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雑誌目次

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公衆衛生86巻2号

2022年02月発行

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特集 UP DATE 新型タバコ—COVID-19も絡むタバコ問題の今

Editorial—今月の特集について フリーアクセス

著者: 田淵貴大

ページ範囲:P.97 - P.97

 日本のタバコ問題にまつわる状況は、加熱式タバコや電子タバコといった新型タバコの流行や、東京オリンピック・パラリンピック開催に関連した受動喫煙防止対策強化のほか、2018年から5年連続タバコが値上げされるなど、刻一刻と変化しています。特に、新型タバコにおいて、日本では電子タバコ用ニコチン入りリキッドが薬機法で販売が禁止されているため、電子タバコはあまり使われていない一方で、タバコ葉を用いた加熱式タバコが流行しています。最新の研究結果では成人の実に10人に1人以上が加熱式タバコを使っていることが分かっています。こうしたことにより、従来から実施されてきたタバコ対策全般に影響が及んでいます。
 本誌では、2019年8月号に特集「新型たばこ —— 健康影響と規制のあり方」を取り上げ、それから約2年半が経過しました。まだ2年半しかたっていないと感じる読者もいるでしょう。しかし、この2年半の間にさまざまな新型タバコ製品が登場し、行政の側からは、改正健康増進法や受動喫煙防止条例など新型タバコ問題にも関連した法律が施行され、新型タバコ問題に関する数多くの研究成果が発表されるなどの出来事がありました。

UP DATE 新型タバコ研究の現在と将来展望—MPOWERとの関連

著者: 田淵貴大

ページ範囲:P.98 - P.105

ポイント
◆日本では、新型タバコである加熱式タバコが流行し、タバコ対策全般に大きな影響を及ぼしている。
◆タバコ対策MPOWER(モニタリング、受動喫煙対策、禁煙支援、警告・啓発、広告の禁止、増税・値上げ)との関連に注目して、加熱式タバコ問題を理解する必要がある。
◆タバコ対策の各領域で今後必要とされる、タバコ対策・加熱式タバコ対策の推進方策および求められる研究課題について列記した。

新型タバコ関連有害物質の分析

著者: 内山茂久

ページ範囲:P.106 - P.113

ポイント
◆新型タバコに含まれるグリセロール、プロピレングリコールは、加熱により有害なアルデヒド類やオキシド類を生成する。
◆新型タバコから発生するエアロゾル(煙)の95%以上は2.1 μm以下の微小粒子であり、吸煙により人の肺胞まで達する。
◆有害物質を発生しない新型タバコはない。喫煙者は害の少ないタバコを求めるのではなく、喫煙習慣を見直すべきである。

UP DATE 新型タバコ使用状況

著者: 堀愛

ページ範囲:P.114 - P.122

ポイント
◆日本は加熱式タバコ使用は世界の中でも突出しており、近年その増加傾向は鈍っているものの、2021年の使用割合は国民の10.7%と推定される。
◆電子タバコの使用割合は2.4%であり、健康被害の報告もあることから、有害性に対する懸念が増している。
◆リトルシガーの使用割合は2.1%だが、低価格・明確でない成分表示といった特徴があり、今後の推移に注意が必要である。

UP DATE 中高生における新型タバコ使用

著者: 桑原祐樹

ページ範囲:P.123 - P.131

ポイント
◆日本の中高生において、電子タバコや加熱式タバコといった新型タバコの使用がみられている。
◆新型タバコは有害物質への曝露とともに、若者を引き付け、将来的な喫煙にいざなうリスクを有する。
◆中高生や若者の新型タバコの使用実態とタバコ産業の販売戦略を注視し、適切な規制を講じることが望ましい。

UP DATE 禁煙支援・治療における新型たばこ問題

著者: 中村正和

ページ範囲:P.132 - P.138

ポイント
◆2020年度の診療報酬の改定に伴い、加熱式たばこ使用者への禁煙治療が健康保険で正式に実施できることになった。
◆加熱式たばこの流行は禁煙意欲を阻害するだけでなく、禁煙試行の際に禁煙治療の選択を妨げ、禁煙率を減少させる可能性がある。
◆加熱式たばこ使用者には、最終的にはその使用も中止するよう、エビデンスを踏まえて情報提供や支援を行う必要がある。

UP DATE 受動喫煙問題

著者: 大和浩 ,   姜英

ページ範囲:P.139 - P.148

ポイント
◆改正健康増進法による受動喫煙対策の強化は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のレガシーである。
◆第一種施設(学校、病院、行政機関等)は敷地内禁煙、第二種施設(国会、一般企業、飲食店等)は原則屋内禁煙となった。
◆屋外や家庭についても配慮義務が求められる。

喫煙の新型コロナ関連リスク

著者: 郷間厳

ページ範囲:P.149 - P.160

ポイント
◆喫煙はCOVID-19の感染リスクを高めており、比較的若年者の方が喫煙者の感染リスクが上昇する可能性がある。
◆現在の喫煙はCOVID-19の重症化・死亡のリスクとなるが、高齢者の場合には喫煙関連疾患でもある慢性疾患の影響も間接的に関連することが推測された。
◆COVID-19は新たに禁煙した人を増やした一方で、長期のパンデミックの社会のストレスなどで、喫煙量増加、再喫煙も生じていた。

第三次「健康日本21」でのタバコ対策の目標設定

著者: 尾谷仁美 ,   田淵貴大

ページ範囲:P.161 - P.168

ポイント
◆次期(第三次)「健康日本21」では今期(第二次)よりも細分化された個別目標を設定し、日本におけるMPOWERの推進を図る。
◆加熱式タバコなども紙巻きタバコと同様に扱い、喫煙および受動喫煙の評価に組み込む。
◆「喫煙をやめたい者」の定義とモニタリング方法を見直し、禁煙を促すための環境・サポート体制作りに役立てる。

UP DATE 最新タバコ研究

著者: 片野田耕太

ページ範囲:P.169 - P.176

ポイント
◆2020年4月に施行された改正健康増進法は、職場や公共の場所を原則禁煙とし、罰則も適用される。
◆改正健康増進法の根拠となった「タバコ白書」。受動喫煙の健康影響の科学的証拠はその後も乳がん、糖尿病、COPDなどで蓄積している。
◆能動喫煙、受動喫煙ともに、その健康被害を減らすためには社会環境アプローチが大切。

新・視点

公衆衛生と私の視点

著者: 野村恭子

ページ範囲:P.178 - P.179

はじめに—私の経歴
 元々は祖父の医療機関を継承するために医師になった筆者は、いわゆる赤ひげ医に憧れ、総合診療医(general physician)を志していた。まだ医師臨床研修制度も努力義務であった時代のことである。日本内科学会が認定する総合診療内科専門医を取得した後、一臨床医として自分が関わることができる人の数よりも、より多くの集団の健康管理・増進に寄与したいと考えるようになり、公衆衛生学へ転向した。

連載 川崎市総合リハビリテーション推進センター発 インクルーシブな社会を実現させるために地方自治体ができること・2

川崎市総合リハビリテーション推進センター地域支援室の取り組み—支援困難事例から見た今後の展望

著者: 塚田和広

ページ範囲:P.180 - P.184

本連載に当たって
 川崎市は、神奈川県の北東部にあり、多摩川を挟んで東京都と隣接した、細長い地形をしています。1924年に人口約48,000人で誕生し、工場の誘致により工業都市として急速に発展しましたが、第二次世界大戦の空襲によって焦土化します。戦後は、京浜工業地帯の中核として再び発展を遂げますが、同時に深刻な公害と大気汚染が発生し、「公害の街 川崎」と呼ばれます。しかし、市民福祉の充実と新しい都市環境づくりへの努力を積み重ねつつ、1972年には札幌市、福岡市とともに政令指定都市となりました。現在の人口は154万人です。多様性や自由が、川崎の新しい未来への可能性につながるとして、ブランドメッセージ「Colors, Future! いろいろって、未来。」を掲げ、「最幸のまち」となることを目指しています。
 障害児者のリハビリテーションについては、後述するように、障害の種別を超えた地域リハビリテーション体制の構築に取り組んできました。2021年4月には、官民複合施設「川崎市複合福祉センターふくふく」の中に川崎市総合リハビリテーション推進センター(以下、総合リハ推進センター)を開設しました。「ふくふく」という名称は、福祉・幸福・福寿などの「福」が持つ優しい響きから付けられたものです。

クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション・12【最終回】

インフォデミックへの対処法:偽情報より心をつかむためにできること

著者: 蝦名玲子

ページ範囲:P.186 - P.194

 先月号では、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対応の困難事例として、自宅療養とスティグマについての対応を取り上げたが、同様に難しいのが、インフォデミックの処理である。
 インフォデミックとは、「information(情報)」と「epidemic(急激な伝染)」から成る造語で、感染症などに関する正確な情報と、誤解を招き有害となりかねない不正確な情報の両方が、急速かつ広範囲に広がることを意味する。新型コロナの流行下でも、インターネットで事実だけでなく誤情報、デマやうわさなどが混ざり合い、拡散され、情報が過多状態となり、正確な科学的根拠に基づく知見や助言を見極めるのが難しくなった。こうした現象に対し、WHOがインフォデミックが効果的な公衆衛生への対応を妨げ、人々の間に混乱と不信を生み出す可能性があると注意喚起をした1)ことは記憶に新しい。
 そこで今月号では、このインフォデミックへの対処法を探求していく。

予防と臨床のはざまで

はじめての学会発表〜現場の活動を学会へ

著者: 福田洋

ページ範囲:P.196 - P.196

 臨床疫学ゼミについてはこの連載でも多く取り上げてきました。ミシガン大学公衆衛生大学院疫学セミナーにヒントを得て2008年7月に開講し、疫学統計への「興味」、社内「会議」のプレゼン、「学会」での発表、「論文」にまとめたいというレベルの異なるゴールに対して、同じ場で学び合うことに意義があるというポリシーのもとに運営してきました。産業保健などの現場での取り組みを学会で発表することに対して、ハードルを感じる人は多いと思います。第123回と第124回の臨床疫学ゼミONLINEでは、直近に開催された第29回日本健康教育学会学術大会での学会発表にフォーカスして、そのハードルの突破に役立つと思われるヒントやエッセンスについて4人の方から発表していただきました。
 第123回(2021年10月15日開催)の1人目の演者は、「はじめての学会発表」をテーマに前田菜月氏(医療法人社団同友会)にお話しいただきました。前田氏にとって、日本健康教育学会での特定保健指導の3カ月および6カ月支援の効果差についての報告が、まさにはじめての学会発表でした。そのために半年以上前から準備し、抄録やスライドを作成してきました。ゼミでは「学会発表が完成するまでの道のり」と題して、先行研究や参考文献の読み込み、統計解析の苦労、分かりやすい図表を作るための工夫、学会抄録や発表スライド作成の作法、さらにこれらを日常業務の合間を縫って行うことの大変さについてお話しいただきました。完成した学会発表を聞く機会は多いですが、発表準備の裏側を聞ける機会は貴重です。学会発表で誰もが通る道ではありますが、改めて聞くと、一緒に準備してきた半年間が脳裏に浮かびました。

映画の時間

—我が子の成長を喜び、愛しむ両親の姿とその日々の営みをみつめ、いのちにふれるドキュメンタリー。—帆花

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.197 - P.197

 今月は、生後すぐに「脳死に近い状態」と言われた少女の成長の姿を追ったドキュメンタリー「帆花」をご紹介します。
 西村帆花(ほのか)ちゃんは、お母さんの理佐さんのおなかの中にいるときに、胎児に血液を送る血管が切断し、酸素が欠乏した状態で生まれたとのことです。結果として医師から「脳死に近い状態」と宣告されたようです。その帆花ちゃんと、彼女を愛しむ母親の理佐さんと父親の秀勝さんをはじめとする周りの人々の姿をカメラは追います。

投稿・地域事情

オーストラリアとニュージーランドにおける1918年のスペイン風邪の記憶がCOVID-19への対応にどのように役立ったかに関する論文の要約

著者: 伊藤雄志

ページ範囲:P.198 - P.200

著者紹介
 論文の著者Geoffrey Rice氏(1946年生まれ)は、ニュージーランドのカンタベリー大学歴史学名誉教授である。Rice教授は、「スペイン風邪」と呼ばれた1918〜19年のインフルエンザパンデミックでのニュージーランドの個々の死者の記録を調査した歴史研究で知られている。彼の著書『Black November』1)(黒い11月)は、1918年のインフルエンザパンデミックに関する最初の国レベルの研究で、ニュージーランド保健省が現在のインフルエンザパンデミック計画を作成するのに使われた。2019年12月に中国武漢で最初にCOVID-19が検出される直前の11月に、Rice教授はニュージーランドのJacinda Ardern首相と並んで、ウェリントン市内の公園で「1918年インフルエンザパンデミック記念碑」の除幕を行った。2021年の新年の叙勲で、Rice教授は歴史研究と高等教育への貢献によってエリザベス2世女王からニュージーランド功労勲章の役員に任命された。その直前の2020年11月にケンブリッジ大学出版局の『Global History』誌に掲載された彼の論文2)が、ここで紹介するオーストラリアとニュージーランドでのスペイン風邪の記憶とCOVID-19対策に関する研究である。

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ページ範囲:P.95 - P.95

次号予告 フリーアクセス

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.204 - P.204

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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