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雑誌目次

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公衆衛生87巻5号

2023年05月発行

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特集 これからの結核対策—ポストCOVID-19における結核低まん延下の結核対策を考える

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 大角晃弘

ページ範囲:P.381 - P.381

結核低まん延下だからこそ必要な結核対策の強化
 日本は、全国の結核患者登録情報収集を開始して以降、初めて2021年に人口10万対の年間結核登録患者数が10未満(9.2人)となり、結核低まん延国に仲間入りしました。近年の年間結核登録患者数(人口10万対)は、2019年は11.5人、2020年は10.1人、そして2021年の9.2人、と急激な減少傾向が続いています。これには、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行による有症状患者の受診控えや、接触者健診実施が困難となったことによる患者発見数の減少の影響が少なからずあったことが推定されていますが、2022年の結核登録患者数は増加に転じていることはないようです(本稿執筆中の2023年3月現在)。
 わが国の結核患者は、結核医療の提供のみならず、社会福祉を含めたさまざまな側面での支援が必要な高齢者・社会経済的困難層・外国生まれの人々等の割合が増加しており、今後もその傾向が続くと考えられます。そのため、結核登録患者数のリバウンドが起こらないように減少傾向を継続させ、また減少速度を加速させるためには、種々の方策を包括的に実施しなければなりません。

最近の世界の結核と日本の結核疫学—End TB Strategyと日本の結核低まん延化

著者: 内村和広

ページ範囲:P.382 - P.393

ポイント
◆新型コロナウイルス感染症の流行により世界的な結核の状況は悪化しており、End TB Strategyの目標達成の遅れが懸念される。
◆日本は結核低まん延の水準となったが、欧米などの結核低まん延国とは外国出生患者や高齢者患者などで疫学像を異としている。
◆結核低まん延から結核制圧のためには、ローカルデータの有効活用による地域の疫学状況に合わせた対策が必要となる。

低まん延状況における結核対策の方向性

著者: 加藤誠也

ページ範囲:P.394 - P.400

ポイント
◆欧米の多くの先進国が経験したような罹患率の逆転上昇を起こすことがないように、低まん延状況に応じた対策を着実に実行するため、人員・体制・予算を確保する必要がある。
◆高齢者および外国出生者などのハイリスクグループに対する患者発見・発病予防・医療支援を強化する。
◆罹患率の低下を加速化させるために、革新的な技術の研究・開発および導入を推進する。

最近の結核菌の診断技術

著者: 髙木明子 ,   御手洗聡

ページ範囲:P.401 - P.409

ポイント
◆結核菌検査を安全かつ簡便に迅速化するため、さまざまな核酸増幅法を用いた検査キットが開発され診療に用いられている。
◆結核菌検出と同時に、リファンピシンやイソニアジドの薬剤耐性遺伝子変異を検出する体外診断用医薬品も発売されている。
◆耐性結核が疑われる症例は、積極的に遺伝子検査で薬剤耐性予測を行い、早期に適切な治療薬を選択することが望まれる。

移民・外国出生者の結核対策—保健医療システムの内外で取り組む必要性

著者: 李祥任

ページ範囲:P.410 - P.417

ポイント
◆移民・外国出生者の結核対策には、日本入国前・日本滞在中・結核治療中の日本出国時にわたる全ての移住プロセスを通して、かつ国境をまたぐ取り組みが必要である。
◆保健医療システムの内外で、かつ社会レベルで取り組む必要がある。
◆移民コミュニティーと共に結核対策に取り組む必要がある。

高齢者結核対策

著者: 小宮幸作

ページ範囲:P.418 - P.425

ポイント
◆わが国の高齢者結核のほとんどは、過去に感染したものの当時は発症せず、内因性に活性化する二次結核を特徴とする。
◆高齢者における市中肺炎と肺結核の鑑別は、臨床症状、検査所見、画像所見など非特異的であることから困難なことが多い。
◆高齢者の市中肺炎においては、結核をスクリーニングするために広く喀痰抗酸菌検査を行うことが望ましい。

地域における対策困難者への結核対策

著者: 小向潤

ページ範囲:P.426 - P.433

ポイント
◆結核を減らすためには、具体的な数値目標を策定し、対策を実施、結核発生動向を分析、次の対策立案、というように、計画→実行→評価→改善の4段階を意識する。
◆大阪市西成区では、生活困窮者に対する潜在性結核感染症対策を強化している。
◆外国生まれ患者の結核対策では、日本語教育機関での胸部X線健診により患者を早期発見し、医療通訳事業を含めた結核患者支援により治療成功に導くことが重要である。

全ゲノム解析時代を迎えた結核分子疫学の潮流

著者: 岩本朋忠

ページ範囲:P.434 - P.440

ポイント
◆ゲノムの変異は次世代、次々世代に受け継がれて蓄積するため、変異の入り方から感染伝播の方向性を推察できる。
◆ゲノム解析は反復配列多型解析法に比べて感染源や感染伝播を追跡する精度が圧倒的に高く、今後の結核分子疫学の基盤技術になる。
◆結核菌ゲノム情報、臨床情報、実地疫学情報を統合して包括的に結果の解釈を行うための標準化された手法が求められる。

結核の接触者健診と潜在性結核感染症の治療

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.441 - P.448

ポイント
◆日本は結核の低まん延からpre-eliminationに向けて、質の高い接触者健診と潜在性結核感染症の治療を推進する必要がある。
◆結核の診断・治療に関する最新知見や低まん延下での特徴等を踏まえて、接触者健診の技術指針が改訂された。
◆低まん延下での感染源・感染経路の究明には、結核分子疫学調査と社会ネットワーク分析の併用が有用である。

結核の治療—標準的結核治療と薬剤耐性結核治療

著者: 吉山崇

ページ範囲:P.449 - P.456

ポイント
◆結核治療においては、耐性化の危険を常に念頭に置いた治療が必要である。
◆結核の治療においては、再発の予防を念頭に置いた治療が必要である。
◆結核病床の在り方は、これまでの冗長性の評価によって今後変化する。

連載 保健行政のためのデータサイエンス・3

高齢者の健康把握におけるKDBシステム帳票データの活用

著者: 石崎達郎

ページ範囲:P.458 - P.462

はじめに
 筆者は研究職として健康診査・レセプトデータの分析を通じて、高齢者の健康特性に適合する保健・医療システムの在り方を検討している。厚生労働省「高齢者の保健事業のあり方検討ワーキンググループ」に構成員として参画する中で、国保データベース(KDB)システムの重要性を感じる一方、自治体職員がKDBシステムを利用する際に高い障壁があることも感じている。本稿では、自治体職員による地域在住高齢者の健康状態の把握という視点から、KDBシステムの活用事例を紹介する。

All about 日本のワクチン・5

新型コロナワクチン—成人を中心に

著者: 伊藤澄信

ページ範囲:P.463 - P.468

1.当該疾患の発生動向
 2019年12月に中国湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は全世界に広がり、2020年3月11日に世界保健機関(World Health Organization: WHO)はパンデミックと表明した。新型コロナワクチンは全世界で急速に開発が進み、2020年12月2日に英国でファイザー/ビオンテック社mRNAワクチンが緊急使用されたのを皮切りに、米国でファイザー社ワクチン、モデルナ社ワクチンが緊急使用許可、接種が開始された。しかしながら、わが国でもアルファ株(第4波)、デルタ株(第5波)、BA.1/2(第6波)、BA.5(第7波)と変異株が次々と出現しただけでなく、2022年秋以降の行動制限の緩和とともに2022年12月も感染者が増加傾向にあり、第8波となった。感染者数は増加しており、死亡者数も増加している(図1)1)

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・7

南海トラフ地震と公衆衛生

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.469 - P.474

はじめに
 2013年、国の地震調査委員会が、東日本大震災を教訓に発生頻度は極めて低いが想定し得る最大クラスの地震・津波による被害想定(以下、「L2想定」という)を公表した1)。その甚大さに高知県内に衝撃が走るとともに、以後、知事のリーダーシップのもと官民協働の取り組みとして南海トラフ巨大地震への備えが加速化された。
 公衆衛生部門では、高知県災害時医療救護計画2)のバージョンアップと訓練を実施するとともに、東日本大震災時に宮城県南三陸町を支援した経験を踏まえて作成した高知県南海地震時保健活動ガイドライン3)に基づく取り組みなどを進めている。
 本稿は、南海トラフ地震発災早期の応急期対策を中心に、高知県全体と筆者が勤務する中央東福祉保健所管内(人口11.6万、山間部4町村と沿岸部3市)の取り組みをまとめたものである。

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・8

「ずっとそばにいてください」と言われたら—退行への対応

著者: 清水研

ページ範囲:P.475 - P.481

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・2

健康推進課長が結核でした

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.484 - P.492

四月二日木曜日。晴れ。降水確率0%
 六時にセットした目覚まし時計が鳴る五分前に目が覚めた真歩は、息子も夫も起こさないよう、そっと布団を抜け出した。草色のカーテンを引いて窓から外を眺めると、柔らかい日差しに照らされた木々がそよいでいて、雨は降りそうにない様子だった。スーツに着替え、かばんを持って階段を降り、洗面所で顔を洗う。よかった、目の下にクマはできていないし、ボブカットの毛先に寝癖も付いていない。電気ポットでお湯を沸かしながら食パンを焼き、バターを塗る。ヨーグルトに冷凍のカットフルーツを入れる。紅茶は今月封を開けたばかりのラズベリーフレーバーを選んだ。全て食べ終わって歯を磨き、かかとの低い紺色のパンプスを履いて玄関のドアを開けると、モンシロチョウがひらひらと目の前を横切って行った。
 本郷三丁目の交差点を曲がり、早足で春日通りを下り、天神下の交差点を曲がって、湯島駅に到着した。七時台の千代田線はさほど混雑しておらず、余裕で座ることができた。谷町駅前にはモーニングセットがあるマダム・ドーナツ、M'sバーガーショップ、そしてDhole Coffee(ドール・コーヒー)もあり、そのうち面倒くさくなって家では作らなくなるであろう朝食の選択肢には事欠かなそうで安心した。区内のコンビニエンスストアはなぜかMストップばかりで、Fマートばかりの某区とは大違いである。

予防と臨床のはざまで

第22回国際栄養学会議にナットビーム教授招聘

著者: 福田洋

ページ範囲:P.482 - P.482

 2022年12月6日(火)〜11日(日)に22nd IUNS-ICN International Congress of Nutrition in Tokyo(第22回国際栄養学会議、URL: https://icn22.org/index.html)が東京国際フォーラムで開催されました。ウィズコロナでの国際学会は、ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)や国際産業衛生学会(ICOH)などがありましたが全てオンライン開催で、対面での参加は実に3年ぶりでした。今回は日本健康教育学会との共同企画ということで、国際交流委員会委員長としてヘルスリテラシーの第一人者のドン・ナットビーム教授(シドニー大学)を招聘し、シンポジウムや特別講演、対面での交流会などを開催しました。
 今回の日本健康教育学会との共同企画は、Track5「Food Culture Practices and Nutrition Education(食文化の実践と栄養教育)」の中で行われ、12月9日(金)の朝9時からシンポジウム6「Health literacy and nutrition education」が開催されました。最初にナットビーム教授から「Critical health literacy in nutrition(栄養における批判的ヘルスリテラシー)」と題して、ヘルスリテラシーの定義とその成り立ち、各国におけるヘルスリテラシーの不足の現状、ヘルスリテラシーが改善可能なこととその方策、最新のトピックとしてデジタルヘルスリテラシーについての解説がありました。デジタルヘルスリテラシーはかつてe-ヘルスリテラシーと言われていたもので、IUHPEでは2016年くらいから話題となり、2019年にはデジタルヘルスリテラシーのセッションも行われています。インターネットやスマートフォン、SNS時代のヘルスリテラシーを指し、マスメディアや識者からの単一方向的な情報伝達でなく、市民や患者さんが中心となり、さまざまな情報ソースから情報を取捨選択し、自らも情報発信していく時代にふさわしいスキルです。

映画の時間

—我が道を行く息子を信じて、愛して…家族は、大変だ。—銀河鉄道の父

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.483 - P.483

 深夜の列車内、対面座席に赤ちゃんを連れた女性に男性が話し掛けます。子どもが生まれたという電報を見せ、跡継ぎ誕生に喜んでいる男性が、今月ご紹介する映画の主人公、宮沢政次郎(役所広司)、宮沢賢治の父親です。
 宮沢賢治といえば、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『注文の多い料理店』など数々の作品を残した作家、詩人として有名ですが、生前には、一般的には知られていない作家でした。37歳という若さで亡くなりましたが、賢治の才能を信じ続けた家族が、死後に作品を整理して紹介したことにより、高い評価を得ることになります。本作はそんな賢治への家族の愛を描いた門井慶喜の直木賞受賞作品『銀河鉄道の父』(講談社文庫)を丹念に映像化したものです。

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ページ範囲:P.379 - P.379

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.496 - P.496

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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