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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻4号

2021年04月発行

雑誌目次

特集 感染症法施行20年の歩みと到達点—COVID-19の流行を踏まえて

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.209 - P.209

 日本の感染症の基本法は,1897年に制定された伝染病予防法とされてきました.伝染病予防法が廃止され,1998年に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」が新たに制定され,1999年に施行されています.新法制定後,20年の間にSARSやMERS,さらに新型インフルエンザのパンデミックが発生しています.これを受けて,WHOの国際保健規則が改正され,日本でも新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)が制定されています.そして,国レベルでは,国立感染症研究所,検疫所,地方レベルでは,地方衛生研究所,保健所,および自治体の感染症に対する組織と体制が強化されてきています.また,感染症指定医療機関の整備や,全国における感染症の大きな集団発生に対処する実地疫学専門家の養成も進められています.このようななか2020年1月16日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の感染者の報告があり瞬く間に感染者数が増加して,2021年2月21日現在,特措法に基づき緊急事態宣言が発令されています.日本の感染症の法制度や社会体制を試すかのような事態に直面させられています.COVID-19は,日本のみならず,日本が手本としてきたイギリス,ドイツ,米国にも同じように流行にさらされています.そのために,各国の感染症に対する公衆衛生のみならず政治行政を含めた体制全体を比較することを可能としています.また,COVID-19の流行は,感染症法施行後に日本が進めてきた感染症に対する法制度や社会体制の課題や問題点を顕在化させてくれています.

感染症法施行後の地域保健における感染症対策の歩みと今後の在り方

著者: 尾島俊之

ページ範囲:P.210 - P.214

【ポイント】
◆新型インフルエンザをはじめとして感染症に関するさまざまな出来事があった.
◆ウイルス性肝炎や麻疹への対策は奏功した.
◆肺炎死亡減少のためにも地域包括ケアへの保健所の一層の関与は重要である.

感染症法施行後の日本の感染症対策の歩みと課題

著者: 高橋央

ページ範囲:P.215 - P.219

【ポイント】
◆施行20年を経た感染症法は,時代に即した改定だけでなく,より実益的となるよう質的な向上を図るべき.
◆COVID-19のような新興感染症パンデミック発生下では,米国CDCでも科学への社会政治的な圧力を阻めなかった.
◆これからの日本の感染症対策を進める際に,人口減,高齢化,国力衰退を念頭に入れた改善策を考えるべき.

感染症法施行後の結核対策の歩みと到達点

著者: 森亨

ページ範囲:P.220 - P.225

【ポイント】
◆結核緊急事態宣言を受けて,結核対策は結核予防法の大改訂ののち感染症法に統合されて再出発した.
◆21世紀に入り,日本の結核は緩やかなまん延低下の中で世界的にもまれな高齢者への著明な偏在と若年外国人患者の増加が目立つようになった.
◆この間対策はDOTSの普及をはじめ,接触者健診の質的向上,LTBI診断の普及などで新しい方策と技術の利用が進んだ.

感染症法施行後の大阪市保健所の歩みと展望

著者: 吉村高尚

ページ範囲:P.226 - P.232

【ポイント】
◆政令指定都市が設置する大阪市保健所について概括する.
◆大阪市保健所が経験した各種感染症事例を振り返る.
◆コロナ時代の大阪市保健所の健康危機管理体制について,ハード・ソフトの両面での充実が必要である.

感染症法施行後の地方衛生研究所の歩みと展望

著者: 奥野良信

ページ範囲:P.233 - P.238

【ポイント】
◆地方衛生研究所は,保健所とともに地域の感染症対策の実務を担っている中核的な機関である.
◆地方衛生研究所に設置されている感染症情報センターは,患者情報と病原体情報を集約し,解析した結果を外部に発信している.
◆新型コロナウイルス感染症のPCR検査は,地方衛生研究所が中心的な役割を果たしてきた.

検疫法の変遷と新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた今後の対応

著者: 福島靖正

ページ範囲:P.239 - P.243

【ポイント】
◆現在のわが国における検疫は,国際保健規則(IHR)の制定に伴って大幅に改正され,1971(昭和46)年に施行された検疫法に基づき実施している.
◆2020年1月の新型コロナウイルス感染症発生を受け,検疫法に基づく政令指定を行った後,さらに2度にわたり検疫法を改正した.
◆今後の検疫の在り方については,検疫所と保健所との役割分担,変異株への対応,ICTの活用,クルーズ船対応等が検討課題である.

感染症法施行後の感染症指定医療機関の到達点—特定感染症指定医療機関としてのこれまでの当院の取り組み〜COVID-19対応を含めて〜

著者: 倭正也

ページ範囲:P.244 - P.248

武漢における原因不明の肺炎
 2019年の大みそか12月31日に毎日の日課で世界中の感染症の発生の状況が報告されているProMED-mail1)をいつものように眺めていた.すると中国武漢において27例の原因不明の肺炎が発生しているとの情報が目に飛び込んで来た(図1).関西空港に近く,特定感染症指定医療機関に指定されている地方独立行政法人りんくう総合医療センター(以下,当院)では海外からの渡航者については全症例,筆者のところに連絡が来る体制を敷いており,日常から輸入感染症に対する病院スタッフ全体の意識を高めてきた.
 武漢で原因不明の肺炎発生との情報を確認して真っ先に思ったことは,これは当院に来ることになるとの確信であった.直ちに病院の救急部門のその日の担当者に電話連絡して情報を共有し,中国武漢というキーワードの周知を徹底した.これが当院における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦いの始まりである.

新型インフルエンザ等対策特別措置法の意義と今後の課題

著者: 齋藤智也

ページ範囲:P.249 - P.253

【ポイント】
◆特措法は,パンデミックを起こすおそれのある感染症に対し,社会全体の接触機会の抑制を行う根拠法である.
◆危機管理に関する法の効果的な運用には,権限の理解と運用の事前準備が不可欠.
◆「過去問」ではなく「未来に備える」パンデミック対策への転換が必要.

日本の感染症危機管理体制の現状と課題—COVID-19対応を事例として

著者: 福田充

ページ範囲:P.254 - P.259

【ポイント】
◆COVID-19により感染症に対する政府・自治体・企業の準備不足が明らかとなった.
◆危機管理学の4機能から感染症対策の危機管理の在り方を見直すことが必要である.
◆感染症に対する法制度を再構築するために,新型インフルエンザ等対策特別措置法などの改正が必要である.

新・視点

保健師による新たなコミュニティデザインが地域にイノベーションをもたらす

著者: 桂敏樹

ページ範囲:P.206 - P.207

ビジョンはあるか—日本が超長寿社会をどう生き抜くかが,世界中の注目の的
 わが国では,公衆衛生上のさまざまな問題が顕在化している.その中で,日本の魅力は世界一の健康寿命の長さであり,世界は超高齢社会のトップランナーである日本が高齢化社会の課題をどう乗り越えていくかに注目している.日本には,長寿社会における課題先進国として世界のリーダーとなれるチャンスがある.世界中から注目されている今だからこそ,政策提言と将来構想が求められる.
 いつの時代も「人の欲求は質の高い生活と豊かな人生を享受すること」である.Well-beingは難解な課題であるが,ライフコースを通じて世界中の誰にも共通し,超長寿社会ではより大切にすべきビジョンであろう1).健康の社会的決定要因が,教育,ヘルスケア,近隣・居住環境,社会・コミュニティ状況,経済的安定にあること2)から,超長寿社会では地域づくりの重要性を改めて再認識する.

連載 衛生行政キーワード・139

感染症における法的課題—COVID-19の流行を踏まえて

著者: 日下英司

ページ範囲:P.260 - P.263

はじめに
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については,2019年12月31日の中国武漢市における原因不明肺炎発生報道から始まり,翌2020年1月15日の国内での第1例目の患者確認と,わが国への急速な広がりがみられた.他方で,同感染症は原因同定までが異例のスピードで進んだこともあり,その法的扱いにおける混乱や,国と自治体との間の歩調に乱れも生じた.ここでは,感染症法誕生の背景と現在までの改正経緯に加え,新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ,感染症法と新型インフルエンザ特別措置法の関係および現時点における法的課題等について述べたい.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・2

日本と米国,シンガポールにおける情報発信体制の違い

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.268 - P.272

はじめに
 前号では,①平時に実施される「リスクコミュニケーション」と緊急時に実施される「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション(Crisis and Emergency Risk Communication:CERC(サーク))」とでは,同じ「リスクコミュニケーション」という言葉が使われていても異なること,②CERCは,米国疾病予防管理センター(CDC)が開発した概念であり,危機により刻々と変化する時系列の状況に応じたコミュニケーション戦略を示した理論であること,について説明した.
 わが国のCOVID-19対応を見ると,リスクの高い場所やリスク軽減行動についての説明をはじめ,専門家による長時間にわたる会見やSNS等を通したリスクコミュニケーションがとられていた.
 他方で,危機下における専門家の位置付けや情報発信体制が不明確ななかで情報提供がなされていたため,専門家による情報発信が政府としての発信と捉えられたり,専門家が政策の決定をしているように捉えられたりしてしまった.また,科学的助言を入手し活用する際の指針や行動規範等も不明確で,政府と専門家の意見の相違が起きた際に科学の中立性や独立性を保持するための「科学の健全性(scientific integrity)」の確保が難しくなり,国としてのCOVID-19対策の全体像や根拠,先を見通すためのガイダンスを人々に矛盾を感じさせないような一貫性のある形で示すことができない,等の課題も生じた.こうしたことにより,情報提供はなされていたのに,国民の不満や不信感が高まるということが起きた.これらは,リスクコミュニケーションの問題というよりも,CERCの情報発信体制の問題である.
 そして,これは初動期に限らず,本稿を執筆している2020年11月20日(11月の三連休前)も,依然同様の問題に悩まされている.COVID-19の急激な感染の再拡大が見られるなか,国は人の移動を推進する「Go Toキャンペーン」を推進し,感染が拡大している自治体は「移動の自粛」を求め,日本医師会は「我慢の三連休」を求め,分科会は「Go Toキャンペーン事業の運用の見直し」を求めるという,人々に矛盾を感じさせかねない「一貫性のないメッセージ」が発信されていた.コロナ対応者が立場によりバラバラな,方向性の異なるメッセージを発信していたため,「感染者数が増えているのは検査体制が充実したからではなかったのか?」,「Go Toキャンペーンが感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは存在しないと言っていたはずなのに,なぜ我慢や自粛をしないといけないのか?」,「感染者数が増えている現状をどう捉え,どんな行動をとったらいいのか?」等が分かりづらく,さらに誰の発言に従ったらよいか分からないなかで,国民一人一人に行動の判断を委ねていた.わが国で,「コロナ感染は自業自得」と答えた人の割合が,他国と比べ高かったという調査結果が話題となったが1),それはこうした情報発信のされ方も影響しているのかもしれない.
 では,危機下において「どのように政策の決定がなされ,誰が責任を持って対応しているのか」といった透明性や,人々に矛盾を感じさせないように一貫性を持たせて情報発信するために,どのような体制を構築すればよいのだろうか?
 今月号では,CERC理論の開発国である米国と,理論を自国の状況に合わせた形で応用し,国民の理解と協力を得て感染抑制に成功し,本稿執筆時点でCOVID-19による死亡率が最も低いシンガポールの情報発信体制について紹介しよう.

投稿・フォーラム

Yahoo!知恵袋における電子タバコ(ベイプ)に関する質問の発言解析

著者: 栁川彩瑛 ,   石井正和

ページ範囲:P.273 - P.275

はじめに
 電子タバコ(ベイプ,vape)はタバコ葉を使用せず,香料などを含む液体を,電熱器を通して加熱し,油分をエアロゾル化して吸引する装置である.通常,わが国で販売されている電子タバコは,ニコチンやタールを含んでいないことから,喫煙の安全な代替品および若者の流行として近年嗜好者が増加している.しかし,流通しているものにニコチンを含有しているものがあることや1),海外のニコチン入りの液体を取り扱う個人輸入サイトがあることが問題となっている1).米国疾病予防管理センター(CDC)は,電子タバコ使用後に肺炎を発症した死亡例を報告している2).
 本研究では,Yahoo!知恵袋3)の電子タバコに関する質問を解析し,投稿者の電子タバコに対する疑問や不安を明らかにすることを試みた.

予防と臨床のはざまで

日本健康教育学会ワークショップ参加記

著者: 福田洋

ページ範囲:P.276 - P.276

 第3波の収束が見えないなか,外出自粛や在宅勤務などウィズコロナの状況が長期化し,その健康影響に注目が集まっています.昨年(2020年)6月4日に参加した産業保健×コロナの国際ウェビナー(オンラインセミナー)で報告された英国の調査結果(Bevan S, et al:IES Working at Home Wellbeing Survey, Apr 2020)でも,ロックダウンによる身体的・精神的健康と生活習慣への影響が明らかにされており,その後日本の各企業の調査でも,従業員に頭痛や目の疲れなどのVDT(Visual Display Terminals)障害,運動不足,生活リズムの乱れ,睡眠障害などがみられていました.しかし,文献的考察を行い学術的にまとめた情報は不足していました.
 そんななか,本年(2021年)1月24日に日本健康教育学会主催のセミナー「ウィズコロナの健康教育・ヘルスプロモーションを考えるワークショップ」が開催されました.

映画の時間

—冬は春になるから.また会いにいくよ.—きこえなかったあの日

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.277 - P.277

 この3月11日で,東日本大震災から満10年を迎えました.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは依然として続いています.わが国はこの10年間,大震災やコロナ禍だけでなく,熊本地震や豪雨災害などさまざまな災害に襲われてきました.災害時の健康危機管理は公衆衛生の分野においても喫緊の課題です.災害が起こった際に,障害を持った方など,いわゆる災害弱者と呼ばれる方々への支援も重要です.
 今月ご紹介する「きこえなかったあの日」は,東日本大震災をはじめ,大きな災害に遭った聴覚障害者の方々に取材したドキュメンタリー映画です.

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ページ範囲:P.205 - P.205

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ページ範囲:P.265 - P.266

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.279 - P.279

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.280 - P.280

 本号の特集はCOVID-19の流行の先行きがまだ見えない,最初の緊急事態宣言の発令が解除された2020年5月に企画したものです.公衆衛生体制へのパニック的,批判的報道が落ち着き,人口5,000万人を超える先進国の中で日本がなぜ制御ができているのかに関心が向き始めた時期でした.保健所が全国に存在し,クラスター対策が行われるなど保健所の理解が進んできていました.これを機に,公衆衛生者が率先して感染症に対処する公衆衛生体制や感染症の法制度を確認してみる必要があると考え,企画させていただきました.
 感染症とは不思議な縁があります.学生時代は阪大微研のハンセン病部門教授の下でハンセン病療養所に毎年学生を連れて行ってました.卒後は,肺がん検診の有効性を確かめるため結核検診受診者の肺がんのリスク評価研究をしていたのですが,そのうちに結核対策の仕組みに関心が移っていました.そんな折の1996年,伝染病予防法体制下でしたが,大阪府堺市で腸管出血性大腸菌O157の患者が約1万人発生する事件が発生し,1年余り関わることになりました.堺市に国内外のさまざまな専門家が訪れてきました.その一人が高橋央先生で,日米の感染症対策の組織や体制の違いの議論をしたことを思い出し執筆をお願いさせていただきました.その他の執筆者の方々にも日頃からお世話になっておりお忙しい中でのご執筆について厚く御礼申し上げます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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