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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻3号

2021年03月発行

雑誌目次

特集 コロナ時代の自殺対策

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.129 - P.129

 世界的流行となった新型コロナウイルス感染症について,国内では本年1月19日までに,感染者334,328人,死亡者4,548人が確認されています.2度にわたる緊急事態宣言によって,国民生活および国民経済に甚大な影響を及ぼしています.特に,宿泊業,飲食サービス業などの売り上げに深刻な損害をもたらしています.
 感染対策が長期化するなかで,メンタルヘルスへの影響,配偶者暴力や児童虐待,感染者や医療従事者に対する誹謗や中傷,営業自粛による倒産や失業,一人暮らし高齢者の社会的孤立などのさまざまな問題が顕在化しています.

ポスト・コロナ時代の自殺対策

著者: 本橋豊 ,   木津喜雅

ページ範囲:P.130 - P.137

【ポイント】
◆新型コロナ感染症(COVID-19)の流行が長引く中で,経済環境・雇用環境などの悪化に伴い,自殺者数の増加が認められる.特に働き盛りの女性の自殺者の増加が懸念される.
◆2020年4〜6月の自殺者数の減少は社会的不安の増大や緊急事態宣言下の外出自粛の影響,2020年7月以降の自殺者数の増加は雇用環境の悪化などの影響の可能性が考えられる.
◆流行の遷延化に伴い,経済状況の悪化に伴う経営危機や倒産,失職した労働者(とりわけ非正規労働者等)の自殺リスクの高まり,ライフスタイルの変容に伴う諸問題に目配りをする必要がある.

感染拡大緊急事態に関連する自殺行動の精神医学的理解と対応

著者: 太刀川弘和

ページ範囲:P.138 - P.143

【ポイント】
◆COVID-19感染拡大は災害であり,自殺を含む多様なメンタルヘルス問題を引き起こしている.
◆精神医学的には,ハイリスク者へのサポートが感染予防で不十分なことがコロナ禍の自殺予防の課題である.
◆ストレスケア,周囲のサポート強化,抑うつ状態の早期発見の3点を意識した公衆衛生対策が必要である.

外出自粛による高齢者の健康被害と自殺を防ぐ—コロナ時代の新たな社会参加とつながり

著者: 西塚至

ページ範囲:P.144 - P.150

【ポイント】
◆高齢者の自殺は「健康問題」が主要因で,地域の見守りや通いの場の充実もあり,近年減少傾向だった.
◆新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,高齢者の集い・通いの場が休止し,社会的孤立が懸念されている.
◆コロナ時代における高齢者の社会参加やつながり回復を目指す新たな試みについて自験例を含め紹介する.

外出抑制による依存症への影響と対策—コロナ関連自殺を防ぐ

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.151 - P.155

【ポイント】
◆臨床的な印象では,外出抑制はさまざまなタイプの依存症患者の病状を悪化させた.
◆「三密回避」のために,自助グループの活動や医療の提供が制限され,回復のために利用できる社会資源が減少した.
◆オンラインによる自助グループのミーティングは急速に増え,いくつかのメリットがある反面,デメリットもあった.

COVID-19パンデミックと医療従事者のメンタルヘルス

著者: 渡部雄一郎 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.156 - P.159

【ポイント】
◆COVID-19パンデミック下で医療従事者の約25%が不安や抑うつを有している.
◆専門職による心理的介入だけでなく基本的なセルフケアの確保など現場の医療従事者が求める支援の実施が重要である.
◆医療従事者は偏見や差別にさらされており,これらの克服など行政的な取り組みも必要である.

長期自粛生活がもたらす働き盛り世代の「コロナうつ」

著者: 藤井靖

ページ範囲:P.160 - P.165

【ポイント】
◆コロナ禍に伴い労働者世代では大幅な就労環境の変化が生じている場合があり,心理的影響が懸念される.
◆緊急事態宣言や自粛生活により「コロナうつ」「荷下ろしうつ」の増加が懸念され,精緻なモニタリングが必要である.
◆環境変化や立場の違いに起因する心理的不適応に対して,個人・職場・地域において具体的な対策を打つことが急務である.

学校の休業と再開で高まる子どもの自殺リスク—外出自粛ストレスへの対処法

著者: 荻上チキ

ページ範囲:P.166 - P.170

【ポイント】
◆コロナ禍は,学校ストレス・家庭ストレスの質を変容させる.
◆コロナ禍によるストレスの質変容は,日常的なコーピングレパートリー減少につながる.
◆コーピング手段の再確保を通じて,自殺につながるストレッサーを緩和させていくことが重要となる.

ICTを活用した自殺対策とコロナ禍以後の支援の在り方

著者: 伊藤次郎

ページ範囲:P.171 - P.176

【ポイント】
◆ICTの活用は若年層の自殺対策に限らず,あらゆる公衆衛生上の問題への対策に必要不可欠なものとなる.
◆新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,インターネット相談へのニーズは高まっていくと考えられる.
◆インターネット相談は,対面や電話相談に取って代わるものでは決してない.補完し合うものである.

連載 クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・1【新連載】

リスクコミュニケーション:平時と緊急時との相違点

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.186 - P.189

はじめに
 中国湖北省武漢市で突如発生し,2020年3月には,パンデミックへと発展した新型コロナウイルス感染症(COVID-19).この感染症のウイルスの性質も管理方法も分からない緊急事態に対応するために,わが国でも政府の諮問的な役割を担う専門家会議が構成され,その科学的知見についての迅速な情報発信が行われていた.専門家による透明性の高い情報提供がなされていた一方で,体制がないなかでのコミュニケーションは課題を生じさせることになり,発足から約半年後に廃止され,新たな会議体が設置されることになった.そこで重視された一つが,リスクコミュニケーションである.
 多くの国々で,ヘルスコミュニケーションやリスクコミュニケーションの専門家が行政機関に配置されており,公衆衛生上の緊急事態が発生したときには,対策本部会議で決まった内容をただ伝えるのではなく,戦略的に一貫性のある情報を伝え,混乱をさせないように工夫している.
 ところが,わが国にはそうした体制がないため,緊急事態への対応者が,その対応の合間に,住民や関係者への説明をはじめとするコミュニケーションを担うことになる.緊急時は,人々の恐怖や不安,不満や不信感が高まりやすいため,コミュニケーション戦略もなく,収集した情報や対策本部会議で決定した内容を伝えているだけだと,情報提供しているのに,誤解や批判の矢面に立たされることになりかねない.
 そこで,本連載では,緊急事態対応を担う公衆衛生関係者が適切なコミュニケーションがとれるようになるために知っておきたいポイントを解説していく.
 さて,平時に実施される「リスクコミュニケーション」と,緊急時に実施される「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション」とでは,同じ「リスクコミュニケーション」という言葉が使われていても全く異なる.そこで今月号では,両者の違いをまず説明しよう.

衛生行政キーワード・138

自殺対策のこれまでとこれから

著者: 松井佑樹

ページ範囲:P.177 - P.180

はじめに
 日本の自殺者数は1997(平成9)年までは2万〜2万5千人程度を推移していたが,1998(平成10)年にバブル崩壊やアジア通貨危機等の影響から,一挙に8千人以上増加し3万人を超え,以後14年にわたり自殺者数が3万人を超える状態が続いた.2006(平成18)年10月に自殺対策基本法(平成18年法律第85号)が施行され,2007(平成19)年6月に閣議決定された自殺総合対策大綱(以下,「大綱」)に基づいて自殺対策が実施され,2012(平成24)年には15年ぶりに3万人を下回り,2010(平成22)年以降は10年連続で自殺者数は減少し,2018(平成30)年には2万840人で昭和56年以来37年ぶりに2万1千人を下回り,2019(令和元)年は2万169人と減少は続いている.
 そのような中,2020(令和2)年1月よりわが国でも新型コロナウイルス感染症が発生し,同年4月と翌2021(令和3)年1月には緊急事態宣言が発令される事態となり,2020年は各月における自殺者数も2019年とは異なる推移を示している.本稿では,国における自殺対策の方針や体制について概説するとともに,コロナ禍における自殺の現状とその対策について述べる.

リレー連載・列島ランナー・144

服薬自立支援プログラムによるアドヒアランス向上を目指して

著者: 相川幸生

ページ範囲:P.181 - P.185

はじめに—循環器診療の実状
 現在わが国は少子高齢化が加速し,団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題に直面している.心疾患は日本人の死因第2位であり,その73%を心不全と虚血性心疾患が占めている1).特に心不全は国内に推計120万人(うち4人中3人が後期高齢者)とされ2),増加の一途を辿っている.心不全は増悪寛解を繰り返しながら徐々に身体機能が悪化していくのが特徴で,1年以内に約20〜40%が心不全再増悪で入院すると報告されている3).これまでに心保護薬やデバイスなど医療の発展により心疾患患者の生命予後は大きく改善してきたが,治療の成熟と共に生命予後改善の限界が見えてきたこともあり,近年では生命予後改善のみならず生活の質の向上や多様化する価値観への対応が求められるようになってきた.一方で,高齢患者の多くは多重疾患,身体的および社会的フレイル,認知機能低下,ポリファーマシーなど複数かつ複雑な問題(老年症候群)を抱えている.そのため診療科や職種を超えた多面的なアプローチによって患者ごとの多様性に対応することが求められているが,その実践は困難を極めている.

今さら知らないといえない 科学技術イノベーション—iPS,AIを説明できますか【最終回】

公衆衛生は先端科学にどのように対応すべきか

著者: 山懸然太朗 ,   武藤香織

ページ範囲:P.193 - P.198

この特集を振り返って
 山縣 最終回は私と武藤先生との対談でこの特集を振り返ってみましょう.
 武藤 今回,「科学技術イノベーションと公衆衛生」という特集を企画した意図について,あらためて教えてください.

予防と臨床のはざまで

緊急事態宣言下の結婚式

著者: 福田洋

ページ範囲:P.200 - P.200

 年初,東京都では2,400人と過去最高の新型コロナ感染者数を記録し,1月8日から1都3県に緊急事態宣言が発令されました.その後,大阪,愛知,福岡も含む11都府県へと拡大するなど,原稿執筆現在は第3波の真っただ中にいる状態です.順天堂医院(当院)でもコロナ専用病床は連日ほぼ満床状態で,累計でも200人以上の感染者が入院しており,院内では,2月下旬に開始予定の医療スタッフへのワクチン接種の工程会議も行われています.
 そんななか,同じ部署で勤務する同僚の看護師さんからご招待を受けて,結婚式に主賓として出席させていただきました.実はこの看護師さん,大学の医療看護学部の教え子で,学生時代から産業保健や予防医学に興味を持ち,私が主催する研究会や勉強会にも積極的に参加してくれ,進路相談にも乗ったことのある方でした.ご本人から最初に結婚の報告を受けたのは随分前で,私が知っている限りでもすでに2度ほど結婚式の日程を延期されていました.キャンセル料がかかる等の理由で,これ以上の延期もできないとのことで,おそらくご本人もご家族もこの時期の開催は相当に悩んだ末の苦渋の決断だったと思います.

映画の時間

—失われゆく 街の記憶 そこに暮らす人々の 変わらない想い ねぇ,憶えてる? 霧の中で あったこと—モルエラニの霧の中

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.201 - P.201

 今月ご紹介する映画の「モルエラニ」とは北海道の先住民族の言葉で,小さな坂道をおりた所,という意味で,室蘭の語源ともなったといわれています.
 本作品は7つの短編からなる連作形式で製作されています.第1話は「冬の章」と名付けられ,冬期休館中の室蘭の水族館が舞台です.休館中の水族館をのぞいていた少年を見つけた職員が,暇な時間を利用して水族館内を案内します.そのことがきっかけである事件が起こり,少年と母親(大塚寧々)が謝罪に水族館を訪れますが,その母親は,以前に職員が室蘭の港で見かけた女性でした….

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ページ範囲:P.127 - P.127

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ページ範囲:P.190 - P.190

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ページ範囲:P.199 - P.199

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ページ範囲:P.203 - P.203

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.204 - P.204

 本年1月7日,2回目の緊急事態宣言が出されました.経済危機に直面し,社会全体の自殺リスクが高まることに加え,相次ぐ有名人の自殺報道で国民に動揺を与えています.本号では,「コロナ時代の自殺対策」を取り上げました.
 本橋 豊先生,木津喜 雅先生には,COVID-19パンデミックと自殺数との関連,有名人の自殺報道の問題点など,「ポスト・コロナ時代」に求められる自殺対策について解説していただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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