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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生87巻7号

2023年07月発行

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特集 災害時の保健・医療・福祉—連携と調整

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 冨尾淳

ページ範囲:P.613 - P.613

 わが国では、過去のさまざまな自然災害の経験と反省をもとに、災害時の保健医療体制の強化が図られてきました。阪神・淡路大震災以後、急性期の外傷を中心とした救急医療を担う災害拠点病院とDMAT(災害派遣医療チーム)が全国に整備され、災害医療体制の基盤がつくられました。東日本大震災では、慢性疾患患者のケアやメンタルヘルスケア(こころのケア)が課題となり、DPAT(災害派遣精神医療チーム)をはじめ、薬剤師や管理栄養士、リハビリテーション従事者など、さまざまな職種の支援団体が活動を行うようになりました。被災自治体の公衆衛生行政機能の確保の重要性も認識され、DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の設立につながっています。そして現在、保健・医療・福祉のニーズの多様化とともに、災害時の支援を担う組織や団体の数・種類は拡大傾向にあります。活発な支援活動が期待される一方で、熊本地震(2016年)ではチーム間の情報共有の不備が指摘されるなど、組織・団体間の連携と調整が課題とされました。災害時にどのような組織・団体が、いつ、どこで、どのような活動を担うのか、その情報はどのように把握し共有されるのか、改めて整理しておくことが求められるのではないでしょうか。

災害時の保健・医療・福祉—支援組織・団体の全体像

著者: 冨尾淳

ページ範囲:P.614 - P.622

ポイント
◆災害時の保健・医療・福祉活動には多くの支援組織・団体が関わる。
◆効果的な災害対応を実現するためには、支援組織・団体の連携と調整が重要である。
◆災害に向けて構築された支援組織・団体が、災害以外の健康危機に対しても広く活用されることが期待される。

保健医療福祉調整本部—連携・調整の拠点

著者: 尾島俊之

ページ範囲:P.623 - P.630

ポイント
◆保健医療福祉調整本部は、大規模災害が発生した場合に設置されて、保健医療福祉活動の総合調整を行う。
◆本部の構成要素として、構成員、本部長・本部長補佐、事務局、本部会議、本部室などがある。
◆本部の活動として、保健医療福祉活動チームの派遣調整、情報連携、情報の整理および分析などがある。

DMAT(災害派遣医療チーム)の活動と今後の展望

著者: 小井土雄一 ,   近藤久禎 ,   若井聡智 ,   三村誠二 ,   市原正行

ページ範囲:P.631 - P.640

ポイント
◆日本DMATの迅速性と規模は、世界に類を見ない日本が世界に誇る組織である。
◆DMATロジスティックチームが、迅速な被災地本部確立に役立っており、COVID-19対応においても、DMATがこれまで培ってきた災害対応手法が活用されている。
◆DMAT、日赤、JMAT、AMAT等がオールジャパンで連携することが最も重要である。

災害精神保健・福祉・医療活動の中の災害精神関連チームの活動と今後の展望

著者: 高橋晶

ページ範囲:P.641 - P.649

ポイント
◆災害精神保健医療福祉体制の整備は、平時からの見える関係性・信頼感のある関係性をつくることから始まる。
◆災害後は被災地住民、要支援者のメンタルヘルスが悪化して復興が遅れることは明確であり、災害初期からの戦略的な災害精神対応や要支援者支援を強力に推進する必要がある。
◆医療従事者、行政職員、教育関係者は、災害精神保健医療福祉体制や平時から災害時までの地域精神を幅広く支えるキーパーソンになり得るため、人材育成教育の充実が必要である。

DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の活動と今後の展望

著者: 服部希世子

ページ範囲:P.650 - P.658

ポイント
◆DHEATは、公衆衛生専門職等の行政職員からなり、被災都道府県が行うマネジメント業務を支援する。
◆これまでに3災害で延べ25自治体から42班のDHEATが出動し、先を見越した助言や支援を行っている。
◆全国協議会、地方ブロック協議会およびDHEAT事務局が設置され、全国的な運用体制の強化が進んでいる。

DWAT(災害派遣福祉チーム)の活動と今後の展望

著者: 鈴木伸明

ページ範囲:P.659 - P.667

ポイント
◆福祉専門職チーム「DWAT」の役割は、一般避難所における要配慮者の二次被害の防止と安定的な日常生活への移行を支えることです。
◆災害福祉支援ネットワークは、都道府県行政が県域の福祉関係団体と官民連携で仕組み化されてきました。
◆災害時の保健・医療・福祉の連携を進めるためには平時からの体制づくりが重要です。

日本赤十字社の災害救護活動—歴史と役割

著者: 丸山嘉一

ページ範囲:P.668 - P.676

ポイント
◆日本赤十字社は博愛社を前身とした国際的人道機関で、災害救護をはじめ苦しむ人を救うために幅広い分野で活動している。
◆活動に当たり、日本赤十字社には1)自らの責務、2)協力義務・委託業務、3)指定公共機関としての役割が存在する。
◆災害救護活動は、医療・保健・福祉が回復するまでの補完であり、他組織・団体と連携、協働して行われる。

災害時の連携・調整を支える情報システム「SIP4D」

著者: 臼田裕一郎

ページ範囲:P.677 - P.686

ポイント
◆災害時には複数組織が同時並行で活動するため、情報共有に基づく状況認識の統一が重要である。
◆災害時の情報共有を支援するシステム「SIP4D」とチーム「ISUT」は実践が評価され、防災基本計画に記載されている。
◆保健医療福祉ではDMATによる活用を皮切りに、D24Hでオールジャパンでの活用が期待されている。

連載 Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年【新連載】

第一編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.688 - P.692

連載のはじめに
 本連載は、ひ弱だった私が、何とか戦後を生き延びて、医師を志し、思いがけず結核を通して地域保健や国際保健に関わってきた歩みをつづる拙い半生記である。人は、真実に生きる人との出会いの中で、息を吹き込まれて、お金や名誉や自分の利益を越え、生き方を変えられ、力を得て歩む。また、おのれの失敗や破れを通して、弱さに生きることを覚え、他者と共に生きる道を選ぶ。だからこれは結核という一つの疾患に関わる中で、私という一個人がどう歩んできたのか、その軌跡でもある。
 主な舞台はバングラデシュである。大きな軸としては、結核対策を縦軸、プライマリヘルスケアを横軸に、国や時代を越えて変わらないもの、試行過程を通して学んだこと、まだ完成していないが後輩に引き継ぎたいもの、そして真実に迫るものについて、述べてみたい。地域保健や国際保健を志す若い方々に、少しでも参考になればと願い、バングラデシュに行く前から始め、そこでの経験を一つの山として、その後の他の国々との関わりも含め、私が国際保健をどう経験してきたか、まとめてみよう。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・2

マスク大国となった日本・2—徐々に広がる理髪マスク—— 背景としてのペストと天皇即位礼

著者: 住田朋久

ページ範囲:P.693 - P.696

 北海道札幌市の野外博物館「北海道開拓の村」の一角に、大正期の洋風建築、旧山本理髪店が移築・復元されている。理容遺産にも選定されたこの旧山本理髪店の中では、マスクを着けた理髪師による顔そりの様子が人形を用いて再現されている(図1)1)
 この山本理髪店は、明治末期の北海道・樺太を舞台にした漫画、『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社、2014〜2022年)にも登場する。主要人物である土方歳三(ひじかたとしぞう)(戊辰戦争後も生き延びたという設定)、永倉新八、そして尾形百之助(ひゃくのすけ)が訪れた茨戸(ばらと)宿場町の「山本理髪店」では、店主の山本がこの町の抗争の構図を伝える(第6巻、第55話)。

保健行政のためのデータサイエンス・5

地域における循環器疾患予防対策とその評価としてのヘルスサービスリサーチ

著者: 山岸良匡 ,   磯博康

ページ範囲:P.697 - P.701

はじめに
 循環器疾患予防の基本は、まず健診を受診し、個人のリスクファクターの程度を把握し、ハイリスク者の早期発見・早期対策、すなわち医療の必要な人を確実に医療につなげるとともに、集団全体のリスクファクターのレベルや分布を把握し、その集団の特性に応じた予防対策を立案し実行する点にある。そのモデルとなる対策を行ってきた地域として、茨城県真壁郡協和町の対策がある。協和町では、筑波大学との協働により、1981年より脳卒中半減対策事業を展開してきた。予防対策の中核としての健診事業(2次予防)を基盤とし、さらに1次予防として、この地域において当時特に問題となっていた食塩過剰摂取に焦点を置き、行政や住民組織、医師会などの既存の組織とともに地域ぐるみで対策を展開したことが特徴である。対策開始から40年が経過し、協和町が合併して筑西市となった現在も、市と大学との協力体制は続いている。本稿では協和町の対策を例として、ヘルスサービスリサーチの観点から、その評価のポイントについて解説する。

All about 日本のワクチン・7

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン

著者: 川名敬

ページ範囲:P.702 - P.705

1.当該疾患の発生動向
 ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)は、全女性の約50-80%が一生に一度は感染している1)。年齢別の日本女性におけるHPV-DNA検査の陽性率は、10歳代が最も高率で30-40%にも及ぶ。その後、20歳代で20-30%、30歳代で10-20%、40歳代で5-10%、と年齢とともにDNA陽性率は見かけ上は減少する2)
 HPVには200種以上の遺伝子型(以下、タイプ)がある。子宮頸がんにおけるHPVタイプの分布は、HPV16型が約半数を占め、二番目に多いHPV18型は10-20%程度である。HPV45、31、33型がこれに続いている。その結果、子宮頸がん全体の約70%はHPV16、18型に起因する3)

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・9

富士山噴火——そのとき何が起こるのか? 何をしておくべきなのか?

著者: 石峯康浩

ページ範囲:P.706 - P.710

はじめに
 火山の大噴火が発生すると、降灰によって交通網が麻痺し、物流が停止する可能性がある。停電や断水が発生するリスクも高い。被害が深刻な地域では長期避難や移住を余儀なくされる。火山灰等による健康被害も懸念される。これらの事態から派生する公衆衛生上の課題は多岐にわたるが、十分に検討されているとは言い難い。
 日本には111もの活火山があり、どこに住んでいても噴火災害に巻き込まれるリスクがある。その中でも富士山はひときわ危険である。近い将来、噴火し、甚大な被害を引き起こす可能性がある。首都圏に近く、その噴火が日本全体に与える社会的・経済的影響は極めて大きい。
 富士山噴火の影響を最小限にとどめるには、その対策を国民一人一人が真剣に考え、少しずつでも可能な備えを進めることが重要である。本稿は、そのきっかけとなることを目的として、富士山の過去の噴火の概要を紹介した上で、将来の噴火に向けて優先的に検討すべき課題を提示したい。

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・9

家族から「本人には厳しい状況を伝えないでください」と言われたとき

著者: 清水研

ページ範囲:P.712 - P.717

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・4

朝食にドーナツを食べてはいけません

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.723 - P.732

六月一一日 木曜日 大雨 東京は梅雨入り
「あーあ、今日の昼ご飯は、どうしようかなあ……。」
 毎朝地下鉄に揺られながら、真歩は頭を悩ませていた。

予防と臨床のはざまで

父の肖像

著者: 福田洋

ページ範囲:P.720 - P.720

 昨年11月に父に進行がんがあることが明らかになりました。父は84歳で今までがんを含む多くの疾病を治療し克服してきましたが、今回はかなり厳しい印象でした。順天堂大学の専門医にもセカンドオピニオンをお願いしましたが、病気や家族の状況を鑑みて、地元の小樽市で治療を継続する方針となりました。この時点で残された時間はあまりないと覚悟しました。さんぽ会や臨床疫学ゼミで父に直接講義をしてもらったこともあり、以前より疫学者である父について話してみたいという気持ちがありました。父のことを知る人たちに父の生き様を伝えたいという思いもあり、今年の2月にその機会を持ちたいと決め、抗がん剤治療が始まった父に日程について尋ねました。もっと前倒しで話した方がいいと助言してくださる方もいましたが、問題ないと力強く言った父の言葉を信じて2月に行うことに決めました。
 2月17日(金)に第137回臨床疫学ゼミ(オンライン)を開催し、テーマは「父の肖像」、90人以上の方が申し込んでくださいました。継続してゼミに参加している方や父の講義を直接聞いてくれた方もいましたが、この日が初参加という方もいました。家族の話をこのような場で話すのは初めてでしたが、疫学者である父の仕事を息子として振り返りたいという気持ちでお話しをさせていただきました。

映画の時間

—人生のターニングポイントを迎えた中年男が、テキトーにしていた人間関係を見つめ直す可笑しくも切ない物語—逃げきれた夢

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.721 - P.721

 主人公の末永(光石研)が介護施設で暮らしている父親を見舞う場面から映画が始まります。受付で面会簿に記名し、スリッパに履き替え、職員にあいさつをし、車椅子に座っている父親の隣に座って話し掛けます。何気ないシーンですが、自然な感じで進行します。父親は記憶が薄れていく症状があり、あまりコミュニケーションは取れません。
 主人公は定時制高校に勤務しています。教頭を務めていますが、定年間近で校長に出世する見込みはないようです。家庭では、あまり大事にされていないようで、一人娘に話し掛けても、相手にされません。教師としては、生徒思いのいい先生のようではありますが、自分で思っているほどには、生徒には慕われていないようです。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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