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雑誌目次

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公衆衛生87巻4号

2023年04月発行

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特集 医療的ケア児の地域生活支援と地方自治体の役割—医療的ケア児どう支えるか

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 西塚至

ページ範囲:P.269 - P.269

インクルーシブな社会の実現を
 「医療的ケア児」は、全国に2万人以上いると推計され、この10年余りで2倍に増加しました。背景には、医療の進歩によって、難病を抱えて生まれても助かる命が増えたことがあると指摘されています。一方、こうした現状に医療、福祉、教育の制度が追い付いておらず、その結果、親が子育てを全て抱え込む状況が続いています。
 こうした「医療的ケア児」やその家族を支援しようと国会が動き、2021年6月11日の参議院本会議で「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、医療的ケア児支援法)が可決成立。同年9月18日に施行されました。

—【特別寄稿】—医療的ケア児支援法

著者: 自見はなこ

ページ範囲:P.270 - P.276

ポイント
◆医療的ケア児支援法の成立により、国・地方公共団体の責務の明確化や、家族の相談支援体制充実など大きな進展がみられた。
◆医療的ケア児の支援には、医療・療育・教育・福祉が連携し、一体として対応していくことが求められる。
◆2023年4月に新設される「こども家庭庁」でも障害児支援を所管することとなる。切れ目ない支援をより一層充実させて参りたい。

医療的ケア児の地域生活支援と地方自治体の役割—医療・保健・福祉・教育等による総合的な施策展開に向けて

著者: 田中真衣

ページ範囲:P.277 - P.284

ポイント
◆地域において医療的ケア児支援体制を構築するためには、医療・保健・福祉・教育等の関係機関の協働が必要である。
◆安心して子どもを産み、育てることができる社会の実現に向けて、医療的ケア児支援体制整備を行っていく。
◆地域関係者の協議の場の設定と、医療的ケア児等コーディネーターの配置が支援体制作りのポイントとなる。

医療的ケア児に対する小児在宅医療の現状と将来像

著者: 前田浩利

ページ範囲:P.285 - P.292

ポイント
◆医療的ケア児とは、日常的に人工呼吸器などの医療的ケアを必要とする児童で、現在、全国で約2万人いる。
◆医療的ケアが必要にもかかわらず、2016年まで法的には障害とされず、医療的ケア児の地域での支援は遅れた。
◆医療的ケア児支援法の成立によって、医療的ケア児支援は急速に進み、2023年度からこども家庭庁の管轄になる。

地域における医療的ケア児の支援体制—豊中市の先進的取り組み

著者: 松岡太郎

ページ範囲:P.293 - P.300

ポイント
◆病院では、地域の中核病院小児科の果たすべき役割を意識しながら、医療的ケア児の診療体制の構築に努めました。
◆保健所では、「災害対応」をキーワードに、医療的ケア児やそのご家族と保健所との関わりを深めています。
◆地域の医療機関と保健所が連携しながら、「物心がついた頃から、周りに普通に医療的ケアが必要な人がいる社会」を目指したいと思います。

医療的ケア児と家族を支えるインクルーシブ社会を目指して

著者: 内多勝康

ページ範囲:P.301 - P.307

ポイント
◆医療の進歩を背景に医療的ケア児はこの10年で2倍に増加し、全国に約2万人にいると推計されている。
◆重い病気や障害のある子どもを受け入れる医療型短期入所事業所が、全国的に充足していない。
◆2021年施行された医療的ケア児支援法で、医療的ケア児と家族の支援が国と地方公共団体の責務と規定された。

地域とともに生み出す「新しいあたりまえ」—医療的ケア児・家族の笑顔のために

著者: 藤井優美

ページ範囲:P.308 - P.314

ポイント
◆医療的ケア児とその家族は、日々の生活、子どもの保育や学校、家族の就労などさまざまな課題とともに生活をしている。
◆認定NPO法人フローレンスは、事業を生み出し目の前の家族を支援すると同時に、当事者の声を自治体や国に訴え社会の仕組みを変えることに取り組んでいる。
◆医療的ケア児とその家族の「新しいあたりまえ」は、自治体をはじめとする地域のつながりや連携の中で生まれていく。

地域を支える医療的ケア児の歯科医療ネットワーク

著者: 小方清和

ページ範囲:P.315 - P.323

ポイント
◆医療的ケア児に対し早期に歯科受診を推進することは、歯科疾患の発症予防や早期対応が可能となり、重症化を防ぐ。
◆医療的ケア児の歯科医療は、地域の歯科医院と後方支援病院とがネットワークを構築し行う。
◆医療的ケア児への歯科訪問診療は、症状が生じたときに往診をするのではなく、定期的に訪問し、将来起こりうる歯科的トラブルに備え、準備する。

医療的ケア児の教育上の課題

著者: 下山直人

ページ範囲:P.324 - P.330

ポイント
◆学校における医療的ケアの取り組みでは、医療安全の確保、組織的対応、教育の追求が重視されてきた。
◆全国の学校には、およそ1万人の医療的ケア児が在籍し、4,600人の看護職員がケアに当たっている。
◆適切な教育の場で医療的ケアを提供すること、看護職員の確保とそのマネジメント等が今後の課題である。

特別企画

—『公衆衛生の緊急事態にまちの医療者が知っておきたいリスクコミュニケーション』刊行記念座談会—今、求められるリスクコミュニケーションとは?

著者: 齋藤智也 ,   鈴木敦秋 ,   蝦名玲子

ページ範囲:P.332 - P.340

2022年10月、『公衆衛生の緊急事態にまちの医療者が知っておきたいリスクコミュニケーション』(蝦名玲子・著)が刊行された。本誌連載「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション」に大幅な増補・加筆を加えた、リスクコミュニケーションの教科書である。本書刊行を記念して座談会を行い、COVID-19に関わってきた3者に、それぞれの立場から今求められるリスクコミュニケーションについて議論していただいた。

連載 衛生行政キーワード・147

ICD-11国内導入に向けて

著者: 堤雅宣

ページ範囲:P.341 - P.344

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization: WHO)は2022年1月にICD-11を発効し、同年2月には発効後初めてのICD-11 for Mortality and Morbidity Statisticsを公開した。現行のICD-10は、これまで数次の改訂を経て20年以上、DPC/PDPS(diagnosis procedure combination/per-diem payment system)での診療報酬請求をはじめ広く国内で活用されてきた。厚生労働省は現在、各関係者の協力の下、ICD-11に準拠した統計基準「疾病、傷害及び死因の分類」を作成するため、さまざまな準備を進めてきている。
 ICD(ICDコード)は、国内外を問わずあらゆる医療データベースにおいて、病名情報として用いられており、その目的通り、共通言語としての役割を果たしている。国内においても、データを活用した政策立案の必要性がますます高まっている厚労行政とICDは切っても切れない関係にある。筆者も厚労省では過去に診療報酬・DPC/PDPSを担当し、ICD-10の2013年版への置き換えに対応したことがあり、統計基準の改訂に伴うデータの変化をリアルタイムで経験した。筆者は、ICD-11が発効された2022年1月に国際分類情報管理室長(通称、ICD室長)であったが、現在はICD室から離れており、その上での私見を交えた記述であるため、この文章については厚生労働省はじめ関係組織の公式な見解とは必ずしも一致しない場合があることを申し添える。

保健行政のためのデータサイエンス・2

つくば市における筑波大学と協働したデータ活用の取り組み—ニーズ調査から在宅医療・介護連携推進事業との連動まで

著者: 黒田直明

ページ範囲:P.346 - P.350

はじめに
 保健福祉データの施策への活用が期待されているが、現場ではまだ多くのハードルがある。筆者は精神科臨床医となった後に公衆衛生大学院で海外の事例を学び、2019年から市町村の保健福祉部の職員として勤務し、研究者との協働、人材育成、国際的に通用する地域に密着した研究を行うべく内部からデータ活用の推進に取り組んでいる1)。本稿では市町村という住民に近い立場を生かしたデータ活用と研究者との連携について述べたい。

All about 日本のワクチン・4

肺炎球菌ワクチン—成人を中心に

著者: 永井英明

ページ範囲:P.351 - P.355

1.当該疾患の発生動向
 2021年10月のわが国の65歳以上の人口割合は28.9%となり1)、超高齢社会の範囲に入り、高齢者における総医療費の高騰が問題になっている。したがって、高齢者における疾患の予防は喫緊の課題である。中でも肺炎に罹患する高齢者は増加しており、2011年には肺炎が死亡原因の第3位となり(2021年は5位、最近2年間の減少はコロナ禍における感染対策の効果と考えられる)(図1)2)、肺炎死亡の95%以上は高齢者である。市中肺炎の原因菌の3分の1を肺炎球菌が占めている。この肺炎球菌に対するワクチンが使用可能であり、ワクチンの接種率を上げて肺炎球菌性肺炎の予防を目指すことは医療政策上極めて重要である。

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・6

災害時の保健師活動の歴史と実績

著者: 奥田博子

ページ範囲:P.356 - P.361

はじめに
 1995年1月17日未明、都市部を襲った直下型地震である阪神・淡路大震災は、災害時の地域保健対策に保健師が第一線で活躍することが広く認知され、災害時の役割の整理や体系化の契機となった。多くの国民に衝撃を与えた災害から、四半世紀以上の年月が経過する間、毎年のように甚大な被害をもたらす災害が発生し関連法制度等も目まぐるしく変化してきている(表1)。本稿では、阪神・淡路大震災を起点とした災害時の保健師の活動に関連する変遷について概観する。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・1【新連載】

どこから行っても遠い保健所

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.364 - P.374

二〇一五年三月二七日金曜日、晴天。
 通勤途中にある新宿区立西戸山公園の桜は、年に一度の晴れ姿を見せようとほころび始めていたが、東京都健康安全研究センター(1)の職員はそれに気付く余裕もなく、朝から皆そわそわしていて、仕事が手に付かない者もいた。多分今日が異動人事の内示の日(2)だとうわさされていたからである。この職場に着任して一年目の真歩は、異動なんて他人事だと高をくくり、自席のパソコンで二つのモニターを駆使しながら、感染症週報のデータチェックをしつつ、ウェブ会議の準備をしていた。
「橘先生、部長が呼んでます。」
 田原さんが、真歩を呼びに来た。

映画の時間

—生きる。今までも、これからも。—飯舘村 べこやの母ちゃん—それぞれの選択

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.363 - P.363

 この3月で東日本大震災から12年になります。発災時の公衆衛生活動については、かつて本誌でも特集が組まれておりますので参考にしてください(75巻12号;2011年12月号)。今月は震災後の福島第一原子力発電所の事故後の状況を描いたドキュメンタリーをご紹介します。
 福島県相馬郡飯舘村は豊かな自然に恵まれ、かつてはブランド牛の生産地としても有名で酪農も盛んでした。震災による直接的被害は比較的少なかったものの、原子力発電所の爆発事故により放出された放射性物質を含むクラウドが北西方向に流れ、折からの雨や雪により放射性物質が飯舘村の大地を汚染することになりました。放射能汚染が懸念された牛乳の出荷は停止され、牛の移動も禁止されました。汚染により環境中の放射線量が高かったこともあり、2011年4月には全村避難が決定されました。2017年3月には高い線量が持続する帰還困難区域を除く地域で避難指示が解除されたものの、2022年12月において村に戻った住民は約2割にとどまっている状況です。

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奥付 フリーアクセス

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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