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公衆衛生87巻12号

2023年12月発行

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特集 新型コロナからの教訓—モニタリング報告2023

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.1187 - P.1187

COVID-19を忘れるべからず
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、日本の社会および公衆衛生のさまざまな課題が明らかになった。今後、これら課題の解決に向けて取り組む必要があり、また、その取り組みがどの程度進捗したのかをフォローしていくことが重要である。“喉元過ぎれば熱さを忘れる”ことはよくある。例えば、2009年に発生し流行した新型インフルエンザ(A/H1N1)においても、水際対策、医療対応、リスクコミュニケーションなどの課題が挙げられた。しかし、COVID-19において、その教訓が十分に生かされたとは言い難い。
 本特集は、COVID-19で明らかになった教訓とその後の取り組みの進捗を概説することを目的とした。すでに「新型コロナウイルス感染症対策本部」や「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」などが、COVID-19のパンデミックにおける課題や今後の方向性をまとめている。今回、これら既存の報告書等をもとにしながら、各分野の実務者や研究者に、課題と教訓を整理し、アフターコロナの1年目(2023年)までの対策を取りまとめていただいた。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2023 総説—保健所、地方衛生研究所等はどう変わったか?

著者: 白井千香

ページ範囲:P.1188 - P.1193

ポイント
◆健康危機に強い地域をめざし、平時から持続可能な感染対策や地域医療連携によって、全ての医療機関が役割を果たせるよう望む。
◆「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の改定により、保健所や地方衛生研究所を技術的専門的に機能強化する体制整備について示された。
◆健康危機対応時にはBCPと職員の健康管理を重視する必要がある。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2023—①東京都

著者: 西塚至

ページ範囲:P.1194 - P.1197

ポイント
◆東京都は、相談・検査体制、医療提供体制の充実など、住民の生命と健康を守る施策を積極的に展開した。
◆保健所業務の効率化のため、都は入院調整、発熱相談、自宅療養支援を一本化し、デジタル化を推進した。
◆2023年5月8日新型コロナの5類感染症移行後も、ハイリスク層を守るため支援体制を当面継続している。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2023—②大阪府

著者: 浅田留美子

ページ範囲:P.1198 - P.1201

ポイント
◆政令・中核市を含め一元化した情報に基づき、デジタル化システムも導入したことにより、大阪府のCOVID-19対応は有効に機能した。
◆保健所業務の変化に応じた人材確保と業務の重点化では迅速な対応が求められた。
◆地方衛生研究所、医療機関等関係機関との機能的連携のためには、細やかな情報共有が重要である。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2023—③島根県

著者: 谷口栄作

ページ範囲:P.1202 - P.1205

ポイント
◆保健所および地方衛生研究所におけるより実践的なBCP、ICSの構築、さらにこれらを動かすための人材養成が必要である。
◆地域の医療機関はもちろん、市町村、高齢者福祉施設等との連携が不可欠である。
◆平時からのデジタル化の推進と収集された情報を用いてスピーディーなエビデンスの発信が重要である。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2023—④沖縄県

著者: 糸数公

ページ範囲:P.1206 - P.1209

ポイント
◆次のパンデミックに備えて感染拡大期における保健所のコア業務を整理する必要がある。
◆増大する入院患者の受け入れについては、地域の医療機関間の役割分担で対応する。
◆高齢化が進んでも簡単には崩壊しない医療・介護体制の構築が求められる。

—地域医療提供体制のモニタリング報告2023—地域医療はどう変わったか?

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.1210 - P.1217

ポイント
◆地域医療構想の論点とCOVID-19の医療ひっ迫関連の課題には共通点が多く、両者を一緒に議論して課題解決を図るべきである。
◆日本では、急性期(集中治療)医療の集約化や医療機関の役割分担が不十分で、在宅療養支援体制の地域格差が大きいことが課題である。
◆2023年時点での課題解決の進捗は不十分であり、地域医療構想や改正感染症法に基づく取り組みを加速させるべきである。

—感染症法等の法的課題のモニタリング報告2023—感染症を予防する法律は整備されたか?

著者: 坂元昇

ページ範囲:P.1218 - P.1225

ポイント
◆新型コロナウイルスの感染状況に合わせた感染症法と新型インフルエンザ等特措法等の強化から緩和へと漸次改正が行われた。
◆新型コロナウイルスの感染状況に合わせた経済対策も含めた広範囲な分野に及ぶ関連法制の改正や弾力的運用が積極的に行われた。
◆新型コロナウイルス感染症流行からの教訓に基づいた、医療体制の確保等を中心とした感染症法等の改正や内閣感染症危機管理統括庁が整備された。

—感染症の司令塔のモニタリング報告2023—日本版CDC等はどうなったか?

著者: 齋藤智也

ページ範囲:P.1226 - P.1231

ポイント
◆COVID-19パンデミックは、わが国の感染症対策のガバナンスについて再考を促す機会となった。
◆感染症対策の司令塔として内閣感染症危機管理庁が設置され、厚生労働省でも感染症対策部の設置を含む組織改正が実施された。
◆感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織として、国立健康危機管理機構が設置される。

—人材育成のモニタリング報告2023—人材育成・確保はどうなったか?

著者: 角野文彦

ページ範囲:P.1232 - P.1237

ポイント
◆サージキャパシティーと専門家の確保により、有事において適切に対策を進めることが、危機管理対応における人材育成の目的である。
◆地域保健法において、国、都道府県等にはIHEAT要員への研修等の支援を行う責務が規定されたことにより、保健所におけるサージキャパシティーの確保が期待されている。
◆自治体内の専門家を中心として、研修や日常的な相談ができる体制を構築し、保健所等職員の人材育成を行うことが理想的であり、専門家が機能する環境を用意することが重要である。

—デジタル化のモニタリング報告2023—北九州市保健所におけるCOVID-19対応に係るDX推進

著者: 上田紘嗣 ,   古賀佐代子

ページ範囲:P.1238 - P.1243

ポイント
◆DX推進に向けたトップの強いコミットメントおよび優先順位のマネジメントが欠かせない。
◆DX推進部門による伴走支援が重要である。
◆DXはツール活用と親和性が高い。

—リスクコミュニケーションのモニタリング報告2023—リスクコミュニケーションは進んだか?

著者: 加藤美生

ページ範囲:P.1244 - P.1249

ポイント
◆多様なステークホルダーが短期間で情報発信し、インフォデミックが起きた。
◆緊急時にはリスクについて説明し、ステークホルダーの意思決定をエンパワメントする。
◆緊急事態対応者はリスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメントを通して信頼される存在になる。

—ワクチン開発のモニタリング報告2023—日本の新型コロナワクチンの開発は進んだか?

著者: 若林真美 ,   磯博康

ページ範囲:P.1250 - P.1256

ポイント
◆ワクチン開発や承認、国内生産が欧米に比べ大幅に遅れたことを教訓として、さまざまな政策が施行された。
◆長期的な国家の安全保障を視野に入れた産官連携によるワクチン産業振興が必要である。
◆国際的に行われているワクチン開発・生産支援の枠組み等への日本企業の参画が期待される。

連載 衛生行政キーワード・151

こども家庭庁設立と母子保健

著者: 吉川裕貴

ページ範囲:P.1258 - P.1261

こども家庭庁設立
 2023年4月、新たな行政機関として、こども家庭庁が設立された。「こども」の名を冠する初めての中央省庁であり、新しい省庁が作られるのは、2021年9月のデジタル庁以来である。「こどもまんなか社会の実現」に向けたこども政策の司令塔として設置されたこども家庭庁は、総理直属の機関であり、他省庁に対する勧告権を有している。こども家庭庁は、もともと厚生労働省、文部科学省、内閣府が担っていたこどもの福祉・保健などに関する事務を担うこととなるが、このうち医療との関わりが特に深い分野としては、例えば母子保健や妊産婦支援、こどもの安全や障害児支援などが挙げられる(図1)。一方で、幼児教育や学校教育は文部科学省、周産期医療やこどもの医療は厚生労働省が、引き続き担うこととなる。このため、こども政策を推進していくためには、こども家庭庁と関係省庁との連携が重要となる。
 本稿においては、現在注目を浴びているこども政策のうち、母子保健の最近のトピックスについて概説したい。

All about 日本のワクチン・12

ヒブ(Hib)ワクチン

著者: 菅秀

ページ範囲:P.1262 - P.1265

1.当該疾患の発生動向
 インフルエンザ菌Haemophilus influenzaeはインフルエンザ様疾患の患者喀痰から分離されたグラム陰性桿菌である。インフルエンザ菌には、莢膜を有する型と莢膜を有さない型(non typable H. influenzae: NTHi)がある。莢膜は最も重要な病原因子の一つであり、その主要成分の多糖体はa〜fの6種類の血清型に分類される。インフルエンザ菌は、時に粘膜バリアーを超えて血液内に侵入し、血液、髄液などの通常は無菌である部位より菌が検出される髄膜炎、菌血症、敗血症、血液培養陽性肺炎、関節炎などの深部感染症を引き起こすことがあり、これらは侵襲性インフルエンザ菌感染症(invasive H. influenzae disease: IHD)と呼ばれている。とりわけ莢膜型b型(H. influenzae type b: Hib)はIHDの80%以上の起炎菌であり1)、ワクチン導入前には、世界的に見て乳幼児細菌性髄膜炎の起炎菌の中で最も頻度の高い細菌であった。わが国の疫学調査によると、2008〜2010年の5歳未満小児人口10万人当たりのIHD罹患率は11.4〜12.5であり、致命率は1.1%で5.3%に後遺症を認めたと報告されている2)。莢膜多糖体抗原は、T細胞非依存性抗原であるため、免疫系の未熟な小児では免疫応答が引き起こされにくいことが、重症化の一因であると考えられている。したがってワクチンにより免疫を獲得して感染を予防することが重要である。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・7

子どもと歯科衛生の近代・1—昭和初期における学校歯科医の取り組み

著者: 宝月理恵

ページ範囲:P.1266 - P.1269

はじめに
 今号からは歯科衛生(口腔衛生)を事例として、昭和初期における公衆衛生の歴史の一端を紹介していきたい。ここで主題とするのは、子ども、特に児童にとっての歯科、とりわけ学校歯科である。学校歯科の歴史には、専門家、一般の人々(子どもとその家族)、モノ(歯ブラシや歯磨き粉)、環境を含めた公衆衛生の成り立ち、あるいは限界までもが明瞭に表れており、本連載のトピックとして興味深い事例となるのではないだろうか。
 人間は生まれたときには歯はないが、乳歯が生え始める頃から生えそろう頃にかけて、自治体の「乳幼児健康診査」や「就学時(就学前)健康診断」で歯の健康診断を受ける機会がある。これが、乳幼児が歯科医と接する最初の機会である場合も多いだろう。そして小学校に上がると学校歯科検診を毎年受診することになる。学校歯科検診は「学校保健安全法(旧学校保健法)」で規定されている児童生徒の健康診断であり、これを担うのが学校歯科医である。今号ではこの学校歯科医の成り立ちとその実例を紹介したい。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第六編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.1270 - P.1274

ロンドンスクールで公衆衛生を学ぶ(後編)
——2年目の研究プロジェクト
 社会医学コース2年目は各自に研究プロジェクトが課されたので、そのテーマの可能性を祈りつつ模索していたが、道は開かれなかった。1年目の終わりに近づいたある日、担当の講師から呼び出された。「ロンドンのブレント区の結核に関する分析をしないか」と言うのである。移民が多いブレント区では、最近結核患者が増加している。その実態分析や対策のための研究を学校に依頼してきたという。思いもかけなかったテーマであった。しかも、先方が希望するのであるから、研究はやりやすくなるだろう。ぜひやります、と返事し、区の衛生部長に会いに行った。彼は、区の結核対策のために必要な基礎資料を作ってほしいと言う。早速その準備に取り掛かった。私は、神が私の祈りに応え、自分にふさわしいテーマを与えられたのだから、道が備えられると確信した。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・9

ペットをめぐる冒険

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.1276 - P.1286

十一月二日 月曜日 犬の日(ワンワンワン)の翌日 晴れ
 その日、真歩は、珍しく午後の予定が何も入っていないことに気付いた。
「これはちょっと、いい感じかも。」

映画の時間

—たったひとりの言葉が世の中の声を変えていく—ぼくは君たちを憎まないことにした

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1275 - P.1275

 身近な人の死は激しい悲嘆をもたらします。それが突然であれば、なおさら悲嘆は深いものになるでしょう。今月はテロによって最愛の妻を失った主人公の心の軌跡を描いた映画をご紹介します。
 2015年のパリ、作家である主人公アントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)は、ヘアメイクアーティストの妻エレーヌ(カメリア・ジョルダーナ)と、1歳半を過ぎたばかりの息子のメルヴィル(ゾーエ・イオリオ)と、3人で幸せな生活を送っています。11月13日の金曜日、その日も仕事に出掛ける妻を見送り、むずかる息子を保育園に預けて、新作の執筆に取り掛かります。仕事から帰ったエレーヌは、友人とイーグルス・オブ・デス・メタルのライブを観にバタクラン劇場に出掛けて行きます。息子のメルヴィルを寝かしつけ、のんびりと読書するアントワーヌに兄のアレックス、エレーヌの姉アニーから緊急のメッセージが送られてきます。テレビをつけたアントワーヌの目に入ったのは、サッカースタジアム周辺とバタクラン劇場で起こった同時多発テロのニュースでした。

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ページ範囲:P.1185 - P.1185

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.1290 - P.1290

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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