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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻5号

2021年05月発行

雑誌目次

特集 多様化する環境問題に挑む—ポストコロナ,気候変動,電磁環境,海洋MP汚染など

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.285 - P.285

 2001年に環境省が設置されたことに伴い,都道府県庁でも保健福祉環境部局から環境部局が(切り離されて)独立し,保健所では環境行政を所掌しないところが多くなりました.最近の日本公衆衛生学会総会でも環境保健の分科会は演題数がとても少なくなり,公衆衛生関係者の環境問題への関心の低下が懸念されます.
 環境保健は公衆衛生に欠かせない分野であり,人の健康を念頭に置いた場合の「環境」には,人を取り巻き何らかの作用を及ぼす可能性のある全ての要素が含まれます.古典的な環境問題では,メチル水銀やカドミウム,二酸化硫黄などの化学物質が水環境や大気を汚染し,健康被害(公害)を招きました.

多様化する環境リスクと今後の安全確保の考え方

著者: 鈴木規之

ページ範囲:P.286 - P.291

【ポイント】
◆公害の健康被害の評価を原点として,化学物質のリスク評価と管理の考え方が順次確立されてきた.
◆リスク評価と管理の対象の拡大により,予防的アプローチからリスク評価,リスク管理を包括的に考える新たなフレームワークが提案されつつある.
◆持続可能で安全・安心な社会の実現のためには,さまざまなリスクを包括的に考察するフレームワークが必要である.

ポストコロナの地球温暖化対策

著者: 手塚宏之

ページ範囲:P.292 - P.296

【ポイント】
◆コロナ禍により温室効果ガス排出は減少しているが,我慢を強いる対策は持続可能ではない.
◆グリーンリカバリー政策にはコロナ対策の教訓を生かしていく必要がある.
◆安価で大量・安定供給可能な非化石エネルギー技術の開発と普及こそがコロナワクチンに相当する解決の鍵.

イノベーションによる地球温暖化問題の解決

著者: 杉山大志

ページ範囲:P.297 - P.302

【ポイント】
◆日本政府は地球温暖化問題をイノベーションによって解決するとしている.この具体的な実施の在り方に日本の温暖化対策の成否が懸かっている.
◆日本には裾野の広い製造業基盤がある.この活発な活動を促すことで地球温暖化問題の解決に貢献できる.
◆高コストな温暖化対策の拙速な規模拡大は日本経済を衰退させ,温暖化対策技術を含むあらゆるイノベーションを阻害するので逆効果になる.

気候変動対策の推進—緩和策と適応策の両輪で

著者: 向井人史

ページ範囲:P.303 - P.309

【ポイント】
◆気候変動対策はこれまで20年以上推進されてきたが,今後さらなる強化が必要.
◆気候変動による影響は徐々に現れており,国内の各地で変化が見られている.
◆気候変動適応法が施行されたことで対策の両輪が始動し,地域ごとの対策が期待される.

気候保護に取り組む自治体ネットワークの動向と課題

著者: 増原直樹

ページ範囲:P.310 - P.315

【ポイント】
◆世界の主な国家等が脱炭素社会を目指す流れが加速し,多くの地方自治体も行動を開始している.
◆国内外で気候保護に取り組むさまざまな自治体ネットワークの活動には,それぞれ特徴がある.
◆わが国の事例として,先駆的に気候保護に取り組む京都市および北海道ニセコ町の事例を具体的に紹介する.

室内環境の変化に伴う生物アレルゲン問題と対策の考え方

著者: 川上裕司

ページ範囲:P.316 - P.324

【ポイント】
◆「ダニ・カビ・ハウスダスト」が室内生物アレルゲンとして重視されていることは,一般にも知られるようになった.
◆コナヒョウヒダニは最近の住宅の優占種になっている.
◆アレルギー症状の重症化の要因として,室内の乾燥化による鼻や咽喉の乾燥,Der f 1, Lip b 1,耐乾性カビへの同時感作が懸念される.

生体電磁環境の健康影響と今後の対策

著者: 大久保千代次

ページ範囲:P.325 - P.331

【ポイント】
◆5Gなど電磁波を応用した情報通信機器の多様化と共に数も増加しており,使用周波数もより幅広くなる.
◆国民の一部に5Gへの健康不安があるが,5Gが健康ハザードとなる科学的証拠は今日まで確認されていない.
◆わが国の電波防護指針は,国際的ガイドラインと同等であり,国民の電波ばく露影響を十分に防護している.

マイクロプラスチック問題と分散型持続可能な社会の実現

著者: 高田秀重

ページ範囲:P.332 - P.337

【ポイント】
◆全てのプラスチックは遅かれ早かれ劣化しマイクロプラスチックとなり,生態系の隅々まで汚染する.
◆マイクロプラスチックは食物連鎖における化学物質,特に添加剤の運び屋になり,ヒトの免疫系への影響が危惧される.
◆人類の健康,温暖化抑止のためにも,流域単位で物資が流通・循環するような分散型持続可能な社会の中に,プラスチックフリーを位置付ける必要がある.

新・視点

「背景」へのフォーカスを変幻自在に操る

著者: 長井聡里

ページ範囲:P.282 - P.283

「背景」へのこだわり
 筆者が医者を目指したきっかけに,「病名がつかなければ,不調は相手にされない」という病院受診経験がある.国民皆保険制度の限界として,今ならそれも大人の事情と思うのだろうが,医療は病気を扱えても健康は扱えないのかとしっくりこない思いが,何かに駆り立ててきた.不調を訴える「背景」をちゃんとみれる医者になりたいと,へき地医療の自治医科大学か,まだ当時は卒業生もいなかった未知なる産業医科大学かと迷い,後者に進学した.当時は男女雇用機会均等法制定間もない頃で,働く女性の健康管理に興味を持ち,臨床は産婦人科を選んだ.その後,出産を機に産業医学へ戻り,製造業の工場等もある大企業本社の専属産業医で専門性を磨き,母校の産業医実務研修センター講師を経て,個人の嘱託産業医活動から多職種連携による産業保健サービスを提供する会社を設立し,現在に至っている.対象とする「背景」は職域・職場・働く個人の生活環境である.公衆衛生分野に進んだという明確な意識はなかったが,あらためて今日,「病気を治して健康を取り戻す医者」ではなく,「病気にさせない,健康を保持増進,元気にさせる医者」なのだと自覚した.

連載 リレー連載・列島ランナー・145

理想の在宅診療を目指して—良縁がもたらした医経分離の実現とコロナ禍で改めて思う在宅の真髄

著者: 内田貞輔

ページ範囲:P.339 - P.341

はじめに
 私は2014年に32歳で静岡ホームクリニック(以下,当院)を開業し,今では東京の三田と千葉市に分院をもつ規模になりました(図1).もともと学生時代から医師としての脂の乗っている時期に地域医療をしたいという考えがあり,35歳までの開業を目指し,学位,専門医など資格取得も可能な限り進めていました.そうするうち静岡で開業してみないかというご縁に恵まれ,今に至っています.しかし,ここまで来るのは決して順風満帆だったわけではありません.患者さんやご家族はもちろん,病院スタッフや家族,友人らさまざまな出会いと支えがあってこそ今があると実感しています.また,今般のコロナ禍は在宅医療について改めて考える機会となり,地域医療に貢献することこそが在宅医療の本質ではないかと感じているところです.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・3

人々の信用・信頼を獲得する6つの原則—コロナ禍でラブソングを贈られたスポークスパーソン

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.342 - P.345

はじめに
 ここまでで,1) 平時に実施される「リスクコミュニケーション」と,緊急時に実施される「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション(Crisis and Emergency Risk Communication:CERC(サーク))」とでは,同じ「リスクコミュニケーション」という言葉が使われていても異なること,2) わが国の情報発信体制の課題や,CERC理論の開発国である米国と,パンデミック下で適切な情報提供を行い国民の理解と協力を得て感染抑制に成功し,本稿執筆時点(2021年1月末)でCOVID-19による死亡率を非常に低く抑えられているシンガポールの情報発信体制について紹介してきた.
 今月号から「では,どう実践していけばいいのか」という,具体的な,CERC実践方法について,順を追って解説していこう.
 まず今回は,危機下で人々の信用と信頼を獲得するコミュニケーションについて解説する.

投稿・資料

感染症流行時の市民の「責務」や差別の問題を「コロナ条例」から考える

著者: 井上悠輔 ,   大隈楽

ページ範囲:P.347 - P.353

はじめに
 感染症法1)では「国民の責務」に関する規定がある.すなわち,「国民は,感染症に関する正しい知識を持ち,その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに,感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない.」(第4条)である.これを踏まえつつも,地方自治体において,現在の新型コロナウイルス感染症の流行に接して,住民(都道府県民,市町村民)の役割や責務を独自に規定する条例2)の公布が増えている.条例には,国の明示的委任によるものもあれば,その地域の実情に応じた取り組みを志向するものまで,いくつかの分類が可能である2).新型コロナウイルス感染症のように,各地で多様かつ予測困難な事態を引き起こす状況について,現場に近い自治体による自治立法の展開にも注目すべきであろう.
 本稿ではこうした規定の主な内容を整理して紹介し,考察を加えた.

予防と臨床のはざまで

ワクチン接種しました

著者: 福田洋

ページ範囲:P.354 - P.354

 本年(2021年)2月17日から,いよいよ国立病院機構をはじめとした医療機関の医師や看護師約4万人に対する新型コロナワクチンの先行接種が開始されました.その後,大学病院等でも接種が始まり,私も晴れて3月22日にワクチン接種を行いました!
 「筋肉注射は皮下注射より痛い」というイメージが先行しているかもしれませんが,注射量が0.3mlと少ないせいか(インフルエンザワクチンでは0.5ml),痛みはほとんど感じず現時点で約一週間が経過しましたが,私の場合は特に目立った副反応もありませんでした.強いて言えば翌日,注射部位の硬結や圧痛があったぐらいです.接種後3日間ぐらいは勤労意欲が低下した気がしましたが,これについては,因果関係の証明は困難です(笑).

映画の時間

—泣きたいのに笑えて,笑いたいのに泣ける.“狭間”の時間に起こる奇跡—くれなずめ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.355 - P.355

 今月は,ちょっとシュールな雰囲気を持った映画「くれなずめ」をご紹介します.
 結婚式場で,友人の披露宴のために,高校時代の同級生らしい6人が,翌日に予定されている披露宴での余興の準備をしている場面から映画が始まります.テーブルがセッティングされている会場で,席の配置などを考えながら,かなり念入りに準備をしていますが,披露宴会場という限られた空間で,6人の若手俳優が長いショットで演じている場面は,あたかも演劇のようです.実は,この作品は2017年に,松居大悟監督が主宰する劇団ゴジゲンで上演されて好評を博した舞台劇「くれなずめ」を原案にしています.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.281 - P.281

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.357 - P.357

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.358 - P.358

 環境リスクの評価は,公害の健康被害の評価を原点としています.しかし,評価や管理の対象となる環境化学物質の拡大と多様化に伴い,リスク評価に関する考え方が,およそ10年のスパンで順次変化してきたことを,本号の特集を読んで理解できました.
 本誌第78巻8号(2014年8月号)の特集「公害・環境問題の変貌と新展開」の中で,元滋賀大学長の宮本憲一先生が,公害対策基本法が制定された当初は生活環境の保全よりも経済成長を優先した「調和論」のもとで環境基準が設定されたものの,それに反対する世論が拡大して生活環境優先の法体系に改正された経緯に触れ,「公害対策は調和論でなく,人権と環境優先を原則とする」ことを強調されていました.多様化する環境リスクへの対応では,この原則を尊重しつつ,公害対策とは違った方向へと進化していることが分かりました.すなわち,公害対策としてのリスク評価においては,すでに公衆への被害が発生していることを前提とした評価であったのに対して,環境基本法の下での環境リスク評価は,公衆への被害が実在しないことを前提として,被害の「未然防止」を目指した評価へと変化したということで,「予防原則」を重視した方向への進化を今後も期待しているところです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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