞便汚染を受けたことが原因の感染事故が報告されている.
◆国内における地下水の病原微生物汚染調査事例は極めて少なく,リスク評価に必要なデータの蓄積が求められる.

レジオネラの定量的微生物リスク評価

著者: 佐野大輔

ページ範囲:P.83 - P.88

【ポイント】
◆入浴施設等において,水の管理方法によっては許容リスクを超過するレジオネラ感染リスクが発生する.
◆定量的微生物リスク評価の結果は,複数のシナリオ下における感染リスクを定量的に比較することに用いられる.
◆定量的微生物リスク評価の枠組みは,途上国におけるWASH介入に関わる意思決定等,実用の段階に入っている.

変換過程を考慮した水道水質の安全確保

著者: 越後信哉

ページ範囲:P.89 - P.94

【ポイント】
◆人為由来の化学物質が水環境中や水処理プロセス中で有害な化学物質に変換されることがある.
◆下水処理と浄水処理など,複数の変換過程の組み合わせについても考慮が必要である.
◆おびただしい数の化学物質が対象となるため,実験だけではなく,反応機構の体系化や計算化学の援用も重要となる.

水安全計画を活用した水道水質管理水準の向上

著者: 小坂浩司

ページ範囲:P.95 - P.99

【ポイント】
◆水安全計画は安全な水道水を供給するための統合的水質管理手法で,新水道ビジョンでの重点的な実現方策の一つである.
◆2019年3月末時点の水安全計画の着手率は,上水道事業,または用水供給事業では42.0%,一方,規模が小さい簡易水道事業では低い状況である.
◆水安全計画は,管理システムであるため,策定後の継続的な運用と改善が重要である.

飲料水のリスクコミュニケーション

著者: 浅見真理

ページ範囲:P.100 - P.104

【ポイント】
◆水質事故時は,リスクコミュニケーションの中でもクライシスコミュニケーションが必要である.
◆「正しくこわがる」のはなかなか難しい.受け手の意思決定に関わるので,準備と丁寧な情報提供が必要である.
◆リスクを軽視せず警告を発することが重要で,安易に安全宣言を発すると後の信頼回復が難しくなる.

福島県保健所における飲料水安全対策への取り組み

著者: 阿部喜充

ページ範囲:P.105 - P.109

【ポイント】
◆市町村水道における安全対策について,危機管理とリスク管理に分けて整理する.
◆危機発生時は,まずは全体の把握と対応策の速やかな構築を行う.現場の意見を踏まえた調整,時間経過に伴う対応策の見直しも重要である.
◆今後,保健所は,広域連携のコーディネーターの役割を果たすことが必要となる.

連載 リレー連載・列島ランナー・143

過疎地域における自治体と連携した認知症予防の取り組み—行動変容理論を基にした健康習慣の獲得を目指して

著者: 桑島悠輔 ,   加藤雄輔

ページ範囲:P.111 - P.113

はじめに
 日本は平均寿命が84歳を超えており,世界一の長寿を誇る一方で,少子高齢化が急速に進んでいる.山間部などの地方では一層顕著であり,過疎化が進行している自治体の増加は,深刻な社会問題となっている.このような状況下で,加齢に伴い罹患率の高まる「認知症」は,日本における喫緊の課題となっている.全国で認知症に対して,さまざまな治療が行われているものの,いまだに根本から治療する方法は解明されていない.しかし,遅くとも軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)および,それ以前の段階であれば,後述するような適切な生活習慣を送ることで,認知機能の改善が可能といわれている1)
 大分県竹田市(以下,当市)は,高齢化率が45.1%と高く,典型的な過疎地域となっている2).そのような当市において,筆者らは自治体と連携し,65〜74歳の方を対象とした,20名を定員とする「認知症予防教室」を2017(平成29)年から開催している.本稿に紹介する取り組みを少しでもご参考いただき,「健康的な生活習慣の獲得」を図る際の一助になれば幸いであると考えている.以下に,取り組み内容や工夫点を紹介し,その上で得られた成果の報告と今後の展望を述べる.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか・9

AIの時代

著者: 大岡忠生

ページ範囲:P.115 - P.120

はじめに
 近年,人工知能(Artificial Intelligence:AI)が高い注目を浴び,さまざまな領域へ活躍の場を広げている.医療の世界でも,2016年にIBM社の開発したAI「ワトソン」が,膨大な論文データをもとに白血病のタイプを判定し,患者の診断に貢献したことは記憶に新しい.しかし,そのようなニュースをよく耳にする一方,AIがどのようなもので,医療現場や医学研究で今どのように活用されているのかを説明できる人は少ないだろう.本稿では,AIに関連した用語や背景の説明とともに,医療現場や研究領域におけるAI活用の現状,そして実際の活用例を示し,最後にAIがどのような可能性や課題を持つのかについて概説する.

予防と臨床のはざまで

ZOOMでどこでも臨床疫学ゼミが可能に

著者: 福田洋

ページ範囲:P.122 - P.122

 私が主催に関わっている3つの研究会(さんぽ会,文天ゼミ,臨床疫学ゼミ)のうち,臨床疫学ゼミについてはこの連載でも多く取り上げてきました.メインで書いたことも,第72回,第124回,第169回と3回あります.元々は,2007年から3度参加したミシガン大学公衆衛生大学院疫学セミナーにヒントを得て,2008年7月から開講しました.開講したばかりの第72回の連載では,「多くの疫学統計の勉強会に参加してきたが,研究者のためのものが多く,来週に迫る学会発表を抱えた臨床医や,明日の衛生委員会の直前で悩んでいる保健師の現場の切実な悩みには答えてくれない」と,当時のゼミ立ち上げの心境を吐露しています.この頃は総合診療科の会議室を用いたゼミで,参加者は毎月15名ほどでした.
 第124回の連載でも「80点の人が100点を目指すゼミではなく,40点の人が80点を目指すゼミ」と雰囲気を記述しています.さらにこの年(2014年)から始まった新プログラム「プラクティカル疫学・統計学」について解説しています.ゼミでレクチャーを繰り返してきて気付いたのは「ずっと参加していても,なかなか研究が進まない」という現実.そのために「現場のこれがやりたい」から初めて,そのための知識が教科書の目次のどこに相当するか,つまり逆引きの発想でゼミを進めることを思いつきました.具体的には先輩役のチューターが事前に一緒に準備を行い,その勉強の過程を全て発表でオープンにします.その初回となった第62回臨床疫学ゼミ(2014年6月)では,保健指導に奮闘する管理栄養士の方に登場していただき,「ウィルコクソンって何ですか? 保健指導の効果を知りたい私の疑問」と題し,研究者と現場スタッフの一問一答を寸劇で再現しました.「検定の種類」より研究デザインや指標,何より「保健指導を評価したいこと」がはるかに重要と説明し,極論ですが「別に間違ってt検定してもよいではないか」という話から,変数の種類,正規分布,p値の意味などにも触れています.この頃には,場所を広い教室に移動し,参加者は現在の60名規模に増えています.

映画の時間

—男はその日なぜ大統領を暗殺したのか—KCIA 南山(ナムサン)の部長たち

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.123 - P.123

 1979年10月26日,韓国のパク・チョンヒ大統領が,側近で韓国中央情報部(KCIA)のキム・ジェギュ部長に暗殺される事件が起こりました.現職の韓国大統領が政権No.2ともいうべき腹心の部下によって殺害されるというニュースは世界に衝撃を与え,日本でも大きく報道されました.今月ご紹介する作品は,この暗殺事件に取材した映画です.
 暗殺が行われた日,主人公であるKCIAのキム・ギュピョン部長が暗殺場所であるソウル郊外,宮井洞の設宴所に入るところから映画は始まります.冒頭,この映画は事実に取材しているがフィクションであるという断りが入ります.それもあってか,登場人物の名前は実在の人物の名前と多少異なっています.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.63 - P.63

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.110 - P.110

書評 フリーアクセス

ページ範囲:P.114 - P.114

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.125 - P.125

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.126 - P.126

 今月号の特集は飲料水の安全・安心,つまり水道です.災害時の水道の重要性は言うまでもありません.断水になったとたん,私たちは生命や生活の危機に直面します.医療機関も日々大量の水を使用しており,質の高い水の確保は,医療の質にも直結します.また,化学物質や微生物による汚染も時に発生し,広域の住民に健康被害をもたらします.ふだん意識することは少ないかもしれませんが,地方公共団体,水道事業体,研究者など多くの関係者の努力で,私たちは日々安全な水を飲み,利用できるわけで,水道は健康維持の最重要インフラの一つと言っても過言ではないでしょう.
 今回は,国立保健医療科学院の生活環境研究部水管理研究領域の研究者の方を中心にご執筆いただきました.概説,自家用水道施設,地下水の微生物汚染,水安全計画,飲料水のリスクコミュニケーション等,具体例も盛り込みながら分かりやすくまとめていただきました.加えて,越後先生からは化学物質の管理について,佐野先生からはレジオネラのリスク評価について,それぞれ貴重な知見をご提供いただきました.最後に阿部先生から,飲料水安全対策における保健所の役割について,危機対応も含めて詳細に述べていただきました.いずれも,分野を問わず,公衆衛生に関わる者がぜひ知っておかなければならない内容だと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら