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雑誌目次

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公衆衛生86巻1号

2022年01月発行

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特集 働く人々の睡眠改革—健康と安全の確保のために

Editorial—今月の特集について フリーアクセス

著者: 兼板佳孝

ページ範囲:P.3 - P.3

 睡眠時間が短いことが心血管疾患、肥満、糖尿病、高血圧症などの危険因子となることが、2000年ごろから世界的に報告されるようになりました。また、不眠症は、うつ病の症状としてだけではなく、うつ病そのものの発症リスクを高めることが複数の疫学研究によって示されています。加えて、睡眠呼吸障害が産業・交通事故と深く関わっていることもよく知られるようになりました。睡眠にまつわる諸問題は、いまや先進国社会において重要な公衆衛生課題として認識されているのです。とりわけわが国においては、国民の平均睡眠時間が諸外国に比べて短く、日本人の睡眠時間が長期的には短縮傾向にあることが知られています。厚生労働省も、2014年には「健康づくりのための睡眠指針2014」を策定しました。現在進行中の健康日本21(第二次)でも、「睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少」を目標の一つに掲げています。
 さて、「健康づくりのための睡眠指針2014」公表から7年が経過し、それまでの間に、ストレスチェック制度の開始、働き方改革の推進、そして昨今の新型コロナウイルス感染症の流行に伴うテレワークの普及など、労働者の睡眠を取り巻く社会状況には大きな変化が生じています。そこで本特集では、最近の睡眠にまつわる諸問題を産業保健の視点から整理するとともに、労働者の睡眠の確保に資することを目指して企画いたしました。睡眠問題と直結するものとして、「メンタルヘルス不調」、「睡眠呼吸障害」、「交代制勤務」、「ソーシャル・ジェットラグ」などのテーマを設け、識者からその基本と最近の知見を解説しています。加えて、読者の皆さまが実践できるような、労働者の睡眠保健指導に役立つ情報として、「生活環境と睡眠」や「職域での睡眠保健指導」の現状なども併せて紹介しています。本特集が日々の公衆衛生活動の一助となりましたら幸いです。

産業保健の視点から見た睡眠に関する課題と解決策

著者: 大塚雄一郎

ページ範囲:P.4 - P.11

ポイント
◆日本人労働者の睡眠時間は世界でも極めて短いグループに位置する。
◆6時間未満の睡眠時間は生活習慣病、心血管疾患発症のりスク要因となり得るため、7時間程度の睡眠時間を確保したい。
◆睡眠衛生教育では可能な限り個別化した指導を行うことが望ましい。

労働者のメンタルヘルス不調と関連する睡眠障害

著者: 水木慧 ,   小曽根基裕

ページ範囲:P.12 - P.18

ポイント
◆日本人は慢性的な睡眠不足に陥っており、作業効率の低下や居眠り運転事故等による社会的損失が問題となっている。
◆睡眠障害は、精神疾患にしばしば併存するため、その双方を念頭においた治療が必要となる。
◆睡眠状態に関わる労働時間が症状の悪化に関与するため、職場環境の調整は不可欠であり、休職者の睡眠状態の継続的把握は、復職時期の見極めや経過のフォローに有用な手段となる。

産業保健分野における睡眠関連呼吸障害

著者: 神奈川芳行

ページ範囲:P.19 - P.27

ポイント
◆睡眠関連呼吸障害(SRBD)は、睡眠中の無〜低呼吸により睡眠が阻害され、覚醒反応が生じる病態で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は代表的疾患である。
◆運輸業では、居眠り事故の誘因となる日中の過剰な眠気や集中力低下等を来す睡眠時無呼吸症候群(SAS)への対応が求められている。
◆睡眠時無呼吸は、高血圧、糖尿病、心血管障害、うつ病等との関連も強く指摘されている。

交代制勤務と睡眠

著者: 藤原広明 ,   藤木通弘

ページ範囲:P.28 - P.34

ポイント
◆全労働人口に対する交代制勤務者の割合は10〜20%の間を推移している。
◆交代制勤務のスケジュールを策定するに当たってはヒトの概日リズムを考慮する必要がある。
◆睡眠日誌や活動量計などを利用し睡眠-覚醒パターンを可視化することが重要である。

COVID-19パンデミックから学ぶ睡眠・生活リズムの在り方

著者: 小笠原正弥 ,   三島和夫

ページ範囲:P.35 - P.42

ポイント
◆COVID-19パンデミックは心理的、社会的、生物学的な側面から不眠症のみならず悪夢や概日リズムの変化に影響を及ぼした。
◆働き方・睡眠・生活リズムの変容は睡眠時間の増加や社会時刻の多様性といったポジティブな側面も指摘されている。
◆パンデミックで得た教訓やスキルをどのように活用しCOVID-19収束後の社会をより良きものにしていくかが問われている。

勤労者の睡眠負債と社会的ジェットラグ

著者: 駒田陽子

ページ範囲:P.43 - P.51

ポイント
◆働く世代では睡眠時間6時間未満の割合は4割を超え、勤労者の多くが睡眠負債の状態である。
◆平日の睡眠負債解消を目的に休日に朝寝坊や寝だめをすることは、社会的ジェットラグを引き起こす。
◆社会的ジェットラグは、生活習慣病や抑うつ、ストレスなど心身の健康に悪影響をもたらす。

生活環境の温度と睡眠の関係

著者: 佐伯圭吾

ページ範囲:P.52 - P.57

ポイント
◆質の良い睡眠には、体を寒冷曝露から保護し、四肢の皮膚からの熱放散を実現する温度環境が望ましい。
◆冬の就寝前には、入浴することや部屋を暖かく保つことが、速やかな入眠につながる。
◆夏の睡眠環境は、毛布や掛け布団を使用した上で、エアコンを用いた室温・湿度の調整が重要と考えられる。

認知行動療法を活用した職域における睡眠保健教育

著者: 岡島義

ページ範囲:P.58 - P.66

ポイント
◆不眠症の認知行動療法(CBT-I)は不眠症状の改善だけでなく精神症状、身体症状の軽減効果が期待できる。
◆睡眠の基礎知識を押さえると、相談者の理解が進み、睡眠保健教育は円滑に進めることができる。
◆最近では、情報通信技術(ICT)を活用したdigital CBT-Iの有効性が職域でも実証されている。

連載 川崎市総合リハビリテーション推進センター発 インクルーシブな社会を実現させるために地方自治体ができること・1【新連載】

川崎市地域リハビリテーション発展の歴史とその思想

著者: 竹島正 ,   野木岳 ,   左近志保

ページ範囲:P.68 - P.75

本連載に当たって
 川崎市は、神奈川県の北東部にあり、多摩川を挟んで東京都と隣接した、細長い地形をしています。1924年に人口約48,000人で誕生し、工場の誘致により工業都市として急速に発展しましたが、第二次世界大戦の空襲によって焦土化します。戦後は、京浜工業地帯の中核として再び発展を遂げますが、同時に深刻な公害と大気汚染が発生し、「公害の街 川崎」と呼ばれます。しかし、市民福祉の充実と新しい都市環境づくりへの努力を積み重ねつつ、1972年には札幌市、福岡市とともに政令指定都市となりました。現在の人口は154万人です。多様性や自由が、川崎の新しい未来への可能性につながるとして、ブランドメッセージ「Colors, Future! いろいろって、未来。」を掲げ、「最幸のまち」となることを目指しています1)2)
 障害児者のリハビリテーションについては、後述するように、障害の種別を超えた地域リハビリテーション体制の構築に取り組んできました。2021年4月には、官民複合施設「川崎市複合福祉センターふくふく」の中に川崎市総合リハビリテーション推進センター(以下、総合リハ推進センター)を開設しました(図1)。「ふくふく」という名称は、福祉・幸福・福寿などの「福」が持つ優しい響きから付けられたものです。

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・11

新型コロナパンデミック対応の困難事例:自宅療養とスティグマ問題

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.78 - P.81

はじめに
 先月号では、下手をすると心理的反発を引き起こしかねない、ワクチン・コミュニケーションについて紹介した。ワクチンについてのコミュニケーションも難しいが、この新型コロナ感染症(以下、新型コロナ)パンデミック下では、他にも難しいコミュニケーション問題が発生している。
 そこで、今月号では、筆者のもとに相談を頂いた中で、特に難しいと感じた、自宅療養とスティグマについての問題の解決への道を、リスクコミュニケーションの視点から探求しよう。

新・視点

コロナ禍での公衆衛生—“Go to the People”ができない時に

著者: 河津里沙

ページ範囲:P.76 - P.77

はじめに:公衆衛生と“Go to the people”
 Go to the people——これは近現代中国の郷村建設運動の指導者、晏陽初(あんようしょ)による運動のモットーである。それが記されている詩の一節を紹介したい。
 Go to the people(人々の中へ行き、)
 live among them(人々と共に住み、)
 love them(人々を愛し、)
 learn from them(人々から学びなさい、)
 start with what they know(人々が知っていることから始め、)
 build on what they have.(人々が持っているものの上に築くのだ。)1)
 公衆衛生とは、一般的には「地域社会の人々の健康の保持や増進をはかり、疾病を予防すること」と考えられているであろうか。しかし、筆者から言わせれば、公衆衛生とは「(自分一人の健康に気を付けていればよいものを)赤の他人の生活に首を突っ込もうとする、究極のお節介行動にすぎない」のだ。例えば適度な運動、バランスの取れた食事や禁煙なんぞは、人々にとっては最も優先度が低いことかもしれない。それでもあなたはその人々に健康で豊かな人生を送ってほしい、という信念のもと、公衆衛生活動に従事しているのではないだろうか。だからこそ、公衆衛生においても“Go to the People”が必要といえる。人々が何を大切と思い生活しているか、それを人々の中に分け入って肌で感じ取り、理解し、受け入れて、初めて彼らと「彼らにとっての健康とは何か」について対話ができるのだ。

予防と臨床のはざまで

さんぽ会夏季セミナー2021〜中小企業の産業保健

著者: 福田洋

ページ範囲:P.82 - P.82

 2021年9月26日、第29回さんぽ会夏季セミナー2021をオンラインで開催しました。多職種産業保健スタッフの研究会であるさんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の活動の中で、夏季セミナーは年に一度、月例会では時間的に扱えないテーマをじっくりと議論するのが目的です。日本の企業の99.7%以上は中小企業であり、その産業保健もさまざまな課題を抱えています。さんぽ会は普段は大企業からの参加が多いため、あえて中小企業にフォーカスして学びを深めることにしました。基調講演は、労働衛生機関として多くの中小企業の産業保健を担当するだけでなく、国際産業衛生学会(international commission on occupational health: ICOH)などで国際的な動向にも明るい森口次郎氏(一般財団法人京都工場保健会)にお願いし、続くリレー講演を藤田善三氏(東京商工会議所)と高野美代恵氏(オフィスME社会保険労務士事務所)に、午後の部は今郷はるか氏(国民健康保険組合・建築系)と瀧川育子氏(全国設計事務所健康保険組合)から実際の中小企業の健康経営支援や保健指導などでの困りごとを提示していただき、講師やフロアからアドバイスをいただく座談会形式で行いました。
 森口氏からは「中小企業の産業保健」と題して、人・金・時間のない中小企業の産業保健の特徴と地域産業保健センターなどの嘱託産業医だけで担いきれない現状に対し、保健師や経営者も含む多職種連携の必要性や、問題探しではなく改善への取り組みに焦点を当てる活動(参加型の職場ドックなど)の重要性について紹介がありました。また経営者や従業員との信頼関係には、丁寧な仕事はもちろんのこと、衛生委員会での積極的な情報提供や巡視時の産業医の腕章での認知度向上の工夫など、「種を播きつつ風を待つ」姿勢が大事とお話しされました。また全労働者に産業保健サービスが提供されているオランダの事例や、ICOHの科学分科会(small-scale enterprises and the informal sector)やUSE(understanding small enterprises)などの国際学会で議論されている内容も解説され、中小企業の産業保健活動について、さらなる取り組みの活性化、関係団体の連携強化が期待されるとお話しいただきました。

映画の時間

—「私と飲んだ方が、楽しいかもよ?笑」付き合いで参加した学生最後の飲み会、“彼女”から届いたショートメッセージで、“僕”の人生が動き始めた ——。—明け方の若者たち

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.83 - P.83

 コロナ禍の中で、若年者の貧困や、新卒者の就職活動が困難になっている状況が関心を集めていますが、今月ご紹介する『明け方の若者たち』でも、冒頭、困難な就職戦線を勝ち抜き内定を取った大学生たちのお祝いの飲み会の場面から映画が始まります。舞台は2012年の東京、新宿からほど近い明大前駅近くの沖縄料理店です。
 主人公の「僕」(北村匠海)はその飲み会で「彼女」(黒島結菜)に出会います。ひょんなことから2人は飲み会を抜け出します。同じ学年と思った彼女は、実は大学院生で2歳年上だと言います。そんなことが気にならないほど意気投合した2人はデートを重ねていきますが、どことなく「彼女」には秘密があるような雰囲気が漂っています。

投稿・原著

韓国における人工授精および生殖補助医療の公費負担状況—保険適用の背景と影響に関する訪問調査

著者: 前田恵理 ,   石原理 ,   左勝則 ,   李廷秀 ,   小林廉毅

ページ範囲:P.84 - P.90

目的
 わが国では晩婚化・晩産化に伴い、不妊治療へのニーズは高まっている。日本産科婦人科学会によれば、年間約57,000人が生殖補助医療*1によって誕生1)したと報告されている。
 わが国では従来から、不妊の原因検索のための検査と、その原因に対して有効性・安全性などが確立した手術療法および薬物療法については公的医療保険の対象とされてきたが、明らかな不妊原因を認めない、いわゆる原因不明不妊に対しても行われる人工授精*2や生殖補助医療は保険適用の対象とされてこなかった2)。実際には、これらの治療法は原因不明不妊を含む不妊症全般に対して、世界的にもすでに有効性・安全性が確立し3)4)広く実施されているが、特に生殖補助医療は治療費用が高額で、1周期当たり(卵巣刺激、採卵およびその後の胚移植含む)50万円程度にのぼることが報告されている5)6)

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ページ範囲:P.94 - P.94

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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