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雑誌目次

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公衆衛生87巻1号

2023年01月発行

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特集 シリーズ 公衆衛生と感染症—感染症の患者に対する医療体制の課題と展望

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.3 - P.3

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、感染症法)は、前文に次のような文章が置かれています(一部抜粋)。
 「(……)医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する」

日本の医療提供体制の特徴と政策課題—COVID-19の影響を踏まえて

著者: 島崎謙治

ページ範囲:P.4 - P.13

ポイント
◆日本の医療提供体制の大きな特徴は、小規模な民間病院が多いことや病床当たりの医療スタッフが少ないことにある。
◆COVID-19のまん延は、医療資源が広く薄く分散している日本の医療提供体制の脆弱性を浮き彫りにした。
◆政策課題としては、医師の働き方改革と一体的な地域医療構想の推進、医療機関の集約・再編を促す診療報酬改定、医療計画と感染症法に基づく予防計画の整合性の確保、かかりつけ医機能の制度化が挙げられる。

地域医療計画における感染症の医療体制の位置付けと展望

著者: 佐藤大介 ,   吉村健佑

ページ範囲:P.14 - P.23

ポイント
◆第8次医療計画より「6事業目」として、「新興感染症等の感染拡大時における体制確保」が新設される。
◆新興感染症等の感染拡大時における体制確保のポイントは、都道府県が主体となり、平時から関係機関と協定を結ぶことである。
◆協定の検討事項は入院医療体制、ワクチン接種状況、医療資源量、一般診療への影響など多岐にわたる。10年先を見据えた実行可能な計画が強く求められる。

新型コロナウイルス感染者に対する地域医療の現状と課題

著者: 尾﨑治夫

ページ範囲:P.24 - P.31

ポイント
◆新型コロナウイルス感染症対策は、国レベルの感染症対策の司令塔が欠如しているため常に後手に回った。
◆マスクをいとわない、他の感染予防対策にも協力的な国民性と、都道府県行政と都道府県医師会、それに呼応する区市町村行政と地区医師会の踏ん張りで新型コロナウイルス感染症を何とか乗り切ってきた。
◆第4波以降にみられた、多くの自宅療養者の重症化予防を見守る多職種による24時間支援体制の構築が、2025年以降の地域包括ケア構築へとつながっていく。

HIV感染症患者に対する医療体制の現状と展望

著者: 白阪琢磨

ページ範囲:P.32 - P.41

ポイント
◆HIV感染症は毎日1錠の服薬を継続することでエイズ発症もなく、非感染者と同様の寿命が期待される疾患である。
◆治療で血中のHIVウイルス量を検出できないまでに抑え込み続けられ、性行為による他への感染もない。
◆エイズ診療拠点病院との連携は必要であるが、今後のHIV診療の軸足は診療所に移るべき時代が来た。免疫機能障害の自立支援医療等の複数施設での認定も必須である。

結核患者に対する医療体制の現状と展望

著者: 加藤誠也

ページ範囲:P.42 - P.48

ポイント
◆結核患者数は減少傾向が持続しており、到来する結核低まん延状況において、結核患者に対する病床および医療の質の確保が重要である。
◆高齢者や合併症を持つケースが多くなっており、医療へのアクセスを考慮しつつ、総合的診療機能を有する医療機関での結核医療を受けられるなど、患者中心の医療体制を構築することが望ましい。
◆COVID-19の経験を踏まえて地域における感染症に対する医療提供体制を検討する中で、結核に対する医療提供も再検討する必要がある。

ハンセン病療養所の現状と課題

著者: 青木美憲

ページ範囲:P.50 - P.58

ポイント
◆2度の国賠訴訟判決により、ハンセン病隔離政策の誤りと国の責任が明らかとなった。
◆入所者が亡くなられた際に、遺族が遺骨を引き取るケースは多いとは言えず、偏見差別の解消は喫緊の課題である。
◆COVID-19流行において感染者らに同様の被害が生じており、公衆衛生分野でこそ教訓が生かされる必要がある。

連載 All about 日本のワクチン・1【新連載】

風疹含有ワクチン—成人を中心に

著者: 森野紗衣子

ページ範囲:P.60 - P.64

1.当該疾患の発生動向
 風疹は、発熱、全身性の小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹を3主徴とする。感染症発生動向調査1)では2008年から5類感染症全数報告対象疾患に位置付けられ、臨床診断例、検査診断例ともに届出対象とされている。図12)に示されるように、過去10年間にも2回の大きな国内流行が見られた。2012〜2014年の風疹患者報告数は1万7千人を超え、2018〜2019年においても5千人以上となった。さらに、45人、6人の先天性風疹症候群の児の報告がなされた。近年の風疹流行では成人男性患者の報告数が多い。2019年の報告の94%は成人(年齢中央値:男性40歳、女性30歳)で、男女比は約3.6:1であった。また、風疹含有ワクチン接種歴は「接種歴なし」、「不明」がおのおの21%、70%と多くを占めた。なお、届け出時点で3主徴すべてがそろって報告されたのは51%と、必ずしも3主徴がそろわない症例も多い3)
 2020年以降2022年10月現在、新型コロナウイルス感染症の流行とその対策、人流抑制の影響を受け、国内の風疹患者報告数は少ない状況で推移しているが(2022年第1〜37週報告数10人)2)、世界では2022年になって過去2年間に比べ風疹報告数の増加が示されている4)

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・3

東日本大震災(福島県)10年間の教訓

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.66 - P.71

東日本大震災における3県の違い
 2011年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震に伴って起こった東日本大震災では、被害が甚大であった岩手県、宮城県、福島県が被災3県と呼ばれます。本誌86巻12号で、主に宮城県における東日本大震災の状況が取り上げられています1)が、本稿で改めて福島県における状況を取り上げるのは、東京電力福島第一原子力発電所における事故(原発事故)が起こったことで、宮城県における被災の状況と著しく異なっているからです。
 筆者は、発災時に現職として勤務しており、原発事故による放射能汚染に関するさまざまな情報が飛び交う中、その規模、影響の範囲は極めて大きく、福島県には住めない可能性があるという内容の報道に動揺したことも事実です。その後、公衆衛生専門家として、県民健康調査を通じた支援に従事することになりました。

予防と臨床のはざまで

さんぽ会7月月例会「健康教育DXとヘルスリテラシー」

著者: 福田洋

ページ範囲:P.72 - P.72

 このコラムでも幾度となく取り上げてきた多職種産業保健スタッフの研究会、さんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の2022年7月月例会のテーマは「健康教育DXとヘルスリテラシー」。DX(デジタルトランスフォーメーション)は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」概念のことで、2004年にエリック・ストルターマン教授(スウェーデン)により提唱されました。日本では2018年の「DX推進ガイドライン」(経済産業省)により認知が進み、さらに2020年からの新型コロナ流行によるワークスタイルの変化がDXに拍車をかけています。さんぽ会でも2019年に「専門職向け動画作成ワークショップ」、2020年に「コロナで変わる健康教育ヘルスプロモーション」をテーマに夏季セミナーを開催し、デジタルヘルスプロモーションの重要性について認識を深めてきました。
 今回の月例会では、企業における健康教育のデジタル化と今後の展望について、実例を交えながら議論を行いました。最初に菊地敬二氏(株式会社バリューHR)より「くうねるあるく+ふせぐの概要と評価」と題して、ICT(information and communication technology)、インセンティブ、ナッジを用いたWebベースのヘルスリテラシー向上・生活習慣改善プログラムを解説していただきました。分かっちゃいるけど変わらない従業員に対し、一コマ漫画入りの毎日メルマガ、面白くためになる動画コンテンツ、企業対抗ウォーキング、ごほうびカフェテリア(Amazonポイント)などの8つのコンテンツを含むプログラムを提供し、毎年1万人以上の参加者を集めています。メルマガ開封率や動画視聴率でプロセス評価を行い、ヘルスリテラシーやくう(食事)・ねる(睡眠)・あるく(運動)の各指標が改善するなど、評価にも結果が表れています。

映画の時間

—父の願いと、家族の願い。優しくも激烈な戦い。—すべてうまくいきますように

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.73 - P.73

 中年以上の方々には懐かしい名前かもしれません。フランスのスーパーアイドルであった、現在は国民的大女優であるソフィー・マルソーが主演の映画『すべてうまくいきますように』が公開されます。
 舞台はパリ。ソフィー・マルソー演ずる主人公エマニュエルの電話が鳴ります。父親のアンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中の発作で倒れたようです。

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.78 - P.78

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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