icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生87巻2号

2023年02月発行

雑誌目次

特集 シリーズ 公衆衛生と感染症—感染症に対する医薬品開発と医療の最前線

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.81 - P.81

 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の流行は、感染症の医療体制とワクチンや医薬品の重要性を認識させてくれました。2号連続企画「シリーズ 公衆衛生と感染症」の第1回目、前号は病院を中心とする医療体制に焦点を当てましたが、本号では医薬品開発と治療医学の最前線をテーマに取り上げました。
 近代医学の歴史は、感染症に対するワクチンと医薬品の開発であったということができます。戦後、細菌に対する化学薬や抗生物質の登場により感染症に対処できるようになりましたが、ウイルスに対する医薬品の開発は最近のことです。近年の分子生物学、生命科学、ゲノム医学の進展によりインフルエンザやエイズ、ウイルス性肝炎の治療のために、ウイルスの細胞侵入や増殖の過程の解明が進められ、その過程を阻害・阻止する多種多様の医薬品が開発され実用化されてきていました。COVID-19に対する医薬品(ワクチンを含む)が早期に開発、実用化できたのはこの蓄積があったからといえます。

HIV、結核に対するワクチンの開発の最前線

著者: 岡村智崇 ,   保富康宏

ページ範囲:P.82 - P.90

ポイント
◆HIVおよび結核の新規ワクチンは、15〜20臨床試験に進んでいる。
◆アジュバント発現弱毒エイズワクチンは、強毒株エイズウイルスを防御する。
◆HPIV2結核ワクチンや組み換えBCGワクチンは、結核菌に対し防御効果を示す。

医薬品の開発と承認制度の国際比較

著者: 永井純正

ページ範囲:P.91 - P.101

ポイント
◆日本の医薬品においては、平時に探索的臨床試験成績を基に承認可能な制度として「条件付き早期承認制度」と「条件及び期限付き承認制度」が、公衆衛生上の緊急時のみに適用される制度として「特例承認」と「緊急承認」がある。
◆米国では、平時に探索的臨床試験成績を基に承認可能な制度として「迅速承認制度」がある。公衆衛生上の緊急時のみに適用される制度として「緊急使用許可」があるが、これは正式な製造販売承認ではなく一時的な使用許可である。
◆欧州における中央審査では、平時に探索的臨床試験成績を基に承認可能な制度として「条件付き承認制度」があり、公衆衛生上の緊急時にも同制度が適用されている。

COVID-19の治療

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.102 - P.107

ポイント
◆中等症Ⅱ以上の例に対してはレムデシビルとデキサメサゾン、バリシチニブ、トシリズマブなどの免疫調整薬の併用が標準療法である。
◆中等症Ⅰまでのハイリスク例の悪化を防ぐために抗体療法が使われている。
◆中等症Ⅰまでのハイリスク例の悪化を防ぐためにモルヌピラビル、ニリマトレルビル/リトナビルが使われる。

HIVに対する医薬品の開発と実用化の最前線

著者: 山本浩之

ページ範囲:P.108 - P.115

ポイント
◆HIV感染の各ステップを標的とした多剤併用療法(cART)は有効であり、新薬開発とレジメン改良が常時進んでいる。
◆曝露前予防内服(PrEP)のHIV予防効果は高く、それをさらに容易にする長時間作用型治療薬も近年上市された。
◆HIVのウイルス学的・免疫学的理解の進展を踏まえた、他のウイルスに対するものと異なる制御法も探求されている。

肝炎ウイルスに対する医薬品の開発と治療の最前線

著者: 嘉数英二 ,   考藤達哉

ページ範囲:P.116 - P.122

ポイント
◆近年の抗ウイルス療法の進歩により、肝炎ウイルスによる肝がんの死亡数は減少傾向にある。
◆B型慢性肝炎に対する治療目標は、ペグ・インターフェロンと核酸アナログ製剤を適切に使用し、肝炎の活動性を低下させ、肝硬変への進展と肝発がんを抑制することである。
◆C型慢性肝炎・肝硬変に対する標準治療は、直接作用型抗ウイルス薬によるインターフェロンフリー治療となり、実臨床でのHCV排除率は95%以上である。

インフルエンザに対する医薬品の最前線

著者: 石田直

ページ範囲:P.123 - P.129

ポイント
◆抗インフルエンザ薬は、発症早期に使用すれば、インフルエンザの罹病期間短縮と重症化の抑制が期待できる。
◆インフルエンザの重症度と患者背景により、抗インフルエンザ薬を使い分ける。
◆予防の基本はワクチン接種であり、効果は不定な場合もあるが、リスクの高い人を中心に接種が推奨される。

結核に対する医薬品の開発と使用の最前線

著者: 露口一成

ページ範囲:P.130 - P.138

ポイント
◆現在の結核対策における問題は、難治性である多剤耐性結核の治療である。
◆ベダキリン、デラマニドなどの新規薬剤や、リネゾリド、フルオロキノロンなど既存薬の活用により多剤耐性結核の治療成績は向上している。
◆全ての結核症例に対し、感受性を踏まえた適切な多剤併用療法により治癒に導くことが重要である。

感染症に対する医薬品の適正・効果的な使用の考え方の最前線

著者: 四柳宏

ページ範囲:P.139 - P.145

ポイント
◆薬剤耐性菌感染症は世界的に大きな問題になりつつある。
◆多剤耐性菌による感染症を減らすためには抗菌薬の適正使用が最も大切である。
◆WHO、国、学会、企業などさまざまなステークホルダーが協力して多剤耐性菌を制御することが大切である。

連載 衛生行政キーワード・146

専門医制度の最近の動向

著者: 野口裕輔

ページ範囲:P.147 - P.149

専門医制度の概要
日本専門医機構の設立まで
 はじめに、わが国の専門医制度の歴史および日本専門医機構設立の経緯について簡単に紹介する。
 わが国の専門医制度は、1962年に日本麻酔科指導医制度が発足したことに始まり、その後続いて複数の学会が専門医制度を創設した。その後、1981年には日本医学会加盟の22学会が集まり、「学会認定医制協議会」による協議が開始し、2001年には「専門医認定協議会」に改組された。2003年には「日本専門医認定制機構」、2008年には「日本専門医制評価・認定機構」へと改組を繰り返し、加盟学会も増加していった1)

All about 日本のワクチン・2

麻疹ワクチン—成人を中心に

著者: 中村(内山)ふくみ

ページ範囲:P.150 - P.153

1.当該疾患の発生動向
 麻疹は麻疹ウイルスによる全身感染症である。高熱、倦怠感で発症し、咳、咽頭痛、結膜炎などのカタル症状に引き続き発疹が出現する1)。肺炎、中耳炎、クループなどを合併することが多く、回復期に発症する麻疹脳炎は肺炎とともに麻疹の2大死因と呼ばれている。麻疹は空気感染、飛沫感染、接触感染のいずれの経路でも感染する極めて感染力の強い感染症であるがワクチンで予防可能である。
 国内の麻疹発生動向を図12)に示す。2006年から開始されたワクチン定期接種率向上のための対策や未免疫者に対する免疫付与、麻疹患者発生時の迅速な積極的疫学調査と感染拡大防止対策によって、2015年3月に麻疹排除状態にあることを世界保健機関西太平洋事務局から認定された3)。排除認定後は輸入例や、輸入例を発端とし周囲の感受性者を巻き込んだ集団発生例が散発していた。2019年の麻疹患者報告数は排除認定後最多の744人に上った。しかしCOVID-19の流行による水際対策で国際的な人の往来が激減するとともに国内の麻疹患者報告数も低下した4)。2020年は10例、2021年は6例、2022年は11月8日までで6例の報告にとどまっている2)

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・4

保健所における多職種と連携した災害時保健医療福祉活動—熊本地震と令和2年7月豪雨災害

著者: 服部希世子

ページ範囲:P.154 - P.159

はじめに
 災害時における保健医療福祉行政の役割は、防ぎ得た死と二次健康被害の最小化である。避難生活に伴う健康課題は、深部静脈血栓症、慢性疾患の悪化、生活不活発病、感染症、栄養不足、口腔衛生、メンタルヘルスなど多岐にわたる1)。被災者が抱える健康課題は、保健・医療・福祉分野と広くまたがっており、分野横断的な支援体制が必要となる。保健・医療・福祉が連携して活動するためには、保健医療福祉ニーズ等の情報収集および分析・評価に基づく支援チームの総合調整(マネジメント)が重要である。
 地方自治体である都道府県および市町村には、災害から住民の生命や身体および財産を保護する「責務」があり、その責務を果たすため関係機関などに必要な調整や指示を行う「権限」を有する、と災害対策基本法はうたっている2)。阪神・淡路大震災以降、国は災害時の医療だけでなく被災者の健康管理活動の実施についても、災害現場に最も近いところの保健医療行政機関である保健所において、情報収集や分析評価、支援チームの配置調整等のコーディネート体制を整備するよう、繰り返し通知を発出してきた3)4)。これら通知に基づき、熊本県では保健所長を室長とする「医療救護現地対策室」を地域の災害医療コーディネーター、医師会等から構成される地域災害医療コーディネートチームが支援する体制の構築に取り組んでいた。その最中の2016年に熊本地震が起こった。熊本地震では、熊本市・宇城・上益城・菊池・阿蘇の5保健所圏域にまたがり甚大な被害が発生し、多くの支援チームの応援を必要とした。当時、筆者は阿蘇保健所長として支援チームとともに被災者支援に取り組んだ。本稿ではそのときの活動や課題について、1)保健所における本部の立ち上げと多職種連携、2)県庁・保健所・市町村による3層の連携、3)情報収集・分析評価の課題、に分け、一部、令和2年7月豪雨災害時の対応と比較し考察する。

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・7

怒りへの対応・2—やり場のない怒りが医療者にぶつけられたとき

著者: 清水研

ページ範囲:P.160 - P.167

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

映画の時間

—巨匠チャン・イーモウが初めて挑む〈予測不能〉スパイ・サスペンス—崖上のスパイ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.168 - P.168

 1987年に『紅いコーリャン』で監督デビューし、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞という鮮烈な印象を残したチャン・イーモウ監督もすでに古希を過ぎておられますが、今回は彼が新たな分野に挑戦した作品をご紹介しましょう。
 舞台は1934年の満州国、ハルビン。満州国は日本のかいらい政権ですが、その満州国政府の特務機関が銃殺刑を執行する場面から映画が始まります。順次処刑が進む中、最後に残された被疑者は銃殺の恐怖に耐えきれず、ソ連で訓練を受けた中国共産党の工作員がハルビンに侵入する計画を自白してしまいます。そしてその4人が雪深い森の中にパラシュートで降下してくる場面に変わります。侵入計画が露見している中で、スパイの4人がハルビンに向かうというサスペンス。ベテランのチャン・イーモウならではの緊迫した演出に観客は引き込まれていきます。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.79 - P.79

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.171 - P.171

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.172 - P.172

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら