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雑誌目次

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公衆衛生85巻7号

2021年07月発行

雑誌目次

特集 健康的な住まいが欲しい!—暮らしやすくて,寿命も延びる

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著者: 「公衆衛生」編集委員会

ページ範囲:P.431 - P.431

 超高齢社会を迎えた現在,わが国では生活環境に起因する健康課題が持続的に顕在化しています.温暖化や省エネルギーによる住環境の変化ばかりではなく,欧米と比べても十分配慮が行き届いているとは言えないわが国の室内環境が,ヒートショック,シックハウス症候群,感染症など,さまざまな健康影響をもたらしています.また今回の新型コロナウイルスの感染拡大,特にクラスターの発生に,室内環境が大きく影響したことも記憶に新しいところです.
 本特集の前半では,世界保健機関(WHO)が住宅に関する健康リスク要因を包括的にまとめた「健康と住宅に関するガイドライン」を紹介し,さらに国内の住環境(温度)と心血管疾患との関連に関する調査結果を示し,住環境と健康の関係を解説します.さらにスマートウェルネス住宅の取り組みから断熱改修による温熱環境の改善が住まい手の健康にもたらす効果について,また高齢者施設における室内環境管理の実態と保健所の役割について,それぞれ実際の調査結果に基づいて論じていきます.また,健康増進に向けた住宅環境整備の重要性の観点から,健康に配慮した室内環境のガイドラインの必要性について提言を行います.

世界保健機関(WHO)による「住宅と健康のガイドライン」

著者: 東賢一

ページ範囲:P.432 - P.437

【ポイント】
◆WHOは住宅に関わる健康リスク要因を包括的に取りまとめた「住宅と健康のガイドライン」を作成した.
◆「住宅と健康のガイドライン」は,過剰な暑さや寒さ,住居内の過密性,住居内のアクセスのしやすさ,傷害要因に対する安全性の4項目に対する新たなガイドラインである.
◆飲料水質,空気質,有害物質(石綿,鉛,ラドン),騒音,受動喫煙等の既往のガイドラインの要約を加えて包括的なガイドラインとした.

住環境の温度と心血管疾患との関連

著者: 佐伯圭吾

ページ範囲:P.438 - P.442

【ポイント】
◆外気温低下に関連する死亡数は,年間約9.4万人と推定されることから,公衆衛生上重要な課題といえる.
◆近年の分析法の進歩により,比較的軽微な寒冷曝露によって,死亡リスクが上昇することが分かってきた.
◆室内寒冷曝露が血圧上昇と関連することから,室温の調整によって脳血管疾患を予防できる可能性がある.

健康長寿に資する住まいと住まい方

著者: 伊香賀俊治

ページ範囲:P.443 - P.449

【ポイント】
◆住まいの冬季最低室温18℃以上のWHO勧告を満たさない住まいが,日本では9割に達する.住まいの新築,改修時の断熱性能向上が疾病予防の観点から重要である.
◆暖かな住まいの普及は,転倒・虚弱リスクを低くし,要介護認定年齢を遅らせる効果が期待され,介護予防の観点からも重要である.
◆WHO Housing and Health Guidelinesの日本版の早期策定と「健康日本21」の次期改訂への反映が望まれる.

高齢者施設における室内環境管理の実態と課題

著者: 阪東美智子

ページ範囲:P.450 - P.457

【ポイント】
◆社会福祉施設は,高齢者等のハイリスク者が利用する施設であるが,建築物衛生法の対象外である.
◆施設により設備方式や衛生管理業務体制が異なり衛生管理状況にも違いがみられる.
◆感染症対策の面からも,環境衛生面からの対策の強化が望まれる.

健康増進に向けた住環境整備の必要性

著者: 林基哉

ページ範囲:P.458 - P.463

【ポイント】
◆日本の住宅構法は温暖蒸暑地に起源を持つ木造軸組構法が主流で,冬季の室内環境対策が明治以来の基本的課題であった.
◆住宅の断熱化・気密化によって室内環境の向上が見られた一方,シックハウス症候群等の副作用が発生し,新たな対応が強いられた.
◆健康増進に向けて,気象条件,地域および都市の環境を踏まえた住環境整備と,その基礎となる室内環境のガイドラインが必要となっている.

COVID-19と換気—換気設計と空気感染の確率

著者: 田島昌樹

ページ範囲:P.464 - P.468

【ポイント】
◆換気により新型コロナウイルスの感染を確実に制御できるわけではないが,換気量の多寡と滞在時間で空気感染の確率は算定できる.
◆設計上の安全率(感染確率が高くなる条件)を見込んだとしても,特に大きい室では通常の換気量で空気感染の確率を低くすることは可能である.
◆換気設備の日常的な維持管理による換気量の維持は不可欠である.

COVID-19における空調の運用と管理

著者: 金勲

ページ範囲:P.469 - P.476

はじめに
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路としての空気伝播(感染)は,部分的かつ限定的に認められているもののまだ議論が続いている.インフルエンザやCOVID-19は飛沫や飛沫核によって感染源が排出されることは明白であるため,感染経路として空気を意識するのは当然であろう.
 また,3密回避は流行初期から訴えられ(2020年3月9日)1),この日本の3密回避キャンペーンは海外でも高く評価されWHOによって同年7月からそのまま引用・広報されている2)
 インフルエンザは基本的に飛沫,接触感染がメインとされている.COVID-19はこれに加え限定的な環境下での空気感染が認められているが一般的ではなくまれと評価されている.現時点で空調系統による伝搬感染が報告された例はないが3),ダイヤモンドプリンセス号や中国広州のレストラン,韓国のコールセンターの大規模感染事例では空気感染を疑っている声も一部で存在する.そのため,流行初期には還気(return air,レタン)を取る中央式空調が危ないのではないかという臆測や,還気を全部止めて全外気運転をすべきだという現実を知らない話が当たり前のようにいわれたこともあった.
 空調の仕組みや特性をよく理解せず,とりあえず換気量を増やすのが最善という盲目的な目先の目標に捉われ無理な運用をすると,室内環境の悪化,騒音,機器トラブルなどさまざまな問題が生じる.

COVID-19対策と熱中症対策を両立させる換気と冷房

著者: 開原典子

ページ範囲:P.477 - P.482

【ポイント】
◆新型コロナウイルス感染症の予防対策と熱中症対策の両立が必要である.
◆熱中症予防では,28℃以下の室温を目安にエアコンや扇風機を上手に使用すること,部屋の温度をこまめに確認することの2つがポイントとなる.
◆換気をすることは重要であるが,真夏日や猛暑日には熱中症予防の観点から危険となるため,他の対策と組み合わせるとよい.

新・視点

公衆衛生の臨床性と終わりの公衆衛生

著者: 井原一成

ページ範囲:P.428 - P.429

はじめに
 表題にした2つのテーマとともに筆者の公衆衛生の2つの流儀を書こうと思う.流儀は「集団と個人を行き来して考える」と「分かりやすい話に注意する」である.

連載 リレー連載・列島ランナー・146

死亡確認時の医療従事者の立ち居振る舞いに関する教育・研究活動

著者: 岡本宗一郎

ページ範囲:P.483 - P.486

はじめに
 終末期は誰もが経験する人生の最終段階であり,最期を迎える患者や家族は今までに経験したことがないさまざまな問題に直面します.刻一刻と変化する患者の病状に対して,医療従事者は適切かつ多角的で丁寧な対応が求められます.緊張感の絶えない現場において,とりわけ終末期医療は経験の少ない若手の医療従事者が困難さや苦手意識を抱きやすい領域とされています.死亡確認・診断時は,単に患者の呼吸や心拍の停止を確認するだけではなく,それに適した環境の調整,多職種連携,死亡した事実を伝える一連の行為が含まれるため,家族の気持ちに配慮した対応が必要です.しかし,医療系学生や若手の医療従事者が,終末期ケア(死亡確認・診断を含む)を系統立てて学ぶ機会は限られており,経験豊富な指導者から“暗黙知”として教わることが多いのが現状です.
 こうした状況を改善するため,緩和ケアを専門とする若手医師が中心となり,死亡確認・診断時の医療従事者の立ち居振る舞いに関する教育・研究活動を行ってきました.これまでに発表されたエビデンスの紹介を交えながら,筆者らが行ってきた活動を報告します.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・5

緊急事態発生直後の初動期の記者会見:タイミングと伝えるべき内容

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.488 - P.491

はじめに
 先月号では,緊急時の不確実なことが多いなかでの情報提供に,日々の記者会見が欠かせない理由とスポークスパーソンの選定基準について,まとめた.
 今月号では,不確実なことが多いなかで,一体,いつ,何を伝えたらいいのかについてのポイントを解説しよう.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会3月月例会「新型コロナとBCP」

著者: 福田洋

ページ範囲:P.492 - P.492

 多職種産業保健スタッフの研究会,さんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の3月月例会のテーマは「新型コロナとBCP〜震災から10年目の節目に」.東日本大震災から10年目を迎える3月11日に行われました.当日司会を務めた高家望氏(株式会社東急スポーツオアシス)とは,震災後に釜石・大槌町へ一緒に支援に行きました.大災害に対して人間がいかに無力なのか,当たり前の生活がいかに貴重かを実感し,感謝とともに丁寧に精一杯生きることを改めて決意した日でした.産業界や産業保健でも事業継続計画(Business Continuity Planning:BCP)という言葉が普及したきっかけともなりました.今回は企業や産業における“当たり前”を支える事業継続を学ぶ日として,「新型コロナとBCP」について取り上げました.今回のコロナ下で大きな経済的ダメージを受けた運輸・飲食業界から,さらに新常態(ニューノーマル)の生活に大きく関わっているIT・建築設計業界からも,それぞれ話題提供をお願いすることになりました.
 最初に運輸業界から土屋智美氏(JRグループ健康保険組合)より,新型コロナのJR各社への影響について,通勤通学・インバウンド・ホテル事業の全てが低迷し業績に多大な影響があったことや,一時帰休や終電繰り上げ,駅ナカシェアオフィスなどの工夫で対応した様子が説明されました.健保組合では受診抑制や対面による面談指導が困難になった反面,ICTでの面談が進んだという良い面もあったそうです.テレワークの身体的・精神的影響が明らかになりつつあり,健診・保健指導やメンタルヘルスの4つのケアもwithコロナ仕様へ,ICT・ヘルスリテラシーを高め,新しい働き方を支える仕組みへと改良していると語られました.

映画の時間

—私だけの十字架を探して—ペトルーニャに祝福を

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.493 - P.493

 32歳にもなって定職もなくアルバイトをしながら実家で暮らす女性ペトルーニャ.そんな彼女に就職先を探してきた母親に,面接試験を受けに行くよう迫られる場面から映画が始まります.大学を出てから,今までに何度も面接試験を受けているようですが,自分の望む職には就けないでいるようです.
 反発するものの,母親に言われるように綺麗な服を着て,渋々面接に出掛けるペトルーニャに対し,彼女を追ってきた母親はさらに「本当の年齢を言ってはいけない,25歳と言うのよ」と言います.ペトルーニャでなくても絶望的になるような出だしです.案の定,面接はうまく行かず,しかも面接担当の男性からもからかわれ,最悪の気分で家に戻る道すがら,ペトルーニャは,十字架を掲げて進むお祭りの集団に巻き込まれます.

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ページ範囲:P.427 - P.427

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.495 - P.495

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.496 - P.496

 毎朝配達される新聞には,マンションや戸建ての住宅広告のチラシがたくさん入っています.これらは,駅から徒歩○分,閑静な住宅街,すばらしい眺望,ゆとりの間取り,豊富な収納,お買い物に便利,○○小学校区などなど,実にさまざまな惹句にあふれていますが,どういうわけか,「健康に良い」という言葉を見ることは稀です.考えてみれば,就寝中も含めて自宅は人生の半分近くの時間を過ごすところです.そこでの生活が健康にどのような影響を及ぼすのか,私たちはもっと敏感になってもよいのではないでしょうか.
 今号の「特集」では,実際の調査研究から得られた科学的な根拠やそれに基づいたガイドラインを解説しています.それは温熱環境であったり,循環器疾患との関係であったり,湿度であったり,換気と空調であったり,感染予防であったりするわけですが,読者の皆さんも「やっぱり」と思ったり,「そうなのか」と気付いたり,あるいは自宅の構造を見直してみたりと,住宅がとても身近な「公衆衛生」の問題であることを感じていただけたのではないかと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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