icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生87巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 小児のCOVID-19とその対策

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.499 - P.499

 2020年1月に国内で初めて確認された新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)は、その後変異を繰り返し、3年後の現在、流行の中心はオミクロンである。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の国内感染例は、2023年4月9日現在、3,352万3,927人(うち、23,974人は空港・海港検疫例)で、74,096人の死亡が確認されている。流行初期において小児の感染者は、全体の数%と少なかったものの、2022年にオミクロンが主流になってから増加し、重症例や死亡例が報告されるようになった。2023年3月現在、全体の約20%が20歳未満である。2023年5月8日からCOVID-19は感染症法に基づく感染症発生動向調査では、新型インフルエンザ等感染症(2類感染症相当)から、5類感染症定点把握疾患になり、サーベイランスの制度が大きく変更となる。感染者の全数を把握する方法からの方針転換であるが、感染者の特徴はオミクロン流行以降変わっていないことから、変異株モニタリングや重症例のモニタリングは今後も継続して必要である。
 2021年2月17日から医療関係者への接種が始まった新型コロナワクチンは、2023年4月7日現在、3億8,335万1,816回の接種が実施された。国民全体の81.2%が1回以上の接種を受けたことになる。2021年6月1日から12歳以上の者に接種が可能となり、2022年2月21日から5〜11歳用、同年10月24日から生後6カ月〜4歳用のワクチン接種が開始された。2022年9月20日からオミクロン対応2価ワクチンが追加接種に導入されている。ワクチン接種の必要性については、医療関係者のみならず、一般国民がリスクとベネフィットを理解しながら情報を正しく知ることが重要である。

COVID-19の国内発生動向と把握システム

著者: 滝沢木綿 ,   神垣太郎

ページ範囲:P.500 - P.507

ポイント
◆COVID-19はHER-SYSによって発生動向が監視されており、2022年11月までに約2,240万人の患者が報告されている。
◆小児では人口1,000人当たりの累積報告者数が他の年齢層よりも多く、疫学像が異なるが、これには変異株の出現、ワクチン接種の開始と勧奨、医療体制の整備などさまざまな要因が関与していると考えられる。
◆HER-SYSは2022年9月より届け出対象を限定した患者報告と全数把握と並行しての運用に切り替わった。現在定点サーベイランスなど方法の切り替えが検討されている。

SARS-CoV-2の変異とウイルスゲノムサーベイランス

著者: 影山努

ページ範囲:P.508 - P.515

ポイント
◆リアルタイムに変異ウイルスの発生動向を監視するウイルスゲノムサーベイランス体制「COG-JP」が構築された。
◆オミクロン出現後は約31カ所/年(その前は約23カ所/年)の頻度でゲノム変異があり、それ以前よりも変異の頻度は高い。
◆変異ウイルスの出現は感染症対策の大きな懸念事項となるため、継続的に変異ウイルスの出現を監視する必要がある。

小児COVID-19の外来診療の現状と今後の課題—感染対策を講じた外来診療の在り方を含めて

著者: 谷口清州

ページ範囲:P.516 - P.524

ポイント
◆小児COVID-19の多くは軽症であるが、他の疾患にウイルスが共存しているだけの場合もあり、鑑別診断が重要である。
◆厳密な対策をとらなくても、サージカルマスク、換気等にて感染リスクは減少している。
◆今後は周りの感染リスクを考えた患者管理が重要である。

小児COVID-19の重症・中等症例

著者: 黒澤寛史

ページ範囲:P.525 - P.530

ポイント
◆基礎疾患のない小児でも重症化することがある。
◆重症・中等症例の入室理由は多様だが、呼吸器症状、中枢神経系の異常が多い。
◆小児急性期医療体制の課題が浮き彫りとなった。

小児のCOVID-19関連病態—long COVID

著者: 勝田友博

ページ範囲:P.531 - P.538

ポイント
◆小児Long COVIDの頻度は成人よりも低率であるが、国内小児(20歳未満)においても約3.2%で認めている。
◆小児Long COVIDは機能性身体症状との鑑別、またはメンタルヘルスの関与も想定する必要がある。
◆臨床経過が複雑となりやすい小児Long COVIDは多職種で連携した診療が不可避である。

学校でのCOVID-19対応の現状と課題

著者: 崎山弘

ページ範囲:P.539 - P.545

ポイント
◆COVID-19は重篤で感染性の強い新興感染症であり、文部科学省、教育委員会が主導して対応を決定した。
◆学校内での感染対策が最優先され、教育活動に制限が加わり、子どもたちの体力低下、不登校の増加がみられた。
◆不登校などへの事後対応とともに、新興感染症に使える学区レベルのサーベイランスシステムが重要である。

児童福祉施設(保育所・学童保育等)でのCOVID-19対応の現状と課題

著者: 鈴木陽

ページ範囲:P.546 - P.554

ポイント
◆COVID-19も含め感染症全般へ対応できる施設内体制が必要である。
◆長期的に維持可能な施設内感染管理体制の構築が必要である。
◆地域の関係機関との連携体制が必要である。

コロナ禍における子どものメンタルヘルス

著者: 田中恭子

ページ範囲:P.555 - P.562

ポイント
◆コロナ禍による生活様式の変化は子どものメンタルヘルスに影響を及ぼした。
◆特に子どもの権利である、学習、遊び、意見表明などの子どもの成育に重要な機会が奪われた。
◆子どものメンタルヘルスへの対応はリスクに応じたアプローチが重要であり、その体制構築が急務の課題である。

小児への新型コロナワクチンの有効性と安全性—Updated Information on Pediatric COVID-19

著者: 森内浩幸

ページ範囲:P.563 - P.570

ポイント
◆COVID-19の重症化につながる基礎疾患を持っている子どもへは、積極的に新型コロナワクチンの接種を勧める。
◆5〜11歳児そして6カ月〜4歳児へのワクチン接種は、オミクロン株に対して感染予防効果は期待できないが、重症化予防効果は期待できる。
◆年長児へのワクチン接種と比べて副反応は軽度であり、安全性に関して大きく懸念すべき点は見つかっていない。

連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史・1【新連載】

マスク大国となった日本・1—なぜ専門家はマスクを勧めなかったのか—明治のマスクブームと『衛生寿護禄』

著者: 住田朋久

ページ範囲:P.572 - P.576

はじめに
 2020年、新型コロナウイルス感染症が流行し始めると、政府や専門家は人々に行動変容を訴えた。しかし、人々はただそれに従ったわけではない。例えばマスクは当初、風邪症状のある人が着けるものとされ、感染予防のためのマスク着用は勧められていなかったにもかかわらず、多くの人々がマスクを着け始めた1)。そしてマスクの流通が不足する中で、全国マスク工業会や厚生労働省などは、マスクは「風邪や感染症の疑いがある人たちに使ってもらう」ことを呼びかけるに至った2)3)
 このように、政府や専門家の方針と人々の行動に差異が生じることは、筆者らがコロナ禍で経験してきたことだが、同じことは公衆衛生の歴史にも見いだすことができる。中でもマスクは、明治時代から政府や専門家が推奨する以上に日本の人々の間で用いられることが多かった。日本のマスクは、「庶民の衛生」、あるいは、まさに「公衆の衛生」を表すものだろう。
 明治の文明開化の中、1879(明治12)年ごろからマスクが流行した。ただし、「マスク」の語が一般的になるのはインフルエンザが大流行した1920年ごろである。明治に流行したこのマスクは、1836年に英国の医師ジュリアス・ジェフリーズが発明した呼吸器(respirator)に由来し、レスピラートルや呼吸器などと呼ばれていた4)〜6)
 この明治のマスクブームに対して、主流の専門家はむしろ否定的だった。それではマスクは、明治の日本にどのように定着していったのだろうか。

衛生行政キーワード・148

2022(令和4)年度診療報酬改定

著者: 望月七生

ページ範囲:P.577 - P.581

はじめに
 医療機関や薬局における保健医療サービスの対価である診療報酬は、中央社会保険医療協議会の答申により2年に1回改定されており、医療現場に大きな影響を与えている。本稿においては、2022(令和4)年度診療報酬改定における急性期入院医療について一般病棟用の重症度、医療・看護必要度を中心に、これまでの改定の経緯も踏まえながら概説したい。

保健行政のためのデータサイエンス・4

地域包括ケアシステムの実現に向けたヘルスサービスリサーチ

著者: 森山葉子

ページ範囲:P.582 - P.586

はじめに
 筆者は、保健、医療、福祉に関係する行政の職員や保健師等技術系職員などへの研修を実施し、これらに関連する調査・研究を行う機関に属している。地域包括ケアシステムをどのように評価するか、介護を要する高齢者およびその介護者のQOLをいかに保つかといったことを中心に、ヘルスサービスリサーチ(Health Service Research: HSR)の手法を用いた研究をしており、保健所長を目指す医師らや、自治体の介護保険担当者等に向けて、研究に関連する研修を行っている。日ごろより、行政で高齢者福祉や介護保険に携わっていても、地域包括ケアシステムを言葉で説明するのは難しいと聞く。保健所の日々の業務からすると、地域包括ケアシステムには少し距離感があるかもしれないが、これを機にぜひ身近に感じて関係各所と連携、協力してほしい。
 地域包括ケアシステムをより効果的に機能させるには、PDCAサイクルの中で適切に評価を行うことが必要である。本稿では、保健所や自治体職員が地域包括ケアシステムの実現に向けた取り組み、評価を実施する中で活用してほしいHSRについて述べたい。

All about 日本のワクチン・6

帯状疱疹ワクチン

著者: 浅田秀夫

ページ範囲:P.587 - P.590

1.当該疾患の発生動向
 水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus: VZV)は、初感染で水痘を引き起こした後、知覚神経節に潜伏感染しているが、免疫低下などが誘因となり再活性化を起こして帯状疱疹を生じる。わが国における帯状疱疹の発生頻度は年間1,000人当たり5人程度とされている。加齢に伴い増加する傾向があり、50歳を境に発症率が急激に上昇し、70歳以上では1,000人当たり10人以上となる。高齢化が進行しているわが国においては、今後ますます患者の増加が予想され、ワクチンによる予防が重要と考えられる1)

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・8

首都直下地震

著者: 奥田博子

ページ範囲:P.591 - P.597

はじめに
 日本は環太平洋の地殻変動帯に位置し、世界の0.25%というわずかな国土面積に対し、全世界のマグニチュード6以上の地震の18.5%が発生している1)。2011年3月11日に発生した東日本大震災は、大規模な地震に加え、津波、原子力発電所の施設事故という複合災害となり、東北沿岸部地域を中心に、多数の死者・行方不明者が生じた未曽有の災害も経験している。
 さらに近い将来、その発生の切迫性が危惧される大地震の一つに首都直下地震があり、今後30年以内の発生確率は70%と高い。この地震による被害が集中する東京都は、わが国の政治・行政・経済に関わる中枢機関や大企業が集中し、人口密度も極めて高い国際都市である。このような高い集積性から、本災害がもたらす経済損失額は約95兆円2)と推計され、国難級の災害と呼ばれるゆえんである。
 くしくも本年は、大正関東地震(1923〔大正12〕年)の発生から100年の節目の年に当たる。本稿では、過去の関東地震の教訓と、切迫性が指摘される首都直下地震の最新の想定や対策について公衆衛生の観点から検討する。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・3

みんなちがって みんないい?

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.599 - P.606

五月一八日 月曜日 五月晴れ
 朝十時から区役所本庁舎五階にある第二委員会室で始まった区民厚生委員会(1)が、十二時十分前に終わったので、真歩はご機嫌で一階まで階段を駆け下り、これまで入る機会のなかった、職員食堂横の手狭な売店に入った。昼休みはいつも混雑していて買い物をする勇気がなかったが、今日はまだほとんど人がいない。おにぎりの鮭と梅を確保した後、三時のおやつ用に、定番の「まるごとバナナ」と季節限定発売の「まるごといちご」のどちらを買おうか、冷蔵食品コーナーで迷っていると、野菜たっぷりがウリの「まごころ弁当」を手に、レジに向かおうとしている職員課長に遭遇した。
「あっ、高橋課長、こんにちは。初日の遅刻といい、職員健診の件といい、毎度毎度、ご迷惑をお掛けして、本当にすみません。」

映画の時間

—赦すか、闘うか、それとも去るか—ウーマン・トーキング 私たちの選択

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.598 - P.598

 少女が、朝ベッドで目覚めると、寝る前にはなかった記憶のないあざやけがの痕跡があるのに気付きます。寝ている間に何があったのか。不安から悲鳴を上げる少女に気が付いた母親にできることは、少女を抱きしめることだけです。
 衝撃的な冒頭の場面に続いて、フラッシュバックのように、これまでの経過が描かれます。アメリカの田園地帯にある村で事件は起こります。村人は全員、自給自足で文明から距離を置いているキリスト教徒です。時に、少女たちの身に、冒頭に描かれたような性的暴行の被害が起こっていたようですが、それらは少女たちの作り話として処理されるか、あるいは悪魔の仕業として片付けられていました。あるとき、侵入者に気付いた少女が叫び声を上げたことから事件は発覚し、加害者は逮捕されます。保釈金を支払うために村の男たちが町に出掛けている間、村の女性全員が今後どうするかについて話し合います。村は男性優位の社会で、女性たちは教育を受ける機会もなく、文字も読めませんが、独特の投票を行いました。結果、このまま村にとどまり男たちと闘う(糾弾する)か、この村を去る、の2つの選択肢が同数となり、3つの家族が選ばれて、そのどちらかを選ぶことになります。期限は男たちが村に戻ってくるまでの48時間……。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.497 - P.497

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.609 - P.609

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.610 - P.610

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら