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雑誌目次

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公衆衛生86巻7号

2022年07月発行

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特集 災害対策・危機管理の専門家によるCOVID-19パンデミックの検証

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.569 - P.569

 2020年1月に中国武漢において発生したCOVID-19は爆発的に流行し、そのすさまじさを私たちは日々目にすることとなりました。その直後の2月1日に大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗船客に感染者がいたことが判明し、船は横浜港に停留させられました。ウイルスの性状や感染力がまだ分かっておらず、しかも治療薬やワクチンが存在していない中、想定を超える感染者の発生があり、国と神奈川県は「局地災害」として対応しています。しかし、その対応に際しては、災害に関する法制度を適用することなく、感染症法、新型インフルエンザ等対策特別措置法を適用しました。その後、感染者数の流行波は次第に大きなものとなっていきましたが、依然として特措法に基づく緊急事態宣言、まん延防止等重点措置だけで対処してきています。
 ダイヤモンド・プリンセス号から2年目の2022年1月にはオミクロン株により感染者数が一気に激増しましたが、ワクチン接種の広がりと医薬品の備え、また国民の理解と対応力の向上もあり、感染者数が著しく増加したにもかかわらず、2022年5月現在、重症者、死亡者の発生率は低く、次第に落ち着きを取り戻してきています。

感染症等の危機に対する法制度・体制の見直し

著者: 武田文男

ページ範囲:P.570 - P.579

ポイント
◆感染症のまん延は災害といえるのではないか、災害対策のノウハウを感染症対策に活用すべきではないか、について検討する。
◆感染症を含めたオールハザードを念頭に置き、わが国の危機管理対策の在り方について見直しが必要なのではないかを検討する。
◆危機管理体制を強化するには、法令や憲法の改正を含めて内閣、国会等における積極的かつ冷静な議論が求められる。

トランス・サイエンスとトランス・カルチャーを踏まえたパンデミック対策—これからの災害対策専門人材の育成と在り方

著者: 河田惠昭

ページ範囲:P.580 - P.587

ポイント
◆パンデミック対策は危機管理の観点から進める必要があり、終息後は必ず検証(after action review)を実施して次に備える。
◆医療の科学的知識だけではパンデミック対策は不可能であり、社会経済被害をいかに少なくするかという政治的配慮も必要である。
◆パンデミックはクラスターによってネットワーク的に拡大するが、社会経済構造もネットワークであるため、これら2つの「相転移」が重なって対策が困難となる。

自治体の危機管理をめぐる現状と新型コロナ対応に見る課題

著者: 牛山久仁彦

ページ範囲:P.588 - P.594

ポイント
◆地方分権改革や東日本大震災を踏まえて、自治体の危機管理が注目され、その重要性が増している。
◆危機管理政策は、住民の置かれている状況やニーズに基づいて立案・実施されるべきであり、それを担うのは自治体である。
◆集権的統制によって危機的状況が解消されるという保証はなく、国と自治体との対等で緊密な連携と適切な役割分担による危機管理体制の構築が求められる。

ネットワーク型社会のパンデミックで求められる公衆衛生関連製品やサービスの生産・流通・提供体制

著者: 渡辺研司

ページ範囲:P.596 - P.605

ポイント
◆大規模自然災害を想定して策定・運用されていたBCP、BCMは新型コロナ対応を通じて限界が露呈した。
◆サプライチェーンマネジメント(SCM)においては、運用に不可欠な人的経営資源への配慮が不足していた。
◆今後はサプライチェーンを構成する各主体の自助の積み上げによるレジリエンスの強化と、主体間の情報共有の仕組みが必須となる。

防災対策とCOVID-19パンデミックの対応

著者: 牧紀男

ページ範囲:P.606 - P.611

ポイント
◆新型感染症対策において、自然災害・原子力災害といった危機事案と同様に、継続的な訓練・見直しを実施する仕組みを構築しなくてはならない。
◆想定した事態は異なったが、原子力災害特措法同様、インフル特措法が存在したことが危機対応を行う上で有用であった。
◆COVID-19で実施された社会活動の抑制の、自然災害対策への適用可能性について検証する必要がある。

災害医療の視点から見たCOVID-19に対する公衆衛生システムの現状と課題

著者: 阿南英明

ページ範囲:P.612 - P.619

ポイント
◆災害医療のノウハウを生かしてDMATによるダイヤモンド・プリンセス号対応、さらに「神奈川モデル」による市中感染対策を実施した。
◆保健所設置市へ分権された現状は、パンデミック緊急公衆衛生対応の意思決定と対処の大きな障壁であった。
◆迅速で統制された公衆衛生対応のために国、都道府県、市町村と階層的な指揮支援体制の導入を検討する必要がある。

COVID-19報道の検証を試みる—自然災害の報道との比較から

著者: 近藤誠司

ページ範囲:P.620 - P.626

ポイント
◆COVID-19報道の検証には、高度情報社会とリスク社会の特性を踏まえる必要がある。
◆従来の自然災害の報道とは異なり、COVID-19報道は局面の同定や境界の設定に困窮していた。
◆COVID-19報道では、メディアの技法が政治や科学のショーアップにつながり、市民の不信を招いた。

COVID-19のリスクコミュニケーションの課題

著者: 奈良由美子

ページ範囲:P.628 - P.637

ポイント
◆COVID-19パンデミックは災害である。感染症災害の特性から、COVID-19パンデミックのリスコミには困難が伴う。
◆リスコミの原則を貫くことは、長期にわたる行動変容維持やワクチン接種の呼び掛けなどにおいても重要である。
◆感染症災害に対して、よりレジリエントな社会システムをつくるための対話が求められる。

〈トピックス〉

英国の健康安全保障庁(UKHSA)創設と今後の公衆衛生体制への期待

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.638 - P.644

ポイント
◆COVID-19のパンデミックに英国の公衆衛生体制は十分に対応できなかったために、新たにNHS Test and Traceを設けて対処させた。
◆2021年4月には、NHS Test and Traceを統合してUKHSAを創設した。
◆PHEが担ってきた健康格差の是正を担う体制については課題として残されている。

連載 川崎市総合リハビリテーション推進センター発 インクルーシブな社会を実現させるために地方自治体ができること・6【最終回】

—座談会—インクルーシブな社会の実現に向けて

著者: 竹島正 ,   林修一郎 ,   中澤伸

ページ範囲:P.646 - P.651

本連載について
 川崎市は、神奈川県の北東部にあり、多摩川を挟んで東京都と隣接した、細長い地形をしています。1924年に人口約48,000人で誕生し、工場の誘致により工業都市として急速に発展しましたが、第二次世界大戦の空襲によって焦土化します。戦後は、京浜工業地帯の中核として再び発展を遂げますが、同時に深刻な公害と大気汚染が発生し、「公害の街 川崎」と呼ばれます。しかし、市民福祉の充実と新しい都市環境づくりへの努力を積み重ねつつ、1972年には札幌市、福岡市とともに政令指定都市となりました。現在の人口は154万人です。多様性や自由が、川崎の新しい未来への可能性につながるとして、ブランドメッセージ「Colors, Future! いろいろって、未来。」を掲げ、「最幸のまち」となることを目指しています。
 障害児者のリハビリテーションについては、後述するように、障害の種別を超えた地域リハビリテーション体制の構築に取り組んできました。2021年4月には、官民複合施設「川崎市複合福祉センターふくふく」の中に川崎市総合リハビリテーション推進センター(以下、総合リハ推進センター)を開設しました。「ふくふく」という名称は、福祉・幸福・福寿などの「福」が持つ優しい響きから付けられたものです。

予防と臨床のはざまで

コロナ鬱からウクライナ鬱へ

著者: 福田洋

ページ範囲:P.652 - P.652

 思えばこの2年以上、新型コロナウイルスの情報に触れなかった日はなく、企業での講演や衛生委員会等でも関連の情報発信をしなかったときはありませんでした。産業医面談でも、自粛や在宅勤務によりコミュニケーションが減少しふさぎ込みがちになった、いわゆるコロナ鬱といわれるような従業員の方のお話を聞く機会もありました。国民の関心も高く、1億総コロナ専門家といってもいいような状況で、ヘルスリテラシーの観点からは正しい健康情報の取捨選択を学べる機会ともいえる状態でした。ところが、今年の2月末のロシアによるウクライナ侵攻で、状況は変わりました。多数のヘリコプターが飛んでいく映像やブチャなどの街でのロシア軍の残虐行為のニュース等で、気分が悪くなったり落ち込んだりするといった、いわばウクライナ鬱ともいえる状態の方と面談でお会いすることになりました。
 21世紀とは思えない、国家が他の主権国家を侵略するという暴挙に、言葉を失うような報道が連日続いています。すでに侵攻から3カ月が経過し、現在報道されている戦況として首都キーウや第2の都市ハルキウ近郊ではロシア軍が撤退している代わりに、東部ドンバス地区や南部の都市マリウポリは陥落の危機にあり、激戦が継続しているとのこと。私自身も毎日ネットで国際関連のニュースを見て、「ウクライナ情勢」と検索することが日課になっています。ご家庭では、食事時に父親がテレビでウクライナのニュースばかりを見る姿に、妻や家族がブーイングするという状況もあるようです。

映画の時間

—自分の足で歩く旅。—歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.653 - P.653

 ブルース・チャトウィンは、わが国ではあまり知られていませんが、海外ではかなり評価の高い作家です。1940年にイギリスで生まれ、世界的に有名なオークション会社であるサザビーズに18歳で入社、美術鑑定士として頭角を現すものの、待遇に満足できずに退社します。本作でも触れられていますが、彼は子どもの頃から考古学や先史時代に興味を持っており、エディンバラ大学で考古学を学び、サンデータイムズの契約社員になって、ジャーナリストとして活躍します。あふれる好奇心と才能に恵まれた彼は、世界中を見て歩き、1977年に小説『パタゴニア』を発表して作家としてデビューし、高い評価を受けます。その後、80年に『ウイダーの副王』、82年に『黒ヶ丘の上で』、87年に『ソングライン』、88年に『ウッツ男爵』と5作の長編小説を、89年には短編集『どうして僕はこんなところに』を発表し、同年にHIVにより他界します。
 彗星のように現れて、人生を駆け抜けたチャトウィンは、「孤高の旅人」あるいは「旅する貴公子」とも呼ばれています。多くの著名人とも親交があったようですが、その中の1人であるヴェルナー・ヘルツォーク監督が制作したドキュメンタリー『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』を今月はご紹介します。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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