公衆衛生87巻10号

2023年10月発行

連載 日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・12

情報活用

著者： 宮川祥子¹²

所属機関： ¹慶應義塾大学看護医療学部 ²慶應義塾大学健康マネジメント研究科

ページ範囲：P.1042 - P.1048

文献概要

健康危機での意思決定と情報
　情報とは、意思決定における不確実性を減らすものである。例えば、私たちが今日傘を持っていくべきかどうか迷うとき、Webサイトやテレビなどで天気予報をチェックする。そして降水確率が低いようであれば傘を持たずに家を出る。ここでは、「傘を持っていくか持っていかないか」という意思決定をしようとしており、そこには「今日雨が降るかどうか分からない」という不確実性が存在している。その不確実性を減らすために、私たちは天気予報という「情報」を手に入れて、不確実性を減らそうと試みる。現実の世界では不確実性は決してゼロにはならないが、しかし「降水確率10%」という情報を得ることによって、「今日は傘を持たずに出掛ける」という意思決定ができるのである。
　大規模災害への対応では、今日の天気とは比べものにならないほどの多様で複雑な意思決定を求められる。自治体は、避難所を開設しなければならないが、その際には自宅を離れて避難する必要のある住民がどの程度いるかという情報を手に入れなければならない。消防・救急は、傷病者の救助に向かうためのルート、必要な機材、救出後の搬送先を決めるために、傷病者・要救助者の位置、通れるルート、現地の状況、受け入れ可能な医療機関についての情報を手に入れなければならない。そして、医療機関は傷病者を受け入れるかどうかを決定するために、インフラや設備の被害状況、スタッフの稼働状況、ベッドの空き状況などを知らなければならない。

参考文献

1）厚生労働省：EMIS（広域災害救急医療情報システム）．　https://www.wds.emis.go.jp/（2023年7月3日閲覧）

2）災害時の診療録のあり方に関する合同委員会，他：J-SPEED情報提供サイト．　https://www.j-speed.org/（2023年7月3日閲覧）

3）久保達彦：災害時診療情報管理の最前線—災害診療記録/J-SPEED．医学のあゆみ 277: 587-591, 2021

4）SID4D情報公開サイト：SID4D．　https://www.sip4d.jp/（2023年7月3日閲覧）

5）市川学：被災地情報を集約する情報システムの最前線—SIP4DとD24H．医学のあゆみ 277: 583-586, 2021

6）防災科学研究所：防災クロスビュー．　https://xview.bosai.go.jp/（2023年7月3日閲覧）

7）倉敷市保健所：平成30年7月豪雨災害　保健活動報告書．平成31年3月　https://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/44055/H30hokenjohoukoku.pdf（2023年7月3日閲覧）

8）サイボウズ株式会社：Kintone（キントーン）．　https://kintone.cybozu.co.jp/（2023年7月3日閲覧）

9）IT DART：情報支援レスキュー隊（IT DART）．　https://itdart.org/（2023年7月3日閲覧）

10）嘉山陽一，他：チャットボットを利用した災害時情報収集システムの開発．地理情報システム学会研究発表大会 28: ROMBUNNO. D-2-3, 2019

11）防災DX官民共創協議会：活動内容．　https://ppp-bosai-dx.jp/（2023年7月3日閲覧）

12）災害支援DXイニシアティブ：設立趣旨．　https://saigaidx.jp/（2023年7月3日閲覧）