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雑誌目次

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公衆衛生86巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 ペットと人と環境と—共生社会を目指す(=^・^=)

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.207 - P.207

 犬や猫、小鳥、爬虫類・両生類、魚などのペットは、私たち人間の生活に潤いと安らぎを与えてくれるかけがえのない存在です。家族の一員として、年賀状にペットの写真と名前を載せている人も決して珍しくありません。
 人の健康との関連では、治療・看護の過程にセラピー・アニマルが介在する「動物介在療法」も、小児患者や障害者をはじめとして広がりを見せています。一方、ペットから人に感染する病気に加えて、最愛のペットを失うことで心身の不調を来すいわゆる「ペットロス」もあります。ペットは人の健康にプラスとマイナス、両方の影響を与える存在と言えます。

動物愛護管理法の概要と運用

著者: 浅利達郎

ページ範囲:P.208 - P.214

ポイント
◆2019(令和元)年の法改正は、動物取扱業のさらなる適正化や、動物の虐待に対する罰則強化などを図るために行われた。
◆犬猫の譲渡促進と、殺処分数のさらなる削減に向けたパートナーシッププロジェクト「つなぐ絆、つなぐ命」を開始した。
◆動物の愛護及び管理の精神は、さまざまな意見を擁する国民の合意の下に形成されていくことが必要である。

動物介在療法の現状—効果と課題

著者: 山本真理子

ページ範囲:P.215 - P.222

ポイント
◆コンパニオン・アニマルとの関わりから得られる身体的、心理的、社会的な効果を医療場面に応用した動物介在療法が広がっている。
◆動物介在療法は治療的効果だけでなく、患者の治療への積極性や患者と医療者との良好な関係構築をもたらす。
◆安全で効果のある動物介在療法を実施するためには、適性のあるセラピー・アニマルとハンドラーの存在が不可欠である。

ペットロスに伴う心身の不調—位置付けと現状

著者: 木村祐哉

ページ範囲:P.223 - P.229

ポイント
◆ペットの喪失に伴う心身の不調は、複雑化すれば悲嘆障害として介入対象となり得る。
◆俗に言う「ペットロス」の意味はさまざまで、悲しむこと自体を否定する言いぶりは、時に周囲との意識の違いが飼い主を苦しめる。
◆安楽死をはじめとして、動物自身に代わって飼い主が治療方針を選択するため、罪責感や後悔につながる場合がある。

ペットの多頭飼育問題の背景と対応策

著者: 打越綾子

ページ範囲:P.230 - P.236

ポイント
◆多頭飼育に陥る飼い主は、社会的孤立や家族の喪失、経済的困窮や認知症等の課題を抱えていることが多い。
◆問題の解決のためには、飼い主の生活、動物の飼育状態、周辺の生活環境の3点を同時並行で改善する必要がある。
◆環境省と厚生労働省が協力して検討会議を設置し、2021年3月に社会福祉施策と連携した多頭飼育対策ガイドラインを策定した。

ペットに関連する人獣共通感染症とその予防

著者: 森田幸雄

ページ範囲:P.237 - P.247

ポイント
◆感染症が成立する3要素(病原体、感受性動物、伝播経路)を考え、家庭内では主に伝播経路の遮断により予防が可能となる。
◆人獣共通感染症には、犬や猫の咬傷や引っかき傷による感染で発生する狂犬病、猫ひっかき病、パスツレラ症、経皮および経口感染によるレプトスピラ症がある。
◆経口感染には犬ブルセラ症、トキソプラズマ症、経気道感染にはオウム病、そのほか、ダニ媒介性感染が主であるがいまだに伝播様式が不明な犬や猫の重症熱性血小板減少症候群がある。

川崎市動物愛護センターの取り組み

著者: 福田依美子

ページ範囲:P.248 - P.258

ポイント
◆川崎市動物愛護センターでは、生体を使用しない動物愛護教室「いのち・MIRAI教室」を実施している。
◆Twitter、Facebookの活用により、譲渡対象動物の紹介等センター職員ならではの情報を発信している。
◆多くのご支援をいただきながら収容動物の飼養管理を行い、新しい飼い主へその命をつなぐ。

災害時におけるペットの救護対策の現状—地方自治体の取り組みと課題

著者: 平井潤子

ページ範囲:P.259 - P.266

ポイント
◆ペット同行避難対策は、動物愛護・動物福祉の視点だけではなく、飼い主らの人命保護、地域住民の財産、地域の衛生・自然・感染症・避難所内の秩序などへの対策の視点も必要。
◆自治体での検討はペット関連部門においては徐々に進んでいるが、人の災害対策部門や避難所運営組織の理解や協働が課題。
◆飼い主自身も災害に対する心構えと準備が重要。

ペットと生物多様性の保全

著者: 塩野貴之 ,   久保田康裕

ページ範囲:P.267 - P.274

ポイント
◆日本に定着した外来脊椎動物の分布データを検証すると99種を地図化でき、そのうちペット由来の外来種は56種である。
◆エキゾチックペットの大元である「輸入生物」の種数をOECD加盟国平均で比較すると、日本の輸入生物種数は突出している。
◆エキゾチックペットの飼育が珍しい生物のニーズを生むという日本独特の状況があり、珍奇種ニーズを抑制する対策が必要である。

ペット産業の視点から考える人とペットの共生

著者: 越村義雄

ページ範囲:P.275 - P.286

ポイント
◆わが国の犬猫の飼育数は、高齢化などによって今後より減少することが見込まれており、子どもの教育や国民の健康寿命延伸などに影響が憂慮される。
◆人とペットの共生には、人や動物の健康、環境保全の「ワンヘルス」の実現に取り組む必要があるが、そのために世界で行われているさまざまな施策を紹介する。
◆わが国のペット関連業界の現状を踏まえ、ペット産業に求められている役割や今後の課題について述べる。

連載 川崎市総合リハビリテーション推進センター発 インクルーシブな社会を実現させるために地方自治体ができること・3

地域包括ケアシステムにおける精神科救急と退院後支援

著者: 石井美緒

ページ範囲:P.292 - P.296

本連載に当たって
 川崎市は、神奈川県の北東部にあり、多摩川を挟んで東京都と隣接した、細長い地形をしています。1924年に人口約48,000人で誕生し、工場の誘致により工業都市として急速に発展しましたが、第二次世界大戦の空襲によって焦土化します。戦後は、京浜工業地帯の中核として再び発展を遂げますが、同時に深刻な公害と大気汚染が発生し、「公害の街 川崎」と呼ばれます。しかし、市民福祉の充実と新しい都市環境づくりへの努力を積み重ねつつ、1972年には札幌市、福岡市とともに政令指定都市となりました。現在の人口は154万人です。多様性や自由が、川崎の新しい未来への可能性につながるとして、ブランドメッセージ「Colors, Future! いろいろって、未来。」を掲げ、「最幸のまち」となることを目指しています。
 障害児者のリハビリテーションについては、後述するように、障害の種別を超えた地域リハビリテーション体制の構築に取り組んできました。2021年4月には、官民複合施設「川崎市複合福祉センターふくふく」の中に川崎市総合リハビリテーション推進センター(以下、総合リハ推進センター)を開設しました。「ふくふく」という名称は、福祉・幸福・福寿などの「福」が持つ優しい響きから付けられたものです。

新・視点

健康都市・空間デザインの視点と実践—健やかな社会基盤の構築を目指して

著者: 花里真道

ページ範囲:P.288 - P.290

はじめに
 筆者は、大学院で建築学を修了した後、建築設計事務所で3年間、建築設計実務に携わりました。その後、再び大学に戻り、研究・教育に携わるようになり13年を迎えています。扱う主要なテーマは、健康と都市・空間デザインです。医学・公衆衛生学と都市・空間デザイン。一見、全く異なる分野のように感じられます。本稿では、この2つの分野を重ねる視点が求められていることと、その実践について述べたいと思います。

予防と臨床のはざまで

第18回日本ヘルスプロモーション学会参加記

著者: 福田洋

ページ範囲:P.298 - P.298

 2021年12月4〜5日に日本ヘルスプロモーション学会第18回学術大会総会in東京が開催されました(公式サイト:https://www.jahp18conf.com)。大会長は順天堂大学国際教養学部教授の湯浅資之先生が務められ、メインテーマは「ヘルスプロモーションの原点回帰—原点に立ち戻り未来の持続可能な社会を考える」でした。世界保健機関(World Health Organization: WHO)がオタワ憲章を発表してからすでに35年が経過していますが、いま一度原点に立ち返り、その成り立ちや今後の展望を考えようという趣旨です。新型コロナウイルス感染症の第5波の感染状況は落ち着いていたものの、感染拡大の危惧により完全オンラインでの開催となりました。私は一日目の特別講演の座長を引き受けていたので、会場に赴き、開会式から参加しました。大会事務局が設置された順天堂大学の教室は、オンライン用のパソコンが距離を取って置かれており、従来の学会での参加者で賑わう風景と違って閑散とした感じがしましたが、ミニマムなメンバーでしっかりと運営されていました。演者席は教室の前に設置され、後ろに座長席があり、コロナ対策は万全でした。
 初日は、開会式に続いて湯浅先生の大会長講演「ヘルスプロモーションの原点回帰」から始まりました。湯浅先生は今までのご経験から、「ヘルスプロモーションには理念の顔、実践の顔、科学の顔、政策の顔、スピリチュアルな顔の5つの顔がある」と話され、医学部卒業後の保健所・地域でのまちづくり活動や、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)の専門家として赴いたフィリピン、ブラジル、ボリビア、タイなどでの国際保健活動などの多彩なご経験を踏まえて、プライマリヘルスケアとヘルスプロモーションの関連や相違点、まちづくりの実践、エビデンス作り、持続可能な政策としてのヘルスプロモーションについて解説されました。特にスピリチュアルな顔については、アンデス地方の住民との会話から、ヘルスプロモーションの究極の目的が健康ではなく、より良く生きること(Well-being)であり、人生に意味付けを与えるスピリチュアルヘルスに大いに関与するという話は、大変ふに落ちました。職域でも健康経営の上位概念として、Well-being経営なる用語も使われ始めており、私にとってもタイムリーな話題でした。世界の多くの国の国際保健に従事した湯浅先生らしいご講演で、信じられないような絶景に佇む若き湯浅先生が、ヘルスプロモーションと世界中の人々の健康に思いをはせる姿に非常に感銘を受けました。

映画の時間

—不謹慎!?“笑い”を武器に東日本大震災と向き合う!アメリカ人が3.11を題材にしたコメディ映画を撮る!?—永遠の1分。

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.299 - P.299

 2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。震災の記憶は、被災地の方々はもとより、多くの方々の脳裏に深く刻まれていることと思われます。当時の公衆衛生活動については、本誌(75巻12号〔2011年12月〕)でも特集されています。筆者は当時、東京都庁に勤務していました。建物の倒壊や火災が少ないという情報に当初安堵したものの、その直後に防災本部のモニターで見た津波の映像は忘れられない記憶となっています。それから11年経過した現在、震災をテーマにしたユニークな映画が公開されます。
 舞台はロサンゼルス。レストランで語り合う男女、男性がプロポーズしようとするのですが、うまくいかず女性は席を立ちます。男性は彼女を止めようとするのですが、窓越しに「手を挙げろ」と拳銃を向けられます。サスペンス映画のような導入場面ですが、実は外で拳銃を向けていたのは映画の撮影部隊。観客を驚かせる鮮やかな展開です。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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