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公衆衛生86巻11号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 “人が受ける最期の医療”と公衆衛生—— 一人の「死」を万人の「生」につなぐ

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.907 - P.907

 死因究明および身元確認(以下、死因究明等)は、国民が安全で安心して暮らせ、なおかつ命が尊重され個人の尊厳が保持される社会の実現に寄与するものであり高い公益性を有していますが、近年の高齢化の進展に伴う死亡数や大規模災害の発生リスクの増加により、その体制強化の重要性はますます高まっています。
 日本法医学会は、現在、司法解剖は法務省、行政解剖は厚生労働省と地方公共団体、調査法解剖は警察庁、またその実務および教育研究は文部科学省と管轄が縦割りで、人材・予算不足が放置されているとして、都道府県単位に「死因究明医療センター(仮称)」設置を提言しています。

死因究明等の施策の基本的な考え方—法医学に関わる教育研究の拠点整備に向けた展望と課題

著者: 岩瀬博太郎

ページ範囲:P.908 - P.915

ポイント
◆日本の法医学分野において教育研究は文部科学省、実務は警察庁、法務省、厚生労働省、各自治体等が所管しており、複雑である。
◆縦割り行政の中、日本の法医学の発展は妨げられ、死因究明制度は諸外国に比べ未発達となった。
◆法医学において、実務・教育・研究は不可分である。縦割りを乗り越え、必要な人員の数値目標を定めつつ、法医学を整備すべきである。

東京都監察医務院の取り組みと死因究明体制の在り方

著者: 林紀乃

ページ範囲:P.916 - P.925

ポイント
◆東京都監察医務院は、東京23区内の異状死を365日毎日検案、解剖する施設である。
◆近年異状死数は著増し、55歳以上が全体の80%を占め、夏場には1日で100件以上の異状死の検案を経験することがある。
◆監察医務業を遂行し世の中に還元していくことで、世間から喜ばれる監察医を目指す。

法医学者は絶滅の危機にある—多死社会に向け一刻も早い対応を

著者: 平石達郎 ,   今村知明

ページ範囲:P.926 - P.933

ポイント
◆2025年以降は、孤独死などの増加により死因究明制度の充実が求められる。
◆死因究明制度におけるキーパーソンは法医学者であるが、法医学者数は非常に少なく、危機的状況である。
◆今後の多死社会を乗り切るためには、法医学者の増加を図ることが最優先の課題である。

警察等における死因究明等の実施体制

著者: 福永龍繁

ページ範囲:P.934 - P.941

ポイント
◆検視は検察官(司法警察員)の業務であり、検案は医師の業務である。両者は車の両輪に例えられる。
◆犯罪性の有無の判断は、正確な死因、死に至る病態が明らかになって初めて可能である。
◆検視や検案によって不明な点は、法医解剖によってのみ明らかにされる。画像診断に頼っても不可能である。

チャイルド・デス・レビュー—予防可能な子どもの死亡を減らす多職種連携

著者: 沼口敦

ページ範囲:P.942 - P.949

ポイント
◆チャイルド・デス・レビュー(CDR)は、成育医療の延長線上に整備される。
◆CDRは死因を究明するためではなく、子どもの死からの学びを社会に還元するために行う。
◆CDRの検証では、各職種の経験に裏打ちされた創造的な発言が期待される。

大規模災害時における歯科所見による身元確認

著者: 柳川忠廣

ページ範囲:P.950 - P.957

ポイント
◆身体から個人を特定できる生体特徴として、歯科所見、指掌紋、DNA型等が挙げられる。
◆歯科医師会では、警察等からの依頼を受け、身元不明遺体の歯科所見と生前のカルテや顎模型、X線写真等を照合して身元確認を行う。
◆歯科所見のデータベース化により、身元確認作業の精度や効率性が大幅に向上される。

死因究明のための死体の科学的調査

著者: 久保真一

ページ範囲:P.958 - P.965

ポイント
◆地方公共団体は、死因究明等地方協議会で、地域の現状を踏まえて整備すべき死因究明の方法を検討することになるであろう。
◆地方公共団体は、少なくとも薬毒物スクリーニング検査ができるように、GC-MS、LC-MS/MS等を整備する必要がある。
◆国は、薬毒物定量検査については、薬毒物定量検査に対応できる拠点の整備を図るべきと考える。

診療行為関連死の死因究明—医療事故調査等支援団体としての東京都医師会の取り組み

著者: 山本宗孝 ,   小林弘幸

ページ範囲:P.966 - P.972

ポイント
◆診療行為関連死の死因究明は、医療事故調査制度にのっとって実施される。
◆医療事故調査制度への適切な対応のためには、支援団体のサポートが重要である。
◆死因究明のために、病理解剖およびAiの実施が極めて重要であることの周知が必要である。

連載 日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・1

日本の災害時の公衆衛生活動の歩み—阪神淡路大震災まで

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.974 - P.979

日本の地体構造とプレートテクトニクス
 日本列島は5つの「島弧」と「海溝系」から成り立っている。島弧とは弓なりに弧を描いて並んだ列島のことである。北から「千島弧と千島海溝」「東北日本弧と日本海溝」「伊豆・小笠原弧と伊豆・小笠原海溝」「西南日本弧と南海トラフ」「琉球弧と南西諸島海溝」が並んでいる。これらの島弧と海溝の形成には4枚のプレートが関係している。プレートとは、地球表層部を形成する厚さ100キロメートル前後の硬い岩板である。日本列島および近隣の海域は、「太平洋」「北米」「フィリピン海」そして「ユーラシア」の4つのプレートの上にある(図1)1)。太平洋プレートは南から北米プレートの下に、フィリピン海プレートは東からユーラシアプレートの下に沈み込んでいる1)。プレートが押し合いへし合いして、活断層がつくられており、全国に約2,000程度の活断層が確認されている。日本列島はこのような地体構造であるため地震が絶えない地域となっている。なお、地震には①プレート境界で発生する地震([例]2011年の東北地方太平洋沖地震)、②プレート内で発生する地震([例]1944年の東南海地震)、③内陸部の活断層を震源とする地震([例]1995年の兵庫県南部地震)の3つのタイプがある。

予防と臨床のはざまで

第24回ヘルスプロモーション・健康教育国際会議インプレッション

著者: 福田洋

ページ範囲:P.980 - P.980

 5月15〜19日に第24回ヘルスプロモーション健康教育国際会議(IUHPE)が開催されました(https://iuhpe2022.com)。3年に一度開催されるIUHPEは、私が大学院生のときに初めて参加して発表した国際学会です。その1995年の幕張での第15回から、1998年のプエルトリコを除き、これまでずっと継続して参加しています。2001年は学会設立50周年の記念大会でもあった第17回パリ、2004年はメルボルン、2007年はバンクーバー、2010年はジュネーブ、2013年は日本人の参加も多かったパタヤ、2016年は約30時間かけて行ったブラジルのクリチバ、2019年は前回のニュージーランドのロトルアと、当時の写真を見るだけでその時々のトピックや取り組んでいた仕事、一緒に発表した仲間や学会風景を思い出します。
 今回大きく違うのは、やはりコロナ下での開催となったことです。日本も第6波の渦中であり、本来はモントリオールでの開催となるはずが、現地に行けない人も多く、完全オンライン開催となりました。オープニングセレモニーでは、学会理事やモントリオール大学の学会長に加えて、カナダの少数民族のFaith Keeper(信仰の番人)の方や、パンデミック後の国際会議ということで世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長があいさつをされました。テーマは「Promoting policies for health, well-being and equity(健康、ウェルビーイング、公平のための政策推進)」。前回のロトルア大会ではマイケル・マーモット先生の「健康格差」が開幕基調講演でしたが、今回はそれをさらに推進し、Health in All Policyの考え方に従って、より政策寄りの議論をするという方向性が見て取れます。

映画の時間

—同じ日に母となった二人のシングルマザー その数奇な運命と絆の行方は?—パラレル・マザーズ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.981 - P.981

 舞台は2016年のマドリード。プロの写真家、ジャニス(ペネロペ・クルス)が忙しく仕事に励んでいます。被写体はちょっとすてきな男性で法人類学者のアルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)。撮影を終えた2人は食事に行きますが、そこでジャニスはアルトゥロにある相談を持ち掛けます。彼女は、曽祖父がスペイン内戦時にフランコ政権に虐殺されたようなのですが、同時に殺された人々も含め、埋葬されている場所の発掘を実現したいようなのです。スペインの制度がどうなっているのか詳しいことは分かりませんが、いろいろ手続き上の問題や、発掘に携わる人々の確保などの問題があるようです。「歴史記憶を回復する会」のメンバーでもあるアルトゥロは、快く協力を約束します。そして惹かれ合った2人は恋に落ちることにもなります。
 場面は変わって産院の2人部屋。ジャニスは臨月。子どもの父親はアルトゥロでしょうか。同室のアナ(ミレナ・スミット)も未婚の様子で、共にシングルマザーです。「想定外の妊娠だけれど後悔していない」と言うジャニスに対し、17歳のアナは不安でいっぱい。ジャニスはアナを励まし、2人は仲良くなり、同じ日に女の子を出産しますが……。

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ページ範囲:P.905 - P.905

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.986 - P.986

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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