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公衆衛生86巻12号

2022年12月発行

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特集 触法障害者の地域生活支援

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.989 - P.989

 精神障害者、知的障害者、発達障害者が罪を犯した場合の処遇はさまざまな問題をはらんでいます。触法とは、本来、違法行為を行ったが「刑法上の処罰」を受けないことを指す言葉ですが、本特集ではもう少し広く、一定程度責任能力があると認められ、処罰を受けることも含むこととし、「触法障害者」とは、疾病や障害を併せ持つ中で、罪を犯してしまった精神障害者、知的障害者、発達障害者を指すこととします。
 精神障害者については、責任能力がないと判断された場合、2005年から施行された医療観察法により、刑務所等の矯正施設に入所する代わりに、一定期間、医療観察下に置かれることになります。退院後の地域社会での生活については、入院中から保護観察所の社会復帰調整官等が生活環境の調査・調整や関係機関間の調整を行っています。

医療観察法制度の概要とその運用の実際

著者: 菊池安希子

ページ範囲:P.990 - P.997

ポイント
◆医療観察法制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を処遇し、社会復帰を促進するための制度である。
◆指定医療機関では多職種チーム医療を行い、医療観察法処遇の開始から終了まで保護観察所の社会復帰調整官がケアを調整する。
◆指定入院医療機関退院後の転帰調査によれば、対象者の3年以内の再他害行為率は、英国等の保安病院退院者と比べても低い。

触法精神障害者の地域生活支援の枠組みと多職種・多機関連携—保護観察所を中心に

著者: 中村秀郷

ページ範囲:P.998 - P.1004

ポイント
◆刑罰法令に触れた精神障害者の地域生活支援には、司法機関と精神保健福祉機関の連携、役割分担が重要である。
◆医療観察制度は、多職種・多機関連携の枠組みの中で、関係機関が相互連携を図りながら処遇を行う仕組みが制度自体に内包されている。
◆保護観察では、「精神障害類型」ケースなどで精神保健福祉機関と連携した処遇が行われることがある。

触法知的障害者・発達障害者の地域における処遇

著者: 生島浩

ページ範囲:P.1005 - P.1010

ポイント
◆触法障害者の地域生活支援は、刑事司法と医療・福祉・心理領域が協働して支援することが不可欠な領域である。
◆成人犯罪者の一部には医療観察制度など法的システムが展開しているが、非行少年については未整備の現状である。
◆地域処遇は、家族臨床に由来するシステムズ・アプローチ(組織的取り組み)の観点が有用である。

「司法福祉」における地域生活定着支援センターの役割と課題

著者: 前阪千賀子 ,   山田真紀子

ページ範囲:P.1011 - P.1017

ポイント
◆司法と福祉、医療の連携によって、地域と人をつないだ豊かな生活の先に、犯罪から遠ざかる社会を目指す。
◆刑務所や少年院から出所・退院する対象者は、出口支援につながり、地域のチカラや人に支えられて、安心できる居場所と新たな生き方を獲得する。
◆逮捕勾留を機に入口支援につながることで、見通しの立たなかった生活が、新たな生活へシフトチェンジする。

北九州市における罪に問われた障害者に対する福祉的支援の取り組み

著者: 佐藤桂代子 ,   深谷裕 ,   横田信也

ページ範囲:P.1018 - P.1025

ポイント
◆北九州市地域再犯防止推進モデル事業は3つの内容からなる入口支援であり、各内容で高い達成率を得た。
◆障害者支援の枠組みを望まない人が多いため、「生きづらさを抱える人」という枠組みで支援メニューを検討する必要がある。
◆長期的に関わる支援者を中心に、司法・福祉・就労など多様な領域の関係者とネットワークをつくることが重要である。

触法障害者の受け入れ施設の役割と課題

著者: 田島光浩

ページ範囲:P.1026 - P.1032

ポイント
◆地域社会内訓練事業は「福祉による生き直し」の試行である。
◆地域社会内訓練事業は、基本的生活習慣や社会のルールを学び、人の関係性の構築、相談できる技術の習得等を目指して実施された。
◆福祉による幸せづくりが、結果として再犯防止につながる。

刑務所内の障害者たち—これからの福祉や司法に求められるもの

著者: 山本譲司

ページ範囲:P.1033 - P.1039

ポイント
◆日本の刑務所の中は、障害のある人たちであふれており、今や、福祉の代替施設と化してしまっている。
◆障害のある受刑者への社会復帰支援も行われるようになったものの、質・量ともに、まだまだである。
◆知的障害者への刑罰の在り方を見直すべきだが、本質的に問われているのは、わが国が目指すべき社会全体の在り方ではないか。

連載 衛生行政キーワード・145

救急医療・災害医療を取り巻く課題とこれから

著者: 中村洋心

ページ範囲:P.1040 - P.1042

はじめに
 2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、救急医療、災害医療にも大きな影響を与えた。わが国においては、2005(平成17)年より、大規模地震等の災害時に地域において必要な医療提供体制を支援するため、災害派遣医療チーム(disaster medical assistance team: DMAT)の養成を行っていた。DMATは新型コロナウイルス感染症の流行のさなか、ダイヤモンド・プリンセス号や都道府県の本部において、その機動性と災害医療マネジメントの知見を活用し、感染症患者の入院・搬送調整に係る支援を行うとともに、感染症の専門家と協力して感染制御と業務継続の両面の支援が可能な支援チームを形成し、介護施設等においてクラスター対応を行った。
 一方、救急医療においては、特に2022年初頭からのオミクロン株の流行により患者が増加した際に、コロナ医療の逼迫と相まって、新型コロナウイルス感染症を疑われない患者も含めて、搬送先が決まるまでに時間を要する事案が増加してしまうなどの問題が生じた。
 本稿においては、救急医療・災害医療の歴史を振り返りつつ、課題とこれからについて述べる。

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・2

東日本大震災(宮城県)10年間の教訓

著者: 辻一郎 ,   菅原由美

ページ範囲:P.1043 - P.1047

はじめに
 東北大学大学院医学系研究科は、東日本大震災50日後の2011年5月1日に、被災者・被災地支援を目的とする地域保健支援センターを設置した。これは9つの分野・部局(運動学、公衆衛生学、精神神経学、国際看護管理学、整形外科学、地域保健学、微生物学、婦人科学・周産期医学、歯学研究科)で構成され、被災者・被災自治体の支援とともに、被災者を対象とするコホート研究を行った1)2)
 宮城県被災者コホート研究の対象は、石巻市3地区(雄勝・牡鹿・網地島)・仙台市若林区・七ヶ浜町の被災者約8千名である(図1)。居住場所、メンタルヘルス、生活習慣、ソーシャル・ネットワーク、地域とのつながりなどに関するアンケート調査を2020年まで毎年行い、本人同意に基づいて異動(転出・死亡)・特定健診・医療費・介護保険の要介護認定などの情報を入手した。これにより、被災後の生活環境などの変化が心身の健康に及ぼす影響を分析した1)2)

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・6

怒りへの対応・1—若くて何も悪いことをしていない自分が、なんでこんな目にあうんだ

著者: 清水研

ページ範囲:P.1048 - P.1053

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

映画の時間

—君とネコとの思い出が、永遠に僕を守ってくれる。—ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1054 - P.1054

 猫好きの方なら、一度はルイス・ウェインの描いた絵をご覧になっているかもしれません。1860年生まれのウェインは19世紀末から20世紀初頭のビクトリア女王治世下の英国で活躍した画家(イラストレーター)です。新聞記事などの挿絵を描いていましたが、後に独特な雰囲気を持った猫の絵が人気を博し、猫の画家として有名になりました。今月はウェインの生涯を描いた映画をご紹介します。
 馬の品評会を取材した帰り、顔や服が泥で汚れたまま汽車に乗り込んだ主人公ルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)は、車内で挿絵の仕上げを始めました。小犬を連れた乗客から愛犬クレオパトラの絵を描いてと頼まれると画料も取らずに、依頼に応えるルイスです。金銭感覚に疎いのかなと感じさせる鮮やかな導入部です。ルイスはちょっと変わり者のようで、写実を求めるあまり、疾走する馬の前に出て描こうとして泥だらけになったようです。しかし、画力は大したもので、The Illustrated London Newsのオーナーから専属契約の申し出がありますが、ルイスは当時の最先端技術である「電気」の特許やオペラの作曲で忙しいと、その申し出を断ります。

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.1058 - P.1058

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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