icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生86巻5号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 地域で進める歯科口腔保健・医療提供体制の構築

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 福田英輝

ページ範囲:P.403 - P.403

 歯科口腔領域の2大疾患である「う蝕」と「歯周病」の発症・重症化を予防するには、フッ化物配合歯磨剤の利用、歯間ブラシやデンタルフロスの利用、適切な糖質制限、あるいは定期歯科健診の受診等を内容とした適切な口腔ケアの確立が重要です。これら口腔ケアを行う者は、地域を構成する全ての住民であり、かつ感染症拡大時や災害発生といった非日常時においても、継続した実施が求められます。「住むだけで健康になる街づくり」といったフレーズが聞かれる中、個人に大きく依拠する口腔ケアの確立は、万人にとっては容易ではなさそうです。特に、要介護者や障害者においては、口腔内状態や置かれた環境は多様であり、複雑な状況に応じた口腔ケアの確立が必要です。誰もが、あまり大きな苦労をせず、かつ多様な生活状況に応じた口腔ケアを確立したいと願っているはずです。
 本特集では「地域で進める歯科口腔保健・医療提供体制の構築」のテーマのもと、歯科口腔保健・医療界を代表する研究者・実践者の先生方に執筆いただきました。社会状況の変化に伴う歯科口腔保健・医療提供体制を取り巻く状況や課題を概説したのち、歯科口腔疾患と他疾患との共通リスク要因に着目した共通リスク要因アプローチの活用事例、および個人の努力に大きく依拠しない方策であるナッジを含む行動経済学の歯科口腔保健事業への応用可能性について解説いただきました。また、地域住民を構成する全ての人々や多様なライフスタイルに対応した歯科口腔保健・医療提供体制の在り方を理解するため、入院患者や在宅療養者、あるいは障害者に対する地域完結型の歯科医療提供体制、および新型コロナウイルス感染症流行を機に議論が高まりつつあるニューノーマル時代の歯科医療提供体制について、現場からの知見を交えながら解説いただきました。最後に、グローバルな視点から、将来に向けての歯科口腔保健・医療提供体制の在り方をご提言いただいています。

地域で進める歯科口腔保健・医療提供体制の現状と課題

著者: 福田英輝

ページ範囲:P.404 - P.409

ポイント
◆社会状況の変化に伴い、歯科外来患者における年齢構成、および主要な歯科疾患の種類は経年的に推移している。
◆「通いの場」を通じたオーラルフレイル対策は、多職種連携で進める歯科口腔保健事業の新たな試みである。
◆地域包括ケアシステムのもと、かかりつけ歯科医を含む多職種連携を基盤とした歯科保健・医療提供体制の構築が必要である。

歯周病対策における住民を後押しする環境づくりとアプローチ

著者: 渡邉功

ページ範囲:P.410 - P.416

ポイント
◆住民の健康行動を後押しする環境づくりを歯周病対策で考える。
◆歯科疾患検診受診率の向上を図るには、自治体によるアクセス改善などの環境づくりが重要。
◆共通リスク要因アプローチは、口腔の健康促進のための合理的な方法であり、保健指導などで活用できる。

歯科口腔疾患予防行動の行動経済学的メカニズムと対策

著者: 平井啓

ページ範囲:P.418 - P.423

ポイント
◆歯科口腔疾患予防行動においては、「損失回避」や「現在バイアス」などが検診受診などの行動変容の阻害要因となっている。
◆歯科口腔疾患予防行動の行動変容のためには、行動経済学的バイアスを考慮したナッジ構築を行う必要がある。
◆ナッジには、検診の受診勧奨時に、受診方法の図示や将来の疾患リスクを伝えながらも、歯垢の蓄積など現在の損失につなげたメッセージを使用するなどの工夫を含むことができる。

在宅と病院・施設をシームレスにつなげる歯科医療提供体制

著者: 日髙玲奈 ,   古屋純一

ページ範囲:P.424 - P.433

ポイント
◆シームレスな歯科医療体制の提供のためには、医科と歯科の垣根を超えて口腔に関する情報が共有できる環境が必要である。
◆「元気なうちから」と「要介護になっても」の両面からオーラルフレイルに対応する歯科医療体制の構築が求められる。
◆一連のオーラルフレイルへの対応のためには、地域の病院歯科とかかりつけ歯科医のネットワーク形成が重要である。

障害者が自分らしく生きることを叶える歯科医療—生活地域にかかりつけの歯科医療者がいる意義

著者: 遠藤眞美

ページ範囲:P.434 - P.443

ポイント
◆障害者にとって歯科医療は、単に歯科疾患の治療ではなく、治療過程の学習によって日常の適応行動が促される機会となる。つまり、生活支援の医療である。
◆歯科医療により多くの適応行動を獲得することで、障害者本人だけでなく周囲の人々の負担軽減や満足といったQOLの向上に寄与できる。
◆障害者の歯科治療を生活地域で受けられる環境が本人の社会参加のためには重要であり、その際、各地域の歯科医師会が運営する障害者口腔保健センターなど二次医療機関の役割は大きく、一次医療機関および三次医療機関との懸け橋となっている。

ニューノーマル時代の歯科医療提供体制等の現状と課題

著者: 竹田飛鳥

ページ範囲:P.444 - P.450

ポイント
◆新型コロナウイルスの全国的な感染拡大を契機に、歯科患者の受療行動に変化があった。
◆オンライン診療は、歯科領域において具体的な議論が始まったばかりだが、今後の活用が期待される。
◆地方自治体は地域の状況に応じて、新型コロナウイルス感染症の対応を踏まえた歯科医療提供体制の構築を行っている。

歯科口腔保健・医療体制の今後の在り方—UHCに基づく歯科口腔保健・医療提供体制の構築

著者: 三浦宏子

ページ範囲:P.451 - P.458

ポイント
◆歯科口腔保健サービスの提供体制を、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の枠組みの一つとして考える視点が必要である。
◆歯科口腔保健の推進に関する基本的事項においても歯科口腔保健を担う人材の確保と資質の向上が明記されている。
◆地域診断に歯科専門職の労働力分析を包含し、歯科口腔保健サービスの提供状況の可視化を図るべきである。

連載 患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・2

「寄り添うってどういう意味があるんですか?」—医療者の心構えについて

著者: 清水研

ページ範囲:P.460 - P.465

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

川崎市総合リハビリテーション推進センター発 インクルーシブな社会を実現させるために地方自治体ができること・5

地域リハビリテーション支援拠点の立ち上げについて

著者: 角野孝一

ページ範囲:P.466 - P.471

本連載について
 川崎市は、神奈川県の北東部にあり、多摩川を挟んで東京都と隣接した、細長い地形をしています。1924年に人口約48,000人で誕生し、工場の誘致により工業都市として急速に発展しましたが、第二次世界大戦の空襲によって焦土化します。戦後は、京浜工業地帯の中核として再び発展を遂げますが、同時に深刻な公害と大気汚染が発生し、「公害の街 川崎」と呼ばれます。しかし、市民福祉の充実と新しい都市環境づくりへの努力を積み重ねつつ、1972年には札幌市、福岡市とともに政令指定都市となりました。現在の人口は154万人です。多様性や自由が、川崎の新しい未来への可能性につながるとして、ブランドメッセージ「Colors, Future! いろいろって、未来。」を掲げ、「最幸のまち」となることを目指しています。
 障害児者のリハビリテーションについては、後述するように、障害の種別を超えた地域リハビリテーション体制の構築に取り組んできました。2021年4月には、官民複合施設「川崎市複合福祉センターふくふく」の中に川崎市総合リハビリテーション推進センター(以下、総合リハ推進センター)を開設しました。「ふくふく」という名称は、福祉・幸福・福寿などの「福」が持つ優しい響きから付けられたものです。

映画の時間

—隕石を見つけた。草笛が吹けた。どっちも今の私に起きた、小さな奇跡。—ツユクサ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.473 - P.473

 保健所に勤務している方は思い当たるかもしれませんが、アルコール依存症の方から相談を受けたときに、地域の断酒会を紹介することがあります。本作品の冒頭は、断酒会のシーンから始まります。主人公の芙美(小林聡美)はアルコール依存症を克服しようとしているのです。
 将来は天文学者を目指している少年、航平(斎藤汰鷹)はある日、流れ星が航平の住む田舎町に落ちてくるのを目撃します。隕石となった流れ星は海沿いを走る、主人公・芙美の車を直撃します。隕石は小さかったため芙美は大きなけがをすることはありませんでしたが、車体は転倒し、走行不能になってしまいました。芙美は友人の直子(平岩紙)に助けを求めます。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.401 - P.401

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.477 - P.477

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.478 - P.478

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら