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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生85巻6号

2021年06月発行

雑誌目次

特集 COVID-19が流行しない社会を目指す—社会医学・環境衛生学の視点から

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.363 - P.363

 19世紀のコレラの世界的な流行は公衆衛生の成立に大きな影響を与えていますが,公衆衛生だけでなく微生物学,免疫学,薬学を大きく発展させることにつながりました.それまで,医学と言えば解剖学,生理学,病理学の総称でしたが,コレラ以降,微生物学,免疫学,薬学,そして生命科学へと変貌しています.現在,医薬品を手にし,微生物を遺伝子や蛋白質のレベルで解明できる時代になっています.そして天然痘の根絶に成功しています.ところが,その後登場してきた後天性免疫不全症候群(HIV感染症),エボラ出血熱,腸管出血性大腸菌感染症,ノロウイルス感染症,重症急性呼吸器症候群(SARS)などに対しては必ずしも適切に対処できているとは言えません.生物学的に微生物を解明してもまた新たな微生物が登場するという厳しい現実に直面させられています.
 そのためWHOは国際保健規則を全面改正しています.日本は感染症の法制度を刷新し,さらに毎年改正を続けています.感染症に対処するための社会システムや制度の構築に力を注ぐ必要性が高まっています.しかし,現在流行しているCOVID-19に医学や法制度だけで十分な対応ができているとは言えません.実際に行われている手段や対策は,医学や医療が未発達でありCOVID-19のような感染症に対処できない時代につくられた古典的なものが多くを占めています.例えば,衛生行政や検疫システム,飲食店の取り締まり対策はかつてのコレラ対策をきっかけにつくられたものです.また,日本の保健所体制は結核の流行に対処するためにつくられたものです.

感染症の歴史から見たCOVID-19流行が問う人間社会の在り方とは

著者: 山本太郎

ページ範囲:P.364 - P.368

【ポイント】
◆感染症と人間社会をめぐっては,3つの基本構造がみられる.
◆感染症は,時に社会変革の先駆けとなる.
◆明日への希望,選択可能な未来はわれわれの中にしかない.

COVID-19に強い都市構造への課題—都市・交通計画の立場から

著者: 谷口守 ,   武田陸

ページ範囲:P.369 - P.373

【ポイント】
◆コロナ禍を機会に,100年の時間を経て,公衆衛生分野と都市計画分野が再び相まみえることは感慨深い.
◆都市におけるマクロな密度(コンパクト性)と,接触を伴うミクロな密が混同されているところに大きな問題がある.
◆この機会にサイバースペースとの関係を配慮しながら,「人中心のモビリティ・ネットワーク」を構築することが期待される.

新型コロナウイルス感染症対策における建築環境衛生の課題

著者: 林基哉

ページ範囲:P.374 - P.378

【ポイント】
◆クラスター感染の要因として「換気の悪い密閉空間」が挙げられ,建築物室内における空気を介する感染の可能性が指摘される.
◆建築物衛生法の空気環境基準を満たさない特定建築物が増加し,空気を介する感染に関する環境リスクの上昇が懸念される.
◆建築環境衛生に関する基準の再検討と,より確かな維持管理の実施が改めて求められる.

大型クルーズ客船内のCOVID-19感染拡大の検証と今後の課題

著者: 池田良穂

ページ範囲:P.379 - P.385

【ポイント】
◆横浜でのダイヤモンド・プリンセスのCOVID-19集団感染の隔離対応は,国内への感染拡大を防いだ成功事例である.
◆クルーズ船の換気レベルは,陸上の病院施設と比べても遜色ない.
◆自然災害および新しい感染症に対応できる,機動性と自己完結を有する病院船の整備が望まれる.

風俗等の接客等営業許可施設におけるCOVID-19流行拡大抑止の法規制の現状と課題

著者: 雨堤孝一

ページ範囲:P.386 - P.391

【ポイント】
◆営業法規制と営業実態での業種分けは必ずしも一致するとは限らない.
◆法規制の内容と流行拡大防止対策は相反する場合がある.
◆多くの施設はテナントビルでの営業であり,行政,店,ビルで一体となった対策が重要.

COVID-19流行阻止に向けた大都市歓楽街における対応の現状と課題—“夜の街”錦糸町における官民一体の取り組み

著者: 西塚至 ,   中谷航平

ページ範囲:P.392 - P.399

【ポイント】
◆感染症は大都市の歓楽街を起点にクラスターが連鎖しやすく,歓楽街は感染拡大のいわば「急所」.通常時から対策が必要である.
◆歓楽街との信頼関係構築が重要.東京都墨田区錦糸町地区の場合,商店会や食品衛生協会との連携が有効だった.
◆「安心安全な街づくり」を目指す共通認識で,まちぐるみで対策に取り組むことが重要である.

環境健康科学の立場からその研究と教育の現状と課題

著者: 荒木敦子 ,   宮下ちひろ ,   岸玲子 ,   小笠原克彦

ページ範囲:P.400 - P.407

【ポイント】
◆北海道大学環境健康科学研究教育センターは,「環境と健康」分野の研究・教育に取り組んでいる全学共同教育研究施設である.
◆大規模な環境疫学研究として,出生コーホートや室内環境と健康に関する研究により,環境化学物質による健康影響について多くの成果を報告している.
◆環境と健康は学際的な領域であり,多様な専門性を持つ人材の育成と協力が不可欠である.

エイズ対策の経験から考える“新型コロナウイルスの時代”における人間関係

著者: 鬼塚哲郎 ,   山田創平

ページ範囲:P.408 - P.414

【ポイント】
◆江戸期,感染症対策は民間人が担った.明治以降,対策の担い手は国家に移行するが,エイズ対策において民間人が再び参画する.
◆感染症は優れて都市的な現象であり,その文化と社会的関係性を映し出す.感染症対策が目指す都市住民の行動変容は,都市文化の変容を意味する.
◆新型コロナ感染症対策において国家主導の対策には限界があり,都市の文化に根差した民間の活力を生かす工夫が求められる.

新・視点

仕事の世界(World of Work)と公衆衛生,そして新型コロナウィルスパンデミック

著者: 氏田由可

ページ範囲:P.360 - P.361

はじめに
 本稿を執筆している2021年1月現在,ヨーロッパは新型コロナウィルスパンデミック第二波の真っ最中で,筆者の住んでいるスイスも飲食店や小売店,レジャー施設が閉鎖されたセミロックダウン状態です.昨年春からさまざまなレベルで続いていた行動制限に耐え,みんなが楽しみにしていたクリスマスや新年のお祝いも各家庭で家族のみとなり,静かで少し寂しい年明けでした.
 幼少時から医者という職業,中でも病気の予防に興味のあった筆者は,産業医科大学に入学して間もない時期から公衆衛生学教室にお邪魔し,以来30年以上にわたりこの分野を学び続けてきました.しかし2020年ほど「予防」という言葉を耳にし,自身が口にしたことはなかったかもしれません.それほどこのパンデミックは,人々の生活や認識に大きく影響しました.国際労働機関(ILO)は,2020年の世界の労働時間が2019年第4四半期と比べて8.8%損失し,それは2億5,500万人のフルタイム雇用に相当すると推定しています1).社会や経済へ深刻なインパクトを与えたのは雇用の動向だけではありません.人々の働き方も大きく変わりました.その第一の目的は労働者の感染予防です.これに加え,職場あるいは労働という活動を介した感染を予防し,流行拡大の抑制に貢献することが求められます.

連載 クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・4

緊急時の不確実なことが多いなかでの情報提供に,日々の記者会見が欠かせない理由

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.416 - P.420

はじめに
 先月号では,緊急時ならではの情報提供の特徴として,1)厳しい時間的な制約があり,2)情報も不十分ななかで,リスクやその管理方法についての説明をしなくてはならず,3)加えて,時間の経過とともに変化する状況に合わせて,リスク説明の内容も変わることを挙げた.
 こうした特徴がありながらも,COVID-19パンデミックの初動期に素晴らしいクライシス・緊急事態リスクコミュニケーション(Crisis and Emergency Risk Communication:CERC)を取ったことで,9割近くの国民の信頼を獲得し1),スポークスパーソンがアーティスト達から数々のラブソングを贈られたニュージーランド政府を例に,「CERCの6原則」を紹介した.
 わが国でもこのようにCERCを成功させたいものである.ニュージーランドのケースから,記者会見(ブリーフィングを含む)を有効に活用していたことが分かるが,今月号では,緊急時に日々の記者会見が欠かせない理由とスポークスパーソンの選定基準について,掘り下げていこう.

予防と臨床のはざまで

予防医学を学ぶ場づくりの20年

著者: 福田洋

ページ範囲:P.422 - P.422

 筆者が関わっている研究会・勉強会は,このコラムでも幾度となく紹介してきました.中でもさんぽ会,臨床疫学ゼミ,文天ゼミの3つは,最も大事にしている活動です.1月26日の第107回文天ゼミにて,この3つの会を振り返る機会をいただきました.通常,文天ゼミでは健康診断や人間ドックに関わる新しいトピックを扱うことが多いのですが,今回は「予防医学を学ぶ場づくりの20年〜文天ゼミ,疫学ゼミ,さんぽ会のこれまでとこれから」と題して,「大半の人には興味がないかもしれない勉強会そのものの振り返り」とコメントしつつ,予防医学を学ぶ場そのものにフォーカスした話をさせていただきました.
 まずは,健診スタッフ向けの勉強会として始まった医療法人社団同友会主催の文天ゼミ(https://www.do-yukai.com/activity/bunten.html).「文天」という不思議な名前は,この健診機関の産業保健本部が入っていたビルの名称です.産業保健本部長の三輪真也医師と私がコーディネーターとなり,生活習慣病,保健指導,ヘルスプロモーションなどについて講義形式でスタートしました.主に三輪医師が疾病関連,私が予防医学・ヘルスプロモーション全般を担当することが多く,記念すべき第1回(2008年8月)は「低炭水化物食VS低脂肪食」でした.以降,三輪医師が脂質異常症,糖尿病,内臓脂肪蓄積,私がソーシャルマーケティング,プレゼンスキル,ヘルスリテラシーという感じで交互に講義を担当しました.

映画の時間

—あなたとなら,信じられる.世界はやさしさに満ちている.—わたしはダフネ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.423 - P.423

 身近な人の死というのは,長期間の闘病生活を共にした家族でも,その喪失感には深いものがあります.いわんや,身近な人の突然の死は,なかなか受け入れることが難しいものです.今月ご紹介する映画「わたしはダフネ」は,そんな身近な人の死から始まります.
 主人公のダフネ(カロリーナ・ラスパンティ)はダウン症の女性で,両親といっしょにバカンスでキャンプ場に来ている場面から映画は始まります.快活なダフネはキャンプ場で行われるダンスパーティーでも陽気に踊っています.両親もそんな彼女を温かく見つめながら,ダンスを楽しんでいました.

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ページ範囲:P.359 - P.359

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.425 - P.425

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.426 - P.426

 感染症は,地球の人口増加とともに,徒歩,らくだ,馬,船,鉄道,自動車,飛行機などにより多数の人々が短時間に移動することが可能となったことで,ペスト,コレラ,インフルエンザのパンデミックが発生してきました.
 ワクチン,医薬品など医学の進歩にも著しいものがありますが,人々の移動手段の変化のスピードには追いつけていません.COVID-19の流行のスピードは,その現実をまざまざと見せつけています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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