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公衆衛生85巻9号

2021年09月発行

雑誌目次

特集 児童虐待予防に求められる医療・保健の役割—これ以上痛ましい事件を繰り返さないために

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著者: 奥田晃久

ページ範囲:P.569 - P.569

 児童福祉法(以下,児福法)が制定されたのは1947(昭和22)年のことです.以降,時代の変化に応じて条文に手が加えられてきましたが,ここ十数年ほど目まぐるしく児童虐待予防に関連する法の改正が行われたことはかつてありませんでした.その理由としては,全国の児童相談所における児童虐待対応件数の急増と,関係機関が的確に対応できなかった結果としての残忍な児童虐待死亡事件がなくならないことも一因として挙げられます.近年の児福法改正の一例としては,2016(平成28)年には「子どもが権利の主体」であることを明記するために第1条の改正が行われました.これは大変大きな改正でした.また,児童相談所の設置義務について都道府県・指定都市の他,「設置できる」と定められていた中核市または児童相談所設置市の中に,東京都内の特別区も含まれるようになりました.児童虐待への対応に限らず,社会的養護の必要な家庭等に果たす基礎自治体の役割がいかに重要かを物語っているのです.すなわち,住民に最も身近な地域で子ども家庭を支える医療・保健と福祉の地域連携は,これまで以上に重要な時代に入ったといえるでしょう.
 今回,児童虐待の予防・早期発見をはじめとした児童福祉行政推進に当たり,本誌読者の皆さんとの共働がいかに大切かを,行政・司法・医療・学識経験者らさまざまな専門分野の第一線で活躍されている方々にご執筆いただきました.

近年の児童虐待と児童相談所の役割

著者: 鈴木香奈子

ページ範囲:P.570 - P.575

【ポイント】
◆児童相談所が虐待対応した件数の約半数が心理的虐待であり,特に警察から児童相談所へ子どもの面前でのDVを要因とした心理的虐待の通告が急増している.
◆児童相談所は相談機関であるという基本的枠組みは変わらないものの介入機能の強化が求められ,児童相談所の体制強化が進められてきた.
◆児童相談所は虐待を行った保護者へ親子関係を再構築するための支援を行うが,関係機関と連携して保護者や子どもへの支援プログラムを充実させていく必要がある.

児童虐待予防に果たす市区町村の体制と保健・医療・福祉の行動連携—東京都の特別区で進む児童相談所設置の意義にも触れながら

著者: 小林拓

ページ範囲:P.576 - P.582

【ポイント】
◆児童虐待予防に向けた市区町村の役割と必要とされる保健・医療・福祉の連携体制の構築が望まれる.
◆児童相談所(東京都)と区市町村子供家庭支援センターとの連携・協働による児童虐待等相談対応が行われている.
◆特別区児童相談所設置の推進と児童相談体制の強化に向けて関係機関とのさらなる連携が求められている.

新しい社会的養育ビジョンの実現に向けて—国が向かおうとしている新しい福祉ビジョンに求められていること

著者: 有村大士

ページ範囲:P.584 - P.590

【ポイント】
◆新しい社会的養育ビジョンは,これまでも重要だと言われ続けてきたがなかなか進んでこなかった家庭養育を,大きく後押しする報告書である.
◆新しい社会的養育ビジョンを契機とし,フォスタリングのみならず,全ての子どもと家庭のニーズに応じた支援体制の構築が求められる.
◆新しい社会的養育ビジョンが持続的に発達するために,予期しない措置変更(里親不調)の予防をはじめ,現状についてモニターをしていく必要がある.

子どもの心の傷を癒やす家庭養護推進に必要な医療・保健の役割

著者: 三輪清子

ページ範囲:P.591 - P.595

【ポイント】
◆家庭養護推進には,里親制度と養子縁組制度の正しい制度理解が重要である.
◆里親家庭に委託された子どもの背景にはさまざまな状況があることを理解する.
◆医療機関をはじめとした子どもと関わる機関と福祉の連携が,家庭養護推進には欠かせない.

行政の援助を拒む保護者への法的アプローチ—児童相談所の法的介入の現状と課題

著者: 池田清貴

ページ範囲:P.596 - P.600

【ポイント】
◆行政の援助を拒む保護者への対応として,立入調査,臨検・捜索,一時保護,長期分離のための家庭裁判所の承認審判などがある.
◆医療ネグレクトのケースでは,親権停止の活用が有効であるが,一刻を争う事案ではその必要がない場合もある.
◆子どもの権利を基盤とする児童福祉,親権制度の在り方が議論されている.

児童相談所の一時保護所の役割と機能—子どもの緊急保護を担う一時保護所とはどのようなところなのか

著者: 井上景

ページ範囲:P.601 - P.607

【ポイント】
◆一時保護の機能は,緊急保護とアセスメントの2つであり,短期入所指導はアセスメントに連続する機能として考えられる.
◆一時保護所と一時保護,所内一時保護と委託一時保護,一時保護所への入所と児童養護施設等への入所との違いを整理する必要がある.
◆児童相談所一時保護所は,24時間365日昼夜を問わず被虐待児らを受け入れる緊急保護の施設である.平均入所率が100%を超過している自治体は,70カ所中12カ所あり(2019年),改善することが急務である.

性的虐待を受けた児童への児童相談所の対応と関係機関の役割の重要性—児童のダメージに向き合う

著者: 田﨑みどり

ページ範囲:P.608 - P.614

【ポイント】
◆性的虐待は発覚まで数年を要するものもある.性的虐待を疑ったら,誘導なく「誰が何をした」のみを聞き取り児童相談所へ通告する.
◆通告受理後は誘導のない司法面接の手法を用いた面接で子どもの被害を聞き取り被害事実を調査する.
◆性的虐待は子どもへの影響が重篤であり,長期間の支援と適切なアセスメントと治療が必要である.

全国児童相談所間のリスク管理と情報伝達—転居していく子ども家庭のリスクを関係機関の谷間に落とさないために

著者: 奥田晃久

ページ範囲:P.615 - P.619

【ポイント】
◆児童虐待死には,家族が他県等へ転居する際の他機関への情報伝達不十分を原因とする事例がある.
◆全国の児童相談所間では,虐待の恐れがある家族が他県等に転居した際の統一したルールと情報伝達の共通様式がある.
◆国からも地域をまたがる(転居)事例への,より一層の適切な対応と情報共有システムが求められている.

新・視点

開業栄養士としての公衆衛生活動—“できない”を“できる”に変える発想転換

著者: 安達美佐

ページ範囲:P.566 - P.567

はじめに
 筆者は2002年に,個人開業の管理栄養士として活動を始めました.2006年に現法人を設立し,10数名の管理栄養士と共に特定保健指導・介護予防・栄養コンサルタントなどの業務を行い現在に至っています.本格的に公衆衛生活動を始めた契機は,2003年から国立保健医療科学院(以下,科学院)で学び始めたことでした.在院中,常に自身の活動や研究をいかに地域に役立てるか,その効果をどう評価するかを問われる環境下で,学びと研究,実践を繰り返してきました.この度は,光栄にもいただいた執筆の機会をきっかけに,自らが進めてきた公衆衛生活動を改めて振り返るとともに,民間企業の公衆衛生における役割について考えてみました.

連載 リレー連載・列島ランナー・147

震災後の人口変化から将来の問題を考える

著者: 森田知宏

ページ範囲:P.621 - P.624

筆者の活動
 2011年の東日本大震災がきっかけで,福島県浜通り(相馬市,南相馬市,双葉郡といわき市から成る海沿いの地域)と関わりを持っています.当時大学5年生だった筆者は,住民検診,内部被曝調査のお手伝いのために浜通りの飯舘村へ赴きました.その2年後,研修医の地域研修で南相馬市にお邪魔した際には,健康講話を行うために市内の仮設住宅を全て訪問することができました.さまざまな形で被災された高齢者の方とお話して,津波被災・原発事故被災の違いによるコミュニティーの分断,健康への捉え方など多くの面で衝撃を受けました.その時の衝撃が,その後の活動の原点になっています.
 2014年に研修医を終えて相馬で勤務するようになってから,主に高齢者の健康対策に取り組んでいます.浜通りでの今後の課題は,急速に進む高齢化と,それに伴う医療・介護需要の増加だと考えたからです.ここでは,相馬で勤務するようになって以来,進めてきた人口変化の研究からお話ししたいと思います.

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・7

緊急事態下における時系列別コミュニケーションのポイント:CERCリズムとは

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.625 - P.629

はじめに
 先月号では①現場の保健医療関係者の異常事態の探知とリスクアセスメント力が感染拡大を防ぐこと,②状況が不確実で,国の指針やマニュアルがまだ十分に整備できていない中で,適切な対応をすることは難しいということ,の2点をふまえて,指針となり得る国際保健規則や,世界保健機関(WHO)のリスクマネジメントとリスクコミュニケーションの関係性について解説した.
 今月号では,緊急事態下の時系列ごとに求められるコミュニケーションのポイントについて述べていこう.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会6月月例会「はじめての産業保健」

著者: 福田洋

ページ範囲:P.630 - P.630

 6月10日に,さんぽ会(多職種産業保健スタッフの研究会,http://sanpokai.umin.jp/)の6月月例会「はじめての産業保健」が開催されました.大学病院で勤務していると,近年の健康経営や予防医学重視の時流によるものなのか,以前より産業保健に興味を持ってくれる看護学生・医学生や,病棟・外来勤務の看護師さんが増えている印象があります.しかし,就職活動の方法や初歩的な知識をどう学べばよいのか分からず,困っている人が多いです.また,新人として企業や健康保険組合に就職したものの「1人職場」で,困ったら誰に相談したらよいのか分からないという人もいます.そこで今回は,産業保健の初学者向けにエールを送るような内容を企画しました.
 前半は5名の産業保健経験者から,どのように産業保健を学んでいくかについて情報提供を行いました.発表者は,奇しくもさんぽ会の役員(会長,副会長,事務局長)が勢ぞろいすることになりました.トップバッターとして私から「学部生への産業保健講義ダイジェスト」と題して,「素人」である学生に対し,授業でいかに産業保健職の存在とやりがいを伝えているかについて紹介しました.いわば過去の自分の授業の集大成を「本邦初公開!」という感じで紹介したのです.久しぶりに想いのこもった話題提供になりました.

映画の時間

—思いもしなかった…私を理解できる人がいるなんて!—恋の病〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.631 - P.631

 新型コロナウイルス感染症の流行が続く中,消毒剤がよく売れているようです.飛沫感染,接触感染が主な感染経路ですので,マスクの着用や手洗いの励行が推奨され,またデスク,テーブル,ドアノブなど人の手が触れる場所を消毒剤で拭くこともよく行われています.強迫性障害(obsessive compulsive disorder:OCD)では,そのような行動もよくみられます.コロナ対策を揶揄しているわけでもないのでしょうが,今月ご紹介する「恋の病」の主人公ボーチンは強迫性障害,中でも潔癖症に分類される患者で,彼が家中を徹底的に掃除,消毒する場面から物語は始まります.もちろん自身も手洗い,シャワーを何度も行う毎日で,外出時には当然ゴーグル,マスク,手袋を着用し,服の上にはフード付きのビニールのレインコートを着て防護しています.
 完全防護の服装で電車に乗っていると(もちろん誰が座ったか分からない座席には座りません),同じような防護服姿の女性ジンが乗っているのを目撃します.興味を持って彼女の後をつけますが,ストーカーのような行為をとがめられてしまいます.しかし,家に戻ってもジンのことが忘れられず,翌日また同じ場所に出掛けると,彼に興味を持ったのか彼女も現れました.運命的な出会いというのか,「一目惚れ」というのか,潔癖症同士のふたりの出会いです.ジンには長時間屋外にいると皮膚に発疹が出るアレルギーがあり,屋外でのデートもままならないため,ボーチンの家で同居(同棲?)することになります.ふたりの同居生活はどうなることやら…….

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ページ範囲:P.565 - P.565

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.633 - P.633

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.634 - P.634

 児童虐待防止法の施行から21年が経過しました.全国の児童相談所(児相)が対応した児童虐待件数は2019年度過去最多の19万3,780件にのぼります.社会の関心は年々高まっていますが,幼い命が失われる事件が後を絶ちません.
 東京都目黒区で5歳女児が「おねがいゆるして」とノートに書き残して亡くなった事件や,学校のアンケートで父親の暴力を訴えた千葉県野田市の小学4年生が命を落とした事件が相次ぎました.いずれも実母が夫のDVを受けて逆らいにくい状況で虐待がエスカレートしたとみられています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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