icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生86巻6号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 徹底解説! 健康の社会的決定要因(SDH)とは—コロナがもたらした貧困と格差

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.481 - P.481

社会的要因により健康を脅かされている人々
 長期化する感染症、緊迫化する世界情勢、消費者物価の上昇により、日本経済の下振れリスクが高まっています。非正規雇用者が職を失う、アルバイトが見込めず進学を諦めるなど、立場の弱い人が追い込まれ世代内格差が広がっています。経済格差など社会経済因子に加え、人種、性別、所得、教育、就労形態、家族構成、居住環境などの個人因子は、個人と集団の健康格差に関連するとされており、こうした個人または集団の健康格差をもたらす経済的、社会的状況のことを健康の社会的決定要因(social determinants of health: SDH)と言います。
 私たちは不健康、不摂生な人に対して安易に「自己責任論」を振りかざしていまいがちですが、所得や家庭環境、就労環境によって、自らの健康を維持する最低限度の条件すらむしばまれつつあるという異常事態です。一方、各自治体では、感染症の影響で生活困窮者や孤立する人への寄り添い支援が困難となっています。

コロナ禍の格差問題—雇用、所得、資産をめぐる動向

著者: 周燕飛

ページ範囲:P.482 - P.492

ポイント
◆コロナ禍による雇用被害は、女性と非正規労働者に集中している。
◆2020年の所得格差はわずかに拡大、資産格差は横ばいで推移している。
◆支援制度は充実しているが、「支援漏れ」と「サステナビリティ」の課題が残されている。

コロナ禍に伴う孤独・孤立の“パンデミック”への対応

著者: 近藤尚己

ページ範囲:P.493 - P.500

ポイント
◆孤独・孤立は、貧困やコミュニティーの環境と並ぶ重要な健康の社会的決定要因(SDH)であり、コロナ禍で顕在化した。
◆保健医療と地域福祉との連携を強め、孤独・孤立と共生できる社会システムの構築を目指すべきである。
◆「社会的処方」など、保健医療の現場で孤独・孤立を発見し、地域社会への包摂を促す取り組みの推進に期待したい。

生活困窮者の健康支援—健康状態や受診行動の実態をもとに

著者: 西岡大輔

ページ範囲:P.501 - P.507

ポイント
◆生活困窮者は、物的・経済的資源が不足しているだけでなく、社会的排除の状態にあり、表出されない複合的なニーズがある。
◆医療費に対する経済的な支援(医療扶助や無料低額診療事業)では充足できない、社会背景による健康格差が存在する。
◆複合的なニーズを抱える生活困窮者を、生活困窮評価尺度を用いて医療機関で把握し、必要な支援につなげる社会的処方が期待される。

生活困窮者の健康管理支援—墨田区の生活保護受給者健康管理支援事業

著者: 西塚至

ページ範囲:P.508 - P.516

ポイント
◆生活保護法が改正され、2021(令和3)年1月から全国の市区町村ではデータに基づき被保護者の健康支援が実施されている。
◆健診勧奨や治療中断を解消することで、被保護者の健康や生活の質の向上、医療扶助費の適正化が期待される。
◆墨田区では、保健所と福祉事務所が連携することで、効率的な健康格差の解消を目指している。

コロナ禍と子どもの貧困—子どもの支援を最優先に

著者: 渡辺由美子

ページ範囲:P.518 - P.526

ポイント
◆コロナ禍の被災者である困窮子育て家庭は、もともとの貧困家庭に経済被害が集中したといえる。
◆コロナ禍の長期化により、保護者のメンタル不調が増加し、子どもの学力低下や進路変更など格差が拡大している。
◆困窮子育て家庭がこれ以上傷つかないように、子どもへの支援を最優先に行うことが求められる。

ヤングケアラーの実態と課題—精神疾患のある親をもつ子どもを中心に

著者: 蔭山正子

ページ範囲:P.527 - P.533

ポイント
◆中高生の約4〜5%がヤングケアラーに該当しており、学業や日常生活に影響を及ぼしている。
◆ヤングケアラーであることを相談する子どもは少なく、学校の先生など周囲の大人が気付く必要がある。
◆学校と保健医療福祉の分野横断的な連携が重要であり、支援の仕組みづくりが急がれる。

格差社会のニーズに応える保健医療人材の育成

著者: 武田裕子

ページ範囲:P.534 - P.543

ポイント
◆「健康の社会的決定要因(SDH)」は、卒前医学・看護学教育の必修項目に位置付けられている。
◆「健康格差」は標準的な健康統計からの逸脱ではなく、その差に道徳的・倫理的問題があることを指す。
◆社会的公正の視点に立って行動できる保健医療人材の育成が求められる。

生理の貧困—ジェンダー視点から見たコロナ問題への対応

著者: 長島美紀

ページ範囲:P.544 - P.550

ポイント
◆新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界的に生理の貧困への関心が高まっている。
◆日本では生理の貧困を貧困対策の一環として捉える傾向にある。
◆生理の貧困は機会の貧困も含んでおり、人権尊重の観点から対策をとる必要がある。

連載 衛生行政キーワード・142

医師の働き方改革

著者: 福田亮介

ページ範囲:P.551 - P.554

はじめに
 これまでわが国は、国民が必要なときに良質な医療を安心して受けることができる医療体制を築き、維持してきた。そうした背景には、医師の長時間労働に支えられてきた側面がある。医師の健康を確保しながら、やりがいを持って働くことができる環境を整えることは、医師自身はもとより、医療の質や安全の確保の観点、良質な医療を提供する体制を維持し続ける観点から、医療を享受する国民にとっても重要かつ喫緊の課題である。
 本稿においては、2024年4月から始まる医師の時間外労働時間の上限規制などを含め、医師の働き方改革にまつわる議論や制度などについて、概説したい。

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・3

不安と向き合うための3ステップ—患者さんの不安とどう向き合うか

著者: 清水研

ページ範囲:P.555 - P.560

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

映画の時間

—名声に隠された本当の姿を描く、初のドキュメンタリー—オードリー・ヘプバーン

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.561 - P.561

 オードリー・ヘプバーンが亡くなってからまもなく30年になります。彼女のハリウッドデビュー作である『ローマの休日』が製作されたのが1953年なので、公開当時にこの映画を観られた方々もかなり高齢になられていることになります。
 筆者が映画館で初めて観たオードリーの出演作は、1964年公開の『マイ・フェア・レディ』です。当時は今のようにDVDやブルーレイはありませんから、過去に上映された作品は、名画座で探すかリバイバル上映を待つしかありませんでした。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.479 - P.479

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.565 - P.565

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.566 - P.566

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら